〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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夜が明けた。
昨晩の風雨が嘘の様な、柔らかな日差しと爽やかな風。がたつく雨戸を開けてそれを身体一杯に享受し、静香は庭を見渡した。
何処から飛んで来たものか、細い枝が散乱し、それ以上の葉っぱが所々、水溜まりの縁にへばり付いている。掃除が大変そうだった。
サンダルを履き、庭に下りて家を振り返る。どうやら家の方には被害は無い様だった。
そんな穏やかな朝に、彼女はふと、身を震わせた。
昨夜のあれは、何だったのだろう、と。
昨日、午後に入っての雨模様は徐々に風力を増し、それに伴って雨も屋根を打ち据える様な有り様となっていた。幸い、古い家ではあるがまめな補修や手入れの所為か、雨漏りの心配はない。それでも時折屋根ごと持って行きそうな轟音を立てる暴風に、静香は家の中心部分となる居間で身を縮こまらせていた。
折悪しき事に、両親は趣味の旅行に出てしまっていた。勿論、仕事の合間を縫っての休暇。近場ではあるのだが。それだけにこの天候もよく解るのだろう、一人娘を気遣って、幾度も電話が掛かってきた。
戸締りはよく確かめるように。雨戸もきっちり締めておく事。停電に備えて懐中電灯も……。
心配性、とそれらを半ば聞き流しながらも、一応言われた通りの事はした、静香だった。
実際一人しか居ない以上、この家も自分の身も、自分で守るしかない。
その緊張からか、風雨の轟音ゆえか、その夜はなかなか寝付けずにいた。幸い翌日は休日、更には夜更かしを注意する親も居ないとあって、静香は早々に寝る事を諦めた。どうしようもなく眠くなれば、少々の音がしても眠れるだろう、と。
深夜放送やDVDを見て過ごし、そろそろ瞼が重くなってきた、この儘炬燵で眠ってしまおうか。部屋は二階だが、尚更風当たりが強そうで、嫌だし――そんな事を漠然と考え出した頃だった。
こつ、こつ。
妙にはっきりと、ノックの音が聞こえた。
深夜二時。こんな時間に訪ねて来る人間など居ない。第一、訪問者ならインターホンを押すだろう。
きっと聞き違いだ、と静香は瞼を閉じた。雨戸か壁に飛んで来た木の枝か何かがぶつかって、偶然ノックの様に聞こえたのだろう、と。
が。
こつ、こつ。
また、全く同じ間隔で、ノックの音。
静香は流石にぱちりと目を開けた。真逆本当に訪問者だろうか。けれど、こんな夜中に……?
あるいは消防の人かも知れない。雨戸を締めて閉じ篭っている間に、川が増水でも起こして、避難を呼び掛けているのかも? いや、それなら先ず放送があるだろうし、深夜の天気予報で見た明朝の天気は晴れ。この雨は夜の内に上がると報じられていた。いや、それでも……。
静香は恐る恐る席を立つと、玄関へと向かった。玄関先には父のゴルフクラブがある。いざという時にはそれで威嚇しておいて、素早くドアを締める――不審者だった場合のシミュレートもしておく。
しかし、ドアスコープから覗いた玄関先には、只闇があるばかりだった。門灯には灯が点いている。完全な闇ではない。それでもそこには何者の姿も影も無かった。
やっぱり風の悪戯だったのだろう。そう判じて、静香はほっと息をつくと、踵を返し――。
こつ、こつ。
ゆっくりと、静香は振り返った。確かに聞こえた、ノックの音。しかしそれが聞こえたのはドアと言うよりは、その上方の壁から。真逆、そんな所を叩ける筈もない。
こつ、こつ……こつ、こつ……。
丸で彼女がそこに居るのは解っているとでも言う様に、ノックは繰り返される。
いや、真逆ノックな訳はない――そう考えながらも、静香は徐々に居間へと、後退りしていった。
やがて居間の入り口へと辿り着くと、彼女は慌てて駆け込み、襖を締めた。居間に鍵など無い。彼女は屋内用の箒を持って来て、襖の片方に立て掛け、仮の用心棒とした。
音は未だ、規則正しく続いている。
