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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 川が凍ったからと言って、あの島へ行こうなんて考えちゃいけないよ――川端の家に住む老婆に言われた言葉が、今更、順也の耳に蘇った。
 川幅十五メートル程だろうか。町の中心を滔々と流れる川。水量は豊富で、所々深みもあり、過去の経験から、子供だけでは近付く事を禁じられていた。
 その川のほぼ真ん中に、中州と言うよりはちょっとこんもりとした、小さな島があった。時折の増水にも流される事無く、根を張った木々と、岩が目に付くばかりの島だ。しかし、好奇心旺盛な小学生達には、少し、気になる存在だった、
 それと言うのも件の老婆、よく堤防に立ってその島を見遣りながら、子供が通り掛かるとそう忠告して、川端の家へと帰って行くのだ。
 しかし、子供だけで近付いてはいけないと言われてもいたし、何より、島の周りには深みがあって、例え大人と一緒でも近づかせては貰えないのだ。
 普段なら。
 ところがこの冬の冷え込みの酷い一時期、川が凍る事があるのだ。それも子供位なら、その体重を支えられそうな程に。
 そんな時、あの老婆の忠告を思い浮かべながら、言われた通り近付かない子と、逆に好奇心を刺激される子とが居た。
 順也はどちらかと言えば前者だった。
 だが、彼の友達、圭太は明らかに後者だった。

「朝早い内なら、寒いから氷も厚いって」昨日の帰り道、圭太は言った。いつもの様な悪戯小僧の笑みで。「日直だって言って出て来れば、誰も疑わないって。ちょっと行って見て来るだけなんだから」
「あんな所行ったって……」早朝の空気の冷たさへの予想と、僅かな怯えも手伝って、順也は渋った。「木と岩しか無いじゃんか」
「その岩が気になるじゃないか」圭太は唇を尖らせた。「あんな川の真ん中に何で、あそこだけ岩があるんだよ? 川を流れて来た岩や石は下流になるに連れて削れて丸くなるって、習ったろ? あの岩はどっちかって言うと四角いじゃないか」
 確かに、遠目に見る岩は角張っていて、自然に流れて来た物には見えない。しかし、態々それを確かめに行くのか?
「でも、ほら、あのお婆さんにも、近付くなって言われてるし……」言ってから、圭太には逆効果だったと思い当たったが、もう遅い。
「大人は皆そうだろ? あれするな、これするなって」小馬鹿にする様に、そして意地になった様に、彼は言った。「兎に角、明日朝な! 来なかったら弱虫決定!」
 そう宣言されて、仕方なく順也は頷いたのだった。

 しかし、例え弱虫と言われようとも、断るべきだったのだ――そう気付いたのは、生憎にも島に渡った後だったけれど。寧ろあの場で断れなかったのが弱虫のそしりを受けても仕方のない事だったかも知れない。
 確かに早朝の、気道迄も凍りそうな程の冷気の中、恐る恐る身を預けた川面の氷は、思ったよりもしっかりと彼等の体重を支えてくれた。それに勢いを得て、二人はまろつ転びつしながらも、例の島へと近付いて行ったのだった。
 島は土台は砂州の様だったが、やはり余り削れていない石や岩が更に堆積して、形作られていた。それらに根を張って、木々が育っているのだ。岩の多くは苔や流れ着いた藻に覆われ、緑色を纏っている。お陰で滑り易くなっている島の上を、二人は一番大きな四角い岩に向かって歩いた。
 小さい島の事、それは直ぐに二人の前に全容を現し、二人は共に絶句した。
 そこには、その岩が誰かの墓石である事を示す彫刻が施されてあった。
 そしてその名前は――。
「この名字……あの婆さんと同じだよな?」川端の家を振り返りながら、圭太は言った。「何で……こんな所に……」
「男の人の――ううん、男の子の名前だね」横手に刻まれた、半ば苔に覆われた享年や日付を読み取って、順也は言う。「十歳……僕達より一つ上か。死んだのはもう三十年も前だ」
 気味が悪くなっていた。この島は、墓所だったのだ。彼女が近付くなと言ったのはこういう事だったのかと思いながら、二人は踵を返した。元より、長居をする気ではなかったが。
 ところが、その僅かの間に、氷は朝陽に温められ、下を流れる水に洗われ、厚みを減じていたらしい。
 一歩、乗せた圭太の足が氷を踏み割った。慌てて重心をもう一方の、島に残った足に移し、事無きを得たが、割れ目から見える流れは思いの外、速い。そして冷たいのは予想する迄もなかった。慌てて氷の厚そうな所を探すが、その間にも、氷は減り行き、島から足でも滑らせれば危険、という状況に成り果てていた。

