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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 どんっ!!

 そんないきなりの大きな音に、俺達は揃って身体を硬くし、黙り込んだ。
 尤もそれは一瞬で、音の呪縛が解けると同時にざわざわし始めるのだが。
 そこに、部屋の主が「しーっ」と指を一本、口の前に立てる。静かにしてくれ、と。
「今の音、こっち側の壁から?」再び皆が黙った室内で、音の方向を思い出して、直紀が一方の壁に歩み寄る。
 そちらはこの狭い安アパートの、玄関入って直ぐ右――壁の向こうには隣の部屋がある筈だった。
「隣の人? 今の」ちょっと眉を顰めて、沙耶香が言った。「もしかして、態と?」
 部屋の主――真人は頷いた。そして少し、トーンダウンしてくれと頼む。
 その真人の大学に入って以来の念願だった一人暮らしがやっと実現したという事で、俺達は引越しの手伝いとお祝いを兼ねて、こうしてこのアパートの三階の角部屋に集まったのだが……。
「ちょっと騒ぎ過ぎたかな」俺は頭を掻いた。特別、羽目を外した心算はなかったのだが。
「悪いな。此処、見ての通りの安アパートだから……」真人が苦笑しつつ、軽く頭を下げる。「結構響くらしいんだよ。実は此処が決まったばかりの一昨日の夜も、嬉しくて一人で泊り込んだんだが、その時暇潰しに持って来たミニコンポの音が煩かったらしくて、夜中に……やっぱり今みたいに、どんっ! って……。その時は暫く、どんどんどん……って叩かれて、少し怖かったなぁ」
「口で言えばいいのにね」沙耶香が不満そうに口を尖らせる。「怖い人なの?」
「それが未だ、会った事はないんだ。引越しの挨拶に行った時も、駐車場にぬいぐるみ満載した車はあったんだけど、出て来なくて……」今時、自棄に律儀な事を言う。
「却って向こうが怖がってるんじゃね? 最近の若いのは直ぐキレるから、そんなのが集まってる所に注意しに行ったら袋叩きにされるんじゃないか、とか」と、俺。
「でも、それなら黙って我慢してるか、一時的に部屋を出るんじゃないかなぁ」直紀が首を傾げた。「今時、深夜だろうと、コンビニでもカラオケでも時間は潰せるし。壁叩いたりしたら、逆に怒りを買いそうじゃない。僕なら怖い人相手にそんな事、出来ないよ」
 それもそうかと、俺は頷いた。
「とすると、俺達を怖がってはいないけど、直接会いたくはない? 根暗な隣人かね」俺は肩を竦める。
 まぁ、集合住宅に近隣トラブルは付き物だ。自分ではそうは思っていなくても、案外、大きな音を立てている事もある。気分よく聞いている音楽だって、趣味が合わなきゃ騒音になり兼ねない。

 とは言え、俺達の騒ぐ声で、真人にトラブルをおっ被せては申し訳ない。
 極力静かに、かつ楽しく、俺達は話を続け――此処に何を置いたら……なんて勝手に人の部屋のレイアウトを云々しつつ――終電を間近に、最近は物騒だからと直紀が沙耶香を送りがてら、帰って行った。
 俺はと言えば、此処から程近い自宅から、自転車で来たのだから、時間など気にする事もなかった。
「ところでさっきの音……」俺は口を開いた。
「ん?」
「あいつ等普通に帰って行ったから、実はあの壁の向こうは隣だと思っていたのが思い違いで、部屋を出て見たらそっちは角部屋の外側の壁だった――なんて落ちじゃあなさそうだな」
「そんな怪奇現象な落ちは嫌だ」真人は切実な表情で唸った。「やっと一人暮らしの許可とって、バイトで引越し費用も貯めたんだからな。また直ぐ引越しなんて、出来るかよ」
「そうか」俺は頷いた。「ならちょっと付き合え」

