〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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ぼんやりと車窓を眺めていたら、おかしなものが目に映った。あれは何だ、とガラスに顔を近づける。
一見、畑の中に立つ、只の大きな木だ。樹齢何年とか、そんな事は判らないけど、かなり歳を取っていそうだ。只おかしいのはその太い幹におっきな穴がぽっかりと開いている事。ほぼ真円で、自然に開いたものだとは思えない。
僕は田舎のお婆ちゃんちに妹と二人だけで行く予定だったんだけど――やっぱり不思議そうな顔をした妹の手を引いて、次の駅で電車を降りていた。
幸い、例の木は駅からちょっと線路沿いに戻った所にあった。
見れば見る程大きな木で、小二の妹は勿論、小六の僕が十人、手をつないでも囲み切れないんじゃないかと思った。そしてあの穴は僕が背伸びしてやっと指先が届く位の所に下端があった。切り口は綺麗だけど、迂闊に手を出すと棘が刺さりそうだった。
「お兄ちゃん、何なの? この穴」妹にそう訊かれたけど、僕だって首を傾げるしかない。仕方なく辺りを見回してみるけど、見付かるのは何かの石の土台と、木の板――何か小さな小屋みたいなのを作っていた様に思えるけど、古くて一部腐ってる所もある。それと小さな湯飲み茶碗。これも古いのか土だらけで、欠けている。
元は何かがあった場所なんだろうな、とは思われた。でも、今それは捨てられ、この木の様にぽっかり、場に穴が空いている。
僕はやっぱりあの穴が気になって、どうにかして上ってみようとした。背伸びして手がぎりぎり届くなら、この石段を踏み台にすれば、手を掛けて自分の身体を持ち上げる事だって――そう思って石段に手を伸ばした時だった。
僕と妹の名前を呼ぶ、お父さんとお母さんの声が、来た道の方から聞こえた。
「昔この場所には小さな神社があったんだけどなぁ」結局、僕達だけでの小旅行が心配だったお父さん達は、同じ列車の別の車両にこっそり、乗っていたらしい。無事、僕達がお婆ちゃんちに着けば黙って帰る心算だったけど、途中下車したから慌てて跡を付けて来たんだって。心配性だなぁ、ってこの行動じゃ言えないか。「この木は御神木だったんだ」
御神木――神社なんかで注連縄の掛かっている、大抵は大きな木だ。なるほど、そう言われればこの木、穴が無ければ立派だろうし、近くに散らばっているのも祠の跡の様だ。
「いつの間に壊されたんだろうなぁ。神社なんてそうそう無くなるもんじゃないのに……」
「本当にね。どうして壊されたのかしら?」お母さんが首を傾げる。
「神様が居なくなっちゃったんじゃない?」無邪気に、妹がそう言った。
そうかもね、とお父さん達は笑っていたけど、僕は案外それが真実なんじゃないかと思う。あのぽっかり空いた穴は、神様だか何だかが抜けた跡なんじゃないかって。
だって、穴の周りの棘は裏表どちらから見ても、外に向けて立っていたんだもん。丸で何かが中から破裂でもして飛び出したみたいに。
お父さん達に手を引かれて、僕達は駅に戻る事になった。でも、僕は一つ気になる事がある。
一回だけ、とお父さんに肩車して貰って穴を覗き込んだ時、木の中心部の陽も差さない所に、何か光るものが二つ……目の様に光っていた。それは動物の様で、そうではない様で……僕は慌てて目を逸らし、下ろして貰った。鳥肌が立っていた。
神様が立ち去って、空き家となったこの木に、次に棲み付くのは何なんだろう?
