〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「あ、またここに鏡を置きっ放しにしてる」一瞬ぎくりとした事を誤魔化す様に、私は頬を膨らませた。「麻由美、お洒落に気を遣うんなら、後始末にも気を遣いなさいよ」
玄関の方から、朝は忙しいのーっ、と妹の麻由美の声。続いてドアの開閉音。毎度の事だけれど妹の朝を忙しくしているのは、高校が遠い事以上にこの洗面所に立っている三十分間だと思う。
やれやれと肩を竦めつつ、洗面台の鏡と対面になるように置かれた鏡を、家族銘々に割り振られた棚の麻由美の所にしまう。うちには三面鏡が無い。しかし、後ろ髪が気になるからと、麻由美は合わせ鏡にして背面を見ているのだ。
そして私は合わせ鏡が嫌いだった。
私が幼い頃、うちには三面鏡があった。当時赤ん坊だった麻由美は覚えていないかも知れないけれど。
私は鏡に向かい、両脇の鏡の角度を変えては、飽きもせず無数に映し出される不思議な光景に見入っていた。そうしている間は、ぎゃあぎゃあと煩く泣いては母を独り占めする妹の存在を忘れていられた、その所為もあったかも知れない。
視界には私一人しか居なかったから。
自分が一杯居る……一体何人居るんだろう?――そう思って数えた事もあった。結局直ぐに目が惑わされ、最後迄数え遂せた事はなかったけれど。
ある日、自分の後ろ頭に何かが付いているのが目に付いた。但し、何故かそれを映し出しているのは正面の鏡に映った無数の鏡の中のたった一枚だけ。ほぼ同じ角度から映っている他の鏡には只、私の黒い髪が映っているだけだった。
何だろう。と私はその一枚を凝視した。けれど、よくよく見ようと身を乗り出せば角度が変わってそれは映らなくなり、慌てて姿勢を戻せばやはりよく見えない。もどかしさに幼い私は苛立った。
それでもどうにか目の焦点を合わせた時――私は見た事を後悔した。
私の後ろ頭に付いていたもの、それは一本の角、だった。
骨の様に白くて、針の様に鋭い、そして幼心にも酷く禍々しく見えたのを覚えている。触れるもの全てを傷付けてしまいそうで、手で確かめるのも怖くて出来なかった。
どうしてこんなものが私の頭に――怖くて泣きそうになりながら母を求め、鏡を離れて振り返った時、私は気付いた。
角が映っていた一枚の鏡、それは私斜め右で、その方向には妹のベビーベッドがあった事に。
「……麻由美ちゃん、静かにしようね」そっと立って近付き、むずかる妹の頭をそぉっと撫でる。「あんたばっかり……お母さんを独り占めしたら、ずるいんだからね」
幼心に育った嫉妬の棘、それがあの白い角だったのかも知れないと、私は妙に納得し、姉として自分がどれ程自分自身を抑え込んでいたのかも、自覚した。
けれど、不思議とそれを自覚してしまうと、私の苛立ちは消えた。
もしかしたらあの頃の苛立ちは鏡に映った何かが見切れない、あのもどかしさに似ていたかも知れない。はっきりと見えてしまえば苛立ちは解消される。
後に残るのは、自分の中に妹をも傷付け兼ねない鋭い角があるという、恐怖のみ……。
以来、妹の面倒もよく見て、仲良し姉妹として育ってきた。
それでも、私はそれ以来三面鏡に見入る事がなくなった。合わせ鏡も避けた。
私の中の角がどうなっているのか――未だにあるのか、それとも更に成長しているのか?――見てしまうのが恐ろしくて。
―了―
合わせ鏡……何か無数にある一枚位、おかしなものが映ってそうな気がしません?(^^;)
玄関の方から、朝は忙しいのーっ、と妹の麻由美の声。続いてドアの開閉音。毎度の事だけれど妹の朝を忙しくしているのは、高校が遠い事以上にこの洗面所に立っている三十分間だと思う。
やれやれと肩を竦めつつ、洗面台の鏡と対面になるように置かれた鏡を、家族銘々に割り振られた棚の麻由美の所にしまう。うちには三面鏡が無い。しかし、後ろ髪が気になるからと、麻由美は合わせ鏡にして背面を見ているのだ。
そして私は合わせ鏡が嫌いだった。
私が幼い頃、うちには三面鏡があった。当時赤ん坊だった麻由美は覚えていないかも知れないけれど。
私は鏡に向かい、両脇の鏡の角度を変えては、飽きもせず無数に映し出される不思議な光景に見入っていた。そうしている間は、ぎゃあぎゃあと煩く泣いては母を独り占めする妹の存在を忘れていられた、その所為もあったかも知れない。
視界には私一人しか居なかったから。
