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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 芝が色を取り戻し、雪解け水を孕んだ小川の音が林に大きく響き出した頃、私はあの場所へと再び、脚を運んだ。
 とは言っても街外れの神社の後ろに広がる林の中。然して馴染みがある訳でも、目立つ目印がある訳でもない。大方この辺り――その程度だ。
 それでも頭上に枝を張る木には見覚えがある様な気がするし、雪から突き出していた岩は、やはりその場所で、鎮座していた。
「やっぱり、無いか……」ぽつり、苦笑を交えて呟いた。
 冬場にこんな林に入る物好きがそうそう居るとも思えないが、神社や林の管理をする人間は居るだろう。子供の落し物と思って拾ったか、ゴミと思って始末したか……。あるいは林に住まう狸か何かが引いて行ったのかも知れない――食べ物ではないから、その線は薄いとは思うが。
 後は……いや、と私は頭を振った。そんな事は考えたくない。
 新緑の芝を踏みながら、踵を返した。
 一月程前に起こった出来事を思い返しながら。

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 早く……こっちにおいで!――その呼び声に幼い少女は激しく頭を振った。

 その面は周囲の炎の照り返しを受け、赤く恐怖の色に染まっている。長い髪の先からは蛋白質の焦げる不快な臭いがし始めていた。裾の長い寝巻きにも、今しも火が燃え移りそうだ。

 早く……そこは危険だ!――少女は只怯えた目をして、頭を振る。

 部屋の壁は焼け落ち始め、お気に入りのぬいぐるみ達も黒く染まり、煙を上げている。少女の周りには炎が溢れ、熱が小さな身をさいなんだ。
 それでも少女は呼び声に対して嫌々と首を振る。

 早く……ここしか逃れる道は無いよ?――それでも。

 火に閉ざされたドアを背にして、炎の壁が作る道の先、ベランダを見詰めて。そしてその先の夜空背にした少年を見詰めて。
「嫌だよ!」炎の燃え盛る音と煙に遮られながらも、少女は叫んだ。「ここ、十八階だもん……! そこから落ちたら……。それに、お兄ちゃん、誰!?」

 ちっ!――舌打ちを最後に声は止み、辺りは嘘の様に静まり返った。

 否、嘘だったのだ。彼女を取り巻く炎も、焼け落ちた壁も、煙を上げるぬいぐるみも、彼女を安全な地へと導く声も。
 絨毯の上にへたり込んだ少女の頬を、冷たい夜気が撫でた。
 唯一の本物は開いた窓。彼女が眠りに就く前に母親が戸締りを確かめた筈の、ベランダへと続く窓。
 
 それは獲物を死地へと導く罠――。

                      ―了―

 短め~。

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 無視すればよかったのだろうか?――星一つ見えない暗い空を見上げながら、啓子は思案に暮れた。
 急激に冷え込んだ夜、か細くもはっきりと耳に届いた声。それは子猫の鳴き声にも似て非なる、赤子の泣き声……だと思われた。
 この近所に赤ちゃんの居る家など無いのに、それにこの声が余りに近く、何処かの家の中からではなくて彼女の家の傍の屋外からする様だった。
「もう十一時よ? こんな時間に赤ちゃんを連れて外に居る人なんて……こんなに寒いのに……」不審に思うと同時に、彼女は暖を取っていた炬燵から這い出していた。連れているだろう、親の顔が見たかった。この寒空に赤ん坊を外に連れ出して泣かせるなんて。一事言ってやろう、と彼女は意気込んでいた。
 近くの様だから、と厚手のカーディガンだけを羽織り、彼女は家を出た。
 声がするのは家の裏手――そちらは空き地の筈だった。
 声に引かれる様に、彼女は歩を進めた。

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「此処は何も植えちゃ駄目!」そう言って庭の一画を背に立ちはだかったのは、小学二年生になる従妹だった。腰に両手を当て、小さい身体を大きく見せようと懸命になっている。
 如何に僕の方が三つ年上でも、そう宣言されてしまっては仕方ない。
 此処は彼女の家で、僕は母が原因不明の胸部の痛みで検査を兼ねて入院している間、この家に預けられた身なのだから。
 父は単身赴任で、時折病院と赴任先とを往復しているけれど、僕の方迄は手が回らない。僕も今更父の赴任先の学校に転校するのは面倒だった。何より、母が直ぐに戻って来ると思っていたのだ。だから、未だ元の学校に通える範囲にある、この叔父の家に居候させて貰う事にしたんだ。
 だけど、この家での生活ももう一箇月になろうとしていた。
 余りに長引く様なら……そんな話も、父と叔父の間で交わされる様になっていた。僕だって親戚とは言え、いつ迄も居候暮らしは落ち着かない。
 それに――この小さな従妹の我が儘にも、些か辟易していた。

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「本当にこの家、葉子が言う様に誰も居ないの? それにしては埃とか少ない気がするんだけど……誰か手入れに出入りしてるんじゃないの?」
「何、びくついてるのよ。入る時に見たでしょ? 門の鉄条網。錆び付いてて、長年動かされた様子も無し。他は高い塀で囲まれてて、入る所も無し。管理の人間なら態々そこを乗り越えたりなんて事もしないでしょうし」
「だったら尚更、もし誰か居るとすれば……不法侵入者って事に……」
「だから、びびるんじゃないわよ。不法侵入ならお互い様じゃない。こっちだって家出中で、寝床を探して此処に来たんだから」
「それはそうだけど……。こんな所に隠れ住んでる人なんて居たら、やっぱり、その……表に出られない人なんじゃないの?」
「そもそも居るとも限らないのに……。居たらその時の事よ。さ、休める部屋を探しましょ。ベッドかソファでも残ってるといいんだけど」

