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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「そんなに死にたいの?」非常に淡白な、しかしはっきりとした声音でただしたのは、黒衣の少女。長い真っ直ぐな黒髪が、四階建て校舎屋上の風になびいている。年の頃は十五、六と、この高校に通っていて不自然ではないのだが、制服姿でもなく、また実際に此処の生徒でもなかった。
 対して、その声に慌てて振り向いたのは制服であるブレザーを着込んだ女生徒。生まれ付きらしい縮れた髪を揺らしながら、驚いた顔で相手を見詰めている。しかし振り向きはしても放そうとしていないその手には、屋上を囲うフェンスがしっかりと握られていた。
「そんなに死にたい?」再度、少女の声が響いた。「どうして?」
「……だって、もう直ぐ学校が始まるんだもん」気圧される様に、制服の少女は答えた。
 早くも夏休みは残すところ後数日となり、生徒達は宿題に追われる者、遊び残した事は無いか情報誌をひっくり返す者、後僅かとばかりに朝の惰眠を貪る者など、様々だった。
 そんな日に登校して、部活に勤しむでもなく職員室から失敬した鍵を使って屋上に上がり込んだ少女。その目的はフェンスに張り付いている、この状況を見れば一目瞭然だった。
「学校が始まったら、また苛められるんだもん!」彼女は言い、誰しもが眉をひそめる様な自らの体験を、別れの駄賃とでも言う様に吐き出した。「だから……だから新学期なんて来なければいいのに!」

 黒衣の少女はごく自然な足取りで彼女の傍迄歩いて行くと、その足元に揃えられた靴の上にペンケースで押さえて乗せられていた封筒を手に取った。少女が声を上げるが、意に介した風は無い。
 中身は勿論遺書。彼女が語った事がより詳しく、相手の生徒の名前入りで記されている。
 黒衣の少女はそれらを一瞥すると、不意にびりりと音を立てて遺書を破り始めた。
「な、何するのよ!? 貴女も私を馬鹿にするの!?」少女はフェンスから離れ、いきり立つ。「あいつ等の仲間なの!?」
 それに対して少女は黒衣を風にはためかせながら、今目にしたばかりの名前を一つ一つ、読み上げていく。八人程はあっただろうか、それを書かれていた順に、正確に。
「こんな人達の為に死んでいいの?」やがて彼女はそう言った。「人の痛みも解らない、あるいは解っていてそれを他者に与えて楽しみを得る様な人間――獣に例える人も居るけれど、それは獣に失礼だわ――そんなものに、貴女が死んだ位で今迄貴女が受けた痛みを少しでも返せると思う?」
 息を呑んで、少女はゆっくりと頭を振った。そう、あの連中はきっと私が死んだって笑い話の種にして、いずれ忘れる。例え改めて遺書に書き残し、彼等がそれ相応の罰を受けたとしても、口から出るのは反省の弁よりも逆恨みの棘。そんな連中の為に、何故私が――少女の目に悔し涙が滲んだ。
「悔しかったら生きるのね。こんな連中に毒されずに、負けずに。逆恨みを恐れて周囲にも相談せず、遺書を残して死者という手の出し様の無い立場に逃げるなんて――貴女も卑怯よ」
「……私が、卑怯?」少女は眉を吊り上げた。「でも、確かにそうかも。私は……逃げる事ばかり、考えてた」
 一度は教師に訴えた。だが、ほんの悪ふざけだろうの一言で退けられ、それだけで周囲の大人全てを見限ってしまった。親には心配を掛けたくなかったし、同じ様に自分の苦境を信じて貰えなかったら……あの二人からだけは、否定の言葉を聞きたくなかった。
 だから、真剣な言葉で語った事も無かった。真剣な想いを、否定されたくなかったから。
 
 私は、弱かったんだ――少女はそれを自覚した。

 否定が怖くて逃げていた。連中に目を付けられたのも、髪が縮れているとかそんな要因だけでなく、その弱さを嗅ぎ付けられたのだろう。
「死神はいずれ、嫌でも貴女を迎えに来るわ」彼女と擦れ違い様、黒衣の少女は言った。「慌てて魂を差し出す事なんかないわよ」
「そう、ね」少女は少し、はにかむ様な笑みを浮かべた。「未だやる事があるの、思い出したわ」
 そして靴を履き直して顔を上げた時、そこにはもう、黒衣の少女の姿は無かった。
 思わずフェンスに取り付き、下を見回したものの、そこには部活に励む運動部の生徒達の姿があるばかり。騒ぎが起きている様子もない。改めて屋上を見回しても、どこにもその姿は無い。
 思わずぞっとして、しかしどこか納得した様な表情で彼女は一つ頷き――屋上に突き出した階段室へと、そして職員室へと向かった。

 黒い手帳を見ながらその様子を視る少女に、微苦笑を含んだ呆れ声が掛けられた。死神が寿命を延ばしてどうするんだい、と。
「大丈夫よ」動じた風も無く、彼女は答えた。「この彼女の選択で延びた寿命八十年分は、別の所から徴収するから。ま、中にはやんちゃが過ぎて元から寿命の短い対象者も複数居る様だけど……問題ないわ」
 
