〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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何気無く遠回りして通り掛かったのは住宅街にぽっかりと開いた空き地。日も暮れて、灯の点された家々の間で、そこだけが闇の色。
と、その闇の中にぽつりぽつりと小さな光が咲いた。
ぎょっとして脚を止め、改めて見れば――それは十数対の猫の眼だった。
我が家から十分程度の所に猫集会の会場があったとは知らなかった。私は頬を緩め、こちらに注目する猫達に突然の訪問を詫びた。
家が解体された跡だろうか、広い敷地にコンクリートの破片や木材が点在している。猫達はあるいはその上に席を占め、あるいは草を敷物とし、何故か一点を注視している。
そう、私を。
「悪いけど餌になる様な物は持ってないわよ」私は苦笑して言った。「じゃあね」
猫は嫌いではないが、十数匹もの猫となると何とも言えぬ迫力があった。殆ど瞬きすらせずに見詰めてくる瞳から逃れる様に、私は踵を返した。どうせ闖入者に驚いただけの事。私が居なくなればまた何事も無かったかの様に猫集会を続けるのだろう。
そう思っていたのだが――変わらず背中に視線が突き刺さる。精神的に敏感になっているのか、それが解る。
「何なのよ……」思わず不安が口に出た。
足早に、かなり広い空き地の前を通り過ぎ、やっと視線を振り切った所で私はほっと息をついた。猫を相手に大袈裟な、と苦笑が浮かぶ。
それにしても駅から家迄の間に、意外と色んな場所があるものだ――私は気紛れに通った道を反芻しながら家路を急ぐ。
商店街の小さな店、それらの間の暗い路地、闇の中にぽつりと浮かんだ鮮やかな紅は小さなお稲荷さんだった。何度も塗り替えられたらしい朱色の小さな鳥居が、小さな祠の前に並んでいた。よく見ようと思って近付いて、小さな狐の石像を落としてしまったのは失敗だった。慌てて拾って戻したけれど、よく見ると左の耳の先が欠けていた。更に慌ててお稲荷さんの祠に手を合わせる。こんな小さい祠だもの、本当に今欠けたものかどうかも解らないけど、一応謝っておこう、と。
そうして住宅街に入り、猫集会の空き地に差し掛かり……。それにしても本当に何だったんだろう?
と――何かの影が街灯の灯を遮った。
思わず振り仰いだ私の目に映ったのは、大きく口を開けた獣の姿。
立ち竦む私の顔の傍を掠め、それは地に降り立ち、軽い足音を立てながら走り去った。
心臓の鼓動が全身を震わせる。それが治まり掛けた頃、私は左耳の痛みにやっと気付いた。慌てて手をやると、耳の端が切れ、血が流れていた。大した傷ではない様だけれど……左耳?
左耳の欠けた狐の石像が脳裏に浮かび、先の獣の正体に思い当たった私は思わずそれの去った方を振り返り、怒鳴った。
「謝ったじゃないの!」
何処からともなく、猫の鳴き声が聞こえてきた。
本心から謝ったか?――そう言われている様に、私は感じた。
どうやら彼等が見ていたのは、私に付いて来た先の獣と、私の因果だった様だ。
―了―
十数匹の猫にじーっと見詰められたら……猫じゃらし買って来る!(笑)
と、その闇の中にぽつりぽつりと小さな光が咲いた。
ぎょっとして脚を止め、改めて見れば――それは十数対の猫の眼だった。
我が家から十分程度の所に猫集会の会場があったとは知らなかった。私は頬を緩め、こちらに注目する猫達に突然の訪問を詫びた。
家が解体された跡だろうか、広い敷地にコンクリートの破片や木材が点在している。猫達はあるいはその上に席を占め、あるいは草を敷物とし、何故か一点を注視している。
そう、私を。
「悪いけど餌になる様な物は持ってないわよ」私は苦笑して言った。「じゃあね」
猫は嫌いではないが、十数匹もの猫となると何とも言えぬ迫力があった。殆ど瞬きすらせずに見詰めてくる瞳から逃れる様に、私は踵を返した。どうせ闖入者に驚いただけの事。私が居なくなればまた何事も無かったかの様に猫集会を続けるのだろう。
そう思っていたのだが――変わらず背中に視線が突き刺さる。精神的に敏感になっているのか、それが解る。
「何なのよ……」思わず不安が口に出た。
足早に、かなり広い空き地の前を通り過ぎ、やっと視線を振り切った所で私はほっと息をついた。猫を相手に大袈裟な、と苦笑が浮かぶ。
それにしても駅から家迄の間に、意外と色んな場所があるものだ――私は気紛れに通った道を反芻しながら家路を急ぐ。
商店街の小さな店、それらの間の暗い路地、闇の中にぽつりと浮かんだ鮮やかな紅は小さなお稲荷さんだった。何度も塗り替えられたらしい朱色の小さな鳥居が、小さな祠の前に並んでいた。よく見ようと思って近付いて、小さな狐の石像を落としてしまったのは失敗だった。慌てて拾って戻したけれど、よく見ると左の耳の先が欠けていた。更に慌ててお稲荷さんの祠に手を合わせる。こんな小さい祠だもの、本当に今欠けたものかどうかも解らないけど、一応謝っておこう、と。
そうして住宅街に入り、猫集会の空き地に差し掛かり……。それにしても本当に何だったんだろう?