 俺は真人を伴って、隣の部屋に急いだ。
 この安普請のアパートにも拘らず、あれからドアを開閉する音は聞いていない。という事は、壁を叩いた人間は未だ居る筈。
「夜分遅く、済みません」一応そう言いながら、俺は隣の部屋のインターホンを押した。
 応答はない。
「……やっぱり、人と関わりたくないタイプなのかも」真人が俺の袖を引く。「無理に関わろうとしない方がいいよ。そういう人も居るし」
 だが俺は、少し声を大きくして、更にはドアを叩いた。
「済みません、隣の者ですが、どなたか居ますか?」
「お、おい……!」
 返答はない――と思ったら、ややあって、どん、と一つ、ドアが叩き返された。いや、発生源の位置は低い。足で蹴った位の位置だ。そして、それは一回切り……。
「真人、大家さんは?」
「え? こんな夜中に?」
「怪奇物件は嫌だろ? 急ぐんだよ!」

 渋る真人を急かし、俺はどうにか隣の家に住むという大家さんを呼び出して、鍵を開けて貰うよう交渉した。
「様子がおかしいんです。もし病気で倒れていたり、何かあったらどうするんですか?」態と、責任というプレッシャーを与えるように話を進めると、やはり渋々ながらも鍵を開けてくれた。
 すると――。
 玄関の、暗いたたきに転がる影に、予想していた俺さえも、思わず飛び上がってしまった。
 電気のスイッチを入れてみれば、そこに転がるのは些か憔悴した、一人の若い女性。手足を縛られた上に口を塞がれ、ぐったりと横たわっていた。
 俺達は直ぐに、救急車を呼んだ。

「ぬいぐるみ満載の車に乗ってるなんて――歳は兎も角――隣の住人は女だと思ったんだ」彼女が運ばれた病院で、事件という事で駆け付けた警官に俺は説明していた。「それで、余程気の強い人なら兎も角、そんなぬいぐるみ集めてる様な人が騒音への抗議とは言え、壁を叩くなんて暴力的な事するかな、と思って。実際、近所トラブルなんて誰だって避けたいだろうし。況してや女性なら……。なのに、態々叩くっていう事は、もしかしたら訪ねて欲しいんじゃないかなって。あの音は『煩い!』って意味じゃなくて、人の気配を聞き付けての『誰か居るなら助けて!』って意味だったんですよ」
 結局、女性はかなり衰弱はしていたものの大きな怪我などはなく、暫く病院で養生しつつ、事情を聴かれる事となった。
 その話では、どうやら付き合っていた男との、別れ話の縺れから、あんな状態で放置されるに至ったらしい。それでも当然、あの儘放って置かれれば餓死か衰弱死。犯人の男は直ぐ様、身柄を確保されたそうだ。

 まぁ、兎も角――友人の住むアパートは怪奇物件にはならずに済んだ。
 それでも、あの「どんっ!!」という音は今でも、俺の耳に残っている。
 口を塞がれ声も出せない彼女の、精一杯の悲鳴として……。

                      ―了―


 騒音トラブルは嫌だねぇ(--;)

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こんばんは
間に合って良かったです(^_^;)
「おれ」君なかなかやりますな☆

それにしても…
こんな男と付き合うのはイヤだよw
つきみぃ URL 2010/09/27(Mon)20:24:50 編集
Re:こんばんは
全くだよ(^^;)
幽霊ネタじゃ当たり前なんで捻ってみました☆
巽(たつみ)【2010/09/27 22:07】
無題
てっきりまたまた幽霊かと思っていたので、
生身の人間だと別な驚きがありますね(^^;

騒音反対! 
銀河径一郎 2010/09/28(Tue)00:29:41 編集
Re:無題
騒音はねぇ、本当、勘弁して欲しいですよ。
うちも上の階の子供が煩くて(--メ)
上下って案外響くんですよね~。
巽(たつみ)【2010/09/28 22:41】
こんばんは
またまた予想通りで済みませんw(^_^;)
afool 2010/09/30(Thu)18:32:04 編集
Re:こんばんは
ちぃっ(^^;)
巽(たつみ)【2010/09/30 22:23】
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