自分が一杯居る……一体何人居るんだろう?――そう思って数えた事もあった。結局直ぐに目が惑わされ、最後迄数え遂せた事はなかったけれど。
ある日、自分の後ろ頭に何かが付いているのが目に付いた。但し、何故かそれを映し出しているのは正面の鏡に映った無数の鏡の中のたった一枚だけ。ほぼ同じ角度から映っている他の鏡には只、私の黒い髪が映っているだけだった。
何だろう。と私はその一枚を凝視した。けれど、よくよく見ようと身を乗り出せば角度が変わってそれは映らなくなり、慌てて姿勢を戻せばやはりよく見えない。もどかしさに幼い私は苛立った。
それでもどうにか目の焦点を合わせた時――私は見た事を後悔した。
私の後ろ頭に付いていたもの、それは一本の角、だった。
骨の様に白くて、針の様に鋭い、そして幼心にも酷く禍々しく見えたのを覚えている。触れるもの全てを傷付けてしまいそうで、手で確かめるのも怖くて出来なかった。
どうしてこんなものが私の頭に――怖くて泣きそうになりながら母を求め、鏡を離れて振り返った時、私は気付いた。
角が映っていた一枚の鏡、それは私斜め右で、その方向には妹のベビーベッドがあった事に。
「……麻由美ちゃん、静かにしようね」そっと立って近付き、むずかる妹の頭をそぉっと撫でる。「あんたばっかり……お母さんを独り占めしたら、ずるいんだからね」
幼心に育った嫉妬の棘、それがあの白い角だったのかも知れないと、私は妙に納得し、姉として自分がどれ程自分自身を抑え込んでいたのかも、自覚した。
けれど、不思議とそれを自覚してしまうと、私の苛立ちは消えた。
もしかしたらあの頃の苛立ちは鏡に映った何かが見切れない、あのもどかしさに似ていたかも知れない。はっきりと見えてしまえば苛立ちは解消される。
後に残るのは、自分の中に妹をも傷付け兼ねない鋭い角があるという、恐怖のみ……。
以来、妹の面倒もよく見て、仲良し姉妹として育ってきた。
それでも、私はそれ以来三面鏡に見入る事がなくなった。合わせ鏡も避けた。
私の中の角がどうなっているのか――未だにあるのか、それとも更に成長しているのか?――見てしまうのが恐ろしくて。
―了―
合わせ鏡……何か無数にある一枚位、おかしなものが映ってそうな気がしません?(^^;)
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Re:こんばんは(^^)
引き込まれる、とかおかしなものが映る、とかありますね、合わせ鏡。
やっぱり不思議な光景ゆえに?
やっぱり不思議な光景ゆえに?
おはようっす
7番目・・・49番目だっけが、自分の死んだ時の顔だとか、色々言われてるよね。
科学的にいうとあり得ないんだろうけどね。
合わせ鏡は、昔、時々したかなぁ。
ミラーハウスは嫌いだぁ~。(^_^;)
眩暈と吐き気がする。
因みに3Dのゲームも苦手。
科学的にいうとあり得ないんだろうけどね。
合わせ鏡は、昔、時々したかなぁ。
ミラーハウスは嫌いだぁ~。(^_^;)
眩暈と吐き気がする。
因みに3Dのゲームも苦手。
Re:おはようっす
3Dのゲームは目が回る(笑)
三面鏡で合わせ鏡は、小さい頃遊んでたっす。
三面鏡で合わせ鏡は、小さい頃遊んでたっす。
こんにちは♪
真夜中に合わせ鏡を覗くと未来の花婿さんの姿を
見ることが出来るとか?なんかそんなのもあり
ましたよね?
でも鏡ってなんか気味が悪いですね、
特に夜中は・・・・変なものが見えたら
どうしよう!なんて考えちゃうもので・・・
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ
見ることが出来るとか?なんかそんなのもあり
ましたよね?
でも鏡ってなんか気味が悪いですね、
特に夜中は・・・・変なものが見えたら
どうしよう!なんて考えちゃうもので・・・
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ
Re:こんにちは♪
夜中とか暗い所では見たくないですよね~(^^;)
背後に変なものでも映ったら……きゃ~っ☆
背後に変なものでも映ったら……きゃ~っ☆
Re:きょう夜霧は、正
夜霧は成長しないねぇ……。
Re:こんばんは
そう言えば三面鏡、最近見ませんねぇ。鏡台はあっても正面の一枚だけだし。
Re:無題
間違い探しですか(笑)
でも、変なものが映ったらやだ~☆
でも、変なものが映ったらやだ~☆