忍者ブログ
〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin Link
「昨日夜霧が出ていたのは知っていますが、睡眠薬を飲んでしまったので、その時間迄は……意識朦朧として、記憶していないです」
「それで今日、夜霧がいつ出ていたのか確かめたいから、此処で会おうとかお願いしなかった? その男」
「ええ……。どうやって調べるのかとか、色々訊きたい事はあったんですけど、此処に来れば解ると言われて……。あの、隆男先輩はどうしてこちらへ?」
 大学の部活の後輩の、在学当時と全く変わりない非常に頼りない天然振りに溜め息をついて見せながら、宮野隆男は高架下の騒音に負けない声で怒鳴った。
「昨夜近所で通り魔事件があった様な所を、夕暮れにほけほけ歩いてる馬鹿を見掛けたからだ!」
「……ほけほけ歩いてる馬鹿って……もしかして私ですかぁ!?」心底心外そうに、香乃子は訊き返したのだった。因みに周囲に彼等以外の人影は――今の所――無い。
 夏とは言え時刻は午後七時も回り、人々は涼しい所に引き篭もってしまっている。それでなくともこの辺りは高速道路の騒音も手伝って、付近住民も窓を開け放つ事は殆ど無いのだ。
 そんな所で起きた事件。
 騒音と、家々の防音措置の為に悲鳴も届かず、また目撃者も居なかった。
 只一人を除いて。

「私の部屋は現場近くのマンションの三階なんですけど、昨夜は防音が効いてるのをいい事に締め切って大音量で音楽を聴いてたんですけど、少し外の空気を入れようかなって窓を開けてみたんですよ。蒸し暑かったし」こんな所で立ち話も何ですけど、先輩じゃマンションに入れませんからね、と苦笑しつつ、香乃子は語った。「けど、生憎の霧で却って湿気るだけだと思って直ぐに閉めたんですけどね。それで、その直前に車の騒音に混じって、女の人の悲鳴の様なものが……」
「霧は見れば解るだろうに……。この騒音と霧の中、よく窓を開けようと思ったな」宮野の呆れ声。
「だからちょっとだけですよぉ」香乃子は頬を膨らませる。「空気を入れ替えようと思っただけです。霧が真っ白で、ちょっと涼しそうに見えたんですよね。ドライアイスみたいで」くるりと笑顔になる。丸で子供の様な表情の目まぐるしい変化だ。
「はぁ……。それで?」溜め息をつきつつも、先を促す。
「あ、悲鳴の様なものが聞こえたんですけど、霧で何も見えなかったし、甲高い車やバイクのブレーキ音かな、位に思ったんです。それともこのマンションの入居者の誰かがふざけてるのかなぁって。それで窓を閉めて……やっぱり蒸し暑くてよく眠れなかったので、睡眠薬を飲んで……ぼーっとしてる間に寝ちゃいました。それで朝、目が醒めたら外が騒ぎになってて……。このマンションにも聞き込みに来たお巡りさんが居て、その時に昨夜の話をしたら、さっき先輩が仰った様に、検証したいから此処で会おうって話になって……。現場からはちょっと離れてるけど、余り生々しい現場は見たくないだろうからって」
「……本当に警官だった? その男」
「ちゃんと手帳持ってましたよ」
「……今は警察手帳じゃねぇんだよ!」堪らず、宮野は怒鳴る。「ったく、馬鹿が……」
 それにしても、どうも香乃子のテンポは人とずれている。警官の身分証明のデザインが変わってからもう何年経つのか。
「あれ? あ、そう言えばそうですね」口を押さえるタイミングも全くずれている。
「お前な、そんな怪しい自称警官と、こんな場所で二人で会って、昨日の茶髪女の二の舞になるとか考えなかったのか?」
「でも……あの自称お巡りさん、本当の捜査員に混じってこの付近全部聞き込みしたのかしら? どうしてそんな事を?」
「お前みたいに何か聞いたか見たかした奴が居ないか、探ってたんだろ。しっかりそれに引っ掛かってこんな所迄来やがって……」
「ええ? でも、昨夜の事はもう全部話しましたし――結局何も見てないし、悲鳴を聞いた時間さえ解らないって……」
「お前が嘘をついてるか、ど忘れしてるのを思い出すかも知れない――だから始末しちまおうって腹かもな」
「そんなぁ! 私、嘘なんかつきませんよ。況してその時はお巡りさんだと思ってたんですから」また、頬を膨らませる。「先輩、知ってますよね? 私が嘘が嫌いなの」
「俺は知ってるがその男が知るかよ」がっくりと肩を落とす宮野。「じゃあ、何かど忘れしてそうだと思ったんだろうよ。この女ボケてるからなーって」
「酷いですよぉ。馬鹿だのボケだの」
 抗議は受け付けず、宮野は話を進める。
「それで本当に、何も見てないんだな? 悲鳴以外に声も聞いていない?」
「……はい、時間も解りませんから、事件が起こった正確な時間も解りません。死亡推定時刻って言うんですか? 発見迄に時間が掛かった所為で多少の誤差が出てるみたいですね。テレビのニュースによると――ああ、被害者さん、真面目で大人しそうな方だったのに、何であんな事に……。あの自称お巡りさんも時間を気にしてたみたいでしたし、それが確定されると拙いんでしょうかね、犯人は」
「そうかも知れないな」ちょっと目を丸くして、宮野は香乃子を見遣る。
「それにしても来ませんね。自称お巡りさん」待ち草臥れた様にしゃがみ込み、宮野を見上げて香乃子は言った。「態々制服を手に入れて、古い手帳も手に入れて、監視が厳しい女性専用マンションに迄、男の身で来たって言うのに……。先輩、最近は女性のお巡りさんも多いのに、どうして来た自称お巡りさんが男性だって解ったんですか?」

