〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
今日は、凝視しなかった。
僕はランの様子を見て、ほっと息をつく。
ここ一箇月程だろうか、毎日毎日、家の中をパトロールしては、何も無い壁の一点を凝視する、ラン。僕と同じ、十歳になるうちの飼い猫――雌の三毛猫だ。
「何を見てるの?」何度か、そう話し掛けてみたけれど、勿論ランは答えてはくれなかった。僕の声を聞いているのかいないのか、ぴくりと耳を動かすだけで、目さえ逸らさない。でも、見ているだけで、別に威嚇したりもしない。耳も寝かしたりしてない。只、じっと見ているだけ。
何を見ているんだろう?
ママに訊いても、きっと虫でも居るんでしょって、取り合ってくれない。虫なんて、いつ迄もおんなじ所に、それも毎日居る訳ないのに。
偶に早く帰って来たパパに訊いても、猫ってのはそういうもんだって、疲れた顔で笑うだけ。どういうもんだろう?
猫にはきっと、僕達人間には見えないものが見えているんだって、友達が言ってた。猫は霊感が強いんだ、とも。
人間に見えなくて猫に見えるもの。それって、何だろう……?――考えて行ったら、怖くなった。
どうしても、幽霊って言葉が浮かんできて。
僕はランの様子を見て、ほっと息をつく。
ここ一箇月程だろうか、毎日毎日、家の中をパトロールしては、何も無い壁の一点を凝視する、ラン。僕と同じ、十歳になるうちの飼い猫――雌の三毛猫だ。
「何を見てるの?」何度か、そう話し掛けてみたけれど、勿論ランは答えてはくれなかった。僕の声を聞いているのかいないのか、ぴくりと耳を動かすだけで、目さえ逸らさない。でも、見ているだけで、別に威嚇したりもしない。耳も寝かしたりしてない。只、じっと見ているだけ。
何を見ているんだろう?
ママに訊いても、きっと虫でも居るんでしょって、取り合ってくれない。虫なんて、いつ迄もおんなじ所に、それも毎日居る訳ないのに。
偶に早く帰って来たパパに訊いても、猫ってのはそういうもんだって、疲れた顔で笑うだけ。どういうもんだろう?
猫にはきっと、僕達人間には見えないものが見えているんだって、友達が言ってた。猫は霊感が強いんだ、とも。
人間に見えなくて猫に見えるもの。それって、何だろう……?――考えて行ったら、怖くなった。
どうしても、幽霊って言葉が浮かんできて。
僕の家は中古だけど一戸建て。広くはないけど庭に囲まれてるから、隣の家の音なんて、殆ど聞こえてこない。それとも、ランの耳には何か聞こえているんだろうか?
でも、問題の壁は家の外に面したものじゃなくて、真ん中辺りの仕切り壁なんだ。
見た目は、ベージュ色の壁紙が貼られているけど特にシミも何も見当たらない、只の壁。裏側はと言うと、階段下の物置になっている。壁の厚みはそんなに厚くもないから、どこかの小説みたいに人や猫が埋められてる、なんて事はない、と思う。
家自体も、別に怪しい所なんて無い、普通の家だ。二階建てで、家族三人と猫一匹には少し広いかなって思うけど、ママ達はもっと家族が増えた時の事を考えて、此処を買ったらしい。僕もその時が楽しみだ。
こんな所に幽霊なんて出るんだろうか? 少なくとも僕は見た事ないし、ママ達もそんな話をした事はない。ママは怖がりだから、そんなの見たらきっと大騒ぎするのに。
本当に、ラン、お前は一体何を見ているんだい?――僕はじっと壁を凝視する三毛猫を見る度に、何か不安を覚えていたんだ。
でも、つい一昨日の事。
急激に強くなった日差しに、ママが夏物を探して物置――そう、あの壁の向こうの物置だ――を漁っていると、ランはその横を摺り抜けて、物置の上の段の奥へと入り込んでしまった。
物置と言っても階段下のスペースだ。それ程広い訳じゃない。けど、何しろ大きな衣装ケースから、細々した箱迄、一緒に詰め込まれているんだ。猫は兎も角、人間じゃ腕一本、入れない。先ずはこの箱を除けないと。
ママがランを呼ぶのと文句を言うのを交互にしながら、箱を除けると、ランはそこに蹲っていた。
小さな僕が入って行って、おいでって抱き上げると、ランは特に抵抗もせずに僕の腕に収まった。
そしてそのランが蹲っていた場所には――何だか古い、茶色くなった紙の御札。何て書いてあるのか解らないし、何の意味があるのかも解らないけれど、僕はどきりとした。
どこかに貼ってあった物なんだろうか。最近剥がれたものじゃあない様子だ。
