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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 ご無沙汰してます。Z家の同居猫その3、ミトンです。にゃん。
 今日見回りを兼ねて弟の〈しらは〉の居る、喫茶「らんぽ」に行って来たんだ。
 ここ暫く寒くなってきたけど、しらはの所は体毛の薄いあの子に合わせて、もうぬっくぬくのホットカーペットが入ってるんだー。だからちょっと一緒にだらけ……もとい、温もって来ようかなぁって思って。

 いつもの様にお店脇の塀を伝って二階の窓へ。
 その序でに何の気無しにお店を覗いたら、あれ? お姉さんが居ないかも。
 あたしの情報網によれば「らんぽ」の御主人は四十歳で脱サラしてここを始めてもう十年。その間に奥さんを亡くしたらしいけど、今二十三歳の娘さんが一人。その娘さんの作るケーキがここの売りなの。勿論御主人の淹れる紅茶も美味しいらしいんだけどね。あたしは猫だから飲んだ事は無い。
 それともう一つ、ここのお店には本が一杯置いてあるのだけど……何だか今日は本棚が寂しいみたい。お客さんに貸し出してるにしては空きが多い様な……。因みに本の在庫はハードカバーから絵本迄、結構幅広い。ミステリーが多いのは……まぁ、店名から推して知るべしだわね。
 その辺を気にしながらも二階の窓をぺしぺし叩くと、いつもの様にしらはが開けてくれた。

 
「早く入ってくれるかな?」吹き込んだ寒風に身を縮めながら、彼は言った。スフィンクスのまま譲りの薄い体毛の所為で、夏は強い紫外線が、冬はこの寒さがしらはと外との接点を奪っている。この部屋だって紫外線対策はばっちりだし、前述の通りホットカーペットが……ふにゃあ~。肉球が床に触れるなり、あたしはとろけた。
 しらははお気に入りの揺り籠に戻って、あたしのそんな様子に微苦笑してる。
 それはそうと――とあたしはさっきの違和感を訊いてみる。お姉さんと本の事だ。
「かおるさんなら夜護郎の所にお使いだよ」
 かおるさん、というのがお姉さんの名前だ。フルネームは確か宮下かおるさん。
「夜護郎の所っていう事は、古本屋の『とんぼ堂』ね」
 しらはは頷く。「らんぽ」の御主人は「とんぼ堂」の常連さんらしい。店の本棚に並んでいるのも、あそこで買って来た物が殆どなんだって。「らんぽ」のお客さんなら誰でも読めて、貸し出しもOKなんだって。勿論無料サービス。
 え? ここで貸し出されたら「とんぼ堂」が困らないかって? それは大丈夫みたい。その分ここが買ってるし、シリーズ物なんか「らんぽ」で読んではまっちゃった人があっちに探しに行く事もあるみたい。持ちつ持たれつ?

「一週間前、童話集をごそっと借りて行った人が居たんだけど、なかなか返って来ないみたいで」しらはが言った。「だから子供達用の童話を選びにかおるさんが行ったんだ。お父さんじゃ、またミステリーばっかり買って来ちゃいそうだから」
「ふ~ん、そうなんだぁ……って、借りた本返さない人が居るの?」あたしはちょっと眉を顰めた。人間の世界じゃそれはルール違反なんじゃないの?
「まぁ、そういう事は前にもあったらしいから」しらはは余り気に留めていないみたい。「お父さんも最初から半ばそういう人も居るって心算で貸し出してるんじゃないかな? 流石に今回は一度にしては冊数が多いけど……」
「むー」あたしは唸った。「それでいいの? ね、それ、どんな人か判ってる? 特徴とか」
「訊いてどうするのかな?」しらはは小首を傾げた。「得意の情報網で探す心算? でも未だ返す気が無いって決まった訳じゃないし」
「いいから。どんな人だった?」あたしは詰め寄った。
 その時、後ろの窓がぺしぺしと叩かれた。

