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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「新入りなんだけど……」そう言って少女が連れて来たのは怯え切った男の子だった。目はおどおどと周囲を見回し、危険な物は無いか、生存可能な場所か、そんな根源的、本能的な探索に必死の様子だ。新入りにはよくある事だが。
「スイ」古びて、打ち捨てられたビルの奥に陣取っていた少年が答えた。「何でもかんでも拾って来るな。此処だって食料も乏しいんだからな」
「解ってるよ、キル」スイ、と呼ばれた少女は口を尖らせた。十三、四だろうか。未だあどけなさを残している。「でも、『街』の外をふらふら歩いてたんだもの。あたしだって拾われなかったらって思ったら……」
 目を伏せ、その儘過去の憐憫に沈みそうな少女に、女の涙には敵わないとでも言いたげに、キルは手を振って言った。
「解った解った。先ず何か食わせてやれ。それでも落ち着かない様なら『彼女』の所へ連れて行け」
 ぴくり、男の子の耳が反応した様だった。幾らかは知性が残っているのかと、キルは興味を持った。
「うん」頷いて、スイは優しく男の子の手を引いた。

 現代では、異常な迄に低年齢化した犯罪者に対応する為に、子供達は十歳で身体的、精神的審査を受け、少しでも犯罪者の素質を有していると判断された者は、戸籍へのエントリさえされず、結婚も、子供を作りその遺伝子を残す事も許されない制度が採択されている。
 審査を無事に通る迄は彼等は一人前の人間としては扱われない。名前すら与えられない。普段使われているネームはあくまでも仮称であり、記号に過ぎない。戸籍へエントリされて初めて、正式な名が与えられる。
 そして審査を通過出来なかった子供達は、噂では精神を破壊され、廃人同様に環境の整った『街』の外を彷徨っているのだと言う。
 それは事実ではあったが、管理者達の誤算はその精神の破壊を免れた者達が居る事だった。彼等は少数ながら、街の外に彼等なりの共同社会を営みつつあった。

 そんな幾つかある共同体の一つに、キル達は居た。
 キルは元々、自分が審査に落とされ精神破壊を受け、しかしその破壊が失敗した事に気付くと、それを管理者達に気付かれないよう廃人の振りをして街を出る程、頭のいい子供だった。精神破壊が失敗したと知れれば生命の危険がある――そう悟ったのだ。
 そして廃人達の中にも僅かでも知性の残った人間を見付けては、食料の作り方や言葉等を教え直し、共同体を形作っていった。それでもこの五年間で十人、それが彼が拾えた数だった。
 彼等には結局名前は与えられなかった。
 キルやスイというのは『彼女』が付けてくれた名だった。
 数ヶ月前、娘だという少女を伴って街から出て来た女性。尤も、彼女も幾らかその知性を破壊されている様だった。精神を破壊された娘をケイコと呼んで頻りと回復させようとしていたがそれは叶わず、彼女は只、ケイコの母として、傍に居る。
 そして今ではこの共同体の子供達の母でもあった。
 キルと彼女の残った知識が子供達の生存を支えていた。

 それにしても街の中はガラガラだろうな――キルは時折そんな事を思う。人が溢れる街路を見ながら。決して賑やかでもなく、活気の欠片もない、只の人の群れ。人とされなかった者達の群れ。その殆どは子供。こういった共同体に拾われ、それなりの教育を受けられる程知性が残っている者は多くないのだ。後の者は劣悪な環境の中、本能的に身を守りはするものの、効率的に食料を得る方法も、病や怪我に対処する方法も知らず、死んでいく。
 奥から、幽かに『彼女』の歌声が聞こえてくる。いつも同じ歌。ケイコが好きだったのだろうか。他の歌は、街に置いて来てしまったのだろうか。
 今回の新入りは、果たしてどの程度意識が残っているものやら。
 犯罪者の素質――そんなものが本当に元々の彼の中にあったのだろうか。いや、それを言えばキルやスイの中にだって……。スイなど涙もろい普通の女の子だぞ。
 そう思って溜め息をついた時だった。
 奥からスイの悲鳴が聞こえてきた。

