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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「ね、聞いた? 一組の子がこっくりさんやってて……」
「ああ、おかしくなっちゃったんでしょ?」
「そうそう、訳の解らない事口走っちゃって、保健室に隔離されたけど手に負えなくって、病院に連れて行かれたって……」
「でも、本当なの?」
「ホントだって……! 実際その子、今日も来てないし……」

 そんなひそひそ話が耳に刺さる。
 勿論、それらは小声なのだけれど、今の私には――件の一組の彼女と一緒に他愛のない遊びをしていた私には――それは避ける事の出来ない雨の様だった。
 中学二年にもなって、とは思ったけれど、私は小学校時代からの友達の誘いに乗り、他の二人と共に十円玉に指を乗せた。
 最初はなかなか動かなくて、少し退屈してた。動き出した時も、きっと誰かが指に力を入れてるんだと思って、逆らう事無くそれに合わせてた。
 はい――いいえ――それで答えられる簡単な問いが何度か繰り返され、それが何と無く当たっている様な気がしてくると……質問は踏み込んだものになって行った。
「皐月は誰が好きですか?」
「ちょっと、何訊いてるのよ!」突然自分の名を出され、私は慌てて口を挟んだ。指を乗せた十円玉が動き掛けるのを、思わず力を込めて押さえていた。
「駄目だよ、逆らっちゃ」質問を発した諒子がそれを咎める。「こっくりさんが怒っちゃうよ?」
 彼女とは小学校から一緒だったけれど、少々冗談が過ぎる所が珠に瑕だった。よりによってこんな事を訊くなんて。それに、こっくりさんが怒るですって?
「その前に私が怒るわよ?」
「そんな事言ったって、もう訊いちゃったし……。ほら、指の力抜いて」
「はい」そう言って私は――ぱっと両手を上げた。詰まり指の力を抜くどころか、指を離したのだ。
「皐月!」諒子ともう一人の参加者は、悲鳴の様な声を上げた。
 どうせどちらかが動かしてたんでしょうに――そんな私の冷めた視線と、怯えた視線が交錯した。真逆、本当に信じてるの?
 そして、その直後だった。
 諒子が奇声を発して暴れ出したのは。

 二人掛かり、いえ、騒ぎに気付いた男子の手を借りても、諒子の凶荒は治まらなかった。そして誰が報せたものか、呼ばれて来た先生達によって、どうにか保健室に連れられて行った。
 後の事は、私ももう一人の彼女も、詳しくは聞かされていない。それどころか事情を聴かれて、こっ酷く叱られて……最悪な気分だった。それにもう一人の彼女は、自分にも何かあるのではないかとビクビクし、恐らくは私をその元凶と決め付けたのだろう、非難がましい目で私を見ていた。
 それでも、私達には何の異常も無く、只、諒子が登校して来ない事だけが、異常事態だった。
 容態を先生に尋ねても、親御さんにお任せしたからと口を濁され、小学校時代から遊びに行ってはお菓子を貰っていた諒子のお母さんも、病院に居る、としか教えてくれなかった。

「病院に行ってみるしかないか」と言う私の提案に、もう一人の彼女は身を退いた。今現在、自分に何の異常も見られないのだから、これ以上係わり合いになりたくない、と。ごめんね、と両手を合わせてきたけれど、私は別に気にしなかった。私だって、本当なら関わりたくなんかない。けれど、諒子は小学校からの友達。それももしかしたら、私が手を離した所為かも知れないのだ。
 知らないで済ませる訳には行かない――私は病院へと向かった。

 ところが受付でも諒子の病室は教えて貰えず、途方に暮れていると、不意に袖を引かれた。
 誰? もしかして彼女が思い直して来てくれたのかも――そう淡い期待を抱きながら振り返ると、そこに居たのは異常な迄に色の白い女の子。肌の色は勿論、肩迄真っ直ぐに伸びた髪の色も白い。見た所私と同じか少し下位にしか見えないのに、白髪? 着ているセーラー服迄、白一色だった。こんな制服の学校、この辺りにあったっけ?
 色々と面食らっていると、彼女は私の手を引いた。こっちだよ、と言う様に。
 私は何故だか、それに逆らわず、只引かれる儘に付いて行った。

 名前が掲げられていない、個室と思われる病室――そのドアの前で彼女は脚を止めた。名前は無いけれど、中からは人の気配が漏れてくる。唸り声、何かに固定されながらも暴れている様な音。これは……私は深く息を呑むと、ドアに手を掛けた。
 思った通り、白いベッドに四肢を固定されて横たわるのは、痛ましい諒子の姿。舌を噛まない様にだろうか、マウスピース迄噛まされている。
 思わず、ぽろぽろと涙が零れた。私があの時、短気を起こして手を離したりしなかったら……。
「ううん、それはあんまり関係無いから」横から、いやにあっさりした声で感傷をぶち壊される。礼の白い少女だった。「ま、確かに何か憑かれてはいるけど……雑魚だね」
 そう言って彼女が一歩、ベッドに近付いた時だった。
 諒子の身体が、びくりと跳ねた。
「雑魚は雑魚……さっさとここを去るのなら見逃してやってもいいよ。それとも……」少女の声が徐々に凄みを増していく。
 それに伴って、諒子の動きが、痙攣じみてくる。私はナースコールに駆け寄ろうとしたが、少女に止められた。
「正直、困るんだよね。雑魚が起こした騒ぎも、こっちの所為にされるんだから……。一掃したら……煩わしくなくなるかなぁ?」どこか弄る様な少女の声音。「さて……どうする?」
 どうする、と一歩踏み出した時だった。
 諒子を中心に病室内にはあり得ない強風が吹き荒れ、カーテンがはためき、私はその風に叩き付けられる様に壁際へと後退した。腕で顔を庇う様にして見た室内では、白い少女がセーラー服を風にはためかせながらも毅然と立っている。
 数分間、そうしていただろうか。いや、実際には一分も無かったのかも知れない。
 不意に、風が止んだ。
 そして、ベッドに横たわるのは安らかな寝息を立てる諒子。先程迄の異常さの欠片も、見られない。
「さ、行こうか」少女はそう言って、私に笑みを向けた。「後は大丈夫だから。ね」
 そうして、私は半ば強引に、病院から連れ出されたのだった。