 女性専用マンション。それが香乃子の住居だった。
 住民との余計な摩擦を避ける為、女性警官を向かわせる可能性も充分にある。実際、件の自称警官も住民の聞き込みには苦労していた様だった。窓から現場方面が見えないか確認させて欲しいと言っては嫌な顔をされていた様だ。
「このマンション内での騒音トラブルなどは無いですか、とか、そんな事迄訊いて行ったそうですよ? 防音対策はばっちりなのにね。でなければ昨夜だって、窓を開けただけで外に漏れる様な大音響で音楽掛けたりしませんよ、私」じっと、宮野を見上げて、香乃子は言葉を続けた。「私に悲鳴が聞こえた様に、犯人にも音楽が聞こえてたんですね。だからあの霧の中でも、このマンションの方角が解った。そして……私を見付けたんです」
 勿論騒音トラブルなんて無かったけれど、自分から話しちゃいましたからね、と彼女は苦笑した。
「彼は――今、この場に来ない所を見ると――昨日限りのエキストラですか? 通り魔に仲間が居るとは思えませんし」
「……さっきから何を言ってるんだ? 丸で俺が仕組んだみたいに聞こえるじゃないか」宮野は苦笑を浮かべた。
「先輩、さっき被害者さんの事を茶髪女って呼びましたよね? 私がニュースをあちこち変えて見た限りでは、マスコミに出てる写真は一枚だけ。高校時代の黒髪の真面目そうな少女でした。それがどうして『昨夜の茶髪女』と結び付くんですか?――至近距離で見たからじゃないんですか?」
「……」
「霧の為に姿を見られてはいないかも知れないけれど、何かを聞かれたかも知れない、何より時間を確定されたくない何らかの理由がある――だからあの時窓を開けた人間を、偽警官を使って探させた。そこで彼にお役御免を言い渡したのは、私だったからですか? 直接訊いた方が早い、と。だから昨日の自称お巡りさんは来ないし、先輩自ら、ほけほけ歩いてる馬鹿に声を掛けた」僅かに、笑う。「違いますか?」
「少し、違うな」宮野は頭を振りながら、苦笑いする。「時間を確定されたくなかっただけじゃない。あそこに居たと知られたくなかったんだ。お前のマンションの近くにな」
「?」香乃子は小首を傾げた。
「昨日の女はストーカー被害に遭っていると思い込んでいたらしい。昨夜、マンション前をうろつく俺を見付けて、騒ぎ出そうとした。馬鹿馬鹿しい。初対面の女なんか知るかよ。けど、あそこで騒がれたくはなかった。だから思わず……」女の首を腕で絞めた感触が手に蘇った様に、宮野は右の肘を擦った。
「……という事は、ストーカー被害に遭っていたのは本当は……私?」きょとん、と自分を指差す香乃子。全く、自覚が無かったらしい。
「知られたくなかったんだけどなぁ」宮野は嘆息する。「さて、此処迄話した以上、幾らお前でもこの儘っていう訳には行かないんだが……。一番知られたくない事も知られちまったし」
「私も殺すんですか?」流石に立ち上がり、スカートの裾を払いながら香乃子は質した。
 答えは無く、宮野は動いた。彼女の背後に回り、腕を首に絡めようと手を伸ばす。
 と、その手を、香乃子は抑えた。華奢とも言える両手でしっかりと抱え込み、腰を僅かに落とす。そして――。
「先輩、一本も私に勝った事無いの、お忘れですか?」
 一本背負いを食らい、背中を強(したた)かにコンクリートに叩き付けられた宮野が痛みで失神する前に見たのは、大学時代と何ら変わりない、のほほんとしながらも強さを秘めた、香乃子の微笑みだった。