動かしていいものかどうかも解らず、僕はそれをその儘に、物置を飛び出した。
直ぐにママに話したけれど、ママはそんな物は知らないと大きく首を振った。心なしか、頬が蒼褪めている。本当に怖がりなんだから。勿論、そんなママだから、御札に触る事も出来ないし、僕が拾って来るのも駄目だって止める。
仕方なくパパの帰りを待って、事の次第を報告した。勿論、夏物の捜索は後回しになった。
「御札……ああ、あれか」話を聞くなり、パパはぽんと手を叩いた。
僕とママが説明を求めると、パパはすっかり忘れていたんだが……と苦笑しながら話してくれた。
僕が生まれて直ぐの事。この家を買う時、不動産屋に説明されたそうだ。この家の前の持ち主は「此処は出る」って言ってたって。何がって訊いたら、不動産屋は手の甲を上にして、手を胸の前にだらり――幽霊のポーズをした。だから安いんだって。後から文句を言われたくないから、先に教えて置くからよく考えてみて下さいねって。
怖がり家のママに相談したら即、断られる。けど、パパは幽霊なんて信じていなかったし、家の安さは魅力的だった様だ。
それでも気休めにって、神社でこの御札を貰って来て、目立たない所に貼って――今迄忘れてた。
御札のお陰かどうかは解らないけど、今迄この家に異変は無かった。ここ一箇月のランの行動を除けば。
「もしかして、これが剥がれたのを教えてくれてたのかな?」三毛猫の背中を撫でながら僕が言うと、パパは笑いながら頷く。そうかもなって。
「でも、剥がれてても何も起こらないんなら、問題ないんじゃないか?」やっぱり幽霊なんて信じてない、パパ。
けど、怖がり家のママは、パパが黙っていた事にも怒って、大変だった。何とか宥めたけど、パパは色々約束させられたらしい。新しいバッグって、幽霊には関係ないと思うけどなぁ。
そして昨日、僕はパパから聞き出した、あの御札の神社に行って、古い御札を返して――御札は期限が過ぎたら返納するもんなんだって――新しい御札を貰って来た。
あの御札の事が解って、それを物置から出しても、ランが相変わらずあの壁を凝視していたから。
釣られて凝視している内に、そこにどす黒いシミが浮き出してくるのが見えたから。
真っ黒くて、目だけが虚ろに白い、人の顔の形をしたシミが。
勿論、ママには内緒だ。数年後には僕がママにバッグを買って上げなきゃ。
そうして今日は、ランは壁を気にする事なく、家中をパトロールしている。
―了―
お宅の猫ちゃん、凝視してませんか?(←脅すな)
でも、問題の壁は家の外に面したものじゃなくて、真ん中辺りの仕切り壁なんだ。
見た目は、ベージュ色の壁紙が貼られているけど特にシミも何も見当たらない、只の壁。裏側はと言うと、階段下の物置になっている。壁の厚みはそんなに厚くもないから、どこかの小説みたいに人や猫が埋められてる、なんて事はない、と思う。
家自体も、別に怪しい所なんて無い、普通の家だ。二階建てで、家族三人と猫一匹には少し広いかなって思うけど、ママ達はもっと家族が増えた時の事を考えて、此処を買ったらしい。僕もその時が楽しみだ。
こんな所に幽霊なんて出るんだろうか? 少なくとも僕は見た事ないし、ママ達もそんな話をした事はない。ママは怖がりだから、そんなの見たらきっと大騒ぎするのに。
本当に、ラン、お前は一体何を見ているんだい?――僕はじっと壁を凝視する三毛猫を見る度に、何か不安を覚えていたんだ。
でも、つい一昨日の事。
急激に強くなった日差しに、ママが夏物を探して物置――そう、あの壁の向こうの物置だ――を漁っていると、ランはその横を摺り抜けて、物置の上の段の奥へと入り込んでしまった。
物置と言っても階段下のスペースだ。それ程広い訳じゃない。けど、何しろ大きな衣装ケースから、細々した箱迄、一緒に詰め込まれているんだ。猫は兎も角、人間じゃ腕一本、入れない。先ずはこの箱を除けないと。
ママがランを呼ぶのと文句を言うのを交互にしながら、箱を除けると、ランはそこに蹲っていた。
小さな僕が入って行って、おいでって抱き上げると、ランは特に抵抗もせずに僕の腕に収まった。
そしてそのランが蹲っていた場所には――何だか古い、茶色くなった紙の御札。何て書いてあるのか解らないし、何の意味があるのかも解らないけれど、僕はどきりとした。
どこかに貼ってあった物なんだろうか。最近剥がれたものじゃあない様子だ。