 救いを求めて二人が上げた声に、一番に出て来たのは、川端に住む老婆だった。
 彼女は堤防から二人を眺め――舌打ちした。
「子供ってのはどうしてやっちゃいけないって言った事をしたがるのかねぇ」辛うじて、彼女の皮肉げな声が届く。「ああ言っておいただけで自分から、好き好んで島に渡ろうとするんだから。簡単なもんさ」
 その言い様に、二人は顔を見合わせる。あれでは丸で、自分達を此処へ寄越す為に、あんな事を日頃から言っていた様な……。
「でも、どうしてあんた達は生きてるんだい?」
 その声に、二人はぎょっとして彼女を見詰める。
「あの子は――あんた達と同じ様に島に渡ったあの子は、帰りに氷の川に落ちて、とうとう帰っては来なかったのに……。たった、十歳だったのに……」
「!!」二人は背後の墓石を振り返り、それが老婆の言う「あの子」なのだと理解した。
 そして彼女は態と、子供が島へ行こうとするようにあんな〈忠告〉を続けていたのだと。

 二人は更に声を張り上げ、幸いにも近所の住民によって救急隊が呼ばれ、助け上げられた。その訴えにより警察で事情を聴かれる事となった老婆は、去り際に一言、呟いた。
「あんなに、言ったのに……何故……」
 それは、十歳で逝った「あの子」への言葉だったのか……暖かい毛布に包まれながら、順也は届かなかった忠告の行き場を思った。

                      ―了―

 寒いです~。話も寒いです~。
 何で部屋の中でこんなに寒いんだろ~?

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寒いですね~!
おばあちゃんもちょっと意地悪だけど、
おこちゃまたちが悪いなぁ、やっぱり。

台風の日に屋根直そうとしたり、わざわざ釣りに出かけちゃう人、吹雪なのに登山する人、よく事故にあってるけど、あんまり同情できないのよね。
彼らの無謀な行動なせいで巻き込まれる救急隊の人たちの方がよっぽど可哀想!
moon URL 2008/02/04(Mon)22:38:56 編集
Re:寒いですね~!
あ~、居ますね。台風来るって言ってるのに魚釣りに出る人とか、それこそ中州でバーベキューとかしてて、急に増水した川に取り残される人。
そこで降ってなくたって、上流で降ってたら川の水は増えるんだよ(--;)
地震とかならいつ来るか判らないけど、台風とか、警報出てるのに……☆
巽(たつみ)【2008/02/04 23:46】
無題
どもども!
捻じ曲がった老婆の言葉…。
自分の子?に、友達をあげたかったんですかね
猫バカ1番 URL 2008/02/04(Mon)22:39:23 編集
Re:無題
捻じ曲がっちゃってますからねぇ。
助けたくてももう自分の子は助けられない……それならば……!
寒っ!
巽(たつみ)【2008/02/04 23:48】
こんばんは
寒いっすね
老婆も意地悪やけど、周りの大人がなぜ寄り付いたらダメなのか説明しないといけないですよね単に寄り付くなって言われて、寄り付かないなんてムリですよ子供は好奇心旺盛なんですから
ま、そんな簡単ではないでしょうが
老婆のねじ曲がった性格をなおさないといけないっすよ
なっち 2008/02/04(Mon)22:59:55 編集
Re:こんばんは
子供って行くなと言われると、余計行きたがりますよね(^^;)
婆さんは捻じ曲がってるので「どうして?」と訊かれても答えないんだろうなぁ。
巽(たつみ)【2008/02/04 23:50】
こんばんは
流れが急な川が凍ることってあるのかなぁ。
余程の山奥でも、う~ん。まぁいいか。
そうだよね。
やるなって言うほどやるんだよね。
説明しても聞かないだろうなぁ。
老婆の怨念、恐るべしwww。
afool URL 2008/02/04(Mon)23:39:41 編集
Re:こんばんは
川の流れも一日一定量じゃないからねぇ(^^;)
大分溶け出してきて水量増えて早くなったという事で一つ……(苦笑)

子供って特有の万能感と言うか、出来るもん! っていう処があるでしょ。制御機構的な働きをする前頭葉の束縛が未だ弱いから?
巽(たつみ)【2008/02/04 23:55】
寒い。ボケられない。
寒いのは、凍った川の話しのせいですかね。
老婆は悲しみの行き場を失い、少しおかしくなったんでしょうね。
注意しても逆の行動をする子供の謎。老婆には解けないのでしょう。
同じ様になってしまうから…と思えばこその注意。同じ行動をしたのに二人は助かり、かたや助からなかった我が子への思い。
老婆はまた一つ、狂いへの一歩を踏み出してしまったのでしょうかね…?
うう。私には老婆がかわいそうな人に思えます。
冬猫 2008/02/04(Mon)23:57:03 編集
Re:寒い。ボケられない。
確かにね。そもそも息子が注意を聞いていてくれていたなら、彼女は捻れる事も無く、いいお婆ちゃんになっていたかも?
寒いですねぇ。
や、無理にボケなくていいですよ?(^^;)
巽(たつみ)【2008/02/05 00:46】
こんばんは♪
困ったお子様ですネ!
やるなと言われると余計にやりたくなるんだねぇ!まぁ~無事に救出されて良かったよね!
これに懲りてくれると良いけどネ!

