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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 昨日は栗栖は下級生達が行っていた学園の傍を流れる川の清掃――特に川筋に所々存在する深みを重点的に――監督してくれていた。
 大きな川ではないけれど、旧校舎の直ぐ傍を流れ、長年に渡って地下に染みた水がその足元を浚い――それで運の悪い僕が事故に遭ったという事実は季節が移ろうとも動し様がない。そんな、余りいい思い出のない川ではあるが、だからと言って何処からともなく流れて来たゴミや枯葉に埋もれていていいものでもない。
 春先の休日の川端の掃除、及び川浚いはこの学園の年中行事の一つでもあった。僕達も一年の時にはやったものだ。
 けれど、春先の川の水は未だ未だ冷たい。山の中だけに尚更だろうか。当然、面倒臭がってサボりを決め込む奴も、何人かは、出て来るのが常だった。
 それで我が兄にして男子寮の纏め役、京が本来ならば指示したかったみたいだ。
 が――。
 真逆、先日の夜霧の転居で扱き使われた所為ではないだろうが、京は風邪をこじらせてしまっていた。無論、そんな状態の京を未だ時折寒風の吹く中、野外活動に参加させる訳には行かない。
 ならばお前が代わりに行けと、京には言われたんだけれど……それじゃあ誰が看病するんだよ? そもそも監督の先生はちゃんと居るんだぞ?
 そう言い合っていると、自分が代わりに行くと申し出てくれたのが間宮栗栖だったのだ。
 一昨日――。
「姿の見えない奴はサボりと判断して、容赦なくチェック入れとけ」参加者の名前を書いたメモを栗栖に渡して、京は言っていた。「後できっちりその分の仕事を言い付けてやる。勿論、サボりそうな奴が居たら、その場で止めろ」
「そない言われてもなぁ……」栗栖は苦笑した。「参加するのは精々二クラスやけど、下級生の顔なんて、覚えてへんし」
「名札があるだろ、名札が」咳き込みつつも、眉間に皺を作る、京。「どうしても判らなかったら、逆にちゃんと参加している奴の名前控えとけ。そもそも同じ寮に居るのに、何で覚えてないんだ」
 普通、覚えてないよなぁ――僕と栗栖はそんな視線を交わし合った。同級生だって、全員は覚えてない。先生だって、偶に生徒に名前訊いてる位なのに。
「まぁ、よう見張っとくから、大人しく寝とき」微苦笑の儘、栗栖は言った。「ほな、お大事に」
 心配そうな、あるいは不満そうな顔で、京は部屋を出て行く彼を見送った。

 そして今日、栗栖は件のメモを持って来たのだが――。
「サボりなし……?」些か、疑わしげに、京は眉を顰めた。
 横から覗き込んでみれば、確かにメモには何のチェックもされていない。おかしな具合に折り目が入っているけれど、別に印になっている訳でもない様だ。栗栖が居ない者だけを付けようとしたのか、居る者を付けようとしてその数に諦めたのかは解らないけれど。
 勿論、サボりが居なかったのなら付ける必要はないのだし、それが一番なのだけれど……不満そうなのは何故だ? 京。
「本当に誰一人、サボらなかったのか?」
「サボりが居った方がよかったんか?」栗栖は首を傾げる。その疑問は当然だ。
「そんな訳はないだろう!」と京は言うけれど。
 結局後からだろうと何だろうと、関わらなきゃ気が済まないんじゃないか? 我が兄の事ながら、流石に呆れる。
「まぁ、川全域を見てた訳やないから、何人かは居ったかも知れへんけど、そっちは先生がチェックしてはったから」
「それなら後で訊けば……って、何しに行ったんだ! お前は!?」未だ掠れる喉で怒鳴って、咳き込んでいる。
 僕は慌てて水を差し出す。勿論、かっとなった頭に掛ける為じゃなくて、喉を潤す為に。
 京の咳が治まるのを待って、栗栖は話を始めた。

