〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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これは学校の遠足、詰まりは授業の一環なんだから、行かなきゃ仕方ないんだ――僕はそう自分に言い聞かせつつ、いそいそと明日の遠足の準備に勤しんでいた。
簡易な地図を兼ねた遠足のしおり、よし。ハンカチ、ティッシュ、よし。念の為の雨具、よし。そして何より、おやつ、よし!
お弁当と水筒は翌朝、お母さんが用意してくれる。ちゃんと大好きなおかずのリクエストもしておいた。
これで行き先があの山でさえなければ、もっとわくわくした気分で明日を待てたのに――死んだ祖父ちゃんに聞いた、あの山でさえなければ。
昔から、事ある毎に祖父ちゃんは言っていた。
家で何か起こるのは、あの山から下りて来た悪いものが悪戯したからなのだと。
大事な花瓶が割れた時も。
祖母ちゃんが階段から落ちた時も――幸い、怪我は大した事なかった。
小さなタケオが古井戸に落ちた時も……。
全て、その悪いものの所為なのだと。
だから、あの山には近付いちゃいけない、とも。
祖母ちゃんやお母さん達はそれを聞く度に、苦笑いしてたけど。
この遠足だって、生きていたらきっと反対しただろう。仮病使ってでも休め、と。
でも、僕は少し、その山に興味があった。怖いもの見たさと言うか、好奇心と言うか。それでも、祖父ちゃんの言いつけを守って来たんだけど……。
明日は皆が一緒なんだから、大丈夫だよね、きっと。
翌朝、お弁当の入ったリュックと水筒を担いで、僕は元気に家を出た。
遠足には持って来いの晴天で、僕は近所の子供達とじゃれ合いながら集合場所に急いだ。
初夏の山は緑が溢れていて、眩しかった。なだらかな山は小学生の遠足には丁度よく、悪いものの気配なんて、微塵も感じられない。実際、普段からこの近辺迄遠出する子供も、居る様だった。
あれは祖父ちゃんの思い込みだったんだろうか。
けど、何だろう? 始めて来る筈なのに、さっきから感じているこの懐かしさは。
そして――さっきから耳の直ぐ傍で聞こえる、同級生の誰のものでもない声は。
『おかえり』と。
それははしゃぐ様な、懐かしむ様な声で、僕を歓迎してくれていた。
そう――僕も懐かしいよ……。
「ただいま」僕は呟く様に応えた。
* * *
「警察と消防に、大規模な捜索を依頼してあります。どうか、お母様、気を確かに持って……」校長が汗をかきかき説明するのを、母親は緩やかに頭を振って、止めた。
「大丈夫です――気付いてましたから」寂しさと、何かしらの決意めいたものが、半ば伏せられた瞳に浮かんでいた。
その視線は訳が解らずに呆ける校長を素通りし、窓の外、一人息子が行方を断ったと言う山へと向かう。
「お祖父ちゃんは気を遣ってくれていたけど……気付いてましたよ? 私」
あの子が――タケオが、故意にか事故でか判らないが『本当のタケオ』を古井戸に落とし、祖父にその償いとしてタケオの取り替え子の役を命じられた、あの山から来た何かだと。姿形はその妖力で誤魔化したのだろうが、母の目は誤魔化し切れなかった。
その内、本人も自分をタケオと思い込み、気付かなかった祖母は元より、自分もそう接してきたけれど。
「それでも、あの子は人間にはなれない。私のタケオには……」頬に一筋、涙が伝った。「だからもう、還した方がいいわ」
祖父が亡くなってからその拘束力が薄れ始めたのか、年々、嗜好が怪しくなり――弁当のおかずに虫だのトカゲだのをリクエストし出した、今となっては。
―了―
長くなった~(--;)
簡易な地図を兼ねた遠足のしおり、よし。ハンカチ、ティッシュ、よし。念の為の雨具、よし。そして何より、おやつ、よし!
お弁当と水筒は翌朝、お母さんが用意してくれる。ちゃんと大好きなおかずのリクエストもしておいた。
これで行き先があの山でさえなければ、もっとわくわくした気分で明日を待てたのに――死んだ祖父ちゃんに聞いた、あの山でさえなければ。
昔から、事ある毎に祖父ちゃんは言っていた。
家で何か起こるのは、あの山から下りて来た悪いものが悪戯したからなのだと。
大事な花瓶が割れた時も。
祖母ちゃんが階段から落ちた時も――幸い、怪我は大した事なかった。
小さなタケオが古井戸に落ちた時も……。
全て、その悪いものの所為なのだと。
だから、あの山には近付いちゃいけない、とも。
祖母ちゃんやお母さん達はそれを聞く度に、苦笑いしてたけど。
この遠足だって、生きていたらきっと反対しただろう。仮病使ってでも休め、と。
でも、僕は少し、その山に興味があった。怖いもの見たさと言うか、好奇心と言うか。それでも、祖父ちゃんの言いつけを守って来たんだけど……。
明日は皆が一緒なんだから、大丈夫だよね、きっと。
翌朝、お弁当の入ったリュックと水筒を担いで、僕は元気に家を出た。
遠足には持って来いの晴天で、僕は近所の子供達とじゃれ合いながら集合場所に急いだ。
初夏の山は緑が溢れていて、眩しかった。なだらかな山は小学生の遠足には丁度よく、悪いものの気配なんて、微塵も感じられない。実際、普段からこの近辺迄遠出する子供も、居る様だった。
あれは祖父ちゃんの思い込みだったんだろうか。
けど、何だろう? 始めて来る筈なのに、さっきから感じているこの懐かしさは。
そして――さっきから耳の直ぐ傍で聞こえる、同級生の誰のものでもない声は。
『おかえり』と。
それははしゃぐ様な、懐かしむ様な声で、僕を歓迎してくれていた。
そう――僕も懐かしいよ……。
「ただいま」僕は呟く様に応えた。
* * *
「警察と消防に、大規模な捜索を依頼してあります。どうか、お母様、気を確かに持って……」校長が汗をかきかき説明するのを、母親は緩やかに頭を振って、止めた。
「大丈夫です――気付いてましたから」寂しさと、何かしらの決意めいたものが、半ば伏せられた瞳に浮かんでいた。
その視線は訳が解らずに呆ける校長を素通りし、窓の外、一人息子が行方を断ったと言う山へと向かう。
「お祖父ちゃんは気を遣ってくれていたけど……気付いてましたよ? 私」
あの子が――タケオが、故意にか事故でか判らないが『本当のタケオ』を古井戸に落とし、祖父にその償いとしてタケオの取り替え子の役を命じられた、あの山から来た何かだと。姿形はその妖力で誤魔化したのだろうが、母の目は誤魔化し切れなかった。
その内、本人も自分をタケオと思い込み、気付かなかった祖母は元より、自分もそう接してきたけれど。
「それでも、あの子は人間にはなれない。私のタケオには……」頬に一筋、涙が伝った。「だからもう、還した方がいいわ」
祖父が亡くなってからその拘束力が薄れ始めたのか、年々、嗜好が怪しくなり――弁当のおかずに虫だのトカゲだのをリクエストし出した、今となっては。
―了―
長くなった~(--;)
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Re:こんばんは
ある意味封印かも?(^^;)
Re:無題
一見ミニハンバーグに見えるけど、実は……とか(^^;)
う……迂闊に想像すると、ハンバーグ食べられなくなるじゃないですか(笑)
う……迂闊に想像すると、ハンバーグ食べられなくなるじゃないですか(笑)