〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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今はどうしているんだろう――と、ふと思い出した人から、電話や某かの連絡が入る。そんな事が時折、起こる。
虫の報せとでも言うのだろうか。
実際には何日か前に同窓会の報せをそれぞれに受け取っていたり、何らかの連想から引き起こされるものなのかも知れないけれど。
それでも、あの人からの電話は全くの予想外で、そして何故直前にあの人を思い出したのか……私には解らなかった。
もう十年になるだろうか。あの人は当時所属していた創作系のサークルの先輩――それだけの存在だった。独特の世界観で精緻なイラストを描く人で、凄い人だとは思っていたけれど、それだけだった。同じく絵を自己表現の手段とする者としての嫉妬すらも感じなかった。それ程に、あの人は私とは世界を異にしていたのだろう。
どこか神経質な人で、私に限らず、後輩から声を掛ける事など、殆ど、無かった。勿論、向こうからも。サークル内で孤立しているという訳でもなかったけれど、本当に仲がよかったのは、ほんの二、三人だろう。その人達でさえ、絵に没頭している時のあの人には声も掛けようとはしなかった。もし、掛けたとしても、十中八九、無視されたのではないだろうか。
寂しくはないのかな、と遠目に見ていたけれど、あちらも私の事など、只の後輩の一人という認識だったに違いない。
それが何故、今になって電話を掛けてきたのだろう?
そして何故、私は今になってあの人を思い出したのか……。
私は取り止めのない考えを頭を振って追い払い、仕事の準備に戻った。ぼんやりしている時間など無い。
明日は夢に迄見た、初の個展なのだ。あれから十年、漸く私はここ迄来たのだ。何としても成功させなければ。
最初が肝心。無様な所なんて見せられない。絵の選定、配置、全てに神経を尖らせた。
だが、昂ぶった神経の所為か、ちょっとした事に、思わず言葉迄が棘となり、周囲の人間に突き刺さる。
私は手伝ってくれていた友人と仲違いを起こし、少し頭を冷やそうと、洗面所に立った。
冷たい水で顔を洗い、化粧を直し、やや落ち着いた所で鏡を見ていた私は、ふっと、またあの人を思い出した。
今の私……よく似ている。あの頃の、あの人に。
顔形ではない。纏う雰囲気と言うか、印象が。
神経質で、他人を寄せ付けない。話し掛ける事さえ許さない……。
そうだ、数日前、あの人を思い出したのも、鏡を見た直後だった。その時から、感じていたのかも知れない。あの人との相似を。
そしてあの人も、私にそれを感じ取ったのかも知れない。
何故なら、その日の電話で、こう言っていた。
『今度個展を開くんですってね。新聞に写真付きで紹介されてたよ。おめでとう。アドバイスなんておこがましい事は出来ないけれど……一つだけ。絵を描いているのは確かに自分自身の腕だし、構図や色を選ぶのも自分――だけど、絵は決して、たった独りでは出来ないから、ね』
あの日は、この人は何故今頃電話を掛けてきて、こんな事を言うのだろうと、不審に思うばかりだったのだけれど、あの人はきっと顔写真に表れた私の棘に気付いたのだ。
私は両手を広げ、じっと見詰めた。
確かに筆を握り、絵を描くのはこの右手。色合い、構図、それらを決めるのは私の頭、もしくは感覚。
でも、その感覚を培ってきたのはこれ迄の私の人生。そこには当然、今さっき仲違いをした友人や、他の人々が深く関わっている。たった独りで、私の人生という絵を描いてきた訳じゃない。そしてこれからも、描いていける訳じゃない。
あの人はこの心の棘の所為で、友人を失ったのかも知れない。全く交流が無かった私には、想像する事しか出来ないけれど。そしてだからこそ、同じ轍を踏ませまいと、きっと勇気を振り絞って、電話を掛けてくれたのだ。
私はぎゅっと手を握って、友人に謝ろうと心に決めた。幾ら初の個展で神経が昂ぶっていたとは言え、この所の私は本当に周りが見えなくなっていた。見えない目で、真実は描けない。
あの人はそれを教えてくれていたのだ。きっと、過去の自分と今の私を重ねて。
今はどうしているのだろう? 電話を貰った時には気にもしなかったけれど。
今度は私から電話を掛けてみよう。あの人も、私という絵の一部――そして私もきっとあの人という絵の一部だから。
―了―
短目を心掛けたいと思いつつ……長くなる(^^;)
虫の報せとでも言うのだろうか。
実際には何日か前に同窓会の報せをそれぞれに受け取っていたり、何らかの連想から引き起こされるものなのかも知れないけれど。
それでも、あの人からの電話は全くの予想外で、そして何故直前にあの人を思い出したのか……私には解らなかった。
もう十年になるだろうか。あの人は当時所属していた創作系のサークルの先輩――それだけの存在だった。独特の世界観で精緻なイラストを描く人で、凄い人だとは思っていたけれど、それだけだった。同じく絵を自己表現の手段とする者としての嫉妬すらも感じなかった。それ程に、あの人は私とは世界を異にしていたのだろう。
どこか神経質な人で、私に限らず、後輩から声を掛ける事など、殆ど、無かった。勿論、向こうからも。サークル内で孤立しているという訳でもなかったけれど、本当に仲がよかったのは、ほんの二、三人だろう。その人達でさえ、絵に没頭している時のあの人には声も掛けようとはしなかった。もし、掛けたとしても、十中八九、無視されたのではないだろうか。
寂しくはないのかな、と遠目に見ていたけれど、あちらも私の事など、只の後輩の一人という認識だったに違いない。
それが何故、今になって電話を掛けてきたのだろう?