きっと何かの枝が当たっているだけなのだ――そう思いながらも、静香は炬燵に潜り込み、ノックを掻き消す様にDVDの音量を上げた。それでも、不自然な程に耳につく音に、彼女は耳を塞ぐ様に頭を抱え、炬燵の天板に突っ伏した。
そうして、いつしか眠ってしまった様だった。
「やっぱり、何も無いわよね」一人ごちながら、静香は家の外周を見て回る。先程出た雨戸のある縁側は家の東の横手に当たる。庭沿いに反時計回りに、彼女は回る。そうする間に昨夜あんなに不安がったのが、自分の事ながら可笑しくなってきた。
きっとどこかから飛んで来た木の枝が引っ掛かって音を立てていただけなのだ。見てみればきっと何だ、これだったのかと笑い出すに違いない、と。
庭をぐるりと回り、樋から未だ勢いよく流れ落ちる雨水を避けつつ、彼女は玄関へと回った。
そして――そこで脚を止めた。
玄関の上に張り出した屋根から、何かがぶら下がっていた。その何かが強風に煽られ、玄関上の壁にぶつかって、音を立てていた様だった。
静香はそれが何であるかを視認し――悲鳴を上げた。
どこの誰とも知れない男の遺体。薄汚れた風体に雨曝しの服装。手にはバールらしき物を握った儘だった。
その後到着した警察によると、この男は窃盗、強盗の常習犯で、雨戸も閉じられ二階からも灯の漏れぬこの家を留守と判じて盗みに入ろうとしたのではないだろうかとの事だった。それでも人が居た場合の用心として、二階から侵入しようとし、昨夜の雨に足を滑らせたのではないか、と。
挙げ句はアンテナから延びるコードに脚を絡め、宙吊りになった挙げ句、打ち所悪く……。
それ以来、静香が今迄以上に戸締りに慎重になったのは言う迄もない。
―了―
や、悪い事は出来ませんね(--;)
昨晩の風雨が嘘の様な、柔らかな日差しと爽やかな風。がたつく雨戸を開けてそれを身体一杯に享受し、静香は庭を見渡した。
何処から飛んで来たものか、細い枝が散乱し、それ以上の葉っぱが所々、水溜まりの縁にへばり付いている。掃除が大変そうだった。
サンダルを履き、庭に下りて家を振り返る。どうやら家の方には被害は無い様だった。
そんな穏やかな朝に、彼女はふと、身を震わせた。
昨夜のあれは、何だったのだろう、と。
昨日、午後に入っての雨模様は徐々に風力を増し、それに伴って雨も屋根を打ち据える様な有り様となっていた。幸い、古い家ではあるがまめな補修や手入れの所為か、雨漏りの心配はない。それでも時折屋根ごと持って行きそうな轟音を立てる暴風に、静香は家の中心部分となる居間で身を縮こまらせていた。
折悪しき事に、両親は趣味の旅行に出てしまっていた。勿論、仕事の合間を縫っての休暇。近場ではあるのだが。それだけにこの天候もよく解るのだろう、一人娘を気遣って、幾度も電話が掛かってきた。
戸締りはよく確かめるように。雨戸もきっちり締めておく事。停電に備えて懐中電灯も……。
心配性、とそれらを半ば聞き流しながらも、一応言われた通りの事はした、静香だった。
実際一人しか居ない以上、この家も自分の身も、自分で守るしかない。
その緊張からか、風雨の轟音ゆえか、その夜はなかなか寝付けずにいた。幸い翌日は休日、更には夜更かしを注意する親も居ないとあって、静香は早々に寝る事を諦めた。どうしようもなく眠くなれば、少々の音がしても眠れるだろう、と。
深夜放送やDVDを見て過ごし、そろそろ瞼が重くなってきた、この儘炬燵で眠ってしまおうか。部屋は二階だが、尚更風当たりが強そうで、嫌だし――そんな事を漠然と考え出した頃だった。
こつ、こつ。
妙にはっきりと、ノックの音が聞こえた。
深夜二時。こんな時間に訪ねて来る人間など居ない。第一、訪問者ならインターホンを押すだろう。
きっと聞き違いだ、と静香は瞼を閉じた。雨戸か壁に飛んで来た木の枝か何かがぶつかって、偶然ノックの様に聞こえたのだろう、と。
が。
こつ、こつ。
また、全く同じ間隔で、ノックの音。
静香は流石にぱちりと目を開けた。真逆本当に訪問者だろうか。けれど、こんな夜中に……?
