『ＬＩＶＥ』

　突然、バラエティ番組が中断して、アナウンサーが画面に現れた。ひどく緊張した様子だ。

『只今入りました情報によると、路上で傷害事件を起こした男が逃走。民家に人質を取り、立て篭もっている模様です！』
　早口にまくし立てるアナウンサーの背後に映し出されたのは、紛れも無い我が家――そう、私がリビングで男に刃物を突き付けられている現場だ。
　男は十数分前、裏口近くの窓を破って侵入し、リビングで思案に暮れていた私に刃物を……。そうして今に至る訳だけど……まずいわね。
　付けっぱなしだったテレビは刻々と情報を流していく。
『佐藤さん方は夫婦二人暮し。近所の方の話によりますと正孝さんは出張中との事で、残された妻、花絵さんの安否が気遣われます』
　要らない事を――私は歯噛みする。お喋りな隣人に決まっている。だが、しようがない。彼女にそう吹き込んだのは私自身なのだから……。

「旦那が居なかったのは災難だったな」油断無く刃物を構えた儘、男は言った。「何、大人しく人質になってりゃそれでいいんだ。俺が逃げ切る迄な」
　逃げ切れると思っているのかしら――軽蔑をなるべく面に出さないようにしつつ、私はテレビの画面を窺う。
　多数の警察車両、マスコミの車、そして各関係者に無関係な野次馬達。蟻の這い出る隙も無いとはこの事だわ。窓越しにも喧騒が伝わってくる……と、更にバラバラと激しいローター音。
　ヘリコプター……まずい！
　テレビの映像は今の所、下からのアングルでこの二階建てに屋根裏部屋付きの家を映し出していた。しかしアナウンサーの次の一言が私は恐ろしかった。
『どうやら中継のヘリが現場上空に到着した様ですね。上からの視点に切り替えましょう』
　次の瞬間、私は刃物も目に入らず、男の怒号も聞かず、リビングを飛び出していた。
　唯一、天窓のある屋根裏部屋を目差し。

　屋根裏部屋に駆け込んだ私の眼を、天窓から差し込んだ中継ヘリのライトが射る。
　遅かった！――私は臍を噛んだ。ここならお節介な隣人の目にも触れないと思ったのに！
「おい！　大人しく……！」私を追って来た男が部屋の様相に言葉を失くす。何よ。自分だって……。
　私はのろのろとリビングに戻った。男はもはや私を止めようともしない。

　アナウンサーが耳障りな声を立てている。
『えー、只今現場から入りました情報で……民家の屋根裏部屋と思われる場所に男性と見られる死体らしきものが、天窓から見えると……。また、新たな情報で勤務する会社からは正孝さんの出張の事実は無く、今朝花絵さんから風邪で休むと連絡があったとの事です。これは一体……』
　出張なんて嘘。風邪も嘘。ついてない。こんな事件さえ無ければ明日には片付けてたのに。私は戸口で茫然としている疫病神を道連れにガスの元栓を捻り、ライターを……。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　緊急ニュースで思い付くもの……人により様々ですねぇ。
　このパターンは割と普通な気がします。