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この神様を信じなければ不幸になると言われて、俺は商店街で話し掛けてきた怪しい宗教家の目の前で、その神を模った象を思いっ切り踏み付けた。俺は神様なんか信じない、と。
部活帰りで一緒に居た同級生達は、罰が当たるぞと言った。尤も、その顔は完全ににやけ、慌てふためく怪しい宗教家を嘲笑っている。罰なんてのも冗談だ。
冗談……の筈だった。
翌日、部活中にサッカーボールを追っていた俺は、急に脚に力が入らなくなった様に、その場に蹲った。更に後ろを走っていた奴の膝が、危うく髪を掠める。
「おい! 急にどうしたんだよ?」慌てて脚を止めながら、そいつは尋ねた。「脚、傷めたのか?」
「いや、何か……急に力が入らなくなって……」自分でも訳が解らない、という風に、俺は自分の左脚を見詰めた。昨日、例の像を踏み付けた方の、足を。
「真逆、本当に罰が当たったんじゃあ……」奴もそれを思い出したのだろう、顔を曇らせた。
「真逆」俺は鼻で笑って見せた。「あんな怪しいもんにそんな力があるかよ。どうせあのおっさんが考えた、新興宗教か何かだぜ?」
「そう……だよな」苦笑を浮かべつつも、奴の顔色は冴えず、その目はじっと、俺がさすり続けている脚に注がれていた。
その放課後、やはり昨日のメンバーで帰り道を歩いていると、突然、路地から飛び出して来た一頭の痩せた犬が、俺の脚に噛み付こうとした。
俺はそれを躱したが、犬は執拗に俺の脚を狙って来る。俺の左脚だけを。
皆が大声を出したり、持っていた菓子を餌として遠くに投げてくれたりしたお陰で、俺はどうにか追撃から免れた。
「何だったんだ、今の犬……。お前の左脚だけ、狙ってたみたいだったぞ?」やはり昨日の件を見ていた連中は、その関連性を想起した様だった。些か不安そうな顔をして、昨日のあれが、とか何とか、囁き合っている。
「何でもないって」俺は極力明るく笑い飛ばそうとした。「只の腹減った犬だろ? 餌に釣られて行っちまったし」
「でも、それなら真っ先に、菓子持ってる奴に襲い掛からないか? お前しか襲われてなかったじゃないか」
「それはそうだけど……」
「な、昨日のおっさん捜して謝った方がいいって。本当に罰かどうかは解んねぇけど、もしもって事が……」
「何かもっと酷い事が起こってからじゃ遅いぜ? な。一緒に捜してやるから」
口々に、皆はそう言って、昨日おっさんに会った商店街に、俺を引き摺って行く。
そしてやはり、おっさんはそこに居た。
今日あった事を代わる代わる、皆がおっさんに訴えた。皆、俺の事を心配してくれている、いい仲間だ……。
おっさんは鷹揚に頷くと、再び、俺の前に例の像を差し出した。
「君が詫び、神を信じるなら、神はきっと赦すだろう」厳かに、いや、偉そうに、おっさんは言った。
そして俺は――やっぱりそれを踏み付けた。
「何すんだよ、お前は!?」
「折角俺達が心配してんのに……!」
「また罰が当たったらどうするんだよ!?」
「てか、もっと酷くなったら……」
口々に責める仲間に、俺は言った。
「だからだよ」と。
そして、皆に深々と、頭を下げた。
「悪い……。しゃがみ込んだ時も、本当は脚は何ともなかったし、さっきの犬も、予め覚えさせていた臭いの粉末を着替える時にこっそり、左脚に振り掛けておいたんだ。だから……あれを踏み付けた罰なんて、ありゃしないんだよ」
更に茫然としているおっさんを振り返り、告げた。
「悪いな、バイトの話はナシだ。俺が態とその出来の悪い像を踏み付けて、罰が当たった振りを皆に見せ付け、皆にそいつのありもしない力を信じさせる――そんなんで皆が信じるとも思えなかったし、軽い小遣い稼ぎの心算で受けたけど、やっぱ駄目だ。皆は騙せない。そんな事したら、それこそ本当の罰が当たっちまうよ」
結局、おっさんはインチキ宗教家の噂――事実だが――を言い触らされ、街を去って行った。
そして俺には、仲間達への奢りという罰が、下ったのだった。
これが軽いか重いかは……俺の財布の中の「紙」のみぞ知る。
―了―
あ、最後の「紙」は「紙幣」の事ですんで(^^;)
突っ込まないよーに!(笑)
老人ホームとか(←おい)