あるいは消防の人かも知れない。雨戸を締めて閉じ篭っている間に、川が増水でも起こして、避難を呼び掛けているのかも? いや、それなら先ず放送があるだろうし、深夜の天気予報で見た明朝の天気は晴れ。この雨は夜の内に上がると報じられていた。いや、それでも……。
静香は恐る恐る席を立つと、玄関へと向かった。玄関先には父のゴルフクラブがある。いざという時にはそれで威嚇しておいて、素早くドアを締める――不審者だった場合のシミュレートもしておく。
しかし、ドアスコープから覗いた玄関先には、只闇があるばかりだった。門灯には灯が点いている。完全な闇ではない。それでもそこには何者の姿も影も無かった。
やっぱり風の悪戯だったのだろう。そう判じて、静香はほっと息をつくと、踵を返し――。
こつ、こつ。
ゆっくりと、静香は振り返った。確かに聞こえた、ノックの音。しかしそれが聞こえたのはドアと言うよりは、その上方の壁から。真逆、そんな所を叩ける筈もない。
こつ、こつ……こつ、こつ……。
丸で彼女がそこに居るのは解っているとでも言う様に、ノックは繰り返される。
いや、真逆ノックな訳はない――そう考えながらも、静香は徐々に居間へと、後退りしていった。
やがて居間の入り口へと辿り着くと、彼女は慌てて駆け込み、襖を締めた。居間に鍵など無い。彼女は屋内用の箒を持って来て、襖の片方に立て掛け、仮の用心棒とした。
音は未だ、規則正しく続いている。
きっと何かの枝が当たっているだけなのだ――そう思いながらも、静香は炬燵に潜り込み、ノックを掻き消す様にDVDの音量を上げた。それでも、不自然な程に耳につく音に、彼女は耳を塞ぐ様に頭を抱え、炬燵の天板に突っ伏した。
そうして、いつしか眠ってしまった様だった。
「やっぱり、何も無いわよね」一人ごちながら、静香は家の外周を見て回る。先程出た雨戸のある縁側は家の東の横手に当たる。庭沿いに反時計回りに、彼女は回る。そうする間に昨夜あんなに不安がったのが、自分の事ながら可笑しくなってきた。
きっとどこかから飛んで来た木の枝が引っ掛かって音を立てていただけなのだ。見てみればきっと何だ、これだったのかと笑い出すに違いない、と。
庭をぐるりと回り、樋から未だ勢いよく流れ落ちる雨水を避けつつ、彼女は玄関へと回った。
そして――そこで脚を止めた。
玄関の上に張り出した屋根から、何かがぶら下がっていた。その何かが強風に煽られ、玄関上の壁にぶつかって、音を立てていた様だった。
静香はそれが何であるかを視認し――悲鳴を上げた。
どこの誰とも知れない男の遺体。薄汚れた風体に雨曝しの服装。手にはバールらしき物を握った儘だった。
その後到着した警察によると、この男は窃盗、強盗の常習犯で、雨戸も閉じられ二階からも灯の漏れぬこの家を留守と判じて盗みに入ろうとしたのではないだろうかとの事だった。それでも人が居た場合の用心として、二階から侵入しようとし、昨夜の雨に足を滑らせたのではないか、と。
挙げ句はアンテナから延びるコードに脚を絡め、宙吊りになった挙げ句、打ち所悪く……。
それ以来、静香が今迄以上に戸締りに慎重になったのは言う迄もない。
―了―
や、悪い事は出来ませんね(--;)
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Re:こんばんは
あ、でも、団地の高層階の、窓からノックの音とかしたら……それはそれで怖っ!
Re:こんにちは♪
でも、風の音の所為で気付かなかったという綿もあるので、本当の僥倖は犯人の鈍臭さ?
Re:こんにちは
そんな夜だから物音が紛れていいと思ったのかもよ?(笑)
無人なら精々硝子割る音が隣近所に聞こえなければいいし~。
でも、開けてたら、それはそれで……きゃーっ!?
無人なら精々硝子割る音が隣近所に聞こえなければいいし~。
でも、開けてたら、それはそれで……きゃーっ!?
Re:無題
生で死体……確かにそれは……悪夢見そうですね(--;)
幽霊の方が消えるだけマシかにゃ?
幽霊の方が消えるだけマシかにゃ?
Re:こんばんは☆
お忙しい時は気にせず読み逃げもアリですよ(^^)
ぶら下がった遺体……見付けたくないなぁ。私も(^^;)
ぶら下がった遺体……見付けたくないなぁ。私も(^^;)