お婆さんは、自分の子は死んでしまったのに、他の子が元気で生きている事が悔しくてやりきれなかったんだろうねぇ・・・・・・

そういう心模様は少し分かるけど、普通は時間が経つと氷解するんだよねぇ・・・・・

私も猫が死んだ後ね、元気な野良猫を見ると、
なんでお前が生きていて、私の愛しい猫が死んでしまったんだ!なんて考えた時期があったよ!
クーピー URL 2008/02/05(Tue)00:31:35 編集
Re:こんばんは♪
うん、やっぱり近しい者の死はね、一時的にでも闇を生むよね……。
婆ちゃんの場合、引き摺り過ぎだけど。

お子様、一人落とそうかとも思いつつ(冷)後味悪くなるので止めた(^^;)
フィクションだけどね、このブログだけで、もう何人死んでるか解らない(苦笑)
巽(たつみ)【2008/02/05 00:50】
おばあちゃん…
可哀想に、子ども達の元気な姿を毎日どんな気持ちで見ていたのでしょう。
んー、今年、御見渡りが確認されたでしょう?
神様に通じる道が氷の上にあるのなら、おばあちゃんは神様の元に居るだろう我が子に、お友達を連れて行ってやりたかったのかなあ、と。

あ★先程の謎、冬猫さんが見事に解いてくださいましたよ!すっきりした♪
みけねこ URL 2008/02/05(Tue)01:00:09 編集
Re:おばあちゃん…
おおう、何だったんだろう?
見に行きます♪

御見渡りが確認されるのってよっぽど寒い時でしたっけ?
やっぱり寒い~。暖冬って話は何処へ行ったんでしょう?
巽(たつみ)【2008/02/05 01:17】
寒いですなぁ~
行くなと言われたら、気になってしょうがない
ですね。
行きたくなる気持ちも分かります。
子供は特にいきたくなるでしょうね><
老婆…イジワル老婆だなTωT
ふわりぃ URL 2008/02/05(Tue)17:27:32 編集
Re:寒いですなぁ~
駄目と言われると尚、行ってしまう……。
そんな子供心を逆手に取る婆さん(--;)
川に落ちてたら意地悪じゃ済まないな☆
巽(たつみ)【2008/02/05 17:56】
母の愛
寂しいと思ったから仲間をと思ったのか
それとも、自分の悔しさを他の母親に知らしめしたかったのか
なんにせよ子どもは好奇心の塊
まんまとはまった老婆の心の闇にってところか?
気をつけよう!
つきみぃ URL 2008/02/05(Tue)18:49:04 編集
Re:母の愛
子供の好奇心は学習意欲に繋がる事もあれば、無鉄砲な行動に繋がる事もありますからねぇ。
気を付けよう! 闇の囁きに……。
巽(たつみ)【2008/02/05 19:59】
ほんま、寒いね!
そんな島があったら、渡りたいよね~絶対に。
ちょっと、ワクワクしました~こう言うの好き!
ぴぴ 2008/02/05(Tue)21:13:26 編集
Re:ほんま、寒いね!
渡りたくなりますか~(^_^;)
気をつけて下さいね~?
スケート場位厚ければ、ちょっとした冒険気分だな♪
巽(たつみ)【2008/02/05 22:07】
無題
気道まで寒いって表現、巽さんならではですね。

そうか、いっそのこと、善悪を逆にしてみますか。
そうすると世の中いいニュースばかりかも。
無差別人助けとか、やたら身銭を切って世話を焼く通り聖人とか頻出、ギョーザの中からは宝石とか出てくるし、悪人だらけだなあ。
銀河系一朗 URL 2008/02/06(Wed)00:55:15 編集
Re:無題
気道迄……(笑)
や、あんまり寒いと息をするのすら苦しくなりません?(^^;)

うっわぁ、そんな悪人だらけの世の中になったら、どないしょ!?(爆)
巽(たつみ)【2008/02/06 01:16】
こんばんわ★
おばあさん、怖い(@@)
でも、子供に友達を、と思ったんだったら、ちょっとは救いが…
子供たちに忠告、どういうつもりでしてたんでしょうね?
モアイネコ URL 2008/02/07(Thu)00:25:49 編集
Re:こんばんわ★
お婆さん、色々複雑かも☆
かつての「あの子」がどうして言う事を聞いてくれなかったのか、とか。
「あの子」は死んだのに……とか。
巽(たつみ)【2008/02/07 14:06】
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