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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 σ(・_・)は(^・×・^)である。名前は……ってこのパターンは前にやったっけ。
 改めまして、Z家の同居猫、ミトンです。にゃん。

 この間の事なんだけど、とんぼ堂って古本屋に引き取られた兄弟、夜護郎がふらっと訪ねて来たのよ。まぁ、ちょっと見ない間になかなか精悍な黒猫――おでこに白斑アリ――になっちゃって。でも、生憎ぱぱもままも病院に健康診断――あ、只の定期健診だからね、ご心配無く――先に六ヶ月の検診受けてたあたしだけがお留守番してたの。
 何だか相談事みたいだったんで、ミトンが聞こうかって訊いたら「いい」って素っ気無いのよ! それで夜護郎の後に引き取られて行ったもう一匹の行き先を教えてくれだって。連れてって上げるって言ったら、教えるだけでいい……って、何ハードボイルド気取ってんのよ、あの子は!
 当然、直々に連れて行って上げたわよ。あたしだって弟の面倒位見たいじゃない。ぶつぶつ……。

 もう一匹の子――この子も弟なの――が引き取られたのはZ家から余り遠くないあるお家。同居人が喫茶店経営してるから丁度よかったみたい――そんな事を話しながら塀の上、屋根の上を歩く間も夜護郎は殆ど黙った儘。んもう!
 あ、丁度よかったって言うのは、あの子がスフィンクスのまま似だったから。厳密には無毛じゃないんだけど、全体的に薄くて柔らかい。その所為かぽわぽわの綿毛みたいで、何かいつ迄も幼く見えるのよね。だからつい構いたくなって、あたしは時々様子を見に行ってるの。本当はしっかりした子なんだけどね。
 名前は今の同居人が付けたんだけど、しらは。
 漢字で書いたら白羽、白波、白刃――そんなイメージなんだって。確かにふわふわの白い毛は羽の様にも波の花の様にも……。眼は綺麗なアイスブルー。
 でもその薄毛の所為なのか、やっぱりままみたいに余りお日様に当たれないんだって。だからしらはの部屋も、ままの部屋と同じ様に紫外線対策ばっちり。余り出られないのは可哀想だけどね。猫ドアも無いし――でも、スライド窓、しらははあっさり開けちゃうの。だからあたし達の出入りは問題無し。同居人は知らないんだけどね。
 小ぢんまりとした喫茶店「らんぽ」――その二階に、しらはは住んでいる。お店の中は窓から覗いた事しか無いんだけどね、落ち着いた感じで、でも喫茶店にしては本が多かったなぁ。流石に夜護郎の所程じゃないけど。
 その日もあたし達は、しらはに二階の窓を開けて貰った。

「いらっしゃい、ミトン」当然だけど猫語で、しらはは言った。「あれ? ……夜護郎?」
 夜護郎を見て目を丸くする。何ヶ月か振りだものね。あたしがちょくちょく話してたから直ぐに判ったみたいだけど。
「珍しいね。何かあったのかな?」あたし達にクッションを勧め、自分はお気に入りの揺り籠に座を占めながら、彼は訊いた。「もしかして、美夜ちゃんの事?」
「何故美夜の事だと……!?」夜護郎は思わず腰を浮かす。
 でもこれは何の事はない。あたしの情報網とお喋りを舐めて貰っては困る。夜護郎の近況を知っていればこれ迄顔も見せなかった彼が来た訳なんて、しらはには簡単な事ね。種を明かすと夜護郎はバツが悪そうにクッションに身を沈め直した。
「美夜が……鍵を盗まれたんだ」夜護郎は不機嫌な顔でそう言った。
 

 とんぼ堂――老夫婦、若夫婦、そしてその一人娘で五歳の美夜ちゃん。同居猫夜護郎。それが一家の全員で、でも若夫婦は別に仕事持ってて、殆ど家に居ない。
「鍵? 家の鍵? だったら大変じゃないの!」とあたしは質した。泥棒が鍵なんか持ってたら入りたい放題じゃない。
 でも、夜護郎はあたしの早とちりを笑いもせず、頭を振った。
「家じゃなくて、日記の鍵だ」銀色で、これ位の……と、両前足で二センチ程の隙間を作る。本当に小さな、飾りみたいな物の様ね。
 それにしても五歳で鍵付き日記とは……美夜ちゃん、見られたくない事でもあるの?
 あたしの思っている事が解ったのか、夜護郎はそっと苦笑した。
「美夜の母親が土産に買ってきた物だ。殆ど、絵日記……と言うか、お絵描き帳だよ」
 それでも鍵付きという秘密めいた感覚は五歳の少女をも魅了したらしく、美夜ちゃんはそれに描いた絵は偶に帰って来るママにしか見せず、鍵の方は可愛い色使いの紐で首から下げて肌身離さず、いつもちゃらちゃら音を立てていたと言う。
「なのに盗まれたの? 日記はその儘で?」というあたしの問いに夜護郎は頷いた。
 お陰で日記が開けられなくて、美夜ちゃんはぐずっているらしい。三日後にママも帰って来るから、絵を見せたいんだって。

