〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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名残り雪舞う校庭で、私は良介君の背中を見詰めていた。
今居るのは私の母校――そしてその前身となったのは良介君の通っていた学校だったのだ。ある意味、良介君は私の先輩という事になるのか……。その時を留めた小さな姿に、複雑な気分になる。
春休みに入った小学校には人の姿も殆ど無く、未だ在籍していた私の恩師は――辛うじて私の事を覚えていてくれたらしく――快く、見学を許してくれた。勿論、私の他に良介君が居る事は知る由も無かっただろうけれど。
私にしか見えない、話も出来ない幽霊じゃあねぇ。
良介君はすっかり様変わりしてしまった校舎を背に、校庭の片隅を見上げていた。そこに見える一本の老木だけが、彼が居た頃の面影を宿しているらしい。
今居るのは私の母校――そしてその前身となったのは良介君の通っていた学校だったのだ。ある意味、良介君は私の先輩という事になるのか……。その時を留めた小さな姿に、複雑な気分になる。
春休みに入った小学校には人の姿も殆ど無く、未だ在籍していた私の恩師は――辛うじて私の事を覚えていてくれたらしく――快く、見学を許してくれた。勿論、私の他に良介君が居る事は知る由も無かっただろうけれど。
私にしか見えない、話も出来ない幽霊じゃあねぇ。
良介君はすっかり様変わりしてしまった校舎を背に、校庭の片隅を見上げていた。そこに見える一本の老木だけが、彼が居た頃の面影を宿しているらしい。
私にとっては十数年前に別れを告げた校舎は懐かしく、所々に増改築された箇所は新鮮だった。こんな施設が前からあったら良かったのに、とか今はこんな授業もするんだ、とか……。
でもそれも面影が残っているからこそ抱ける感慨なのかも知れない。
日焼け具合の違う教室の後方の壁、クラス表示のプレート、暗い階段……そこ此処に、思い出が染み付いている。いつも遊んでいた校庭にも、鉄棒や登り棒、裏手に回れば飼育小屋に菜園。
でもそれらは私が入学する数年前に改築されたもの。
数十年前に生きていた良介君の世界には無い。余りに変わり過ぎた学校は、彼の母校ではあっても、知らない場に近かった。
何より、彼が亡くなったのは七歳。詰まり、此処には一年も通っていない事になる。元々病気がちだったと言うから、尚の事、短かったかも知れない。
その彼の最大の思い出が、入学の際に咲き誇っていた校庭の桜だったのだと言う。
「薄ぅいピンク色の花がね、僕達を歓迎してくれているみたいだった」当時を思い出し、良介君が呟く。未だ蕾硬い木を見上げる、その口元は綻んでいる。「風が吹く度に、ざぁって、花弁が降って……紙吹雪を降らしてくれてるみたいでね。綺麗だった」
今、私達の周りに舞っているのは白い雪。水分を含んだ雪は重く、地面に落ちては溶けていく。
もう、春も近い。
来月に入ればまたこの桜は、小さな新入生達を迎えてくれるのだろう。
「だったらその頃来ればよかったのに……」私は春用のコートの襟を掻き合わせて言った。「突然小学校に行こうって言うから、何かと思ったわよ」
「でも、その頃じゃ、今みたいに校庭を独占出来ないよ」良介君は笑う。
「それはそうだけど、花も咲いてない木を見ても……」
「そんな事無いよ。この木は今年も精一杯咲く準備をしてる――歓迎の準備をしてくれている。僕の為じゃないけれどね」
そんな木の想いが見えるとでも言う様に、良介君は微笑んでいる。
彼自身が幽霊という、この世ならざるものだからなのか、元々の感受性なのか……。多分後者だ、と私は思った。だからこそ、これだけの間、この木を忘れずにいたのだろう。
私でさえ、忘れていたのだ。
私の在学中に、年老いて中が空洞化し、危険だという事で伐られてしまった桜の老木の事など。
幻の桜が私に迄見えるのは、良介君の感受性が影響しての事なのだろうか、それとも……。
これ以上、この世ならざるものなんて見たくないんだけどな――そう思いながらも、生前その儘に蕾膨らませる桜の姿に、私の頬も緩むのだった。また咲いた頃……そんな事を思う程に。
―了―
またも桜(笑)
桜の木の幽霊って……あったら綺麗かも?
でもそれも面影が残っているからこそ抱ける感慨なのかも知れない。
日焼け具合の違う教室の後方の壁、クラス表示のプレート、暗い階段……そこ此処に、思い出が染み付いている。いつも遊んでいた校庭にも、鉄棒や登り棒、裏手に回れば飼育小屋に菜園。
でもそれらは私が入学する数年前に改築されたもの。
数十年前に生きていた良介君の世界には無い。余りに変わり過ぎた学校は、彼の母校ではあっても、知らない場に近かった。
何より、彼が亡くなったのは七歳。詰まり、此処には一年も通っていない事になる。元々病気がちだったと言うから、尚の事、短かったかも知れない。
その彼の最大の思い出が、入学の際に咲き誇っていた校庭の桜だったのだと言う。
「薄ぅいピンク色の花がね、僕達を歓迎してくれているみたいだった」当時を思い出し、良介君が呟く。未だ蕾硬い木を見上げる、その口元は綻んでいる。「風が吹く度に、ざぁって、花弁が降って……紙吹雪を降らしてくれてるみたいでね。綺麗だった」
今、私達の周りに舞っているのは白い雪。水分を含んだ雪は重く、地面に落ちては溶けていく。
もう、春も近い。
来月に入ればまたこの桜は、小さな新入生達を迎えてくれるのだろう。
「だったらその頃来ればよかったのに……」私は春用のコートの襟を掻き合わせて言った。「突然小学校に行こうって言うから、何かと思ったわよ」
「でも、その頃じゃ、今みたいに校庭を独占出来ないよ」良介君は笑う。
「それはそうだけど、花も咲いてない木を見ても……」
「そんな事無いよ。この木は今年も精一杯咲く準備をしてる――歓迎の準備をしてくれている。僕の為じゃないけれどね」
そんな木の想いが見えるとでも言う様に、良介君は微笑んでいる。
彼自身が幽霊という、この世ならざるものだからなのか、元々の感受性なのか……。多分後者だ、と私は思った。だからこそ、これだけの間、この木を忘れずにいたのだろう。
私でさえ、忘れていたのだ。
私の在学中に、年老いて中が空洞化し、危険だという事で伐られてしまった桜の老木の事など。
幻の桜が私に迄見えるのは、良介君の感受性が影響しての事なのだろうか、それとも……。
これ以上、この世ならざるものなんて見たくないんだけどな――そう思いながらも、生前その儘に蕾膨らませる桜の姿に、私の頬も緩むのだった。また咲いた頃……そんな事を思う程に。
―了―
またも桜(笑)
桜の木の幽霊って……あったら綺麗かも?
