〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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昨日通過した台風の余波だろうか。右手、数十メートル下に広がる海は、波高く荒れていた。
崖にぶつかり砕けた波頭が飛沫となり、足元迄達する勢いだ。
そんな断崖を歩きながら、私は後を追って来た二人に語り掛ける。
確かに二人の指摘通り、私が教授を殺した犯人である事。
尊敬していた教授に殺意を抱くに至った経緯。
罪から逃れる為に仕掛けたトリックの数々。尤もそれらは、二人によって解明されてしまい……事ここに及んでいるのだけれど。
そして、それを知った私はこうして断崖へと、自ら全てを終わらせるべくやって来た……そんな非常にありがちなシーン。
うちのサークルの脚本家、二時間ドラマの見過ぎだわ。自主製作のムービーなんて、セットにお金掛けられないのは解るけど。
『美和子さん、未だ終わりじゃないわ! どうか罪を償って。教授もきっとそれを望んでいる筈だわ!』今回の主役、女探偵が波の音に負けじと叫ぶ。どこかで見た様な、ありきたりな演技。隣で如何にも非常事態に備えてますって顔をした助手役も、別に彼でなくてもいいんじゃない? 見た目はちょっと、いいけどね。
私は……私が本当にこの犯人の立場だったら、どんな顔をするだろう? 勿論、台詞も含め、脚本は決まっている。それを変える気はない。皆で作って来た作品だもの。私だって、大事に演じている。
それだけに完璧な演技を、私は自分に求めた。
彼女、いや、私はどうするだろう? どうしたいだろう? 脚本では説得に応じ、この場でくずおれ、二人に保護される事になっている。
でも、それは本心だろうか? 本当は……。
それでも応じるとすれば、きっとどこか諦めた風でいながらも、遠くを見詰めて……よし、私の演技はこれだ。
そして、僅かの間を置いて、私が台詞を喋ろうとした時……。
「カーット!」監督役の部長が、ヘッドホンを乱暴に外しながら声を張り上げた。「カットだ! 誰だよ、変な台詞入れたのは!?」
変な台詞?
私はきょとんとして、部長を見詰めた。探偵役の彼女や、周りに控えたメンバーも同様。
「どうしたんですか?」私は尋ねた。「変な台詞なんて、誰も入れてませんけど」
他のメンバーも頷く。
只一人、部長と共に録音をチェックしていた音声担当だけが、訝しげな顔で、部長に確認している。
聞きましたよね? と。
何を、という問いに、部長と音声担当が声を揃えた。
『こっちに来ればいいのに』
その声は海側にセットしたマイクが拾ったものだった。
再生してみると、確かに入っている。けれど、生で聞いた者は、居なかった。
タイミング的には、私が犯人役になり切ろうと思慮していた、僅かの間。
それはきっと、追い詰められた犯人役の私に向けられた言葉だったのだろう。
なのに肝心の私が聞こえなかったのは、所謂霊感のなさ故か、私のなり切り方が足りなかったのか……。
そう思うと、少し、悔しい。
一時場が騒然としたものの、撮り直してムービーは無事に完成した。その晩の打ち上げでそう言った私は、メンバーから思い切り呆れられたのだった。
―了―
崖にぶつかり砕けた波頭が飛沫となり、足元迄達する勢いだ。
そんな断崖を歩きながら、私は後を追って来た二人に語り掛ける。
確かに二人の指摘通り、私が教授を殺した犯人である事。
尊敬していた教授に殺意を抱くに至った経緯。
罪から逃れる為に仕掛けたトリックの数々。尤もそれらは、二人によって解明されてしまい……事ここに及んでいるのだけれど。
そして、それを知った私はこうして断崖へと、自ら全てを終わらせるべくやって来た……そんな非常にありがちなシーン。
うちのサークルの脚本家、二時間ドラマの見過ぎだわ。自主製作のムービーなんて、セットにお金掛けられないのは解るけど。
『美和子さん、未だ終わりじゃないわ! どうか罪を償って。教授もきっとそれを望んでいる筈だわ!』今回の主役、女探偵が波の音に負けじと叫ぶ。どこかで見た様な、ありきたりな演技。隣で如何にも非常事態に備えてますって顔をした助手役も、別に彼でなくてもいいんじゃない? 見た目はちょっと、いいけどね。
私は……私が本当にこの犯人の立場だったら、どんな顔をするだろう? 勿論、台詞も含め、脚本は決まっている。それを変える気はない。皆で作って来た作品だもの。私だって、大事に演じている。
それだけに完璧な演技を、私は自分に求めた。
彼女、いや、私はどうするだろう? どうしたいだろう? 脚本では説得に応じ、この場でくずおれ、二人に保護される事になっている。
でも、それは本心だろうか? 本当は……。
それでも応じるとすれば、きっとどこか諦めた風でいながらも、遠くを見詰めて……よし、私の演技はこれだ。
そして、僅かの間を置いて、私が台詞を喋ろうとした時……。
「カーット!」監督役の部長が、ヘッドホンを乱暴に外しながら声を張り上げた。「カットだ! 誰だよ、変な台詞入れたのは!?」
変な台詞?
私はきょとんとして、部長を見詰めた。探偵役の彼女や、周りに控えたメンバーも同様。
「どうしたんですか?」私は尋ねた。「変な台詞なんて、誰も入れてませんけど」
他のメンバーも頷く。
只一人、部長と共に録音をチェックしていた音声担当だけが、訝しげな顔で、部長に確認している。
聞きましたよね? と。
何を、という問いに、部長と音声担当が声を揃えた。
『こっちに来ればいいのに』
その声は海側にセットしたマイクが拾ったものだった。
再生してみると、確かに入っている。けれど、生で聞いた者は、居なかった。
タイミング的には、私が犯人役になり切ろうと思慮していた、僅かの間。
それはきっと、追い詰められた犯人役の私に向けられた言葉だったのだろう。
なのに肝心の私が聞こえなかったのは、所謂霊感のなさ故か、私のなり切り方が足りなかったのか……。
そう思うと、少し、悔しい。
一時場が騒然としたものの、撮り直してムービーは無事に完成した。その晩の打ち上げでそう言った私は、メンバーから思い切り呆れられたのだった。
―了―
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