 その後自称警官は宮野の証言から逮捕された。不法な手段で手に入れたコレクションをネタに脅されていたらしい。警察手帳を出してしまったのは、どうやら現在の物が手に入らなかった為らしかった。
「管理は徹底して頂かないと困りますよねぇ」事件の聴取に立ち会った本物の警官から、本物の身分証明を見せて貰いながら、香乃子はのたまった。「私みたいな馬鹿でボケも居るんですから」
 そして浮かべた笑顔は、とても偉丈夫を投げ飛ばした女性とは思えない、どこかのほほんとしたものだった。

                      ―了―

 長くなったー! そして台詞ばっかりー!(笑)
 夜霧ー、もうちょっと意味の通る書き出しをオネガイシマス☆

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
無題
どもども!
途中で先輩が犯人じゃないか?って思ったけど、まさかこんな落ちになるとはね~w
のほほんとしてそうな女の子なのに、そんなに強かったなんてビックリっすよ!!
猫バカ1番 URL 2008/06/30(Mon)23:35:44 編集
Re:無題
うん、犯人は直ぐばれるだろうなと思った(苦笑)
人数少ないし、偶々、香乃子さんがほけほけ歩いてるトコに先輩が遭遇するのもご都合やし(^^;)
巽(たつみ)【2008/07/01 15:32】
こんばんは
ちょっと、のんびりしすぎでしょ彼女緊張感もたないと一人暮らしならなおさら

あたしも昔、警察手帳を生でみたことありますよでもさっさとなおすんですよこんな機会ないし、もっとしっかり見たかったわ
なっち 2008/06/30(Mon)23:52:21 編集
Re:こんばんは
いーなー、警察手帳見たんですか? いーなー(←子供か?)
まぁ、実際には余りお目に掛かりたくないかも(^^;)
何があったの? お巡りさんが来るなんて☆

香乃子さん、少々の事では動じそうにないですね(^^;)
巽(たつみ)【2008/07/01 15:36】
こんばんは♪
見かけはノホホン!ちょっととろそうなのに!
意外や意外!なかなかに鋭い!って言うキャラ良いですよねぇ~!

