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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 店先の大きな招き猫に他ならぬ自分が招かれている様な気がして、僕は玄関が開け放たれたその店の暖簾(のれん)を潜った。
 雑貨屋、と言っていいのだろうか。店内には雑多な品物が所狭しと並べられ、正直、何屋なんだか判別は不可能だった。入り口付近に古いタイトルのゲームソフトがワゴンに詰まれているかと思えば、その隣には鉄瓶や茶碗、更に隣には安っぽいアクセサリー、とそんな具合だ。店内のレイアウトとかそんなものはここの店主の頭には無いのだろう。
 その店主の姿も見えないのだけど。
 他に客は勿論、店員の姿もない。流行っていないだろう事は想像に難くないが、それにしても無用心ではないか?
 まぁ、見た限りでは安物ばかり――と、僕は長年来探していた本を発見して、思わず息を詰めた。随分前に絶版になったもので、稀覯書という訳ではないのだけれど、どこの古本屋を当たっても見付からなかったものだ。それがこんな所に……? 信じられない思いだった。

 僕の手は自然とその本に伸びた。ぱらりぱらりと捲ってみる。間違いない。書名、著者名、全て僕の記憶にあるものと一致している。僕は財布の中身を頭の中で確認していた。しかし、本の背表紙を見ても、カバー裏を見ても、この店のものらしき値札は付いていない。定価なのだろうか? それとも――考えられない事だけど――絶版本だけに幾ばくかのプレミアが上乗せされているのだろうか?
「済みませーん!」僕は店員を求めて、声を上げた。高かろうが安かろうが、訊いてみなくては解らない。
 しかし、店の奥からは誰が出て来る気配もない。僕は眉を顰める。幾ら暇だからって店を空けてどこかに行っているのだろうか。直ぐに戻って来るのならいいが……困ったな。
 それともこんな古そうな店の事、老人が片手間にやっているのかも知れない。見た所店の奥は障子で仕切られて、住居になっている様だから、そちらに居て声が聞こえないのかも知れない。
 僕は更に店の奥に進み、障子に向かってゆっくり、はっきりとした発音で声を張り上げた。
「済みませーん! ちょとお訊きしたいんですが!」
 暫し待つ。
 返答は無い。人が動いている気配もない。もしかしたらこの奥では惨劇が行なわれ、息を潜めた殺戮者が今も潜んでいるのかも知れない――そんな妄想が浮かんで、僕は苦笑した。また馬鹿な事を考えているな、僕は。
 やはり外に出ているのだろうか? いつ帰って来るのだろうか?――手掛かりを求めて、僕はレジカウンター周辺を見回したけれど、メモも何も無い。どれだけ無用心かつ適当な店なんだろう。
 ちょっと近所迄の心算がつい延々と話し込んでしまうというのはよくある事だろう。しかし僕としてはいつ帰って来るか解らないものを、いつ迄も待ってはいられない。
 また今度、人が居る時に来るかと本を元の棚に戻し掛けたが――それがいつかも解らないし、その時迄にこの本が売れていないという保証も無い。一期一会。そんな言葉が頭をよぎった。これを逃したらもう見付からないかも知れない。僕は本を手にした儘、ぽつねんと店に立ち竦んだ。

 これこれこういう事情と連絡先のメモを残して、取り置きしておいて貰おうか。それとも取り敢えず定価分の金額を置いて、もし足りなかった場合に請求して欲しいとメモを残そうか。元より高価な本ではない。定価より下がっていた分には釣銭を要求する気は無かった。寧ろ釣銭が多いと……少し、悲しい。
 しかし、どちらにしても問題が一つ。僕の連絡先を書かなければならない。この場での売買ならどこの誰とも知られる事などないのに。
 僕は店先の招き猫を睨んだ。見事、幸運に加えて悩み事を招いてくれた様だ。
 その店先に動きはない。人が帰って来る様子もない。
 僕はいつ迄こうして突っ立っていればいいのだろう? 今日は休日として気分転換に日帰り途中下車の旅に出た所だから時間はあるけれど、だからと言ってこんな所で無為に突っ立っているのは……。
 僕は意を決して、メモに連絡先を認(したた)め、本に挟んで目立つ様にレジカウンターに置いた――今日はお会い出来ず、残念です。またお伺いしますがまた擦れ違っては困りますし、何時頃が良い等、ご希望がおありでしたらこの番号迄、お手数ですがご連絡頂けると幸いです。そして電話番号と氏名。そんな内容だ。
 そして、後ろ髪を引かれる思いで僕は店を出た。

