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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 気が付けば、街路は真っ白な夜霧に包まれて、彼は行く先を見失っていた。
 と、白い闇を透かして、ぼんやりと赤い光が浮かび上がった。引き寄せられる様に、そちらへと歩き出す。
 やがて見えてきたのは、一軒の交番だった。

「あの、済みません」そっと覗き込んだ中に警官の姿を確認し、彼は声を掛けた。「ちょっと尋ねたいんですが……」
「ああ、どうぞ、中へ。外はもう冷えるでしょう」思いの外柔らかい声音に、彼はほっとする。「それで、どうしました?」
「それが……」彼は顔を曇らせた。「道が……その、よく、解らないんです。そもそも此処が何処なのかも……」
「ああ……。迷子ですか」
 迷子、と言われ、彼の頬が赤くなる。齢二十歳を超えた男に、迷子はないだろう、と。
「兎も角、此処が何処なのか教えて……」彼の言葉は後ろから来た男の子に遮られた。

「お巡りさん、僕の家、何処?」正確な時間は解らないが、明らかに夜。そんな時間に外で聞くには不似合いな、幼い声だった。
 警官は彼に仕草でちょっと待つように示すと、表に出て男の子の目線に合わせてしゃがみ込んだ。男の子を隣に呼び寄せ、霧に覆われた一角を指差して見せる。
「ほら、あっち。あの道を真っ直ぐ行って、二つ目の角を右だよ。解ったかな? さ、早くお帰り」
「うん! 有難う、お巡りさん!」男の子は笑顔で勢いよく頷き、警官に手を振りながら走って行った。
 それに手を振り返している警官を、彼はぽかんと眺めた。この霧の中、あんな子供一人、然もあんな道案内で大丈夫なのか? そもそも、彼には警官が指した道など何処にも見えなかったのだが。

 ともあれ警官に道を尋ねなければと、気を取り直した時、また新たな訪問者があった。
 今度は若い女性。混乱している様子で、幾度も同じ話を繰り返している。その間、またもや彼は警官の仕草一つで放って置かれた。
 自分の方が先だったのに、と些か、不機嫌な思いで、彼は待った。
「兎に角、急いでお帰りなさい。ほら、向こう。あの道を真っ直ぐですよ」警官は矢張り、霧しか見えない一角を指差して言った。そっと後ろに回って目線を合わせてみたものの、彼には何も見えなかった。
 彼が首を傾げる間にも、女性は幾度も頭を下げながら交番を後にしていた。

「あの、いい加減、僕の……」彼が声を上げるとほぼ同時に、また訪問者が――「ちょっと! 僕の方が先でしょう! いつ迄待たせるんですか?」
 矢張り彼を置いて出ようとした警官に、流石に彼は尖った声を上げた。子供や若い女性ならまぁ、防犯上、早く帰宅させようとするのは解るが、今度の訪問者は彼と同年代の男。作業員か何かだろうか、鉄錆の様な臭いが鼻に付く。
 警官は彼を振り返り、少し困った様に眉根を寄せた。
「少し待っていて下さい。お急ぎの方なので……」
「僕だって早く帰りたいんですよ!」
「しかし……」警官は言い淀んだ。が、一つ頭を振って、痛ましげな表情で言った。「兎に角ちょっと待って下さい」

 更に抗議するよりも前に、警官は交番を出て、例によって霧を指差す。
 鉄錆の臭いのする男は頭を下げると去って行った。
「済みませんね」交番に戻りながら、警官は言った。矢張り、痛ましげな視線で彼を見詰めながら。「あちらの方は早く戻らなければならなかったので……」
「そんな事、何で解るんですか。大体、僕だって……」
「長年やってますからね、解ります」遮る様に、警官は言った。「此処には色んな人が来ます。急いで戻らなければならない人、もう……戻れない人……」
「戻れない……人?」
 それが自分を指している様に、彼は感じた。
 そして警官は、頷いてこう言った。

「この交番に来るのは身体を離れた魂。身体が無事なら急いで戻らなければなりません。先程の方の様に、事故に遭って意識不明だったり……。その儘迷っていれば、身体との繋がりが切れて帰れなくなりますからね。でも、既にその繋がりが切れてしまった方は……」
「それは、詰まり……亡くなった人、という事ですか……?」さっきの鉄錆の様な臭いは、血の臭いだったのかと、どこか冷静に納得しながらも、彼は喘いだ。「そして、僕は……?」
「まぁ、落ち着いて話でもしましょう。お茶、淹れますよ」警官は矢張り柔らかい声音で、静かに微笑んで見せた。「時間はゆっくり、あるんですから……。大丈夫です。ちゃんと貴方の行き先は教えて差し上げます」
 彼は椅子にぐったりと凭れ掛かった。
 きっと、戻るべき身体がある者には、この霧の中でも、この警官の案内さえあれば道が浮かび上がるのだろう。だからあの三人も迷いなく、帰って行ったのだ。

 白い霧にぼんやりと浮かび上がる赤灯の下、迷子が今宵も、道を尋ねる……。

                      ―了―
 眠い!

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こんばんは(^^)
出来ればこの交番には行きたくないなw
このお方は…天国に行くのかしらそれとも…(^_^;
つきみぃ URL 2011/10/01(Sat)19:18:37 編集
Re:こんばんは(^^)
それは、ここ迄の行い次第で……(^^;)
巽(たつみ)【2011/10/02 21:37】
おはよう
するってぇと、閻魔様の子飼いですかい?(笑)

時間はたっぷりとあるって言われましても、それはそれでまずいような。^_^;

afool 2011/10/16(Sun)10:29:21 編集
Re:おはよう
一応公務員なのかな?(笑)
ん、早くお帰りって言われる方がいいですね、この場合(^^;)
巽(たつみ)【2011/10/16 22:31】
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