「夜護郎、早く入ってくれるかな?」あたしに言ったのと同じ様に、窓を開けたしらはは言った。黒い身体におでこに白斑の弟が身軽に入って来る。尻尾が挟まりそうな位に急いで、しらはは窓を締めた。寒がりさん。
「しらは、お前ん所の姉さんが来てたんだが……」開口一番、夜護郎はそう言った。相変わらず愛想の無い子だわ。「何か変な本ばっかり探してたぞ?」
「変な本?」あたしが首を傾げた。「童話を買いに行ったんじゃなかったの?」
「童話――確かにそういう類なんだろうが、妙にぽつぽつ穴の開いたのばっかり探してた」
「穴ぁ?」あたしは目を丸くする。「本に穴開いてちゃ駄目じゃない。そんなの売ってるの?」
「この間どこかから仕入れてきたらしいんだ。何でも病院が経営難で潰れて、少しでも金になればって、その1が引き取ってきたらしい」夜護郎の言うその1っていうのは「とんぼ堂」を経営するお爺ちゃん。夜護郎ってば、特に懐いてる美夜ちゃんって嬢ちゃん以外、名前覚えないんだから。
「それで、その本はあったのかな?」しらはが尋ねた。でも何だか答えが解っている様な口調。
「無かった」夜護郎は答えた。「十三冊位あったらしいんだが……残っていた一冊は一週間程前に売れた。それ以外の十二冊はそれ以前に……どうやらこの「らんぽ」に」

「どういう事?」こんがらがって、あたしは唸った。「穴の開いた童話集を買って来たのはお姉さんよね? で、その童話集が貸した儘返って来なくって、お姉さんはまたそんな本を探しに行った?」
「そういう事になるな」と、夜護郎。「結局普通の童話だか絵本だか買ってたけど」
 あたしと夜護郎の視線がしらはに流れる。しらはは揺り籠でゆらゆら……。あたしは籠に飛び込んでその揺れを止めてやった。
「何か解ってるんならお姉ちゃんに言って御覧なさい!」離れてたってこんな時はお姉ちゃんだもんね。
 やれやれ、としらはは夜護郎に向き直り、訊いた。
「かおるさんはその後どこかへ行ったかな? あ、その前にお爺さんに何か訊いてたかも」
「ん? ああ……穴開き本を仕入れた病院の経営者がどこかって……。俺が先に出たからどこ行ったかは解らないけど、未だ帰ってないみたいだから、どこかへ寄ったのか……」
 それからしらははあたしを振り返った。
「あのね、ミトン。さっきの質問だけど、本を借りて行ったのは五十歳位のおばさんだったんだけど……染み着いた薬の臭いが未だ抜けてないって感じだったよ」
「……病院の……関係者って事?」あたしは考え考え、言った。「でも病院はもう潰れたんでしょ?」
「病院は潰れた……でも、看護士や入院患者はどこへ行ったのかな?」しらはは、蒼い眼であたし達を見比べた。

「それは……他の病院に行ったんじゃないの?」と、あたし。「全員が全員同じ所には行けなかったでしょうけど、どこかしら……」
「そうだね」あっさりとしらはは頷く。「でも病院もそれぞれだよね。施設もそれぞれ、備品もそれぞれ」
「備品……本とかか?」夜護郎が質す。「あの穴開き本?」
「そう。行った先にああいった本が無かったとしたら? それを前の病院と比べたら? あれがあればいいのにって思っちゃったら?」
「……そもそも、あの穴開き本、何なんだよ? あんなもんがあって、何がいいんだよ?」夜護郎は焦れてきたみたい。尤も、あたしもだけど。
「しらは……回りくどいよ」あたしは眼を眇める。
「あの本はね……ここにあるより彼女が持ってた方がいいかも知れないんだ」しらはは微苦笑して言った。
 と、六つの耳が同時にぴくりと動いた。
 お店の裏口の開いた音。お姉さんが帰って来たみたいだ。

 遅かったな、というおじさんの大きな声に、お姉さんの声が返る。
 あたしと夜護郎は揃って、いきなりドアが開いても窓から退散出来るぎりぎりの所で、軽く身構えてその会話を聞く。
 お姉さんはどうやらあれから、問題の病院経営者に心当たりを訊いてみたそうだ。そしてあの女性らしい看護士を見付けたんだって。
 そうして彼女に告げて来たらしい。
 あの本は返さなくていいから、と。
 看護士はあれを写してから返す心算だった、遅くなって済まなかったと詫びたそうだ。そしてお姉さんの言葉に、深々とした礼で応えたそうだ。

 穴はぽつぽつ開いていて珍しくは思ったものの、ちゃんと字は書かれていた為にお姉さんはこういう本もあるんだと紹介したい様な気がして買い求めた。ところがどういうルートで追って来たものか、件の看護士は「とんぼ堂」へ、そしてこの「らんぽ」迄来た。そして本を借りて行った――そういう事らしいわ。
「かおるさんにはね」悪戯っぽい眼をして、しらはが言った。「消毒薬の臭いに噎せた振りして、人間でも無意識に感じていた筈の、おばさんの臭いを思い出させておいたんだ。本も直に見ているし……それだけで気付いたんだろうね」
 なるほど、それで看護士迄行き着いたんだ……。
「でも……」あたしは何だかもやもやした思いで口を開いた。「そもそもあの本って何だったの? 穴の開いた本がそんなに大事だったの?」
「穴がぽつぽつ開いてた、でもかおるさんが不良品だと思わず買って来た。そして元あった病院の看護士さんが探してた……」ゆらゆら、しらはが言った。「僕は見てないけどね、多分……眼の不自由な子供達の為の、点字で刻まれた本だったんだよ。なかなか……必要数に対して品薄で手に入り難いらしいよ」
 もっと出回っていれば看護士さんも長い間借りて心苦しい思いをしなくて済んだのにね――そうあたしが言うと、しらはは目を細め、夜護郎は耳をぴくぴくさせた。

