〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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昨日は帰る事にした瑞穂も用心は怠らないようにする心算だった。
家事中に倒れた母、和穂はリハビリの真っ最中とは言え、もう生命の心配はないと言われ、彼女の危急を聞いて病院へと急ぐ余りに乗用車の事故を起こした瑞穂自身も、最早通院だけでよい状態。お互いあれだけの目に遭ったにしては後遺症も軽く、幸運だったと思っている。
しかし、あの時二人が迷い込んだ、蝋燭がたった一本灯る切りの暗闇。そして二人が生還してから聞こえた、地の底から聞こえるかの様な声が、時折瑞穂を不安にさせていた。
あれは、何だったのだろう?――と。
家事中に倒れた母、和穂はリハビリの真っ最中とは言え、もう生命の心配はないと言われ、彼女の危急を聞いて病院へと急ぐ余りに乗用車の事故を起こした瑞穂自身も、最早通院だけでよい状態。お互いあれだけの目に遭ったにしては後遺症も軽く、幸運だったと思っている。
しかし、あの時二人が迷い込んだ、蝋燭がたった一本灯る切りの暗闇。そして二人が生還してから聞こえた、地の底から聞こえるかの様な声が、時折瑞穂を不安にさせていた。
あれは、何だったのだろう?――と。
自分達が居た空間が、決してまともな所ではなかったのは明白だ。どこ迄も暗く、砂浜の様なざりざりとした感触の地面。その地との摩擦以外の何の音も聞こえてはこなかった。
そしてあの声は、この親子がたった一本の希望の灯を奪い合う事を、期待していたと言った。
奪い合い、火が消える――そして恐らくは親子が絶望する――その様を見たくてお膳立てしたのだと。
あれは死神だったのか? それとも悪魔?
冗談じゃない、と今更ながらに瑞穂の胸に怒りが去来する。そのいずれにしても、それ以外のものにしても、彼女等を試し、陥れる権利など無い。
そしてそれとまた同時に不安も膨れ上がるのだった。何故自分達があんな目に遭ったのか、その理由が解らないが故に。
また、あんな事があるのではないかと。
だから、用心は怠らないようにする。母の分も。
完全看護ながらも度々顔を見に行き、病院では良くないとは思いつつも携帯電話を持たせ、連絡を密に取るようにした。尤も、今の所携帯は瑞穂が掛けるのが専(もっぱ)らだったし、和穂はメールを確認するにも四苦八苦する器械音痴だったが。
それでもいざとなったら連絡が取れる、それだけでも、何かが繋がっている様な安心感があった。
病院の敷地を出てからマナーモードを解除していた携帯が、帰宅した途端、短いメロディを刻んだ。メールだ。瑞穂が開いて見ると、差出人は和穂。慌てて本文を確認する。
〈瑞穂、大変、またあの声が聞こえるの! ほら、あの時の……〉
慌てて返信を打ち、送信する。
〈あれが!? 何て言ってるの?〉
〈今度こそ、連れに来るって〉
〈それは、母さんを?〉
〈多分……〉
〈兎に角落ち着いて! 直ぐそっちに行くから!〉
とは言え、瑞穂の車は事故で大破し、彼女もまた当分はハンドルを握れる状態ではない。精神的にも。
開けた鍵を再び閉め、もしもの時の為に入れていたメモリーからタクシー会社を呼び出す。回された車に素早く乗り込むと、目的地の指示を出し、再び携帯を取り出した。
電話を掛けてみるが、母は出ない。じりじりと焦る間にコール音と時間だけが積み重なっていく。瑞穂は一旦切り、メールに切り替えた。何としてでも、連絡を取らないと。
〈母さん! 大丈夫なの!?〉
返事は意外な程、素早かった。
〈ああ、瑞穂! 早く来て!〉
〈電話に出られなかったの? 今〉
〈ええ、恐ろしくて声が出なくて……。ああ、早く……〉
〈急いでるわ。もう少しだけ待って〉
瑞穂は、目的地に着くとタクシーを待たせて、すっかり陽の落ちた宵闇の中を走った。
自分は天使も神様、仏様も信じない。瑞穂はそう思ってきた。勿論その対極も。
だが実際にあの声は聞こえ、今また怪異を起こしている。
ならば……。
彼女は玉砂利に足を取られながらも駆けた。
