〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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朧月がきれいな夜だった。あなたも覚えているでしょう。二人で井戸の底から見上げたね。
そんな私の問い掛けに、あなたは無言だった。
忘れた訳は無いでしょう? あんなに奇妙な夜だったのに。忘れられる筈が無い。
あの日あなたはこの屋敷で起こった殺人事件を解決するのだと言って、私をお供に冒険に出掛けた。とは言ってもあなたは十歳、私は八歳。ほんの子供のお遊びだった。親戚一同が私達の曽祖父の法事に集まった中、伯父の一人が刺殺された。嫌味な伯父だったね。だからかな? 私達には悲しみは殆ど無く、春の嵐の為に雨戸の全てが締め切られた和風の屋敷内での事件――そんな小説みたいな舞台の、観客になった気分でいた。
でもあなたは主役を望んだ。私も従兄のあなたのワトスンになって、沈鬱な表情を作る大人達の目を避けながら、屋敷の中を探検したね。広い屋敷だった。広くて、古い……。
先祖はお武家さんだって言うから、その当時の物も残っていたのかも知れないね。多分、あの抜け道もその一つ。もしもの時の逃げ道だったんでしょうね。
今時珍しい台所の土間。そこへ降りる為の大きな石段。その裏にあんな穴があったなんて……。よく見付けたなぁって、私はあなたに感心した。ひょっとしたら、本当に、あなたは主役になれるんじゃないかって思った。その時から二人の冒険はスリルを増した。
穴の中には未だ充分に使える縄梯子があって、二人はそれを辿った。そして横穴に気付いて、道なりに歩いて……やがて見上げたのは上に伸びるトンネルと、朧月。いつの間にか嵐は止み、夜になっていた。
トンネルが庭の枯れ井戸だと気付くのに、私は少し、間が掛かった。
ここから上って逃げたんだね――勢い込んで言う私に、あなたは酷く冷静に言った。
違うよ。知ってるんだろ? ――って。君は見てたんだろう。僕が伯父さんを殺すのを。伯父さんの部屋の僅かに開いた襖の隙間、そこに君の服の袖が震えているのが見えた、と。
その手に、ポケットから出したジャックナイフ。朧月の光に、刀身がぬめりを帯びて輝いた。私はあなたが既にこの舞台のもう一人の主役なのだという事に気付いた。探偵ではなく、犯人という主役。でもあなたは勘違いしていた――あなたの罪は殺人罪じゃないの。
既に死んだ人を傷付けた、死体損壊罪。だって伯父さんはもう私が殺した後だった。
それを告げるとあなたは不意に顔を強張らせて踵を返したね。私という目撃者を始末しようと来た癖に。私は本当の目撃者に伯父さんに突き立てたのと同じナイフを……。
ああ、そうか……。答えてくれない筈ね。あなたはあれからずぅっと井戸の底。屋敷もいつしか廃屋に……。でも大丈夫。私は忘れてないわ。忘れられる筈が無い……。ね?
―了―
朧な月を井戸の底から二人して見上げる――妖しい状況ですね(^^;
そして館ミステリー好きの血が騒ぎます。ふふふ……。
忘れた訳は無いでしょう? あんなに奇妙な夜だったのに。忘れられる筈が無い。
あの日あなたはこの屋敷で起こった殺人事件を解決するのだと言って、私をお供に冒険に出掛けた。とは言ってもあなたは十歳、私は八歳。ほんの子供のお遊びだった。親戚一同が私達の曽祖父の法事に集まった中、伯父の一人が刺殺された。嫌味な伯父だったね。だからかな? 私達には悲しみは殆ど無く、春の嵐の為に雨戸の全てが締め切られた和風の屋敷内での事件――そんな小説みたいな舞台の、観客になった気分でいた。
でもあなたは主役を望んだ。私も従兄のあなたのワトスンになって、沈鬱な表情を作る大人達の目を避けながら、屋敷の中を探検したね。広い屋敷だった。広くて、古い……。
先祖はお武家さんだって言うから、その当時の物も残っていたのかも知れないね。多分、あの抜け道もその一つ。もしもの時の逃げ道だったんでしょうね。
今時珍しい台所の土間。そこへ降りる為の大きな石段。その裏にあんな穴があったなんて……。よく見付けたなぁって、私はあなたに感心した。ひょっとしたら、本当に、あなたは主役になれるんじゃないかって思った。その時から二人の冒険はスリルを増した。
穴の中には未だ充分に使える縄梯子があって、二人はそれを辿った。そして横穴に気付いて、道なりに歩いて……やがて見上げたのは上に伸びるトンネルと、朧月。いつの間にか嵐は止み、夜になっていた。
トンネルが庭の枯れ井戸だと気付くのに、私は少し、間が掛かった。
ここから上って逃げたんだね――勢い込んで言う私に、あなたは酷く冷静に言った。
違うよ。知ってるんだろ? ――って。君は見てたんだろう。僕が伯父さんを殺すのを。伯父さんの部屋の僅かに開いた襖の隙間、そこに君の服の袖が震えているのが見えた、と。
その手に、ポケットから出したジャックナイフ。朧月の光に、刀身がぬめりを帯びて輝いた。私はあなたが既にこの舞台のもう一人の主役なのだという事に気付いた。探偵ではなく、犯人という主役。でもあなたは勘違いしていた――あなたの罪は殺人罪じゃないの。
既に死んだ人を傷付けた、死体損壊罪。だって伯父さんはもう私が殺した後だった。
それを告げるとあなたは不意に顔を強張らせて踵を返したね。私という目撃者を始末しようと来た癖に。私は本当の目撃者に伯父さんに突き立てたのと同じナイフを……。
ああ、そうか……。答えてくれない筈ね。あなたはあれからずぅっと井戸の底。屋敷もいつしか廃屋に……。でも大丈夫。私は忘れてないわ。忘れられる筈が無い……。ね?
―了―
朧な月を井戸の底から二人して見上げる――妖しい状況ですね(^^;
そして館ミステリー好きの血が騒ぎます。ふふふ……。
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Re:無題
有難うございます(^^)
それにしてもこの伯父さん、余程の嫌われ者?(笑)
それにしてもこの伯父さん、余程の嫌われ者?(笑)