「どうした!?」慌てて駆け付けたキルの目に映ったのは、先の少年が『彼女』にナイフを突き付けている場面だった。「スイ!?」
「あたし……パンと干し肉を上げて、林檎を剥いていて……。それで、ナイフを置いたら急にあの子が取って……!」
 歌声のする『彼女』の部屋へ駆け込んだ、という訳か――キルはじりじりと間を詰めながら考える。こいつは元から『彼女』を狙って来たのか? 何故?
「お前」キルは名も知らぬ少年に言った。「感情を破壊されてないのか? 知性が残っているのか?」
 男の子は視界の端だけでキルを捉えて答えた。
「お前達みたいな不適合者とは違う」傲慢な、一言。
「そうか。審査に受かった訳だ。それで? やっている事は何だ? 女性に刃物を向けて――それは犯罪そのものじゃないのか?」
「この女が居るとお前達の様な不適合者の生存率が上がる。お前達は増え過ぎてるんだ。お陰で街を拡げたいのに拡げられないと街で不満が出ている。屑の為にどうして自分達が狭い街に閉じ籠もらなければならないんだ、と」
「自業自得だろう? その屑を見捨てて安全な籠の中に閉じ籠もったのはそっちだ」
「そんな知恵はお前達には要らない」冷たく言って、彼は一歩踏み出そうとした。茫然と、只ケイコを庇う様に抱いて立ち尽くす『彼女』に向かって。
 だが、スイの一言に脚が止まった。
「それで、貴方は街に帰れるの? 例え外に廃棄された者でも、人を殺して……。あの綺麗な街に戻れるの? 血に汚れて……!」
「……僕は、掃除をするだけだ。掃除をすれば埃も被る。それは落とせばいいだけだ」
「落ちない汚れもあるぜ」一瞬で間合いを詰め、キルはナイフを叩き落とした。
 そしてひょいっと小さな身体を肩に担ぎ上げると、暴れるのも構わず外に放り出した。
 二度と来るな。戻れるものなら街に戻れ――そう言い渡して。

 数日後。
「だから何でもかんでも拾って来るな! スイ!」怒鳴るキルの姿があった。
「だって街の監視員にも見捨てられて門の所で衰弱死し掛けてたんだもん」そう言う彼女の手には痩せ衰えたあの男の子が引かれていた。薄汚れ、あの日には見られた目の輝きも虚ろだ。
 キルは頭を抱えた。確かに、彼が成功しようと失敗しようと街に戻れない可能性は考えていた。それも自業自得、と思っていたのだが。この姿を見せられては……。
「解った。但し『彼女』の事もあるから、此処には置けない。別の共同体に預ける。それでいいな?」
「うん!」満面の笑みで、スイは頷いた。畑仕事で陽に焼けて、土埃さえ被った顔。だが、そんな汚れこそ落とせばいいだけだし、この儘でも彼女の笑みは魅力的だった。
 本当にどうして犯罪者の資質があるなどと診断されたのか――何気無くそう慨嘆したキルだったが、スイは当たり前の様に言った。
「催眠中だったから、聞いた話なんだけどね。お母さんの事、嫌いだって言ったらしいの。あたし。だってお母さん、あたしのお父さんを殺したんだもん」
「……」キルは絶句した。
 恐らくそれは彼女の答え如何ではなく、犯罪者の遺伝子を持つ者として弾かれたのだろう。彼女個人を見ずに。
 そして今また、邪魔になるからという理由で『彼女』を始末しようとさせる街。
「こっちから、見捨ててやるぜ」キルは呟いて、高くそびえる塀を半眼で睨んだ。
 果たして檻に入るべきは、そして入っているのはどちらだろう?――そう哂いながら。

                    ―了―

 何と無く『記憶尋問』パート2☆
 『彼女』とケイコ……はい、あの時の親子です。彼女にとってはケイコなのでそれで通しちゃってます。

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無題
どもども!
帰りが遅くて疲れちゃったので、顔見せだけっす(汗)
ランキングに参加されてる方の所は、ポチッとして帰りますのでお許し下さい。
( ̄ー ̄;)ゞわりぃわりぃ
猫バカ1番 URL 2008/05/03(Sat)00:23:42 編集
Re:無題
お疲れ様です!(^^)ゝ
忙しい時は無理しなくていいですよ~。
真里ちゃん達に疲れを癒して貰って下さいね♪
巽(たつみ)【2008/05/03 14:50】
こんばんは~♪
そうかぁ~破壊されなかった人が一握りでもいれば、そうやって共同体が出来て、いつしか大きくなっていき・・・・で、今度は抹殺されかねない!怖ろしい世界だと思いつつ、ひょっとして本当に近未来の世界か?等とも思ってしまうネ!
クーピー URL 2008/05/03(Sat)00:40:39 編集
Re:こんばんは~♪
隔離や抹殺という行為が犯罪だというのに中の人達が気付いてないのが恐ろしい(--;)
因みに外での平均寿命は11~12歳位……かな。
巽(たつみ)【2008/05/03 14:52】
こんばんは
『尋問』を読み直してたら遅くなっちゃった。