地元でも霊験あらたかと伝えられる神社の、御神体とも言われる山から湧き出ずる御神水を求めて。
石造りの水場を視界に収めた時、携帯が鳴った。メール着信。
〈瑞穂!? 何をしてるの!? 早くこっちへ来て頂戴!〉
最早メールを打ち返す事もなく、瑞穂は携帯に毒づいた。
「同じ手がそうそう通用すると思ってるの? 母さんはメールなんて読むのが精一杯。メール打つ位なら電話掛けるわよ! 何より、あなたの声を聞かせようとね!」
そう、例え他の人間には聞こえない声でも、あの時共に聞いた瑞穂ならと、その声がする内に電話をする筈。こちらから掛けた時にも、例え恐怖に竦んでいようとも、いや、それなら尚更縋り付いてでも電話に出た筈。そして何よりもこんなに素早く、記号迄使ったメールのやり取りが出来る筈もない。
「死神だか悪魔だか解らないあなたに何が効くのか解らないけれど、兎に角……私達の前から消えて!」瑞穂は狙い違わず、御神水の中に今現在それの宿る携帯電話を投げ込んだ。
ちっ!――そんな舌打ちが聞こえた気がした。それは悔しげで、それでいて、一種の潔さを感じさせる響きだった。
待って貰っていたタクシーで念の為に駆け付けた時、和穂はきょとんとしていた。どうやら彼女の方では電話も鳴らなかったし、勿論例の声も聞こえなかった様だ。
携帯にも、先程のメールの送信履歴は一切残っていなかった。確かに、彼女のアドレスからだったと言うのに。
「とんだなりすましメールだったわ」スツールに座り込みながら、瑞穂は新しい携帯の手配に頭を悩ませていた。異界からの迷惑メール対応の機種があるだろうか、と。
―了―
迷惑メール、なりすましにはご注意をという話(違うか・笑)
結局『闇中の蝋燭』の続編になっちゃいましたね(^^;)
そしてあの声は、この親子がたった一本の希望の灯を奪い合う事を、期待していたと言った。
奪い合い、火が消える――そして恐らくは親子が絶望する――その様を見たくてお膳立てしたのだと。
あれは死神だったのか? それとも悪魔?
冗談じゃない、と今更ながらに瑞穂の胸に怒りが去来する。そのいずれにしても、それ以外のものにしても、彼女等を試し、陥れる権利など無い。
そしてそれとまた同時に不安も膨れ上がるのだった。何故自分達があんな目に遭ったのか、その理由が解らないが故に。
また、あんな事があるのではないかと。
だから、用心は怠らないようにする。母の分も。
完全看護ながらも度々顔を見に行き、病院では良くないとは思いつつも携帯電話を持たせ、連絡を密に取るようにした。尤も、今の所携帯は瑞穂が掛けるのが専(もっぱ)らだったし、和穂はメールを確認するにも四苦八苦する器械音痴だったが。
それでもいざとなったら連絡が取れる、それだけでも、何かが繋がっている様な安心感があった。
病院の敷地を出てからマナーモードを解除していた携帯が、帰宅した途端、短いメロディを刻んだ。メールだ。瑞穂が開いて見ると、差出人は和穂。慌てて本文を確認する。
〈瑞穂、大変、またあの声が聞こえるの! ほら、あの時の……〉
慌てて返信を打ち、送信する。
〈あれが!? 何て言ってるの?〉
〈今度こそ、連れに来るって〉
〈それは、母さんを?〉
〈多分……〉
〈兎に角落ち着いて! 直ぐそっちに行くから!〉
とは言え、瑞穂の車は事故で大破し、彼女もまた当分はハンドルを握れる状態ではない。精神的にも。
開けた鍵を再び閉め、もしもの時の為に入れていたメモリーからタクシー会社を呼び出す。回された車に素早く乗り込むと、目的地の指示を出し、再び携帯を取り出した。
電話を掛けてみるが、母は出ない。じりじりと焦る間にコール音と時間だけが積み重なっていく。瑞穂は一旦切り、メールに切り替えた。何としてでも、連絡を取らないと。
〈母さん! 大丈夫なの!?〉
返事は意外な程、素早かった。
〈ああ、瑞穂! 早く来て!〉
〈電話に出られなかったの? 今〉
〈ええ、恐ろしくて声が出なくて……。ああ、早く……〉
〈急いでるわ。もう少しだけ待って〉
瑞穂は、目的地に着くとタクシーを待たせて、すっかり陽の落ちた宵闇の中を走った。
自分は天使も神様、仏様も信じない。瑞穂はそう思ってきた。勿論その対極も。
