〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
この辺りには珍しく、霧がよく晴れた夜、僕は裏山に入った。
山とは言ってもそれ程傾斜は厳しくない。丘に毛が生えた程度の、この付近の子供達の小さい頃からの遊び場だった。それでも、この辺りの標高自体が高い所為か、夜には霧が多く、入る事は禁じられていたけれど。
それに高校に上がった今、殆ど入る事は無かった。
只、今夜は余りにも月が冴え冴えとして……僕の足は自然とそこへと向かった。
殆ど懐中電灯も要らない程の、皓々とした月明かりの下、僕はある場所を目指した。
山の中腹にたった一本、月の明かりに白くぼんやりと浮かび上がる、桜の木。それは今しも満開に咲き誇り、時折吹く風にはらはらと花弁を散らしていた。
此処に来るのは一年振りか――僕は木を見上げてふと苦笑した。
幼い頃は一丁前にお花見と称して、友達と菓子やジュースを持ち寄ってこの下に集まったものだった。勿論、花より団子だったけれど。
今は僕一人……いや。
下生えを踏む音にはっと振り向けば、僕と同年代の男が一人。そちらも僕の姿を認めて、驚いた様子で懐中電灯片手に脚を止めていた。幾ら月明かりがあっても人の顔迄は判別出来ない。僕は失礼かと思いながらも、足元から順に懐中電灯で照らした。
そして、明かりに照らされた顔に幼い頃の面影を認めて、思わず声を上げた。
「克樹? お前、克樹じゃないのか?」
「そう言うお前は……正也? 懐かしいなぁ!」相手も僕に明かりを当て、明るい声を上げる。
「帰って来てたのかよ! 連絡位しろよ!」僕も懐かしい旧友に、嬉しくなって駆け寄る。
「悪い。疲れててさ。寝てたんだけど、この月明かりに誘われて、つい此処を思い出して……」言いつつ、克樹はやはり懐かしそうに桜の木を見上げる。「変わってないな……」安堵した様な、呟き。
「ああ……」僕の相槌も、同じ響きを持っていた。
克樹達幼馴染みが次々とこの小さな街を出て行ってからも、この桜は変わらず、春には花をつけ続けてきた。いつでも、あの頃の様に……。
「そうか……」克樹はふっと微笑む。どこか寂しさと安堵感を合わせた様な、不思議な笑み。「俺達を待っててくれてるみたいだな……」
それは勿論、人間側の勝手な思い込みだろう。桜は季節が巡れば咲くものだ。けれど、やはり僕も、この桜には言い知れぬものを感じていた。故郷の中の故郷――帰れる場所、そんな安心感。
「よかった……」心の奥底から吐き出す様な声に振り返って見れば、克樹はその頬に涙の雫を残し――うっすらと、姿を消した。
「!?」僕は慌てて周囲を懐中電灯で狂った様に照らす。しかしその何処にも、克樹の姿は無かった。
不安を感じて、僕は家に飛ぶ様に帰ると、彼が引っ越して行った先の電話番号を探して机の引き出しを引っ繰り返した。
『多分、ちょっと疲れてたんだと思う』電話の向こうで、思いの他元気な声が言った。『精神的に……。今日も何もやる気が起きなくて、部屋でごろごろ寝てたんだけど、窓からの月明かりが――こんな街中にしては嘘みたいに――綺麗でさ、何と無く、あの山の桜の事を思い出して……その儘いつの間にか眠り込んでたんだけど。真逆夢で、あの桜の下でお前に会えるなんてな』
「夢……」僕は受話器を手にした儘、茫然と呟く。
『ああ。けど、お陰で何かすっきりした気がするよ。こっちに来てから、どこか完全には馴染めなくて迷う事が多くて……。けど、帰る場所があるって解ったら、何だか吹っ切れた気がする。無理に背伸びして迄馴染まなくっていいんだって……』
柔らかい声音でそう言って、克樹は最後にこう締め括った。
『近い内に里帰りするよ。今度は、ちゃんと……』
桜、桜。
もう少しゆっくり、咲いてておくれ。
―了―
夜霧がサボったので急遽考える(--;)
山とは言ってもそれ程傾斜は厳しくない。丘に毛が生えた程度の、この付近の子供達の小さい頃からの遊び場だった。それでも、この辺りの標高自体が高い所為か、夜には霧が多く、入る事は禁じられていたけれど。
それに高校に上がった今、殆ど入る事は無かった。
只、今夜は余りにも月が冴え冴えとして……僕の足は自然とそこへと向かった。