「どういう状況だったのかな?」長い尻尾――先っぽの方が毛が長いの――を揺らしながら、しらはが訊く。じゃれ付きたくなるわぁ。
「それが近所の子供達と公園に遊びに行って、噴水で水遊びする時に、外して皆の玩具なんかと一緒に、直ぐ傍のベンチに置いてたらしいんだ。一応、一番下にして」
「子供達だけだったの?」暑くなってきたこの頃、噴水の水が魅力的なのは解るけど、危ないじゃないの、と眉を顰めると、近所の子の母親の一人が付き添っていたと言う。
「確か『アツシ』って子の母親だ。名前は知らない。子供達は『アツシ君トコの小母ちゃん』としか呼ばないからな」
「じゃ、仮名『アツシママ』と、アツシ君と……他には誰が居たの?」
「俺はその場に居た訳じゃないからな……」夜護郎は考え込む。居たら盗ませやしなかったのに、という悔しさがパタパタ動く尻尾に表れている。「あくまで美夜と子供達、それとアツシママの証言になるが――子供がモモコ、ヒロミ、タカユキ、これにアツシを加えた四人。この日は暑かったからか、公園の人出は多くはなかったそうだが、それでも涼を求めに噴水に近付いた人は居たから……正確な所は解らないそうだ」
 それにこれらの証言にしても、所詮は子供の日記の鍵と、警察に届けた訳でもなく、目が届かなくて済みませんとアツシママが説明と詫びに来ただけなんだって。夜護郎としては直接聞き込みも出来ないし、もどかしそう。人間さん、猫語位理解出来ればいいのに。
「でも、一番下にしてあったって事は、光り物好きの烏の悪戯じゃあないわよね」少しでも範囲を狭めようと、あたしは先ずその可能性を排除した。
「人間にしても、通りすがりの知らない人がぱっと目に付いて出来心で……とは思えないよね」しらはが頷いた。
「なら、やはりこの五人の中に……!」夜護郎は噛み付かんばかりの勢い。
「一先ずそう仮定して……」籠を揺らしつつ、しらはが言った。「その五人の、趣味を調べて貰えるかな?」
 勿論知っていればこの場で教えてくれても……と、しらはは言ったけど、夜護郎ってば普段美夜ちゃんしか目に入ってないみたいで、ぷいっと調査に行こうとした。直ぐ戻るって一言だけ呟いて。
 あたしが直ぐ止めたけどね。
 だって無愛想な夜護郎がこれから調べるより、あたしの情報網使った方が早いんだもん。
 そこで旧交でも温めてなさい、と一言残して、あたしはいつもの集会所に向かったわ。

                      * * *

 とんぼ堂のご近所の猫を呼び出し、ものの小一時間で例の五人の情報を集めたあたしは勇んで「らんぽ」の二階の部屋に戻った。尤も、五人の趣味なんていう情報が役に立つのか、解らなかったけど……ま、しらはの事だから。

「御苦労様」窓を開けてくれながら、しらはは言った。「流石、早かったね」
 あたしは早速、報告に入った。夜護郎が焦れた様な顔してるんだもん。
「でも、本当に趣味だけでいいの?」他にも少しは聞き込んで来たあたしは、しらはにそう確かめた。しらはは笑って頷いた。「じゃあ……」

 先ずアツシ。アウトドア派で最近はサッカーのコーチ迄付けて貰ってる。
 モモコ。彼女のママに習って手芸。針は未だ危ないから持たせて貰えないみたいだけど。
 ヒロミ。外国のコイン集め。因みに男の子だよ。
 タカユキ。アツシと逆なインドア派。よく図書館で絵本を借りて読んでるんだって。
 最後にアツシママ。趣味はアツシ――長老猫にそう言われる程、彼女はアツシにべったり。アツシが望んだからって、コーチを連れて来たのも彼女。