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Re:無題
桜(とか、花の)幽霊さん、あったら綺麗だと思う~(^^)
そんでその下で幽霊が花見する(笑)
そんでその下で幽霊が花見する(笑)
Re:こんばんは
老木やからねぇ。
精霊も宿ってたのかもね(^^)
精霊も宿ってたのかもね(^^)
桜の樹
幽霊というか、感受性から生まれた幻の桜ですか…。
それでも、新しい生徒を迎える為に、花開く準備をしている…と。
桜の思いというよりは、「そうであったら良いな」と願う、二人の希望のような気がしました。
それでも、新しい生徒を迎える為に、花開く準備をしている…と。
桜の思いというよりは、「そうであったら良いな」と願う、二人の希望のような気がしました。
Re:桜の樹
ん~、でも桜もやっぱり長年、あの校庭で生徒達を見続けてきたので、今年も……という思いと二人がシンクロした感じかな?
良介君は兎も角、すばるさん、忘れてたし(笑)
良介君は兎も角、すばるさん、忘れてたし(笑)
無題
こんばんは。
もう桜の季節なんですね…。幻の桜なんて、素敵です…。
良介君は時々すごく大人っぽい雰囲気になりますね。年の功(?)でしょうか;
我が家のすぐそばの母校も、毎年桜が満開になります。入学したての頃の桜吹雪は、今でも印象に残ってます♪
もう桜の季節なんですね…。幻の桜なんて、素敵です…。
良介君は時々すごく大人っぽい雰囲気になりますね。年の功(?)でしょうか;
我が家のすぐそばの母校も、毎年桜が満開になります。入学したての頃の桜吹雪は、今でも印象に残ってます♪
Re:無題
近所の桜も開花準備万端整えて……と言うか、もうちらほらと^^
良介君、年の功でしょうね(笑)
何だかありすと言い、うちは子供達の方が大人っぽい?^^;
桜吹雪はやっぱりいいですよね~♪
良介君、年の功でしょうね(笑)
何だかありすと言い、うちは子供達の方が大人っぽい?^^;
桜吹雪はやっぱりいいですよね~♪
Re:無題
霊感の強い人と一緒に居ると霊感が強くなる、という本当かどうか解らない説がありますが、幽霊そのものと一緒に居てレベルアップしたのか!? 佐内さん!(^^;)
その内二人だけのお花見するんだろうな~
その内二人だけのお花見するんだろうな~
Re:意味するの?
意味するの!
こんにちは
↑何してんねん。(笑)
最早、花が咲かなくなった老木に、幻影を見てるわけね。
学校かぁ、丸っきり変わってしまったんよね。
門のところから、変わったなぁって思いながら見ていたら、不信そうな眼で見られてしまったことある。(笑)
最早、花が咲かなくなった老木に、幻影を見てるわけね。
学校かぁ、丸っきり変わってしまったんよね。
門のところから、変わったなぁって思いながら見ていたら、不信そうな眼で見られてしまったことある。(笑)
Re:こんにちは
夜霧と戯れてみる(笑)
う~む、子供を狙った事件とかある度に、周りの大人の目が必要とか言われつつ……怪しまれるのが嫌で却って子供から遠ざかる一般人も居たり。
母校は大阪だからもう随分行ってないや(笑)
う~む、子供を狙った事件とかある度に、周りの大人の目が必要とか言われつつ……怪しまれるのが嫌で却って子供から遠ざかる一般人も居たり。
母校は大阪だからもう随分行ってないや(笑)
Re:無題
桜の下に幽霊と柳の下に幽霊、どっちがいい?(笑)
良介君だから大丈夫っ^^
良介君だから大丈夫っ^^
おぉ良いネェ♪
幻の桜と幽霊!
桜の木が良介君の思いに応えて、みるみるうちに蕾を膨らませて満開になって、花吹雪を見せてくれて、現実に戻るのかな?と思ってしまった。
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ♪
ちなみに、桜の花の精って男性なんだってネ!
桜の木が良介君の思いに応えて、みるみるうちに蕾を膨らませて満開になって、花吹雪を見せてくれて、現実に戻るのかな?と思ってしまった。
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ♪
ちなみに、桜の花の精って男性なんだってネ!
Re:おぉ良いネェ♪
男性なんですか! 桜の花の精
桜と(ほのぼの系)幽霊。季節柄、そんな話にしてみました(^^)
桜と(ほのぼの系)幽霊。季節柄、そんな話にしてみました(^^)