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「お前、いつ迄友達の家、泊まり歩く気だよ?」一応遠慮しているのか昼飯を買って来た――とは言ってもコンビニ弁当だ――秋雄に、俺は言った。「うちだってもう三日目だぞ?」
秋雄はバツが悪そうな顔をして頭を掻く。それでも機嫌取りの心算なのか、俺の前に焼肉弁当を滑らせた。奴の手元には海苔弁。バイト暮らしの学生がそんなに裕福な訳もない。尤も、それは俺も同じ事だが。
それでも俺はワンルームマンション、秋雄はちょっと昭和の香りのするアパートで、それなりに暮らしていた訳だが――ここ二週間程、秋雄はアパートに帰っていない。俺を含めた友人の家を泊まり歩き、時折はこうして弁当や酒を買って来たりする訳だ。
理由は言わずに。
それは友達同士、これ迄だって行ったり来たり、泊めたり泊まったりもあった。しかし、これ程連続なんてのはおかしくないか?
だから、弁当は有難く頂いた後、今日こそと、俺は訳を問い質した。
アパートで何かあったのかと。
秋雄は言い難そうにしていたが、遂に口を割った。
「足音がするんだよ――上の部屋から」自棄に神妙な顔で、秋雄はそう言った。
だが、俺は思わず眉根を寄せる。
「足音って……。それ、今に始まった事じゃねぇじゃん。二年前だったか、引っ越した当初から『上のガキが煩い』って、愚痴ってたじゃねぇか」
秋雄の部屋は一階。そして二階の真上の部屋には、親子三人の家族連れが住んでいるらしい。その子供が毎日毎日、どたばた走り回って煩いと、愚痴を零していたものだった。どうせ大学を出る迄の心算だったし、波風立てたくないと、我慢していた様だが。
「何だ? それともいつの間にか家族が増えてて、足音が二倍になったとか?」冗談交じりに、俺は言った。
「そうじゃないんだ。足音は……うん、少しびっこ引いた様な、あの足音は上の子供で間違いないと思う。いつも通りに、どたばた走ってて……時々転びでもするのか、どすんって音がして……」
「どすんって……。結構深刻だな、騒音被害。そうか、遂に耐え切れなくなって……」
「いや、その……まぁ、それもないとは言わないんだが、それ以上に……」秋雄の言葉は歯切れが悪い。
「それ以上に?」俺は先を促した。
「上の子、二週間前に死んだんだよ。両親の虐待が原因で」
「……」
「走り回ってたのも、どうも両親から逃げ回っていたんじゃないかって……。いつも鍵が掛けられてたんで、部屋の中しか逃げられなかったらしいんだ」
「……え?」俺は呆けた声を出してしまった。「なのに、今足音が聞こえるって……え?」
「だから帰りたくないんだよ。もし、俺が文句を言いにでも上の家族の所に行っていたら気付けたかも知れないとか、あの足音はあの子の精一杯の救難信号だったんじゃないかとか、そんな事を思ってたら……」
そして、両親が逮捕され、無人となった部屋の中、未だ独り逃げ回っているのかも知れないと思ったら、遣り切れないだろう、と秋雄は溜息をついた。
その物思いに沈む横顔に、それ以前に幽霊が出るだけでも俺なら帰りたくねぇよ、と突っ込んでいいものかどうか……。
ともあれ、奴の泊まり歩きは未だ暫く、続きそうだった。
―了―
うちも上のガ(以下略)
時々椅子か何かから飛び降りてんじゃないかって、音がする(怒)
てか、着ている肉って(爆)