動かしていいものかどうかも解らず、僕はそれをその儘に、物置を飛び出した。
直ぐにママに話したけれど、ママはそんな物は知らないと大きく首を振った。心なしか、頬が蒼褪めている。本当に怖がりなんだから。勿論、そんなママだから、御札に触る事も出来ないし、僕が拾って来るのも駄目だって止める。
仕方なくパパの帰りを待って、事の次第を報告した。勿論、夏物の捜索は後回しになった。
「御札……ああ、あれか」話を聞くなり、パパはぽんと手を叩いた。
僕とママが説明を求めると、パパはすっかり忘れていたんだが……と苦笑しながら話してくれた。
僕が生まれて直ぐの事。この家を買う時、不動産屋に説明されたそうだ。この家の前の持ち主は「此処は出る」って言ってたって。何がって訊いたら、不動産屋は手の甲を上にして、手を胸の前にだらり――幽霊のポーズをした。だから安いんだって。後から文句を言われたくないから、先に教えて置くからよく考えてみて下さいねって。
怖がり家のママに相談したら即、断られる。けど、パパは幽霊なんて信じていなかったし、家の安さは魅力的だった様だ。
それでも気休めにって、神社でこの御札を貰って来て、目立たない所に貼って――今迄忘れてた。
御札のお陰かどうかは解らないけど、今迄この家に異変は無かった。ここ一箇月のランの行動を除けば。
「もしかして、これが剥がれたのを教えてくれてたのかな?」三毛猫の背中を撫でながら僕が言うと、パパは笑いながら頷く。そうかもなって。
「でも、剥がれてても何も起こらないんなら、問題ないんじゃないか?」やっぱり幽霊なんて信じてない、パパ。
けど、怖がり家のママは、パパが黙っていた事にも怒って、大変だった。何とか宥めたけど、パパは色々約束させられたらしい。新しいバッグって、幽霊には関係ないと思うけどなぁ。
そして昨日、僕はパパから聞き出した、あの御札の神社に行って、古い御札を返して――御札は期限が過ぎたら返納するもんなんだって――新しい御札を貰って来た。
あの御札の事が解って、それを物置から出しても、ランが相変わらずあの壁を凝視していたから。
釣られて凝視している内に、そこにどす黒いシミが浮き出してくるのが見えたから。
真っ黒くて、目だけが虚ろに白い、人の顔の形をしたシミが。
勿論、ママには内緒だ。数年後には僕がママにバッグを買って上げなきゃ。
そうして今日は、ランは壁を気にする事なく、家中をパトロールしている。
―了―
お宅の猫ちゃん、凝視してませんか?(←脅すな)
PR
この記事にコメントする
Re:おぉい!
凝視って言ったら子供か猫かな~って(^^;)
子供の凝視は苦手っす(汗)
瞬き位して~☆
厄除け黒猫咲ちゃん、変な御札よりご利益ありそう(^^)
子供の凝視は苦手っす(汗)
瞬き位して~☆
厄除け黒猫咲ちゃん、変な御札よりご利益ありそう(^^)
そうなのよぉ~!
歴代の猫たちがやってましたよぉ~!
天井を見上げて左から右へ目線が移動したり
すると思わずゾゾ~としました。
何かがフワフワと空中を漂っているかのようで!
先代のクーって猫はそういう時でも必ず傍にいて
くれたんだけど、キキはジーと見つめて暫くするとトットと母の部屋へ行ってしまうのよぉ~!
(T∇T)
天井を見上げて左から右へ目線が移動したり
すると思わずゾゾ~としました。
何かがフワフワと空中を漂っているかのようで!
先代のクーって猫はそういう時でも必ず傍にいて
くれたんだけど、キキはジーと見つめて暫くするとトットと母の部屋へ行ってしまうのよぉ~!
(T∇T)
Re:そうなのよぉ~!
キキちゃん(T-T)
ママを不安に落とすだけ落としといて、フォローは無しっすか(笑)
ママを不安に落とすだけ落としといて、フォローは無しっすか(笑)
Re:こんにちは
のりこちゃん連れて帰ったら、あちこち凝視しまくったりして(笑)
Re:にゃー
パパは信じてないからねぇ(^^;)
ほんの気休めなのさ~。
ほんの気休めなのさ~。
Re:巽が凝視したの?
してへんで~。
Re:こんばんわぁ~
ママさん、怖がりと言いつつ、バッグで誤魔化されている辺り……実は肝が据わってる?(^^;)
Re:無題
猫バカさんが凝視したら危ない、と……〆(。。)
シミ……点が三つ、適当に三角形に配置されてたら、それだけで顔に見えちゃいますよね(笑)
シミ……点が三つ、適当に三角形に配置されてたら、それだけで顔に見えちゃいますよね(笑)