 結局連絡が無い儘に迎えた翌日、仕事をしながら何気無く見ていたニュースで、あの途中下車の街で起きた事件が報じられていて、僕は思わず腰を浮かした。他でもないあの店で、老齢の店主の他殺死体が発見されたと言うのだ。死亡推定時刻は僕が駅で電車を降りる少し前。駅から店迄はものの十分程だった。もしかしたら本当に――昨日の妄想が蘇る――あの時、障子の向こうには殺人犯が……。ああ、しかしそんなベタな事!
 と、昼頃、残して来たメモを見て聞き込みに来た警官が一人。ドアの隙間から対応する僕に例の本をぱらぱらと捲ってメモを取り出して見せ、あの店で何か気付いた事は無かったかと尋ねる。
 僕は当然、何も気付かなかったと答えた。少々しつこかったが、相手は引き下がって行った。
 
 ドアを閉じるなり、僕は鍵を掛け――チェーンは元々外してもいなかった――電話に飛び付いた。勿論、警察に通報する為だ。本をぱらぱらと捲れる、詰まり現場から持ち出した物を剥き身で持ち歩く、単独行動の警官など居るものか! どこ迄もベタな行動を取る奴だ!――僕は憤った。
 あの本とメモが捜査資料として押収されるのは不本意だったが、致し方ない。あれは最早この世に二冊と無い本。あれを所持する事は犯人にとって危険な罠だ。無論、そんな事は奴は知らないだろうが。
 何故ならあの本は、自信満々で本名その儘で出版にこぎ付けたものの、余りの酷評に耐え切れず回収に走った僕のデビュー作。その最後の一冊だったのだから。然も内容は今度の事件に似ていて……ベタだった。
 自分で書いた本を自分で回収する――それなりの評価を得る様になった今でも、いや、今だからこそ、より情けない。
 だから本名を記した連絡先のメモは残したくなかったんだよ。

                      ―了―

 某女優さんの都市伝説を思い出した人、挙手!(--)ノ

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こんばんは♪
最初は、てっきり妖しい骨董品店のお話かと思ってしまいました。
次は冤罪事件か?と思って・・・・見事に次々とハズレでしたぁ~!

どうも私の発想は貧弱なワンパターンなんだ!

それにしても、自分で回収とはねぇ・・・・
まぁ~その気持は分からなくもないけどねぇ!
クーピー URL 2008/08/24(Sun)23:51:43 編集
Re:こんばんは♪
本を探す理由にも色々あるというお話(笑)
妖しい骨董品店も楽しいんだけどね~。曰く付きアイテム考えるの(笑)
巽(たつみ)【2008/08/25 13:25】
なるほど
年月を経て自分の作品が恥ずかしくなるわけね…
若気の至りも結構良かったりするんだけどね(笑)

しか〜し間抜けな犯人だw
つきみぃ URL 2008/08/25(Mon)00:18:43 編集
Re:なるほど
犯人……雉も鳴かずば撃たれまい、ですね。ベタだし(笑)
「僕」を漫画家にしてもよかったかも。昔の絵って後々見ると……(滝汗)
巽(たつみ)【2008/08/25 13:28】
怖いっス…
怖いですよね~(T_T)
ついうっかり、「そういえば…」なんて言っちゃった日には…( ̄□ ̄;)ぞぞぞ~…
あすか URL 2008/08/25(Mon)00:52:52 編集
Re:怖いっス…
まぁ、直接見てはいないからねぇ。それでもちょっとした事でも後から思い出すかも知れない、とか思うと……犯人の心理としては……(怖)
巽(たつみ)【2008/08/25 13:30】
こんばんは!
たまにこんなお店ありますね;
ゆっくり見られる反面、不審者に思われるんじゃないかとか思っちゃいます。

