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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 時計が止まってから、この家には誰も人が来ない。
 毎日の様に来ていたお手伝いさんも、新聞屋も牛乳配達も。ごく稀に来ていた郵便屋も、今では一切、来なくなった。
 きっと時計が止まった所為だ。
 せめてお手伝いさんだけでも来てくれればいいのだけれど……。私はベッドに横たわった儘、目を開ける事さえ出来やしない。
 もう一度時計を動かせば……そう思ったけれど、そもそもこの家でたった一つ、常に時を刻んでいたそれは、今は何処にあるのかも解らない。止まって直ぐ、お手伝いさんが呼んだ人達が運び出して、それっ切りだ。尤も、私には手の出し様もない。
 だから今、この家には何の音も響かない。
 時にゆったりと、時に激しく打っていたあの音はもう聞こえてこない。

 そう、止まる間際、それは一際激しく時を刻んでいた。間隔も何も目茶苦茶で、どんどん加速するばかりだった。
 そして不意に――止まった。
 いつもなら、早くなる事はあってもお手伝いさんが取り出す薬で直ぐに普段のペースを取り戻していたのに。
 お手伝いさんが薬を上げなかったからかしら? 私は目を瞑っていたけれど、いつもの抽斗を開ける音も聞こえなかった。 
 こう言っていたのは、聞こえていたけれど。
「そろそろ、いいんじゃないかねぇ、奥様。遺言状を書き換えて五年……。そろそろ貴女が死んでも、この家を遺されたた私が疑われる心配もないだろう。そろそろ……さようなら、だよ」

 そうか――思い出したと同時に、私は悟った。
 この家はあのお手伝いさんのものになったんだ。それならばいつかは、帰って来る筈。
 なら、今度はあの人に時計になって貰えばいい。
 この家で唯一、時を刻み続ける――私の時計に。
 問題があるとすれば、前の時計は一切、外に出る事はなかったけれど、お手伝いさんは自由に動き回るという事かしら。
 でも、それは……あの人が私を抱き上げて開いた目を見さえすれば、前の時計にそうした様に、私は新たな時計を虜に出来る。家を出られないようにする事なんて造作もないわ。
 
 私は、この胸に時計を持たないが故に、長い年月を過ごしてきたのだもの。
 抱き上げられれば目を開き、寝かされれば目を閉じる、そんな素直な赤ん坊の姿の儘、ずっと……。

 ああ、新しい時計は未だ帰って来ないのかしら?

                      ―了―


 人形ネタ~☆

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