〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
いずれ世代交代を迎える事は周りの誰が自覚すればよかったのかしら?
でも、昨日は少なくとも彼は家名相続の足場作りに成功しなかった? 選りによって彼が。
それでも、勇気の無い私は未だに斜面を転がり、迷いの沼に浮き沈みする心算だったの?
そんな自分にクリスタルを通して見る、下弦の月浮かぶ夜と共に苦笑しなかったっけ?
自問しながらも、私は彼に相談した。
それで……一族を水底に牽引する筈だったの。
「矢崎様? 昭人さんが家を継がれる事、私は反対ですわ」広大な屋敷の隅に設えられた隠居部屋。訪れるのは世話をする使用人と、老人のご機嫌窺いの若い人達、そして私だけ。昼食も済み、食器も下げられた今、此処には私と矢崎老人しか、居ない。
何故? と当然の問い。
昭人は矢崎老人の長男の息子。初孫でもあった。今年二十八で、訳あって両親とは早くに死に別れたが、文武両道、容姿端麗、人品卑しからざる人――それが周りの評価だった。矢崎老人には他に三人の孫が居るが、その中でも彼は一歩抜きん出ていた。
そしてその孫達の親であるべき人達も、昭人の両親と同時に、この世から去っていた。
当時十歳だった昭人の家で開かれたホームパーティーでの、不幸にして起こった火事。親達は子供達を逃がすだけで力尽きたと言う。
当時は元気だった矢崎は仕事でパーティーには参加していなかった。訃報を聞いて、彼はその何よりも大事だった仕事を放り出して、病院に向かったらしい。
さて、何故という問いに答えなければならない。私は唾を飲み込んで、極力落ち着いた声で言う。
「あの方には……火が見えますの」傍らのロッククリスタルを意味ありげに見遣ってから、老人の目を見詰める。「火に魅入られた人……そんな人がこの世には居るのです。あるいは水に魅入られた人など、偶然とは思えない程にそれらの災害が付いて回る人が……」
「昭人が、そうだと?」むぅ、と老人は唸る。過去があるだけに、そして私の言葉であるだけに、笑い飛ばす事も出来ない様だ。「しかし、昭人が火に関わったのはあれ一回だし、それを言い出せば他の三人にも……」
私はゆっくりと頭を振った。そういう事ではないのだ、と。
「何年単位と決まっている訳ではありませんし、あるいは今後何十年も、何事も無いかも知れません。けれど、それらの人達はいずれ、火を呼びます――いつかの様に」
「あれは……」老人は喉の奥で喘いだ。「あの日の火事は昭人が原因だとでも言うのか? たった十歳で……火事の原因にしても特定されている。あの子とは何の関係も……」
私は今度はやや苛立たしげに頭を振った。
「直接彼が火を付けたとかいう事ではありません。あくまでも、彼が火を……火事という災厄を呼んでしまうのです。意識する、しないに拘らず」
老人の呼吸が浅くなる。火事で息子や娘を失くした彼には火事は過去の恐るべき亡霊にして仇。
「あの人に家督を譲る――この家の柱にするという事は、あの人に掛かるもの全てがこの家に掛かるも同じ。もう一度よくお考えになられた方が宜しいのではありませんか?」
その言葉を残して、私は隠居部屋を辞した。
「やぁ、占い師さん」屋敷の玄関を出ようとした私に声を掛けたのは、昭人その人だった。「お祖父さんの様子はどうでした?」
「いつもとお変わりありませんわ。只、家督に関しては些か悩んでおいでの様子でしたけれど」表情を表す事無く、私は言う。
「おかしいなぁ。僕に譲ると昨日言ってくれたんだけどなぁ」
知ってるわ――次男の孫である隆人に聞いたもの。彼は大事な情報源。祖父によく言って欲しいが為に私にこの家の内情を教えてくれる。ま、占い師にとって会話で相手の情報を引き出すのはお手の物なんだけど。
「占い師さん、誰かに言われて、変な入れ知恵とかしてないよね?」冗談めかして昭人は言う。