だが実際にあの声は聞こえ、今また怪異を起こしている。
ならば……。
彼女は玉砂利に足を取られながらも駆けた。
地元でも霊験あらたかと伝えられる神社の、御神体とも言われる山から湧き出ずる御神水を求めて。
石造りの水場を視界に収めた時、携帯が鳴った。メール着信。
〈瑞穂!? 何をしてるの!? 早くこっちへ来て頂戴!〉
最早メールを打ち返す事もなく、瑞穂は携帯に毒づいた。
「同じ手がそうそう通用すると思ってるの? 母さんはメールなんて読むのが精一杯。メール打つ位なら電話掛けるわよ! 何より、あなたの声を聞かせようとね!」
そう、例え他の人間には聞こえない声でも、あの時共に聞いた瑞穂ならと、その声がする内に電話をする筈。こちらから掛けた時にも、例え恐怖に竦んでいようとも、いや、それなら尚更縋り付いてでも電話に出た筈。そして何よりもこんなに素早く、記号迄使ったメールのやり取りが出来る筈もない。
「死神だか悪魔だか解らないあなたに何が効くのか解らないけれど、兎に角……私達の前から消えて!」瑞穂は狙い違わず、御神水の中に今現在それの宿る携帯電話を投げ込んだ。
ちっ!――そんな舌打ちが聞こえた気がした。それは悔しげで、それでいて、一種の潔さを感じさせる響きだった。
待って貰っていたタクシーで念の為に駆け付けた時、和穂はきょとんとしていた。どうやら彼女の方では電話も鳴らなかったし、勿論例の声も聞こえなかった様だ。
携帯にも、先程のメールの送信履歴は一切残っていなかった。確かに、彼女のアドレスからだったと言うのに。
「とんだなりすましメールだったわ」スツールに座り込みながら、瑞穂は新しい携帯の手配に頭を悩ませていた。異界からの迷惑メール対応の機種があるだろうか、と。
―了―
迷惑メール、なりすましにはご注意をという話(違うか・笑)
結局『闇中の蝋燭』の続編になっちゃいましたね(^^;)
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この記事にコメントする
しつこい奴だなー
おぉ、あの続編ですか。
でももしかするとメールを送ったというか、
液晶画面に映し出しただけかも知れませんね。
・・・うーむ、この悪魔(?)ならやりかねないような気がする。
今日久々に迷惑メール届いてました。なんてタイムリーw
でももしかするとメールを送ったというか、
液晶画面に映し出しただけかも知れませんね。
・・・うーむ、この悪魔(?)ならやりかねないような気がする。
今日久々に迷惑メール届いてました。なんてタイムリーw
Re:しつこい奴だなー
うん、それはやり兼ねない(^^;)
そう見せてるだけ。でも返信も何処に行ったのか闇の中(笑)
迷惑メール、そんなタイムリーは……(苦笑)
そう見せてるだけ。でも返信も何処に行ったのか闇の中(笑)
迷惑メール、そんなタイムリーは……(苦笑)
Re:こんばんはぁ!
瑞穂さん、用心してましたから(笑)
パニクってタクシーを急がせてたら……どうなったでしょうねぇ? くっくっくっ(←誰!?)
何かなりすまし詐欺みたいな奴だなぁ、考えてみたら(爆)
パニクってタクシーを急がせてたら……どうなったでしょうねぇ? くっくっくっ(←誰!?)
何かなりすまし詐欺みたいな奴だなぁ、考えてみたら(爆)
Re:う~むむむ!
有難うございます(^^)
やはり日頃からの用心は大事ですね!(笑)
因みにうちの母も携帯持たせてますが……マジでメール打てない(^^;)
ま、電話が通じればいいやぁ(笑)
やはり日頃からの用心は大事ですね!(笑)
因みにうちの母も携帯持たせてますが……マジでメール打てない(^^;)
ま、電話が通じればいいやぁ(笑)
Re:無題
投げ込んでますしね~(笑)
火に投げ込もうか水にしようか悩んだんですけど、どっちにしても携帯はお釈迦ですな(笑)
火に投げ込もうか水にしようか悩んだんですけど、どっちにしても携帯はお釈迦ですな(笑)
Re:こ、これはっ!
何やら気に入られてしまった様です。
夜霧という魔物に……(^^;)
何で今頃「瑞穂」とか書くかな? 夜霧サン?
夜霧という魔物に……(^^;)
何で今頃「瑞穂」とか書くかな? 夜霧サン?