でも障子の向こうは惨劇なんていやぁ~(涙)!!
涼長 URL 2008/08/25(Mon)01:04:22 編集
Re:こんばんは!
店員さん、付いて来られると落ち着いて選べない反面、居なきゃ居ないで落ち着かないんですよね(笑)
巽(たつみ)【2008/08/25 13:35】
おはよう!
なぁんだ、自分の作品の回収だったのか。
しかも、酷評で回収に回ったのなら、プレミアがついてる訳無いじゃん。(笑)
メモ残す心の情けなさ、想像に難くない。(笑)
ところで、某女優の都市伝説って何?
afool URL 2008/08/25(Mon)10:10:24 編集
Re:おはよう!
や、古本なんて解りませんよ。回収された為に数が少なく、なまじ批評があるだけに興味を持つ人が居れば……。需要さえあれば高くなりますからねぇ、骨董品でも。

都市伝説、こちら参照↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%BD%E3%81%AE%E8%AD%A6%E5%AF%9F%E5%AE%98
巽(たつみ)【2008/08/25 14:03】
そう言う事ね~
う~ん、まったそんな所で殺人事件・・・@@
ぴぴ 2008/08/25(Mon)12:32:05 編集
Re:そう言う事ね~
色んな所で殺人事件(苦笑)
巽(たつみ)【2008/08/25 14:03】
こんにちは
あ、いつもと少し趣向が違うような・・

でも、何気にわくわくしました。
なっち URL 2008/08/25(Mon)15:52:21 編集
Re:こんにちは
いつもの趣向ってどんなんでしたっけ?(笑)
自分の作風が解らない(^^;)
巽(たつみ)【2008/08/25 16:25】
回収といえば(^_^;
昔、友人に配った小説のコピー本を回収したいかもです。絵よりも恥ずかしい_| ̄|○

それにしても、確かに本名を書いたメモなんぞ残していきたくないですね、こんな場合。
うーん、フランチャイズではない、趣のある古書店に入るのが躊躇われる(障子の向こうが惨劇だったらどうしよう的な意味で)^^;
み~ねこ 2008/08/25(Mon)16:21:59 編集
Re:回収といえば(^_^;
創作をやっていると色々な思い出が……ね(^^;)
新しい店でもバックヤードで何が起きてるか……解りませんよぉ?(←おい)
巽(たつみ)【2008/08/25 17:04】
こんばんは
都市伝説は知らなかったよー

うん。恥ずかしいデビュー作ね。回収する気持ちは解るなぁ(笑)
冬猫 2008/08/25(Mon)20:21:06 編集
Re:こんばんは
都市伝説、テレビでも何回か聞いたけどなぁ。
本って出版されてしまうと、最早増刷分以降しか直す事も出来ないし……若気の至りってのもあるしねぇ(笑)
巽(たつみ)【2008/08/25 20:56】
無題
どもども!
どれだけ希少価値のある本かと思えば、自分で書いた本だったんですねw
しかも内容そのままの事件が発生するなんて、実は予知能力がありました!とか言って再発行した方が得策じゃないっすか?(笑)

某有名女優さんの都市伝説…全く思い浮かばないっす
猫バカ1番 URL 2008/08/25(Mon)22:29:00 編集
Re:無題
おおう! その手がありましたか!(笑)
都市伝説、afoolさんへのコメレス参照です(手抜き)
取り敢えず単独行動の警官には要注意?
巽(たつみ)【2008/08/25 23:03】
無題
古物商が不在と思いきや、殺人事件とは。
うっ、デビュー作なんだ!
わかるなあ、回収する気持ち(^^;
というか過去ごと回収したい(笑)
銀河系一朗 URL 2008/08/25(Mon)23:19:07 編集
Re:無題
ふふふ、銀河さんにもおありですか、回収したい過去( ̄▽ ̄;)
巽(たつみ)【2008/08/26 00:34】
無題
某女優さんの話!思い出しました!
こわいよぅ!
最初は「ガキの使い」で松ちゃんが言ってたのを
聞いたんですけどね~。
ホントにあんな事があるなんて
恐ろしすぎですよね。
ふわりぃ URL 2008/08/26(Tue)14:47:52 編集
Re:無題
迂闊に「あ、そう言えば……」なんて言えませんね☆
サスペンスドラマ定番の「応答が無いから家に上がってみる」も危険ですね!
巽(たつみ)【2008/08/26 15:54】
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