「あの、貴女は一体……」当然の質問を、私は彼女にぶつけた。
「それを訊く?」彼女は苦笑した。「解ってるんじゃないの?」
「……こっくり……さん?」真逆と思いつつも、否定出来ない自分が居る。「諒子に憑いてたんじゃ、ないの?」
「だからね、あれは雑魚」彼女はひらひらと手を振った。「こっくりさんを騙った雑魚。因みに、君が手を離そうと離すまいと、隙あらば取り憑く気だったみたいだから。まぁ、精神的隙が広がってしまったのは確かだけど。あの子、元々隙があったから。だからあんな事、訊いたんだよ」
「あの、私が誰を好きかって質問?」
「あの子ね、もしかしたら、君が自分と同じ子を好きなんじゃないかって、悩んでたみたいだよ。そういう悩みや迷いにね、付け込むんだよ。雑魚は」
 君も気を付けてね――そう言って、手を振ると、白い少女は私に背を向けた。
「どうして助けてくれたの?」それだけは訊きたくて、私は問い掛けた。
 振り返りもせず、少女は言った。
「これでも元は霊狐なんだよ? それがいつの間にか雑魚と一緒にされて……迷惑なんだよね」
 そう言って肩を竦めた彼女の頭には、いつしかピンと立った耳が二つ……。

                     ―了―

 意外に長くなったぞ(--;)

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こんばんは♪
白狐さんかな?
稲荷神社って親しみがあって好きなので、
狐も好きだなぁ♪

コックリさんは怖いのでやった事がないです。
低級霊に憑かれるとか?いろいろと言われて
ますよネ!

この霊狐さんはカッコイイなぁ~♪
クーピー 2009/04/23(Thu)00:20:09 編集
Re:こんばんは♪
大概、出て来るのは低級霊だとか言いますよね~(^^;)
まぁ、お遊び感覚でやってるものに、まともな霊(?)は応えてはくれないかと……。
巽(たつみ)【2009/04/23 21:04】
無題
あー……
想像もしやすくて、話し的には面白かったけど
この狐さんが、何故、もっと早く雑魚を退治しなかったのか、何故わざわざ、この子が病院に行くときに動き出したのかが、わからなかったので、その点だけが……。

でも、お話はおもしろかった。
あ、おいらもアイデアが浮かんだ。
といっても、おいらは書くのはいつになるかわからないけど……。
巽さん、本当、こうやってすぐに上手な文章をかけるのを尊敬します。
見習猫シンΨ 2009/04/23(Thu)03:07:31 編集
Re:無題
う。説明抜けてたかも。
この手の方々は結構制約があるので……。呼び込んで貰わないと境界を越えられないとかね。
と言うか、本当言うと、霊狐にしてみれば、遊びで憑かれた人間助ける謂れも無いんだけど……それを言っちゃあ、お終いだ~ね(笑)
巽(たつみ)【2009/04/23 21:08】
こんにちは
こっくりさんか、確か小学校の時1~2度、やったことがあるかなぁ。
半信半疑だったけどね。
色々と質問した記憶は無いけど・・・、どうだっけなぁ?

まぁ、まさに触らぬ神に祟り無しって事で。(笑)
afool URL 2009/04/23(Thu)13:31:36 編集
Re:こんにちは
やった事、あるんですか(^^;)
何か意外だわ。
一時流行ったものねぇ。時々名前を変えて流行してるみたいだけど。
巽(たつみ)【2009/04/23 21:12】
懐かしい!
こっくりさんやったな〜
中学生の時に
半信半疑、だったけど
遊び半分でやってはいけません、ってことですよね。うん。
つきみぃ URL 2009/04/23(Thu)15:52:28 編集
Re:懐かしい!
つきみぃさんもやったんですか(^^;)
うん、遊び半分はいけません。
と言うか、遊び半分に応えてくる霊なんて……向こうも遊び半分かも?
巽(たつみ)【2009/04/23 21:14】
無題
私は一度もコワイ事には参加した事ないです>_<。
あぁ、聞くだけで怖いです。

今回は助けてもらえてよかったですねぇ。
そのままだと…どうなっちゃうのかなぁ。
ふわりぃ URL 2009/04/23(Thu)18:04:40 編集
Re:無題
その儘だと……怖いですよぉ?(←脅すな)
やっぱり遊び半分に関わっちゃいけませんね。
巽(たつみ)【2009/04/23 21:17】
こんばんは
狐の姉さんカッコイイね~♪
やたらと雑魚がいたら、確かに怒りますな。
冬猫 2009/04/24(Fri)00:53:33 編集
Re:こんばんは
然もその雑魚の所為で狐さんの株が落ちてるしー(^^;)
ちょっとしばきに出たくもなるよね♪
巽(たつみ)【2009/04/24 21:31】
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