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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「本当、困った夜霧だねぇ」

 五m先も見えない濃霧に囲まれながらも、どこか呑気に言う三橋に、思わず同行者の三人全員が頭を抱えていた。
 そもそも、夜にこんな山に出掛けようと言ったお前の所為だろう、と。
 然も彼は山の中腹のパーキングエリアに着くなり車を降りて、傍の脇道に分け入り、彼等が声を掛けても脚を止めようとしなかったのだ。何かおかしい、薄くだが霧も出てきたしはぐれては大変と、一本切りの懐中電灯を手に慌てて三人が後を追い、三橋を捉えたのはもうかなり道を進んだ頃だった。肩に手を掛けて何処に行くのかと問うた山田に、三橋はきょとんとした顔でこう言った。
「え? 何処って?」
 三人が呆れ返ったのは言う迄もない。丸で確固たる行き先が見えているかの様に足早に進んでいたと言うのに、三橋は自分が車を離れた事さえ、自覚していなかったと言う。
 その頃には霧は深くなり、彼等の帰り道を白闇が覆い隠していた。

「どうなってるんだよ、三橋」兎に角、霧の山中で迂闊に動くのは危険だと、その場に留まりながら、山田が疑問をぶつけた。「急にこの山に来ようと言ったり、いきなり脇道に入って行ったり、挙句にそんなの覚えてない、だって? 巫山戯てるのか?」
「そうだよ、何でこんな事態になったと思ってるんだよ」田中が続く。
「車、慌ててロックはして来たけど、置きっ放しで大丈夫かなぁ。こんな所で車上荒らしとか出ないよねぇ?」と、愛車の心配をしているのは斉藤だ。「車泥棒とか……。また車を廃車にする様な羽目になるのは嫌だよ。半年前に買ったばかりなのに」
「ああ、管理人も居ないパーキングエリアは危ないって言うねぇ」事の重大さが解っているのかいないのか、三橋はのんびりとそんな事を言う。
 そんなぁ、と嘆く斉藤を余所に、山田が三橋に詰め寄った。
「そんな世間話より、俺の疑問に答えろよ」
「いやぁ、本当に記憶が飛んじゃってて」曖昧に、三橋は笑う。「困ったもんだね」
「困ったもんだね、で済むかよ! どうするんだよ? 車迄も戻れないじゃないか!」
「そう言われてもこの霧だし……。まぁ、霧だからその内晴れるよ」
「いつだよ?」
「さぁ……?」のんびりと、首を傾げる三橋。
 殴りたい、という素振りを見せたものの、三人は互いを牽制し合うようにしてどうにか暴力は思い止まった。此処で彼を殴っても始まらない。気分位は晴れるかも知れないが、霧は晴れない。
 仕方なくどうにか座れそうな岩をそれぞれに見付け、四人はその場に車座に腰を下ろし、少しでも視界が晴れるのを待つ事にした。

「そういえば、知ってるかなぁ、斉藤」先程の世間話の続きとばかりに、三橋は斉藤に話し掛けた。「此処のパーキングエリア付近で半年程前に、人間の遺体が見付かったんだって。然も死因は殺しらしいって……」
「こ、こんな時にこんな所で、嫌な事言うなよ」斉藤は顔を引き攣らせる。「暇潰しならもっと楽しい話でもしろよ」
「何でもさ、数十箇所も殴られた痕があったとかで……」三橋は止めようとしない。「別の場所で殺されて、此処に運ばれたらしい。複数犯の仕業だろうって、当時も結構騒ぎになったって話だけどねぇ」
「止めろって!」田中が割って入った。「そんな話、聞きたくねぇんだよ!」
「聞きたくない?」どこか間延びした声で三橋は訊き返し、辛うじて見える範囲にある三人の顔の上を、瞬きもしない瞳が一巡する。その顔色を窺っている様にも、聞く事を強制している様にも感じるその視線にたじろぎ、三人は居心地悪げに身を退いた。
 それでも、三人は口々に言った。
 聞きたくない、と。
「聞きたくないかぁ……。それはそうだよねぇ」不意に、にたりと三橋は笑った。「それにしても君達……随分、我慢強くなったよねぇ。あの時もそうなら……僕は死なずに済んだのに!」

 その台詞と共に、催眠から解放された様に三人は全てを思い出した。
 次に彼等を襲ったのは恐怖と混乱だった。
「三橋? 三橋って誰だよ!? そんな奴周りに居ねぇぞ!」
「あの事件……そうだ、むしゃくしゃしてた時に街で何処の誰とも知れない、肩が触れた程度の奴を捕まえて、袋叩きにして……。そしたら気が付いた時には……」
「慌てて遺体を僕の車で運んで……! あああ、大事な車だったのに! あれ以来とても乗れなくて、見るのも怖くて……!」
「俺達何でこんな所に居るんだよぉ!?」
「殺す気なんてなかったんだよ! 只、やり過ぎちまったんだ……。あれ以来、それが怖くて人も殴れねぇ……。本当に、態とじゃなかったんだよ……!」
「遺体の臭いが……血の臭いがどれだけ消臭剤を置いても消えない気がして……。売り払う事も出来なくて……」
「ゆ、許してくれよ……!」
「事故だ! 事故なんだよ!」
「事件の記憶と一緒に潰した心算だったんだ……!」

 三人が口々に内面の混沌を吐き出す様を、三橋は冷ややかに見回した後に、こう言った。
「君達はずっと、この霧の中で迷うのがお似合いだよ。どうせその心に広がった霧は、一生晴れる事なんてないんだから」
 そして、独り、その場から姿を消した。

 翌朝、三人の身柄は保護されたものの――その意識は未だ霧の中を彷徨っているらしい。

                     ―了―

 夜霧まねっこ対策でお届け致しましたm(_ _)m

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こんばんは☆
肩がふれただけで殺されちゃったらたまりません。
夜霧ちゃんのさぼりも困っちゃいますね〜(^^ゞ
つきみぃ URL 2009/10/21(Wed)00:46:15 編集
Re:こんばんは☆
全くですね~☆
私がサボれないじゃないか(爆)
巽(たつみ)【2009/10/21 21:07】
こんにちは
知人・友人の復讐劇かと思ったら、本人なのね。
ってことは幽霊?

実際にありそうな事件だよねぇ。
嫌だ嫌だ。
afool URL 2009/10/21(Wed)12:17:10 編集
Re:こんにちは
幽霊っす☆
うん、ありそうで嫌ですよね。こういう事件(--;)
巽(たつみ)【2009/10/21 21:09】
こんばんは♪
いやぁ~なんか本当にありそうな事件ですよね、
でも、肩がふれただけで殺されちゃったら、たまらないよねぇ~!化けて出たくなるネ!
クーピー URL 2009/10/21(Wed)21:26:13 編集
Re:こんばんは♪
しっかり化けて出てみたり(^^;)
肩がぶつかっただけで――殺人迄は行かないものの――いちゃもんつける位はありそうでヤダ☆
巽(たつみ)【2009/10/22 21:29】
無題
催眠術の心得がある幽霊なのか。
手ごわいし怖いですねえ。

流れからすると三人は五里霧中の同級生なんですよね。
五里霧小→五里霧中→五里霧高→五里霧大とエスカレーター式の五里霧学園の。
え、違うの?
銀河系一朗 2009/10/23(Fri)21:31:43 編集
Re:無題
いや、彼等は揃って五里霧高、中退です(爆)
巽(たつみ)【2009/10/23 22:40】
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