殆ど懐中電灯も要らない程の、皓々とした月明かりの下、僕はある場所を目指した。
山の中腹にたった一本、月の明かりに白くぼんやりと浮かび上がる、桜の木。それは今しも満開に咲き誇り、時折吹く風にはらはらと花弁を散らしていた。
此処に来るのは一年振りか――僕は木を見上げてふと苦笑した。
幼い頃は一丁前にお花見と称して、友達と菓子やジュースを持ち寄ってこの下に集まったものだった。勿論、花より団子だったけれど。
今は僕一人……いや。
下生えを踏む音にはっと振り向けば、僕と同年代の男が一人。そちらも僕の姿を認めて、驚いた様子で懐中電灯片手に脚を止めていた。幾ら月明かりがあっても人の顔迄は判別出来ない。僕は失礼かと思いながらも、足元から順に懐中電灯で照らした。
そして、明かりに照らされた顔に幼い頃の面影を認めて、思わず声を上げた。
「克樹? お前、克樹じゃないのか?」
「そう言うお前は……正也? 懐かしいなぁ!」相手も僕に明かりを当て、明るい声を上げる。
「帰って来てたのかよ! 連絡位しろよ!」僕も懐かしい旧友に、嬉しくなって駆け寄る。
「悪い。疲れててさ。寝てたんだけど、この月明かりに誘われて、つい此処を思い出して……」言いつつ、克樹はやはり懐かしそうに桜の木を見上げる。「変わってないな……」安堵した様な、呟き。
「ああ……」僕の相槌も、同じ響きを持っていた。
克樹達幼馴染みが次々とこの小さな街を出て行ってからも、この桜は変わらず、春には花をつけ続けてきた。いつでも、あの頃の様に……。
「そうか……」克樹はふっと微笑む。どこか寂しさと安堵感を合わせた様な、不思議な笑み。「俺達を待っててくれてるみたいだな……」
それは勿論、人間側の勝手な思い込みだろう。桜は季節が巡れば咲くものだ。けれど、やはり僕も、この桜には言い知れぬものを感じていた。故郷の中の故郷――帰れる場所、そんな安心感。
「よかった……」心の奥底から吐き出す様な声に振り返って見れば、克樹はその頬に涙の雫を残し――うっすらと、姿を消した。
「!?」僕は慌てて周囲を懐中電灯で狂った様に照らす。しかしその何処にも、克樹の姿は無かった。
不安を感じて、僕は家に飛ぶ様に帰ると、彼が引っ越して行った先の電話番号を探して机の引き出しを引っ繰り返した。
『多分、ちょっと疲れてたんだと思う』電話の向こうで、思いの他元気な声が言った。『精神的に……。今日も何もやる気が起きなくて、部屋でごろごろ寝てたんだけど、窓からの月明かりが――こんな街中にしては嘘みたいに――綺麗でさ、何と無く、あの山の桜の事を思い出して……その儘いつの間にか眠り込んでたんだけど。真逆夢で、あの桜の下でお前に会えるなんてな』
「夢……」僕は受話器を手にした儘、茫然と呟く。
『ああ。けど、お陰で何かすっきりした気がするよ。こっちに来てから、どこか完全には馴染めなくて迷う事が多くて……。けど、帰る場所があるって解ったら、何だか吹っ切れた気がする。無理に背伸びして迄馴染まなくっていいんだって……』
柔らかい声音でそう言って、克樹は最後にこう締め括った。
『近い内に里帰りするよ。今度は、ちゃんと……』
桜、桜。
もう少しゆっくり、咲いてておくれ。
―了―
夜霧がサボったので急遽考える(--;)
PR
この記事にコメントする
Re:無題
里帰りは実体で(笑)
想う余りに魂が飛んでしまう事もあるんでしょうかねぇ。
想う余りに魂が飛んでしまう事もあるんでしょうかねぇ。
Re:こんにちは♪
してみたいっすか、幽体離脱(笑)
桜……綺麗だけど妙に妖しい……♪
桜……綺麗だけど妙に妖しい……♪
Re:無題
霧多発地帯が一杯です(笑)
寧ろ私が夜霧にきりきり舞いさせられてる感が……(汗)
ブログ開設当初はストックがあったんですけどね。数ヶ月でそれも尽き、後はその日暮らしっす(笑)
寧ろ私が夜霧にきりきり舞いさせられてる感が……(汗)
ブログ開設当初はストックがあったんですけどね。数ヶ月でそれも尽き、後はその日暮らしっす(笑)
Re:こんばんは
桜は何か妖しい感じがしていいですね(^-^)
Re:巽が傾斜するの?
その質問に首が傾斜したけど、何か?
Re:無題
リアル過ぎる夢を見ると、疲れますね~。
寝た気がしない……(^^;)
寝た気がしない……(^^;)