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 秋の日は釣瓶つるべ落としとはよく言ったものだ。紅葉色から薄闇に変わり行く空を見上げて、私は思った――釣瓶なんて実際に使われてるのを見た事は無いけれど。
 まぁ、イメージ位は解るわよ。井戸の水を汲むアレでしょ?
 田舎のお祖母ちゃんの家に井戸があったもの。行ったのは幼稚園に上がる前の小さい頃だったからか、近付いちゃ駄目って言われて、縁側から見てただけだったけど。
 でも、二つ上のお兄ちゃんは好奇心旺盛で……街では珍しい井戸を無視出来る筈もなかった。

「おい! みい、来てみろよ!」十二年前のあの日、井戸の傍で兄は何度も私を呼んでいた。私が嫌々と首を振っても、幾度も。
 私の名前は美紀だけど、兄はいつも、みい、と呼ぶ。 
 それは私だって好奇心はあったわよ? でもお祖母ちゃんは厳しい人だったもの。井戸の傍で遊んでる所なんて見付かったら、此処に居る間はもうお外に出して貰えない。幼い私は本気でそう思っていた。
「何だよ、詰まらない奴だなぁ」不満そうに口を尖らせて、兄は私を無視する事に決めた様だった。石造りの円形の井戸の縁に手を掛け、身を乗り出す様にして覗き込んでいる。
 危ないよ――そんな私の声も耳に入らない様子で、井戸の奥をじっと見詰めて。
 私は、兄がその穴に引き込まれそうな気がして、誰かを呼びに行くべきか迷った。お祖母ちゃんに知れれば兄は怒られるだろうけど。だって、見ていると今にも兄の足がふわりと浮きそうな気がして……。
「お兄ちゃん!」私はもう一度だけ、呼んだ。これで来てくれなければ本当に大人を呼びに行く心算で。「危ないってば! お祖母ちゃんに怒られるよ!?」
「馬鹿、大声出すなよ」口の前に指を一本立てながら、仕方ないなという表情で兄は井戸を離れた。
 その兄が数歩、こちらに向かって歩いた時、井戸の中からじゃぽん、と大きな水音が聞こえた。
「……」思わず振り返った兄と、ずっと庭の光景を見ていた私。兄はまた私に向き直って、何かあったか? と視線で尋ねる。私は黙って頭を振った。
 井戸の釣瓶は固定された儘だったし、風で飛んで来た何かが落ちたりもしなかった。風で飛ばされる程度の物が落ちた様な音でもなかったけれど。
 兄がまた振り返り、確かめに行こうとするのを、私は必死に止めた。その大声にお祖母ちゃんが気付いて、結局兄は家に引き戻された。その後は、二人共庭に出る事を禁じられたのは言う迄もない。

「何だったんだろうね?」夜中、並んだ布団の中で小声で呟く私に、兄は暫し黙った後、言った。
「井戸の中に何だか解らないものが浮いてた。魚みたいな、人みたいな……動かなかったから何かの死体かも知れないけど。。だから見せてやろうと思って呼んだのに、お前、来ないから……。でも、アレが立てた音だったとしたら、生きてたのかな?」
「そんなもの見たくないよ」言って、私は布団を頭から被って、寝てしまった。
 翌朝目覚めた時、兄の姿は無かった。
 先に起きたのかと思ったけれど、家の何処を捜しても居ない。私は怖くなって昨夜兄が言っていた事をお祖母ちゃん達に話した。勿論、魚みたいな人みたいな、死んでるのか生きてるのか解らないもの、なんてお祖母ちゃん達は信じなかったけれど。私を怖がらせる為の作り話だろうって。
 でも、結局兄の死体はあの井戸の中から見付かった。
 玄関も窓も閉まっていて、いつ、何処から外に出たのかも解らなかったけれど。

 それ以来、私はお祖母ちゃんの所には行っていない。
 兄が死んだのは、あの井戸の中のものの事を、私に話してしまったからの様な気がしているから。
 そして私もお祖母ちゃん達に話してしまった。両親もお祖母ちゃんも、健在だけど。
 時々、背後に冷たい足音を聞く事がある――それはあの井戸の中のものなのか、それとも……。
 みい――すっかり日暮れた川の傍を通る道、そう呼ぶ声が聞こえた気がした。

                      ―了―

 何とはなしにホラー系。
 うちの田舎の家の井戸はポンプ式だった☆(だからどーした)

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 一年間、私は待ってみた。
 あの人が来るのを。
 十年以上も付き合って、訳あって別れたあの人。
 それでも、また会おうと約束したあの人。
 けれど一年待っても、あの人は来てくれない。
 でも、私の方から会いに行くのは……ちょっと躊躇われる。
 だって、今の私を見たあの人に悲鳴でも上げられたら……。いえ、それ以前に私を見て貰えなかったら……!

 それに私を見て貰えたとしても、余りの驚きに彼が……年老いた心臓の鼓動を停める様な事にでもなったら……?

 ……私は会いに行く事に決めた。
 だって、それで彼が来てくれる事になるかも知れないじゃない。
 冥途こっちに。

                      ―了―

 今日は遅くなったから短めに~m(_ _;)m
 このブログ始めてから一年。なので一年で話を作ろうと思ったら、何でこんな話に?(^^;)

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