 夏休み明け、始業式にはバイクの無謀運転で亡くなった数人の生徒への黙祷が取り入れられた。

                      ―了―

 先日の死神さん、お仕事風景(?)
 え? 何か違いますか?(^^;)

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あ…(笑)
黒衣と読むまで、アリスだと勘違いしたのは、私です。

問題無し。。と思うけど。
冬猫 URL 2008/08/26(Tue)02:32:18 編集
Re:あ…(笑)
確かにキャラ似てるかも(笑)
タイトルで見分けて下せぇ。ありすものは『~の鍵』とか、鍵が鍵ですから(笑)
巽(たつみ)【2008/08/26 15:43】
おはよう!
う~ん、そんなふうに仇が取れたら良いけどねぇ。
(良いんかい! ^^;)
現実には、理不尽に涙を飲むしかなかったり。
afool URL 2008/08/26(Tue)10:31:40 編集
Re:おはよう!
うむ、現実的にはね~(--;)
ま、フィクションで位……くっくっくっ(怖)
巽(たつみ)【2008/08/26 15:45】
死神さん
シリーズ化ですか?
死神さんが寿命を延ばすと
クビになったりしないのかな…
いい死神さん(?)ですね。
ふわりぃ URL 2008/08/26(Tue)14:54:00 編集
Re:死神さん
別の所から取ってるから問題なし……って、いい死神さんかなぁ!?(^^;)
気が向いたらシリーズ化するかも。
巽(たつみ)【2008/08/26 15:55】
ほぉ~!
命の徴収・・・@@
前に住んでたマンションで、夏休み最後の日、11階から飛び降りた中学生が居た・・・
その落ちた後の現場を見た私は頭から消えずに、毎日そこを通るのが怖くて仕方なかった。
でも、エレベーターに乗るには絶対に通る場所で・・・
そんな事件を思い出した。
虐めで、自殺なんて絶対にやめて欲しいね!

ぴぴ 2008/08/26(Tue)16:30:03 編集
Re:ほぉ~!
う。実はうちのマンションでも何年か前……大人やったけどね。
何故かやっぱりエレベーターから見える所……。夜中に何の騒ぎやろうと思って見下ろしてしまったんだけど――眼鏡掛けてなくてよかった(汗)
巽(たつみ)【2008/08/26 21:59】
自殺は
あかんって。
死神さん、良い仕事してまんな〜♪

あ〜私も夏休みが終わるぅぅうううう(!_+)
死神じゃなくてドラえもんが欲しい!(笑)
つきみぃ URL 2008/08/26(Tue)22:19:29 編集
Re:自殺は
一箇月以上もの長期の休みの後って、先生方も学校行きたくないやろうねぇ(^^;)
二学期って行事多いし、試験もきっちりあるし、宿題も見なきゃならないし。
巽(たつみ)【2008/08/26 23:00】
無題
どもども!
この場合、死神としては仕事熱心と言えないっすよね?w
彼女の命を80年延ばして、他の子の魂を奪ったんだから計算は合うんだろうけど(笑)
猫バカ1番 URL 2008/08/26(Tue)22:24:00 編集
Re:無題
まぁ、元がこの間の話の彼女なので(^^;)
やっぱり自殺はお勧めしたくないみたいです(苦笑)
でも、計算はぴったり☆
巽(たつみ)【2008/08/26 23:02】
無題
ご苦労様と言って屋上の鍵を鍵束に収めても、なんかうまく運べそうだけど(笑)
あ、最後の結果が時差大きすぎか。
また新シリーズなの?

それにしても自殺願望のコは親に話さないての多いみたいですね。親にしたらたまらないだろうな。もっと相談してみろと言いたいなあ!
銀河系一朗 URL 2008/08/26(Tue)23:37:03 編集
Re:無題
やっぱりありすとキャラ被りますか(^^;)
流石にありすは人の寿命をどうこうする力は無いか、あってもする気が無い様ですけど。

親に話さないのは……何でしょうね? 
「お前がしっかりしないから苛められるんだ」とか否定的な言葉を聞きたくないとか、心配を掛けたくないとか、色々あるのかも。自殺されるなら心配掛けられる方が余程マシだけどねぇ。
巽(たつみ)【2008/08/27 00:38】
こんにちは♪
なんか優しい死神さんだねぇ~!
それにしても虐められて死を選んでしまうの、何とかならんもんかねぇ・・・どこにも救いがなくて八方塞みたいに思えてしまう、その気持は分かるんだけど、時間が経てば事態は変化するもの
なんだけどねぇ~、それでも当面の1年、2年は
その子にしてみたら無限に続くような気がするんだろうねぇ~!

虐める方も近頃、陰湿さがエスカレートしてるそうだからねぇ・・・・

クーピー URL 2008/08/27(Wed)16:21:34 編集
Re:こんにちは♪
う~ん、1年、2年どころか、当人にとっては一瞬でも死にたくなる程辛い事もある訳で……。でも、死んだら負けだからねぇ。
人を苛めて楽しむ様な阿呆の為に一個しか無い命を差し出すなんて勿体無いわさ。
巽(たつみ)【2008/08/27 17:29】
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