この先輩、ちょっとだけ可哀そうかな?
いや情けないと言うべきか・・・?
クーピー URL 2008/07/01(Tue)00:05:34 編集
Re:こんばんは♪
ストーカーの上にそれがばれそうになっての行き当たり殺人ですもんねぇ(--;)
情けないやっちゃ。
香乃子さん、ストーカーされてた事には気付いてなかった辺り、鋭いんだかやっぱりのほほ~んなんだか……(^^;)
巽(たつみ)【2008/07/01 15:39】
こんばんはー
何となく犯人はすぐに解ったけど、ホケホケ歩いてる女の子が柔道強いといは思わなかったー

お疲れ様~
冬猫 URL 2008/07/01(Tue)01:11:58 編集
Re:こんばんはー
最近、夜霧達に無茶振りされてる気がする……(--;)
スポーツ詳しくないから私でも知ってる一本背負いで落とします(笑)
巽(たつみ)【2008/07/01 15:42】
のほほん
香乃子さんのキャラ素敵~♪
1本は取れないけど、のほほんぶり似てるかも^^;
ぴぴ 2008/07/01(Tue)12:53:50 編集
Re:のほほん
ぴぴさんものほほんですか?(^^)
危ない所はほけほけ歩かないように!(苦笑)
何と無くこういうキャラは好きだったりします♪
見た目とギャップのあるキャラとか。
巽(たつみ)【2008/07/01 15:46】
こんにちは
読んでて『yawara!』を思い出しちゃった。
警官といえば、うちの隣の家に空き巣(というか中に人が居るのに入ったらしいけど)が入った事があって、母がその男を見たらしくて、聞きこみに来たよ。

その時間、丁度ボヤ騒ぎか何かがあって、消防車が何台も来ていて、私は様子を見に外出てて帰ってきた所で、丁度逃げていく所を見たんだけど、夜で暗かったから泥棒って分からなくて、見逃したんだけど。
警官、息子さんにも、事情を聞きたいって言ってたらしいけど、それっきりだったけどね。
afool URL 2008/07/01(Tue)17:58:17 編集
Re:こんにちは
髪の毛、一つ結びはしてません(笑)
空き巣に小火騒ぎですか~。物騒ですね~。
小火は陽動だったり……とかネタにしたくなりますが、それにしては姿見られてる泥棒さんじゃあねぇ(^^;)
結局捕まったのかしら?
巽(たつみ)【2008/07/01 18:15】
こんにちは~
ストーカーでもあり、犯人でもありで、
犯罪しまくってる先輩ですね。
おっとりなのに強いってなんだかうらやましいです。
ふわりぃ URL 2008/07/01(Tue)19:18:26 編集
Re:こんにちは~
香乃子さん、おっとりと言うか天然と言うか(^^;)
先輩、色々ヤバイ人に……!
巽(たつみ)【2008/07/01 20:58】
こういう
女の子って貴重だよぉ
私的にはとても好きなお話ですよん☆☆

ストーカーするほど好きな女を手にかけようとするんか??
やなヤツだな(笑)
つきみぃ URL 2008/07/02(Wed)22:37:48 編集
Re:こういう
やな奴には一本背負い!(笑)
香乃子さん、私も結構気に入ったかも(^^;)
巽(たつみ)【2008/07/02 23:20】
無題
間抜けな動機ですね。
後輩をストーカーするならもう少しリサーチしてそうだけど、あっさり負けるところが笑えます。
やっぱり間抜けなんだ。
銀河系一朗 URL 2008/07/03(Thu)23:19:48 編集
Re:無題
然も学生時代も勝った事が無いんです(笑)
何でそんな相手に惚れるのか、この先輩(^^;)
然も香乃子さんは気付かない(笑)
巽(たつみ)【2008/07/04 01:44】
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
フリーエリア
プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

ブログランキング・にほんブログ村へ
ブログ村参加中。面白いと思って下さったらお願いします♪
最新CM
☆紙とペンマーク付きは返コメ済みです☆
[06/28 銀河径一郎]
[01/21 銀河径一郎]
[12/16 つきみぃ]
[11/08 afool]
[10/11 銀河径一郎]
☆有難うございました☆
カレンダー
11 2017/12 01
S M T W T F S
2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
最新記事
(12/01)
(11/01)
(10/03)
(09/01)
(08/03)
アーカイブ
ブログ内検索
バーコード
最新トラックバック
メールフォーム
何と無く、付けてみる
フリーエリア
忍者アナライズ
忍者ブログ [PR]