そして何故、私は今になってあの人を思い出したのか……。
私は取り止めのない考えを頭を振って追い払い、仕事の準備に戻った。ぼんやりしている時間など無い。
明日は夢に迄見た、初の個展なのだ。あれから十年、漸く私はここ迄来たのだ。何としても成功させなければ。
最初が肝心。無様な所なんて見せられない。絵の選定、配置、全てに神経を尖らせた。
だが、昂ぶった神経の所為か、ちょっとした事に、思わず言葉迄が棘となり、周囲の人間に突き刺さる。
私は手伝ってくれていた友人と仲違いを起こし、少し頭を冷やそうと、洗面所に立った。
冷たい水で顔を洗い、化粧を直し、やや落ち着いた所で鏡を見ていた私は、ふっと、またあの人を思い出した。
今の私……よく似ている。あの頃の、あの人に。
顔形ではない。纏う雰囲気と言うか、印象が。
神経質で、他人を寄せ付けない。話し掛ける事さえ許さない……。
そうだ、数日前、あの人を思い出したのも、鏡を見た直後だった。その時から、感じていたのかも知れない。あの人との相似を。
そしてあの人も、私にそれを感じ取ったのかも知れない。
何故なら、その日の電話で、こう言っていた。
『今度個展を開くんですってね。新聞に写真付きで紹介されてたよ。おめでとう。アドバイスなんておこがましい事は出来ないけれど……一つだけ。絵を描いているのは確かに自分自身の腕だし、構図や色を選ぶのも自分――だけど、絵は決して、たった独りでは出来ないから、ね』
あの日は、この人は何故今頃電話を掛けてきて、こんな事を言うのだろうと、不審に思うばかりだったのだけれど、あの人はきっと顔写真に表れた私の棘に気付いたのだ。
私は両手を広げ、じっと見詰めた。
確かに筆を握り、絵を描くのはこの右手。色合い、構図、それらを決めるのは私の頭、もしくは感覚。
でも、その感覚を培ってきたのはこれ迄の私の人生。そこには当然、今さっき仲違いをした友人や、他の人々が深く関わっている。たった独りで、私の人生という絵を描いてきた訳じゃない。そしてこれからも、描いていける訳じゃない。
あの人はこの心の棘の所為で、友人を失ったのかも知れない。全く交流が無かった私には、想像する事しか出来ないけれど。そしてだからこそ、同じ轍を踏ませまいと、きっと勇気を振り絞って、電話を掛けてくれたのだ。
私はぎゅっと手を握って、友人に謝ろうと心に決めた。幾ら初の個展で神経が昂ぶっていたとは言え、この所の私は本当に周りが見えなくなっていた。見えない目で、真実は描けない。
あの人はそれを教えてくれていたのだ。きっと、過去の自分と今の私を重ねて。
今はどうしているのだろう? 電話を貰った時には気にもしなかったけれど。
今度は私から電話を掛けてみよう。あの人も、私という絵の一部――そして私もきっとあの人という絵の一部だから。
―了―
短目を心掛けたいと思いつつ……長くなる(^^;)
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Re:無題
そんな感じで!(^^;)
やっぱりその人のものの感じ方、考え方にはそれ迄周りの人達と培ってきたものが、多分に影響していると思うので。
やっぱりその人のものの感じ方、考え方にはそれ迄周りの人達と培ってきたものが、多分に影響していると思うので。
Re:こんばんは!
自分の過ちを認める事は難しく、更にそれを人に伝える事は尚難しい……多分。
でも、決して無駄にはならないと思います☆
でも、決して無駄にはならないと思います☆
こんにちは
そこまで何かを極めたこと無いわ。
いーなー、ある意味羨ましい。
何せ起用貧乏なもので。(^_^;)
絵もねぇ、昔は好きで良く描いたんだけどね。
美術とかも、4とか5(5段階評価で)が多かったんだけどね。
良く言われたのが、デッサンでは素晴らしい絵を描くのに、色を塗ると駄作になるって。(^_^;)
親が美術館とか、彼方此方連れていってくれたりしたら、ちょっとは違ったのかも。
何かにつけて、のめり込めない性格なんよね~。(-_-;)
いーなー、ある意味羨ましい。
何せ起用貧乏なもので。(^_^;)
絵もねぇ、昔は好きで良く描いたんだけどね。
美術とかも、4とか5(5段階評価で)が多かったんだけどね。
良く言われたのが、デッサンでは素晴らしい絵を描くのに、色を塗ると駄作になるって。(^_^;)
親が美術館とか、彼方此方連れていってくれたりしたら、ちょっとは違ったのかも。
何かにつけて、のめり込めない性格なんよね~。(-_-;)
Re:こんにちは
起用貧乏?(^^;)
美術、4、5は凄いじゃないですか(^^)
afoolさんは観察眼に優れていそうだから、デッサン巧いのかも?
美術、4、5は凄いじゃないですか(^^)
afoolさんは観察眼に優れていそうだから、デッサン巧いのかも?
Re:こんにちは♪
絵に限らず創作にはやはりその人の人生観の様なものが、大なり小なり表れるかと。
だから技量が同じ位の別々の人が、同じ物を描いたとしても、全く同じものにはならないかと。
だから技量が同じ位の別々の人が、同じ物を描いたとしても、全く同じものにはならないかと。
Re:こんばんわ~
一生懸命に一点集中すると、周りが見えなくなりがちですよね(^^;)
特に何かしてる時は「話し掛けないで!」ってなっちゃう(汗)
私も反省せねば☆
特に何かしてる時は「話し掛けないで!」ってなっちゃう(汗)
私も反省せねば☆
Re:こんばんは
ふっふっふ。
当然ツッコミます(笑)
当然ツッコミます(笑)