と――何かの影が街灯の灯を遮った。
思わず振り仰いだ私の目に映ったのは、大きく口を開けた獣の姿。
立ち竦む私の顔の傍を掠め、それは地に降り立ち、軽い足音を立てながら走り去った。
心臓の鼓動が全身を震わせる。それが治まり掛けた頃、私は左耳の痛みにやっと気付いた。慌てて手をやると、耳の端が切れ、血が流れていた。大した傷ではない様だけれど……左耳?
左耳の欠けた狐の石像が脳裏に浮かび、先の獣の正体に思い当たった私は思わずそれの去った方を振り返り、怒鳴った。
「謝ったじゃないの!」
何処からともなく、猫の鳴き声が聞こえてきた。
本心から謝ったか?――そう言われている様に、私は感じた。
どうやら彼等が見ていたのは、私に付いて来た先の獣と、私の因果だった様だ。
―了―
十数匹の猫にじーっと見詰められたら……猫じゃらし買って来る!(笑)
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こんばんは
着いて来ちゃいましたね^^
耳の傷くらいで良かったねうん。
ニャンズが助けてくれるのかと思ったのに
そうは問屋が卸さなかったなあ
私は…猫缶や煮干しを大量に与えて
お友達にしてもらう!
あ、でも後のえさ代が大変そうだな。
猫じゃらしの方が良いかも(笑)
耳の傷くらいで良かったねうん。
ニャンズが助けてくれるのかと思ったのに
そうは問屋が卸さなかったなあ
私は…猫缶や煮干しを大量に与えて
お友達にしてもらう!
あ、でも後のえさ代が大変そうだな。
猫じゃらしの方が良いかも(笑)
Re:こんばんは
これだけのにゃん数相手に猫じゃらし……考えてみたら危険かも!?(^^;)
ニャンズに助けて貰うにはやっぱり猫缶……?
ニャンズに助けて貰うにはやっぱり猫缶……?
Re:はは。怖い…
2回も紛れ込んでますか、猫集会!(笑)
猫達の視線の先には……さて?( ̄ー ̄)
猫達の視線の先には……さて?( ̄ー ̄)
Re:こんばんは♪
全部壊れてたら……ひーっ!
お稲荷さん……何でだろうね? 祀ってたりする割にどことなく妖しさと言うか何と言うか、神様より妖に近く感じるのは。狐に化かされる~なんて話とごっちゃになってるのかな。イメージが。

お稲荷さん……何でだろうね? 祀ってたりする割にどことなく妖しさと言うか何と言うか、神様より妖に近く感じるのは。狐に化かされる~なんて話とごっちゃになってるのかな。イメージが。
無題
お稲荷さん、おばあちゃんちの裏庭にもありました。
「お供えあげたら、絶対振り返っちゃダメ!」
って言われると・・・
余計に後ろが気になるんですよ。
何も言われてなければ、そもそも振り返る理由もないのに(笑)
「お供えあげたら、絶対振り返っちゃダメ!」
って言われると・・・
余計に後ろが気になるんですよ。
何も言われてなければ、そもそも振り返る理由もないのに(笑)
Re:無題
そ、そんな事言われたら余計に背後が気になりますよ、お祖母様(^^;)
で、振り返りました?(・・∥)ドキドキ
で、振り返りました?(・・∥)ドキドキ
こんにちは
夜に猫集会に出くわしたら、結構、気味悪いよねぇ。
昔、私の父が仏壇と神棚と小さなお稲荷さんの置物を一緒くたに置いていたことがあって。
離婚後もそのままにしてあったんだけど、霊感のある人から、あなたが近寄ると鳥肌が立つって言われたことがあって、「神棚とかを滅茶苦茶にしてるでしょう?」って訊かれたことがある。
それで慌てて、お稲荷さんを返しに言った事がある。(^_^;)
今は、どうなのかは知らない。
今でも、何かが見えるのかも。
昔、私の父が仏壇と神棚と小さなお稲荷さんの置物を一緒くたに置いていたことがあって。
離婚後もそのままにしてあったんだけど、霊感のある人から、あなたが近寄ると鳥肌が立つって言われたことがあって、「神棚とかを滅茶苦茶にしてるでしょう?」って訊かれたことがある。
それで慌てて、お稲荷さんを返しに言った事がある。(^_^;)
今は、どうなのかは知らない。
今でも、何かが見えるのかも。
Re:こんにちは