―了―
久し振りにお題です。
何が棲むかは……ご想像にお任せします(^^;)
僕は田舎のお婆ちゃんちに妹と二人だけで行く予定だったんだけど――やっぱり不思議そうな顔をした妹の手を引いて、次の駅で電車を降りていた。
幸い、例の木は駅からちょっと線路沿いに戻った所にあった。
見れば見る程大きな木で、小二の妹は勿論、小六の僕が十人、手をつないでも囲み切れないんじゃないかと思った。そしてあの穴は僕が背伸びしてやっと指先が届く位の所に下端があった。切り口は綺麗だけど、迂闊に手を出すと棘が刺さりそうだった。
「お兄ちゃん、何なの? この穴」妹にそう訊かれたけど、僕だって首を傾げるしかない。仕方なく辺りを見回してみるけど、見付かるのは何かの石の土台と、木の板――何か小さな小屋みたいなのを作っていた様に思えるけど、古くて一部腐ってる所もある。それと小さな湯飲み茶碗。これも古いのか土だらけで、欠けている。
元は何かがあった場所なんだろうな、とは思われた。でも、今それは捨てられ、この木の様にぽっかり、場に穴が空いている。
僕はやっぱりあの穴が気になって、どうにかして上ってみようとした。背伸びして手がぎりぎり届くなら、この石段を踏み台にすれば、手を掛けて自分の身体を持ち上げる事だって――そう思って石段に手を伸ばした時だった。
僕と妹の名前を呼ぶ、お父さんとお母さんの声が、来た道の方から聞こえた。
「昔この場所には小さな神社があったんだけどなぁ」結局、僕達だけでの小旅行が心配だったお父さん達は、同じ列車の別の車両にこっそり、乗っていたらしい。無事、僕達がお婆ちゃんちに着けば黙って帰る心算だったけど、途中下車したから慌てて跡を付けて来たんだって。心配性だなぁ、ってこの行動じゃ言えないか。「この木は御神木だったんだ」
御神木――神社なんかで注連縄の掛かっている、大抵は大きな木だ。なるほど、そう言われればこの木、穴が無ければ立派だろうし、近くに散らばっているのも祠の跡の様だ。
「いつの間に壊されたんだろうなぁ。神社なんてそうそう無くなるもんじゃないのに……」
「本当にね。どうして壊されたのかしら?」お母さんが首を傾げる。
「神様が居なくなっちゃったんじゃない?」無邪気に、妹がそう言った。
そうかもね、とお父さん達は笑っていたけど、僕は案外それが真実なんじゃないかと思う。あのぽっかり空いた穴は、神様だか何だかが抜けた跡なんじゃないかって。
だって、穴の周りの棘は裏表どちらから見ても、外に向けて立っていたんだもん。丸で何かが中から破裂でもして飛び出したみたいに。
お父さん達に手を引かれて、僕達は駅に戻る事になった。でも、僕は一つ気になる事がある。
一回だけ、とお父さんに肩車して貰って穴を覗き込んだ時、木の中心部の陽も差さない所に、何か光るものが二つ……目の様に光っていた。それは動物の様で、そうではない様で……僕は慌てて目を逸らし、下ろして貰った。鳥肌が立っていた。
神様が立ち去って、空き家となったこの木に、次に棲み付くのは何なんだろう?
―了―
久し振りにお題です。
何が棲むかは……ご想像にお任せします(^^;)
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Re:こんばんは
有難うございます(^^)
欲やエゴかぁ。元神社という土地柄ならそれも溜まってそうですね(^^;)
願掛けとかある意味そのものやもんね。
欲やエゴかぁ。元神社という土地柄ならそれも溜まってそうですね(^^;)
願掛けとかある意味そのものやもんね。
Re:こんばんわ
付喪神、いいなぁ(^^)
子供だけでも乗り換え無しの列車に乗せちゃえば安心♪ とか思ってたら!(笑)
子供の好奇心は怖いぞ♪
子供だけでも乗り換え無しの列車に乗せちゃえば安心♪ とか思ってたら!(笑)
子供の好奇心は怖いぞ♪
こんばんは♪
物の怪だと思いまぁ~す!
