〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
そう声を掛けられて、僕は周囲を見回した。場所は夕暮れの橋の上。欄干に凭れてぼけっと川面を眺めていたんだけれど、そんな僕の周りに、人の姿は無かった。
空耳か?――頭を掻きながらも欄干から身を起こした僕の足元で、ガラガラという異音と、それに続く水音。見れば、古いコンクリート製の橋の一角が崩れ落ち、今さっき迄凭れていた欄干迄が歪んで中空に浮いた様な状態になっている。もし、あの儘凭れていたら……僕はぞっとして、一歩二歩と後ずさった。
音を聞きつけたのだろう、近所からの野次馬が辿り着く前に、僕はその場を後にしていた。
「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
再びそう声を掛けられたのは繁華街の交差点。やはり見回してみるけれど、周囲の人込みは僕の事など眼中に無いかの様に、只々、流れて行く。
大体、あの声は子供の様でもあり、女性の様でもあり……そう、やや甲高いというイメージしか残されていなかった。聞こえてきた方向もはっきりとしない。耳の傍だった様でもあり、背後からだった様でもあり……。
ともあれ、先程の事もあり、僕は反射的にその場から身を退いていた。
すると――甲高く耳障りなブレーキ音。それにも拘らずスピードを殺し切れずに横滑りし、タイヤの焼ける異臭を漂わせる車。そして、それは先程迄僕が居た歩道に乗り上げて、信号機にぶつかってやっと停止した。周りに居た数人は慌てて逃げ、数人は身が竦んだか、逃げ遅れた。
もし、あの儘あそこに立っていたら……僕はきっと後者に入っていただろう。
騒ぎが拡大する中、僕は混雑に紛れ、その場から去った。
「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
三度の声に、僕はぎくりと身体を硬くした。電車を待つ、人気の無いプラットホーム。やはり、声の主らしきものの姿は無い。
居るのはどこぞで聞こし召して来たか、足元のふらつく中年サラリーマン位。
僕は嫌な予感がして、電車の到着を知らせるベルの響くホームの端から、一歩退いた。
やがて何事も無く滑り込んで来た列車に、乗り遅れまいと急ぐサラリーマン――その脚が縺れ、僕が先程迄居た場所に倒れ込んだ。あの儘あの場所に居たら、彼に背中を押される形で僕は列車の前に……。
ぽつぽつと降りて来た降車客が彼を見下ろす中、僕は改札口へとUターンした。
すっかり灯の落とされた住宅街をとぼとぼと歩きながら、僕はあの声が何者なのか、何故こうも次々と凶事に遭うのか、つらつらと考えていた。
取り敢えず危険を警告してくれているのだから、あれは悪いものではないのだろうか? しかし、これ程続け様に事故に遭う――遭い掛けるのも異常だ。それがあの声の所為でないという証拠も無い。
と――。
「ねえ」
僕は慌てて周囲を見回した!
今迄の事からしても、声の主を目で捉える事は出来ないのかも知れないと思いながらも、見回さずにはいられなかった。それは凶事の前触れであるかも知れなかったから。
案の定、姿は無い。
ところが、続いた言葉は違った。
「君、死にたいんじゃなかったの?」どこか、からかいを含んだ様な声音。
「!」僕は愕然として、動きを止めた。
「欄干から下の川を眺め、交差点から走る車の列を眺め、ホームからやがて列車の入る冷たい線路を眺め……そこに飛び込む事を考えていた筈の人が、何故逃げるのかな?」
……そうだ、僕は……死を望んで、行く当てもなく街を彷徨っていたのだった。川に飛び込んだら、車の前に、あるいは列車の前に飛び出したら……そんな想像をしつつ……。
なのに……。
危険を知らせる声に思わず振り返り、死を望む者には持って来いだったろう状況から、泡を食って逃れた。
本当に、死を望んでいるのなら……少なくともホームでは、退く事はなかった筈だ。
「僕は……」
「死なんて望んでないんだね?」声が先回りする。「只、安易な逃げ場を探していただけ……」
はっきりと、言われてしまった。確かにここ数日、嫌な事が続き、僕は落ち込んでどこかに消え去りたいと、そう思っていた――心算だった。
「何なら……招待しようか?」笑いを含んだその声に、僕はきっぱりと頭を振った。
「未だ、本当に死にたくはないみたいだ。誰だか知らないけど……有難う」
くすくす……とどこか嬉しげに笑う声は、夜の闇に消えて行った。
―了―
誰でしょうね?(^^;)
どこかのお節介な死神さんかも(笑)
そう声を掛けられて、僕は周囲を見回した。場所は夕暮れの橋の上。欄干に凭れてぼけっと川面を眺めていたんだけれど、そんな僕の周りに、人の姿は無かった。
空耳か?――頭を掻きながらも欄干から身を起こした僕の足元で、ガラガラという異音と、それに続く水音。見れば、古いコンクリート製の橋の一角が崩れ落ち、今さっき迄凭れていた欄干迄が歪んで中空に浮いた様な状態になっている。もし、あの儘凭れていたら……僕はぞっとして、一歩二歩と後ずさった。
音を聞きつけたのだろう、近所からの野次馬が辿り着く前に、僕はその場を後にしていた。