「京、野外活動中に生徒の姿が見えへんようになったからって、直ぐにサボりと決め付けて、ええもんやろうか?」
「は?」眉間の皺が深くなる。
「あの川は川幅も決して広うはない。深さも全体的には精々大人の脛迄や。此処の所雨も降ってへんから、急な増水の心配もない――せやけど、水の流れで出来た深みが所々、ある。始めは浅い岩の凹みに小さな石が転がり込んで、それが水の力で凹みの中をころころ転がっては岩を削っていずれは深い穴を穿つ……そんな事もあるんやで?」
「それがどうした」そんな自然現象位は知っているとばかりに京は目を眇める。「真逆、姿を消した生徒がそうやって開いた深い穴に、嵌った可能性を考えろとでも? 幾ら何でも人一人嵌る程の深さの穴があの川の川底に開いてると思うのか?」
「いや、流石に」栗栖は首を横に振った。あっけらかんと。「そこ迄の穴が開くだけの時間があったら、川底全体もかなり削れてるやろうし」
「じゃあ、何が言いたいんだ!」また怒鳴る。喉に響くよ? 京。
「人を一人溺れさせるのに、そんな深い穴は要らへんちゅう事や」真顔で、栗栖は言った。「確かにあの川は流れもそんなにきつうない。それでも人の動きを制限する程度の力はある。水流が脛の高さ迄あったら、かなり歩き難いで? 高さ――詰まり水の深さが増す程、その抵抗も強まる。そもそも流れるプールと違うて、自然の川には流れの速い所、ゆったりな所がある。落差が大きければその分流れが速くもなるわな。そういう所に嵌ってしもうたら、人間のバランスなんて簡単に崩れるで?転べばその分、水を受ける面積も増える。一層動き難くなる訳や。起き上がろうにも、川底には苔が生えてて滑り易いしなぁ。身体を支えようと突いた手ぇが、焦りもあって更に滑って顔迄水没し……」
 具体的に想像したのだろう、京の顔が苦しそうになっていく。いや、僕の顔もかも知れないけれど。
「まぁ、そういう可能性もあるんやで?」ふと、表情を緩めて栗栖は肩を竦めた。「サボりやったら作業が終わったら涼しい顔で出て来るやろうけど、もしそんな不測の事態やったら……色々大変やで? という訳でそっちを優先して見張っててんけど、拙かったか?」
「い、いや……」京は流石に頭を振った。「ご苦労だった。うむ、やっぱり安全第一だな」
「そうそう、安全第一、健康第一や」栗栖は笑う。「京もよう休んで、早う風邪、治しや」
 結局、京は礼を言って栗栖を送り出す事となった。

 一緒に部屋の外に出た僕に、ふと振り返って栗栖はポットから出した物を差し出した。
「お土産」そう言って渡されたのは小さなビニール袋。中には小さな薄紅色の花弁。「川縁に桜の木があってなぁ。もう散り際やったけど、桜吹雪が綺麗やったわ」
 栗栖……真逆、本当はそれを見てたんじゃないよね?――そんな思いが顔に出ていたのだろう、彼は微苦笑を浮かべてこう言った。
「ちゃんと監視もしてたんやで? 川に映った桜も綺麗やったわ」
 ……取り敢えず、京には内緒の話だ。

                      ―了―
 健康第一!(^^;)

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前から思ってたけど
栗栖の口にはだれも勝てないと思う。
なっち 2010/04/07(Wed)11:55:38 編集
Re:前から思ってたけど
(笑)
況してや単純な京じゃあねぇ(^^;)
巽(たつみ)【2010/04/07 21:41】
栗栖君
流石ですな♪
京君、もう少し柔らかくなろうや〜(笑)
つきみぃ URL 2010/04/08(Thu)21:29:42 編集
Re:栗栖君
京が柔らか~くなったら……さぞかし周囲の生徒は気味が悪かろうかと(笑)
巽(たつみ)【2010/04/09 21:37】
無題
サボリを監視させてそれがいなかったと報告されると怒る京って、かなり性格悪っ(笑)

それと対称的に、安全第一で手抜きな栗栖って、共感持てます!
銀河径一郎 2010/04/09(Fri)02:13:09 編集
Re:無題
安全第一で手抜き♪
やっぱり息抜きは必要よね♪
巽(たつみ)【2010/04/09 21:38】
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