私も、二人が穴に入り込んでしまって・・・・・
異次元世界?霊界?魔界?そんな所へ行ってしまうのかな?と思ってしまいました。
両親がいてくれて良かった!と安心しました。
(=^_^=) ヘヘヘ♪
私も、二人が穴に入り込んでしまって・・・・・
異次元世界?霊界?魔界?そんな所へ行ってしまうのかな?と思ってしまいました。
両親がいてくれて良かった!と安心しました。
(=^_^=) ヘヘヘ♪
Re:こんばんは♪
物の怪の可能性高し!
例え去ったとしても神様とか居た場所なんて、普通の場じゃなくなってると思うんですよね。もしくは普通の場じゃないから、居た。
そんな場所に普通のものは先ず、棲み付かない気がする。
例え去ったとしても神様とか居た場所なんて、普通の場じゃなくなってると思うんですよね。もしくは普通の場じゃないから、居た。
そんな場所に普通のものは先ず、棲み付かない気がする。
無題
どもども!
神隠しにでも会うのかと思ったら、両親が後をつけてたんですね~w
心配性なのがダメとは言わないけど、それじゃ~ミステリー系小説にならないじゃん(笑)
神様が出て行った後に住み着くとしたら、それはやっぱり悪魔なんじゃない?
神隠しにでも会うのかと思ったら、両親が後をつけてたんですね~w
心配性なのがダメとは言わないけど、それじゃ~ミステリー系小説にならないじゃん(笑)
神様が出て行った後に住み着くとしたら、それはやっぱり悪魔なんじゃない?
Re:無題
つけてたんですよ(笑)
神様が出て行った後……やっぱり棲み付くのは対極のモノか、より階層の低いモノか……。
神様が出て行った後……やっぱり棲み付くのは対極のモノか、より階層の低いモノか……。
Re:こんばんは
子供は「気になる!」と思ったらそれしか見えませんからね~(^^;)
お父さん達も心配する筈です。これで当分、兄妹が二人だけで旅行に出る機械は無いでしょう(笑)
お父さん達も心配する筈です。これで当分、兄妹が二人だけで旅行に出る機械は無いでしょう(笑)
Re:あなー
夜霧か!∑( ̄□ ̄;)
未だ緑化狙ってたんだな。
未だ緑化狙ってたんだな。
Re:無題
それもファンタジーですねぇ(^^)
妖怪は昔の神様――特に自然神――の零落した姿、という説もあるそうですから、案外そうかも?
妖怪は昔の神様――特に自然神――の零落した姿、という説もあるそうですから、案外そうかも?
こんにちは
10人手を繋いでもは、ちょっと行き過ぎじゃない?
小6なら、両手を伸ばせば130cmぐらいはある。
10人手を繋いだら13mだよ。
計算すると幹の直径4m以上ある。
穴の中にはねぇ、モモンガか何かにしておこう。(笑)
だって妖のものなら、覗いてしまった以上、ただでは済まない。(゚o゚)コワイヨー(笑)
小6なら、両手を伸ばせば130cmぐらいはある。
10人手を繋いだら13mだよ。
計算すると幹の直径4m以上ある。
穴の中にはねぇ、モモンガか何かにしておこう。(笑)
だって妖のものなら、覗いてしまった以上、ただでは済まない。(゚o゚)コワイヨー(笑)
Re:こんにちは
でか過ぎ?(笑)
まぁ、そこは子供の概算なので(^^;)
モモンガが巣食ってたら……可愛い♪
モモンガ、夜行性だから昼間は未だ家に籠もってたのかもねー^^
まぁ、そこは子供の概算なので(^^;)
モモンガが巣食ってたら……可愛い♪
モモンガ、夜行性だから昼間は未だ家に籠もってたのかもねー^^
Re:今更ながらに
それだと何だか好々爺然としたお爺さんでも出したくなる~^^;
空き家にならな~い(笑)
空き家にならな~い(笑)
Re:無題
黒猫(笑)
確かに陽も届かない所に居る黒猫は目だけキラーン
確かに陽も届かない所に居る黒猫は目だけキラーン