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淡々とした少女だった。
淡々とした表情、淡々とした立ち居振る舞い、淡々とした言葉、そしてやはり淡々とした、処刑判決の受け入れ。
「何か言い残したい事はないの?」処刑当日の朝、私は尋ねた。「幼かった貴女を誘拐し、暗殺者として育てた組織への恨み言とか、貴女が手に掛けた被害者への謝罪とか……」
ない、と断言した彼女はこう続けた。
「一つ間違ってる、暗殺者ではなくて暗殺機。機械に感情など無い」
やはり淡々とした言葉。そう言えば彼女の言葉には主語がない。
それでもそこに、自分は機械なのだと自分自身に言い聞かせる事で少しでも罪の重圧から逃れようという人間的な感情を見てしまう。それはあるいは私の願望かも知れない――人は人を殺して平然としていられる存在ではないと思いたいという。
これでは彼女は悔いるという感情もない儘、処刑される。それでは本当に、只、処分されていく機械の様だ。
「ねぇ……。貴女が最後に狙った警察署長は私の父よ。それでも言う事はないの?」
淡々とした眼差しが私を見る。驚きも悔恨も何も浮かんでこない。
私の胸中には、恨み、嫌悪感、哀れみ、疑惑……様々なものが渦巻いていると言うのに。
「ねぇ! 貴女は死ぬのよ!?」
私の突然の感情の爆発にも、表情は動かない。
人間はこんなにも無感情になれるのだろうか。
と、私と彼女、そして立会いの係官だけが居た部屋のドアが開いた。
「お嬢さん! 署長が――意識不明で生死を彷徨っていた署長が――今し方、意識を取り戻しました! もう大丈夫だそうです!」
私が喜びの声を上げた次の瞬間――彼女は無表情の儘、一粒の涙を零した。
その意味するものが安堵だったのか、任務失敗への悔恨だったのか、淡々とした表情からは終ぞ、窺い知る事は出来なかった。
―了―
咳が治まらん~(--;)
最近こんな風邪ばっかりや。