〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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先日迄暮れる事を忘れたかの様に午後遅く迄も残っていた太陽の残滓。だが、ここ数日で着実に、落日は早まりつつあった。
「秋の陽は釣瓶落としとはよく言ったものね」学校の帰り道を急ぎながら、美由紀は呟いた。
午後六時半。既に陽は傾き、その光度を急速に減じつつある。駅前の寂れた商店街は、早、店仕舞いを始めている店もある。シャッターの降りた店は丸で彼女を拒絶している様で、女子高校生の一人歩きは些か心細い、そんな風景。
それにしてもシャッターにも店柄が表れるものだと、美由紀はそれらを横目に思った。
味も素っ気も無いグレーの物、店名が大きく書かれた物、可愛らしくも子供っぽい絵の描かれた物……。いずれも彼女が朝に此処を通る時には降りた儘の金属の壁達。
もう少し開けて置いてくれればいいのに――帰りは部活で遅くなる事もあり、殆ど立ち寄る事の無い商店街に、彼女はちょっと文句を言いたくなった。せめて暗がりを通り抜ける迄、と。
と、今にも閉まりつつあるシャッターに、ふとした違和感を感じて彼女は脚を止めた。
朝見た時と違う――それが違和感の正体だと気付くのに、然程時間は要しなかった。
ありふれたグレーのシャッターだった筈が、うっすらと、人の姿の様なものが浮かんで見える。描かれたものと言うよりは、まさに浮かび上がってきた染みの様な質感だった。シルエットからして成人男性だろうか。そして気になるのは、その首から天に伸びる一本の影――不吉な思いを抱き、美由紀は眉を顰めた。
それにしても何なのだろう? 看板を見上げればそこは小さな文房具屋。店の佇まいや看板の字の掠れ具合、それらから見ても古く、見るからに流行っていなさそうな店だった。
とてもシャッターの塗り替えをする余裕がある様にも見えないし、何より、シルエット以外には上塗りした様子も無いのだ。こんな不吉な絵だけを描き足す事などあるだろうか。
しかし、シャッターを降ろす作業をしている店主らしき男は、全く意に介した様子もない。シルエットを見て眉を顰める事もなければ――例えそれが意図して塗り替えたものだとしても――その出来栄えを確かめるでもない。言ってみれば、完全なる無視。俯き加減の視線は終始、伏せられた儘だった。
釈然としない思いを抱いた儘、それでも沈み行く陽を追う様にして、美由紀は家路を急いだ。
翌日の帰り道、その店の通用口辺りに黒い人集りがあるのを、美由紀は目にした。流れて来るお悔やみの言葉、ひそひそ話、それらから通夜の席だと知れた。然も、どうやら昨日のあの店主が経営難を苦に首を括ったらしいと聞いて、美由紀は嫌でもあのシャッターのシルエットを思い出さざるを得なかった。
男性のシルエットの首から伸びる一本の線――それは昨日抱いた不吉な想像と重なった。
恐る恐る、閉ざされた儘のシャッターを見遣り、彼女は目を疑った。そこには以前と同じ、ありふれたグレーの色が広がるばかり。どこにもシルエットなど、見付かりはしなかった。
見間違い? でも――薄気味の悪さに、美由紀は振り切る様にして、視線を帰路の先に向けた。
その先、可愛らしくも子供っぽい絵の描かれたシャッターに、その絵に全くそぐわないシルエットが浮かんでいるのを見て、彼女は思わず息を詰めた。
死の影――そんな筈がないと思いつつも、確かめる恐怖に負けた彼女は、翌日から通学路を変更した。あの店がどうなったかは、だから知らない。知りたくない。
もしあれが死の予兆だとしたら……もしも我が家に浮かぶのを見てしまったら、どうしたらいい?
―了―
そんな予兆は知りたくない様な、知りたい様な……(--;)
知ってどうにか出来るかどうかにもよるかな?