あんな審査を通る人間が、町がいっぱいになるほど増えるなんてね。
精神を破壊しなきゃ抵抗されるって解ってるから精神破壊してから町外に出してるんだろうけど、強い精神力の子供が少しでもいてホッとした。

でも町に対抗する反乱軍組織するには、まだ人数が足りないね。残念
冬猫 URL 2008/05/03(Sat)01:08:40 編集
Re:こんばんは
うん、数は全く足りないです。ごく稀に破壊を逃れた子達なので。
中の人達、人数が増えてると言うよりは高齢化が進み、医療施設等が多数必要になっているというのもあります。ベッドだの生命維持装置だの置くのは場所取りますからねぇ。後は単に贅沢になってきてたり。
巽(たつみ)【2008/05/03 14:55】
こんばんは
生まれ持っての犯罪者なんていないのに
結局どっちが犯罪を犯してるのかわかんないよね
なっち 2008/05/03(Sat)01:10:48 編集
Re:こんばんは
寧ろ遺伝子で差別しようって辺り、中の人達の方が犯罪的ですな。
然も邪魔になったら始末しろなんてのは完全に犯罪。
その自覚が無いのが一番困るよね。
巽(たつみ)【2008/05/03 14:58】
こんばんは~☆
新たな展開ですね~。ちょっと『No.6』を思い出しました。あれも政府にとって都合の悪いコミュニティが出てくるんですよね。
外で暮らしてる人たちの方が逞しいし、よっぽど人間らしいんじゃないのかなぁ
あすか URL 2008/05/03(Sat)02:06:42 編集
Re:こんばんは~☆
確かにある意味人間らしいかも。
元々絶対に罪を犯さない人間なるものが存在するのかどうか? どんな善人でも怒りの感情はあるし、それらの感情を持たない人は善人たり得ない。悪を見て怒りを覚えない人は善人とはなれないでしょう。只その怒りを誘発するものが何であるか、そして怒りの発露がどういったものであるかが善人と悪人を隔てる――様な気がする。
巽(たつみ)【2008/05/03 15:03】
無題
おはようございます(^o^)丿
町の外はそういう状態だったんですね!
・・・外でも中でも大変そう。
考えさせられるお話です。
moon URL 2008/05/03(Sat)10:24:47 編集
Re:無題
外、もうちょっと悲惨な状況もあるのですが、今回精神破壊を逃れたキル君達メインに書いたので割と皆しっかりしてますね。
巽(たつみ)【2008/05/03 15:05】
こんにちは
これとは話が違ってくるけど、選民思想みたいなものは、将来起こってくるかも。

既に、遺伝子の塩基の配列の解明はほぼ完了していて、どんな遺伝子を持っているのかも解明されつつあるとか。

実際、精子バンクなんてものもあるしねぇ。

金持ちや政治家-既に2世・3世の世界-を中心に、自分たちに都合のいい社会が、形成される可能性はあると思う。
afool URL 2008/05/03(Sat)12:12:38 編集
Re:こんにちは
確かにね。金を持ってりゃ子供の優劣迄思いの儘……なんて世界になったらそれはそれで嫌だなぁ。大体、人間のやる事に完璧は無いし、同じ遺伝子から形作られたとしても優れた人になるかどうか? また身体的に優れていたとしても精神的にどうか? プライドだけ高いお馬鹿のしでかした事は歴史を紐解けば枚挙に暇が無いのにね。
巽(たつみ)【2008/05/03 15:14】
こんにちは~
うーん…昔読んでた新井素子さんの世界観にかなり近いですね。前回のお話は、あまりそんなこと思わなかったけど。
犯罪者の遺伝子がどこまで本当か、懐かしいなあ、『46番目』の先生の講義でそういうのがありましたね(笑)
みけねこ URL 2008/05/03(Sat)13:58:46 編集
Re:こんにちは~
犯罪者の遺伝子なんて生きるもの全員にあると言えば、あると思う。生物として生きる為に他者を押し退ける遺伝子。
でも人間にはそれを制御したり、人間として生きる為に他者と協力する遺伝子もあると思うにゃ。
中の人達はその辺が解ってません。
巽(たつみ)【2008/05/03 15:18】
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