ひーっ!(^^∥)
やっぱり神様とかごっちゃにしない方がいいのかしら? それとも一緒くたにしてる位だから余りお供えとかしてなかったのかな、お父様。
霊感のある人ってそんな事も解るのか~。
やっぱり神様とかごっちゃにしない方がいいのかしら? それとも一緒くたにしてる位だから余りお供えとかしてなかったのかな、お父様。
霊感のある人ってそんな事も解るのか~。
Re:心臓って…なんだ
ひーっ!(((゜Д゜;)))
Re:こんばんわっ
首……ひーっ!(>_<)
しかしもし欠けたのが尻尾だったらどうなったんだろう? 人間には無いけど、お稲荷さんには大事なものっぽいし……。
しかしもし欠けたのが尻尾だったらどうなったんだろう? 人間には無いけど、お稲荷さんには大事なものっぽいし……。
Re:こんばんは
蟻の行列……確かにぞろぞろとちっこいのが行進してると、こっち来るな! って思いますね(^^;)
団体のおばちゃんはもっと怖いぞ(笑)
団体のおばちゃんはもっと怖いぞ(笑)
こんばんわ!
おぉ、お稲荷さんですか。。
祀っているとはいえ、何か異色ですよね^^;
猫集団に会えるなら・・・とは冗談として、実際に見つめられたら怖いだろうなぁ。。
そう言えばmoonさんの「振り返っちゃ駄目」っていうのは聞いたことあります。
お稲荷さんじゃなく幽霊ですけど^^;
振り返ったりすると、自分を見られた(若しくは見れる人だ)と思って付いて来ることがあるそうです。
幽霊って救いを求めてることが多いですからね、縋る気持ちもあるのでしょう。
後が気になる時は幽霊が誘ってるという話もあったりして。。そんな時振り返ると……((゜Д゜;;))
とまぁ、気にし過ぎないほうが良いんですけどね←オイ
良ければ小説の小ネタにどうぞw
ところで四行目、十数対ではなく十数体では?^^;
祀っているとはいえ、何か異色ですよね^^;
猫集団に会えるなら・・・とは冗談として、実際に見つめられたら怖いだろうなぁ。。
そう言えばmoonさんの「振り返っちゃ駄目」っていうのは聞いたことあります。
お稲荷さんじゃなく幽霊ですけど^^;
振り返ったりすると、自分を見られた(若しくは見れる人だ)と思って付いて来ることがあるそうです。
幽霊って救いを求めてることが多いですからね、縋る気持ちもあるのでしょう。
後が気になる時は幽霊が誘ってるという話もあったりして。。そんな時振り返ると……((゜Д゜;;))
とまぁ、気にし過ぎないほうが良いんですけどね←オイ
良ければ小説の小ネタにどうぞw
ところで四行目、十数対ではなく十数体では?^^;
Re:こんばんわ!
そう言えば都市伝説だか体験談だかでよくありますね。
交差点とかで明らかにあちらの世界の人が居る。見ちゃヤバイ――見える事を気付かれちゃヤバイと思って知らん顔をして通り過ぎようとすると……。
『見えてるんでしょ?』
そんなん耳元で囁かれたら嫌や~(>_<)
十数体の猫さんが居るので、その目は十数対になるかと☆
交差点とかで明らかにあちらの世界の人が居る。見ちゃヤバイ――見える事を気付かれちゃヤバイと思って知らん顔をして通り過ぎようとすると……。
『見えてるんでしょ?』
そんなん耳元で囁かれたら嫌や~(>_<)
十数体の猫さんが居るので、その目は十数対になるかと☆
ぎゃー!!
振り返りませんよ~!!
小心者ですから(涙
でも、らすねるさんのコメを読んで
振り返らなくって正解だったと
一安心してます。
私は「神様の食事姿を見てはダメ」っていう
意味だと勝手に解釈してたのですが、
悪いの(?)が付いてきちゃうんですね!
小心者ですから(涙
でも、らすねるさんのコメを読んで
振り返らなくって正解だったと
一安心してます。
私は「神様の食事姿を見てはダメ」っていう
意味だと勝手に解釈してたのですが、
悪いの(?)が付いてきちゃうんですね!
Re:ぎゃー!!
もし振り返ったら……神様がほのぼの食卓囲んでたら面白いですね(^^)♪
でも、言われたら余計に気になる(^^;)
でも、言われたら余計に気になる(^^;)