「秋の陽は釣瓶落としとはよく言ったものね」学校の帰り道を急ぎながら、美由紀は呟いた。
午後六時半。既に陽は傾き、その光度を急速に減じつつある。駅前の寂れた商店街は、早、店仕舞いを始めている店もある。シャッターの降りた店は丸で彼女を拒絶している様で、女子高校生の一人歩きは些か心細い、そんな風景。
それにしてもシャッターにも店柄が表れるものだと、美由紀はそれらを横目に思った。
味も素っ気も無いグレーの物、店名が大きく書かれた物、可愛らしくも子供っぽい絵の描かれた物……。いずれも彼女が朝に此処を通る時には降りた儘の金属の壁達。
もう少し開けて置いてくれればいいのに――帰りは部活で遅くなる事もあり、殆ど立ち寄る事の無い商店街に、彼女はちょっと文句を言いたくなった。せめて暗がりを通り抜ける迄、と。
と、今にも閉まりつつあるシャッターに、ふとした違和感を感じて彼女は脚を止めた。
朝見た時と違う――それが違和感の正体だと気付くのに、然程時間は要しなかった。
ありふれたグレーのシャッターだった筈が、うっすらと、人の姿の様なものが浮かんで見える。描かれたものと言うよりは、まさに浮かび上がってきた染みの様な質感だった。シルエットからして成人男性だろうか。そして気になるのは、その首から天に伸びる一本の影――不吉な思いを抱き、美由紀は眉を顰めた。
それにしても何なのだろう? 看板を見上げればそこは小さな文房具屋。店の佇まいや看板の字の掠れ具合、それらから見ても古く、見るからに流行っていなさそうな店だった。
とてもシャッターの塗り替えをする余裕がある様にも見えないし、何より、シルエット以外には上塗りした様子も無いのだ。こんな不吉な絵だけを描き足す事などあるだろうか。
しかし、シャッターを降ろす作業をしている店主らしき男は、全く意に介した様子もない。シルエットを見て眉を顰める事もなければ――例えそれが意図して塗り替えたものだとしても――その出来栄えを確かめるでもない。言ってみれば、完全なる無視。俯き加減の視線は終始、伏せられた儘だった。
釈然としない思いを抱いた儘、それでも沈み行く陽を追う様にして、美由紀は家路を急いだ。
翌日の帰り道、その店の通用口辺りに黒い人集りがあるのを、美由紀は目にした。流れて来るお悔やみの言葉、ひそひそ話、それらから通夜の席だと知れた。然も、どうやら昨日のあの店主が経営難を苦に首を括ったらしいと聞いて、美由紀は嫌でもあのシャッターのシルエットを思い出さざるを得なかった。
男性のシルエットの首から伸びる一本の線――それは昨日抱いた不吉な想像と重なった。
恐る恐る、閉ざされた儘のシャッターを見遣り、彼女は目を疑った。そこには以前と同じ、ありふれたグレーの色が広がるばかり。どこにもシルエットなど、見付かりはしなかった。
見間違い? でも――薄気味の悪さに、美由紀は振り切る様にして、視線を帰路の先に向けた。
その先、可愛らしくも子供っぽい絵の描かれたシャッターに、その絵に全くそぐわないシルエットが浮かんでいるのを見て、彼女は思わず息を詰めた。
死の影――そんな筈がないと思いつつも、確かめる恐怖に負けた彼女は、翌日から通学路を変更した。あの店がどうなったかは、だから知らない。知りたくない。
もしあれが死の予兆だとしたら……もしも我が家に浮かぶのを見てしまったら、どうしたらいい?
―了―
そんな予兆は知りたくない様な、知りたい様な……(--;)
知ってどうにか出来るかどうかにもよるかな?
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Re:無題
オネショだなんて、陽芽ちゃんに笑われますよ~?(^^)
しかし、確かにこんなのは見たくないですね(^^;)
しかし、確かにこんなのは見たくないですね(^^;)
Re:こんばんは♪
予知能力も考え物ですよね~。況してやこんな有難くない(汗)
Re:こんばんは
微妙ですね~。
人の死なんて本人は勿論、他人にも軽々に話せるものでもないし。
友達ならそれとなく「何かあったの?」とか相談に乗ったりも出来るけどねぇ。
人の死なんて本人は勿論、他人にも軽々に話せるものでもないし。
友達ならそれとなく「何かあったの?」とか相談に乗ったりも出来るけどねぇ。
おはよう!
最近は、商店の形態が変わってきて、郊外型の大店舗が増えて、オマケに小泉弱者切り捨て改革路線もあって、地方の寂れ方が激しいらしいもんねぇ。
なのに、未だに公共事業に頼って、高速道路作ろうとしている。
却って、人の流れ込みを諮った積りが、逆に人の流れ出しを生んでいるのだとか。
洒落にならないよなぁ。
小規模商店主には、難しい時代だねぇ。
あのねぇ冒頭部分の
>彼女を丸で彼女を拒絶している
彼女が多くない?
なのに、未だに公共事業に頼って、高速道路作ろうとしている。
却って、人の流れ込みを諮った積りが、逆に人の流れ出しを生んでいるのだとか。
洒落にならないよなぁ。
小規模商店主には、難しい時代だねぇ。
あのねぇ冒頭部分の
>彼女を丸で彼女を拒絶している
彼女が多くない?
Re:おはよう!
近所の商店街なんて、シャッター街と化してますもん(--;)
流石に怪しいシルエットは映りませんが。
高速道路ねぇ。環境問題もあり、ガソリンも高いのにどこ迄車社会にする気なんだか。
>あのねぇ冒頭部分の
>>彼女を丸で彼女を拒絶している
>
>彼女が多くない?
うおう! 丸で夜霧の投稿の様だ!(滝汗)
流石に怪しいシルエットは映りませんが。
高速道路ねぇ。環境問題もあり、ガソリンも高いのにどこ迄車社会にする気なんだか。
>あのねぇ冒頭部分の
>>彼女を丸で彼女を拒絶している
>
>彼女が多くない?
うおう! 丸で夜霧の投稿の様だ!(滝汗)
Re:無題
自分の家の玄関ドアにうっすらと浮かんでたら……怖いかも( ̄ω ̄;)
Re:(..;)
魔除けにゃんことゆっくりお休み下さい(^^)
朝起きたら枕元に黒い影が……じゃらしを咥えて待ってます(笑)
朝起きたら枕元に黒い影が……じゃらしを咥えて待ってます(笑)
Re:こんにちはっ
確かにどんよりですね~。そんなもの、朝から見た日には尚の事☆
いい事ならいいのにね。お目出度とか。
いい事ならいいのにね。お目出度とか。