「こんな処だけど……?」あたしは小首を傾げて、しらはを見遣った。
 しらはは籠を揺らしつつ、徐ろに話し出した。
「先ず考えられる可能性として、犯人の関心の所在は、一・鍵その物。二・鍵以外の付属物。三・鍵が嵌まるべき錠の付いた日記――取り敢えずそれ位かな?」
「三つもあるのか」夜護郎がごちる。
「じゃ、一つずつ検証していくよ。その内消えるから」しらはは苦笑した。「先ず、一だけど、鍵は美夜ちゃんにとっては大事な物だけど、それ以外の人にとっては精々只の飾りでしかない。人間の女の子はそういう可愛らしそうな物に惹かれるらしいけど……」
「じゃあ、モモコちゃん?」と、あたし。アツシママも女だけど、大人はアクセサリーなんて自分で買えるもの。大体元はたかが子供の日記帳の鍵だし。
 まぁ、待って、とはぐらかして、しらはは次の可能性に移った。
「先に三の日記の件だけど、考えられるのは美夜ちゃんに何か拙い事を見られ、それを描かれたと犯人が思った場合。美夜ちゃん自身は気が付いてなかったり、本当は描いてなかったりするかも知れないけどね」
「悪戯した処とか……」言って、あたしはお昼のドラマで見た情景に思い至った。「アツシママがコーチと浮気してるとか……!」
「ミトン、いつもどんな番組見てるのかな?」
「Zに付き合っただけよ」同居人を引き合いに出すあたし。本当よ?
「……ま、いいや。でもこの場合、日記その物は手付かず。ちゃちな鍵なんて壊す心算ならどうとでも開けられるよね。鍵だけ隠してもしようがない――大人なら直ぐ解るよね」
「じゃあ、やっぱり子供の誰かが悪戯して……」
「でも、大人でも子供でも、美夜ちゃんに口に出されたら、終わりだよね? 日記だけ見られなくしても」
「じ、じゃあ、美夜を口封じに……!」夜護郎が腰を浮かす。もう、落ち着きなさいよ。
「それなら先ず鍵だけ持って行きやしないよ」ほら、しらはに苦笑いされた。「大体、子供同士なら精々『内緒な』『うん』で終わりだよ。僕が言いたいのは三の可能性は低いって事。解ったかな?」
「脅かすなよ」と、夜護郎。未だ眼がきょときょとしてる。だから落ち着きなさいって。
「後は二の線だけど……」白羽が言い掛けるのをあたしは遮って言った。
「鍵以外が目的なら、やっぱりモモコちゃんね」

 二匹はきょとん、としてる。しようがないなぁ。あたしは説明を始めた。
「ほら、モモコちゃんの趣味は手芸よ。でも、針は持たせて貰えなかった。だったら編み物とか、リリアンとかそんなものじゃないの? そして鍵に付いてたのは可愛い色の紐。モモコちゃんはそれをどうしても使いたくなったのよ。もしかしたら一の鍵自体も目的だったのかもね」
 どう? とばかりに見遣るあたしに、夜護郎は少し考えた後、感心した様な表情を浮かべ――しらはは苦笑した。
「結論を出す前に夜護郎に確認したいんだけど……」喉の奥を鳴らしながら、しらはは言った。何が可笑しいのよ? あたしは軽く睨む。「その紐と一緒に付いてた、多分金属製の物、何?」

 え!? ――って、あたしは顔を凍らせた。
 そう言えば確かにいつもちゃらちゃら音を立ててたって……チェーンに付けてる訳でもない鍵一つじゃあ、音なんてしない。でも金属製の者がもう一つ以上付いていれば……。
 夜護郎は暫し髭をひくつかせた後、言った。
「父親の土産の……金貨を一枚……」
「金貨――詰まりコインだね。美夜ちゃんのパパは海外出張が多いんだったよね?」
「じゃ、鍵じゃなくてそれが目当てで……犯人はコイン収集が趣味のヒロミか!」言うなり、夜護郎は窓に飛び付いた。しらはが開けるのももどかしく、飛び出して行く。取り返しに行く心算みたい。
 あたしは茫然とそれを見送った。

 翌日、夜護郎は礼を言いに来た。各局あれからヒロミ容疑者の家に忍び込み、首尾よく紐に繋がった儘の鍵と金貨を見付けたそうだ。銜えて逃げる時にヒロミに見付かったらしいけど、キッと一睨みしたら……逆に安心したみたいな顔で見送られたって。ヒロミもつい持って行っちゃったけど、どうやってゴメンしていいか困ってたのかもね。
 だから夜護郎も暴くのは止めたみたい。元々言葉も一方通行だし。
 鍵を公園のベンチの下に隠して、そこへ美夜ちゃんを引っ張って行ったんだって。丸で落ちてましたよって言わんばかりに。
 そりゃあ、美夜ちゃん、喜んだって! 絵が描ける、ママに見せられるって。
 その後お礼とか言ってモデルを務めさせられて参ったぜ――なんて言ってる夜護郎の髭が嬉しそうにぴくぴくしてるのを、あたしとしらはは笑って見守った。

                        ―了―


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