                      ―了―
 お久し振りの猫シリーズ。
 考え考え書いてたので、おかしな所があったら突っ込んでやって下さい。 








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無題
わーい♪ネコちゃんシリーズ、待ってました☆
かおるさん、いい方ですね(^^)
点字の本って、実際見たことないですけど、
やっぱり足りないんでしょうね・・・。
moon URL 2007/11/13(Tue)00:01:57 編集
Re:無題
なかなか点字翻訳も難しいらしいです。
本好きとしてはやはり誰でも本を愉しめる環境を、と願います。
巽(たつみ)【2007/11/13 00:35】
こんばんわ★
モアイネコのブログに、コメントありがとうございました!
今回は猫ちゃんなので、コメントしてきます(^^)
点字の絵本、モアイネコは高校で見ましたよ~。
懐かしい!
図書委員長だったので、特権で1番に借りたのですよ~。
たしかに、あんまり普通の本屋さんでは見かけないですよね~。
モアイネコ 2007/11/13(Tue)01:12:59 編集
Re:こんばんわ★
モアイネコさん、コメント有難うございます!(^^)
高校に点字の絵本ですか。いい学校ですね~。
そういう物が無いと読めない人が居る、そんな事実を知っている人は知らない人よりちょっと優しくなれる、そんな気がするのです。

巽(たつみ)【2007/11/13 01:28】
いや、
よく分からないんだけど、点字って穴が開いてるの?テレビなんかで見た感じでは、ぷちぷち穴が盛り上がっていたように感じたけど、そういうのもあるんだろうか?

目が見えないっていうのは、大変ですよね。
最近、視力の減退を痛感して、その苦しみの一端を感じております。
ぷん URL 2007/11/13(Tue)15:14:11 編集
Re:いや、
点字板というのを使ってぽつぽつ打っていくと表が凸面で、その分穴の開いた点字分が出来上がるそうです。物にも多少はよるかも?
私も小さい頃からの近視と乱視がねぇ……(--;)
更に眼精疲労が~と言いつつ読書とブログが止められない☆
巽(たつみ)【2007/11/13 15:40】
おぉ~…
あれを「穴があいた」というとは…でも確かに裏側は穴あきっぽいですね。
市販の点字本が少ないのも事実。図書館によっては、点訳ボランティアさんにお願いして、要望があった本の点訳をしてもらって提供することも。
録音図書という方法もありますね。

なんにせよ、いつもより悔しくおもうのは、何故でしょうか…
あすか 2007/11/13(Tue)18:30:56 編集
Re:おぉ~…
く、悔しいですか?(汗)
そう言えばあすかさん、ある意味一番近い所に関わってるかも……。図書館……
巽(たつみ)【2007/11/13 19:21】
念のため
あ、「悔しい」っていうのは、わからなかった事が悔しいって事です。
たぶん「何度か手に取ってるのに、なんでわかんなかったんだ~」って思ったからかも。
あすか 2007/11/13(Tue)20:30:32 編集
Re:念のため
図書館だとやっぱりそういった本も扱う機会が(普通よりは)多いでしょうね。
でも「穴開き本」ですからね(笑)子猫達の言う事とは言え、解り難かったかも?(^^)
巽(たつみ)【2007/11/14 00:04】
無題
点字本。
ジョークを考えたが……。
苦情がきそうだな。
近いうちに書くかも……。

しかし、点字本は本当少ないし、増えるといいですよね。
それか、もっと良い方法を考えつくか……。
ふぁぶぃ。
見習猫シンΨ 2008/07/28(Mon)17:24:29 編集
Re:無題
ジョーク、楽しみに待っております(^^)
苦情? ちょっとブラックなのかな?
障害者に関しては腫れ物に触る様な所がありますからねぇ。馬鹿にしている心算も軽視している心算も無いのに、文句が来たりする――彼等自身じゃなく、普通の人から。彼等はそんなに弱くない。
巽(たつみ)【2008/07/28 20:59】
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