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遅くなってしまった――長くなった日と、緩んだ寒さに思いがけず遠出した帰り、健吾は自転車を飛ばしていた。
五時から六時へと、こちらも春を告げる様に変更になった帰宅放送も、疾うに終わってしまった。長くなったとは言え、陽も傾き始めている。来月から小学四年生の彼としては母親の叱責は避けたい所だった。
夕陽を背に、長く伸びた影を踏みながら、懸命にペダルを漕ぐ。
影がその動きを、やはり懸命に映す。
家迄はあと少し――この儘真っ直ぐ行った先、住宅街の塀の間を抜ければ家が見えてくる。
彼はほっと、だるくなった脚を緩めた。
「真似するなよ」当然の様に動きを緩めた影に、家が近くなって余裕の出た健吾は微苦笑しながら呟いた。
周りに誰も聞く者はない。微かに夕餉の支度の気配がそこ此処からするばかり。カレーの匂いに、今晩の夕食は何だろう、と健吾は考えた。
と、自転車の軌道が僅かに逸れた。ぐらつく上体を立て直しながら、健吾は石でも踏んだかと、地面を見る。が、アスファルトの地面はなだらかなものだった。
「?」ペダルを漕ぐ脚が、不審げに緩む。
が――自転車のスピードは落ちず、そして、影の動く速さも落ちなかった。
「!?」ぎゅっと、ブレーキを握り込む。キキーッと、それに抗議する様にタイヤが嫌な音を立てる。
なのに、自転車は走り続けている。いや、タイヤは動きを止めているのに、何者かに地面の上を引き摺られる様に、自転車は前に進む。そして健吾が見下ろす地面では、影が必死にペダルを漕いでいた。
「何だよ、これ!?」既に彼自身の脚は止まり、地に着いた左足は抵抗する様にアスファルトを擦っている。
この儘では拙いと、健吾は無理矢理、自転車から飛び降りた。どの途こんな体勢ではバランスを崩し、転ぶのは目に見えている。冷たい金属の自転車ごと転ぶよりはと、地面に身を投げ出したのだ。
第一、この儘では何処に連れて行かれるものか解ったものではない。
地を転がり、あちこちをぶつけたものの、その選択は正解だった様で、無人となった自転車は近くの住宅のブロック塀にぶつかって、やっと動きを止めた。ライトが割れ、前輪がひしゃげるのを、健吾は茫然と見上げていた。
「何だったんだよ……」痛みを堪えながら立ち上がり、恐る恐る歩み寄った健吾の足元には黒々とした影。
真似するなよって言ったじゃないか――そんな言葉が脳裏に響いた。
それは戯れに呟いた己の影への言葉……そうと気付いた健吾は、思わず塀と塀の間の濃い影に逃げ込み、自らの影を誤魔化した。
影の声、影の意思、そんなものがあるとは思えなかったが、あの彼本体とは違う影の動きはしっかりと彼の目に焼き付いていた。結局、彼は陽が落ちて、心配して捜しに出た母親に見付けられる迄、そこに蹲っていた。
怯えて泣きじゃくり、影が動き出したと語る息子を、母親は事故で取り乱しているのだろうと、ぎゅっと抱き締めた。
逢魔が時の、それは何ものかの戯れだったのか、それ以来影が動く事など無かったが、健吾は夕暮れ迄には帰宅すると堅く心に決めたのだった。
―了―
陽は長くなったけど、黄昏時にはご用心?
余り怖くないな……。眠……(--;)。゜○
そうだね~。童話的と言うか民話的と言うか……。
それにしても日が長くなったね~。
気が付くと自分の方が、影が動くように動いてたりして……
影は何処でも付いて来るからねぇ……(脅してどうする)
何かのあやかしの悪戯かも(^^;)
黄昏時、誰そ彼時、逢魔が時……色々言い方がありますねぇ。
逢間が時では載って無かったよ。(逢う間が時)
まぁ、現実には起こらんだろうけどね。
子供の時は、影踏み楽しかったよなぁ。(笑)
時には邪魔臭く感じたり。(笑)
昼と夜の間(あわい)、ほんの隙間の時間、魔に逢い易い時……。
まぁ、現実には起こる訳はないですが(苦笑)
そそ、子供の頃は影も遊び相手^^
どうやっても離れられないけどね……。
小さい頃、車に影を轢かれたら死んじゃう!みたいに仮定して、なるべく轢かれないよう、建物の影とかに入りながら歩いてたことがあります。
たんなる一人遊びで、本気でそんな風に考えたことはないけど、ちょっと危険思考かも、今思うと…(*μ_μ)
読んでて思い出しました。
影なんて特に。やっぱり大人より地面に近い分、身近なのかな? 子供にとっては。