「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
再びそう声を掛けられたのは繁華街の交差点。やはり見回してみるけれど、周囲の人込みは僕の事など眼中に無いかの様に、只々、流れて行く。
大体、あの声は子供の様でもあり、女性の様でもあり……そう、やや甲高いというイメージしか残されていなかった。聞こえてきた方向もはっきりとしない。耳の傍だった様でもあり、背後からだった様でもあり……。
ともあれ、先程の事もあり、僕は反射的にその場から身を退いていた。
すると――甲高く耳障りなブレーキ音。それにも拘らずスピードを殺し切れずに横滑りし、タイヤの焼ける異臭を漂わせる車。そして、それは先程迄僕が居た歩道に乗り上げて、信号機にぶつかってやっと停止した。周りに居た数人は慌てて逃げ、数人は身が竦んだか、逃げ遅れた。
もし、あの儘あそこに立っていたら……僕はきっと後者に入っていただろう。
騒ぎが拡大する中、僕は混雑に紛れ、その場から去った。
「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
三度の声に、僕はぎくりと身体を硬くした。電車を待つ、人気の無いプラットホーム。やはり、声の主らしきものの姿は無い。
居るのはどこぞで聞こし召して来たか、足元のふらつく中年サラリーマン位。
僕は嫌な予感がして、電車の到着を知らせるベルの響くホームの端から、一歩退いた。
やがて何事も無く滑り込んで来た列車に、乗り遅れまいと急ぐサラリーマン――その脚が縺れ、僕が先程迄居た場所に倒れ込んだ。あの儘あの場所に居たら、彼に背中を押される形で僕は列車の前に……。
ぽつぽつと降りて来た降車客が彼を見下ろす中、僕は改札口へとUターンした。
すっかり灯の落とされた住宅街をとぼとぼと歩きながら、僕はあの声が何者なのか、何故こうも次々と凶事に遭うのか、つらつらと考えていた。
取り敢えず危険を警告してくれているのだから、あれは悪いものではないのだろうか? しかし、これ程続け様に事故に遭う――遭い掛けるのも異常だ。それがあの声の所為でないという証拠も無い。
と――。
「ねえ」
僕は慌てて周囲を見回した!
今迄の事からしても、声の主を目で捉える事は出来ないのかも知れないと思いながらも、見回さずにはいられなかった。それは凶事の前触れであるかも知れなかったから。
案の定、姿は無い。
ところが、続いた言葉は違った。
「君、死にたいんじゃなかったの?」どこか、からかいを含んだ様な声音。
「!」僕は愕然として、動きを止めた。
「欄干から下の川を眺め、交差点から走る車の列を眺め、ホームからやがて列車の入る冷たい線路を眺め……そこに飛び込む事を考えていた筈の人が、何故逃げるのかな?」
……そうだ、僕は……死を望んで、行く当てもなく街を彷徨っていたのだった。川に飛び込んだら、車の前に、あるいは列車の前に飛び出したら……そんな想像をしつつ……。
なのに……。
危険を知らせる声に思わず振り返り、死を望む者には持って来いだったろう状況から、泡を食って逃れた。
本当に、死を望んでいるのなら……少なくともホームでは、退く事はなかった筈だ。
「僕は……」
「死なんて望んでないんだね?」声が先回りする。「只、安易な逃げ場を探していただけ……」
はっきりと、言われてしまった。確かにここ数日、嫌な事が続き、僕は落ち込んでどこかに消え去りたいと、そう思っていた――心算だった。
「何なら……招待しようか?」笑いを含んだその声に、僕はきっぱりと頭を振った。
「未だ、本当に死にたくはないみたいだ。誰だか知らないけど……有難う」
くすくす……とどこか嬉しげに笑う声は、夜の闇に消えて行った。
―了―
誰でしょうね?(^^;)
どこかのお節介な死神さんかも(笑)
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Re:無題
あれも商売なんだろうか(^^;)
取り敢えず「死にたい」って言ってる人程、いざとなると逃げ足速かったり(苦笑)
取り敢えず「死にたい」って言ってる人程、いざとなると逃げ足速かったり(苦笑)
Re:こんばんは
そんな係りもあるんだろうか(笑)
逆に矢鱈と死に誘う係りとか。部署毎に張り合ってそうですな(^^;)
逆に矢鱈と死に誘う係りとか。部署毎に張り合ってそうですな(^^;)
Re:こんばんは♪
「死にたい」と言ってる人の殆どは、実は誰よりも「生きたい」と望んでいるとどこかで聞いた。
だからやっぱり実際の死の危険に遭遇すると……逃げるよねぇ(^^;)
だからやっぱり実際の死の危険に遭遇すると……逃げるよねぇ(^^;)
Re:こんにちは
そうそう、成績グラフがいつも最下位……なんて事はない筈ですが(笑)
そもそも人を殺すのが死神ではないと思うので……。死を司るには違いないけれど☆
ごめんよ、通行人達~(^^;)
そもそも人を殺すのが死神ではないと思うので……。死を司るには違いないけれど☆
ごめんよ、通行人達~(^^;)
Re:守護霊?
そうそう、いずれ嫌でも死期は来るんだし~(^^;)
寿命は全うしないとね。
寿命は全うしないとね。