ああ…
死神でも悪魔でも、神様仏様でもおんなじことやけど、この母娘さんは水が合ったのかなあ。親和性というのか。
自分の存在を感じてビビッてくれるなんて、あちらの世界の方々にはタマラナイ遊びかも。
ちなみにいつも御神水に欲張って色んなモノを見ようとする私は、一度だけやったらそんななりすましメールを受けてみたい気がちょっとだけ……(ダメダメですな相変わらず)
自分の存在を感じてビビッてくれるなんて、あちらの世界の方々にはタマラナイ遊びかも。
ちなみにいつも御神水に欲張って色んなモノを見ようとする私は、一度だけやったらそんななりすましメールを受けてみたい気がちょっとだけ……(ダメダメですな相変わらず)
Re:ああ…
確かに全く相手してくれなかったら詰まらないだろうな(笑)
受けてみたいっすか!?(爆)
適当に相手して遊ぶ?^^;
受けてみたいっすか!?(爆)
適当に相手して遊ぶ?^^;
無題
面白かったです~☆
異界からの迷惑メール、困りますねぇ^^;
私も自分のアドレスで迷惑メールが来るんですよね。でも、自分から自分に送信する機会が多いので、ブロックもできない。ご丁寧に、ヘッダーも私のアドレスになってるww
いたずらするほうも、うまいこと考えますよね~。
異界からの迷惑メール、困りますねぇ^^;
私も自分のアドレスで迷惑メールが来るんですよね。でも、自分から自分に送信する機会が多いので、ブロックもできない。ご丁寧に、ヘッダーも私のアドレスになってるww
いたずらするほうも、うまいこと考えますよね~。
Re:無題
有難うございます(^^)
迷惑メールも処罰が重くなるそうだけど、こういうなりすましってどうやって調べるんでしょうね?
取り敢えず異界からのは特定し様がないな(笑)
迷惑メールも処罰が重くなるそうだけど、こういうなりすましってどうやって調べるんでしょうね?
取り敢えず異界からのは特定し様がないな(笑)
おはようございます
こらこら、携帯を大切な水の中に投げ込むなぁ~!(笑)
意外とマヌケな悪魔(?)だなぁ。
そんなの普段の行動パターンから分かるだろうがよぉ。
しかし悪魔(?)が最新鋭の情報機器使うなぁ。
なんか取っても俗物な感じがするわぁ。(笑)
意外とマヌケな悪魔(?)だなぁ。
そんなの普段の行動パターンから分かるだろうがよぉ。
しかし悪魔(?)が最新鋭の情報機器使うなぁ。
なんか取っても俗物な感じがするわぁ。(笑)
Re:おはようございます
お炊き上げでもしてたら火に放り込ませようかとも思ったんだけど、夜のシーンだったし、携帯は燃やしていいのかどうか? と思い……(笑)
悪魔ならやっぱり俗物なのでは? や、位階にもよるか。
悪魔ならやっぱり俗物なのでは? や、位階にもよるか。
こんばんわ★
またしても、ご無沙汰してしまいました(@@)
相変わらず、すんごいところからネタを持ってきますね(^^;)
まさか、異界から迷惑メールがくるなんてネタを思う付くとは(><)
でも、携帯にはついてほしくないかも…
だって、最近の機種は、高価で(TωT)
相変わらず、すんごいところからネタを持ってきますね(^^;)
まさか、異界から迷惑メールがくるなんてネタを思う付くとは(><)
でも、携帯にはついてほしくないかも…
だって、最近の機種は、高価で(TωT)
Re:こんばんわ★
確かに!(笑)
その度に水に浸けたりしてたらお金が~(--;)~¥
保障効かないし!(爆)
相変わらずお忙しそうですが、お身体だけは大事になさって下さいね~。
その度に水に浸けたりしてたらお金が~(--;)~¥
保障効かないし!(爆)
相変わらずお忙しそうですが、お身体だけは大事になさって下さいね~。
Re:無題
それと言うのも夜霧の所為です(笑)
瑞穂も用心~とか投稿しなかったらあれで終わってたろうに(苦笑)
瑞穂も用心~とか投稿しなかったらあれで終わってたろうに(苦笑)
Re:こんなところも
異界からなりすましメール(笑)
迷惑千万ですな☆
実際、字の判るFAXなら兎も角、メールで文体真似たら……解るかな~?(脅してどうする^^;)
迷惑千万ですな☆
実際、字の判るFAXなら兎も角、メールで文体真似たら……解るかな~?(脅してどうする^^;)