「真逆。私は私に見えた事を申し上げるだけ」
「……僕は占いなんて本当は信じてないんだけど、信じている人にとっては真実にも聞こえるんだろうねぇ?」
「そうですわね……」私は高い目線からの一瞥を、受け止めた。
そして、軽く頭を下げて踵を返した。
解っている。水晶での占いなんて感覚と会話術に頼った方法を使わなくとも。彼が家名を継げば矢崎の家は益々栄える事だろう。それだけの能力も、度胸も、彼は備えている。他の孫達とは比べ物にならない程。
だからこそ、彼が跡目を継ぐ事は赦せなかった。
私には――あの火事の日、隣家に迄燃え広がった火から逃れる為に、慌てふためいた子供が一人、噴水に飛び込み、溺死した事を、彼等が覚えてもいないと知った私には。
その子は私の弟だったのに……。外出していた私は彼を救う事が出来なかった。
だからこそ、この家を栄えさせる事なんてさせない。その為に占い師として矢崎老人に取り入ったのだから。尤も、彼には同情もしている――傍に居られず、助ける事も出来なかった者が居て……それは自己憐憫に近かったかも知れないけれど、親近感もあってか、少なくとも彼への助言は、今度の事を除き全て彼の為の言葉だった。
だからこそ、彼は私を信用している。昭人の言葉が脳裏に蘇った。
『信じている人にとっては真実に聞こえるんだろうねぇ』
そう、矢崎老人にとっては私の言葉は真実。
でも、だからこそ私は時に迷う。あの老人を謀(たばか)ってもいいのか? と。
それでも私には、あの子の声が聞こえる――水底から、奴等の破滅を求める弟の声が……。
それにもう種は撒いてしまった。言葉の種を。
だから私は――広大な屋敷を振り返って、再び決心を固める。この家を傾かせると。
私と共に、沈む迄……。
―了―
よーぎーりー!
でも、とかそれでが多過ぎ! なのでその辺ちょっと変えました。
占い信じるのも程々に~☆
何故? と当然の問い。
昭人は矢崎老人の長男の息子。初孫でもあった。今年二十八で、訳あって両親とは早くに死に別れたが、文武両道、容姿端麗、人品卑しからざる人――それが周りの評価だった。矢崎老人には他に三人の孫が居るが、その中でも彼は一歩抜きん出ていた。
そしてその孫達の親であるべき人達も、昭人の両親と同時に、この世から去っていた。
当時十歳だった昭人の家で開かれたホームパーティーでの、不幸にして起こった火事。親達は子供達を逃がすだけで力尽きたと言う。
当時は元気だった矢崎は仕事でパーティーには参加していなかった。訃報を聞いて、彼はその何よりも大事だった仕事を放り出して、病院に向かったらしい。
さて、何故という問いに答えなければならない。私は唾を飲み込んで、極力落ち着いた声で言う。
「あの方には……火が見えますの」傍らのロッククリスタルを意味ありげに見遣ってから、老人の目を見詰める。「火に魅入られた人……そんな人がこの世には居るのです。あるいは水に魅入られた人など、偶然とは思えない程にそれらの災害が付いて回る人が……」
「昭人が、そうだと?」むぅ、と老人は唸る。過去があるだけに、そして私の言葉であるだけに、笑い飛ばす事も出来ない様だ。「しかし、昭人が火に関わったのはあれ一回だし、それを言い出せば他の三人にも……」
私はゆっくりと頭を振った。そういう事ではないのだ、と。
「何年単位と決まっている訳ではありませんし、あるいは今後何十年も、何事も無いかも知れません。けれど、それらの人達はいずれ、火を呼びます――いつかの様に」
「あれは……」老人は喉の奥で喘いだ。「あの日の火事は昭人が原因だとでも言うのか? たった十歳で……火事の原因にしても特定されている。あの子とは何の関係も……」
私は今度はやや苛立たしげに頭を振った。
「直接彼が火を付けたとかいう事ではありません。あくまでも、彼が火を……火事という災厄を呼んでしまうのです。意識する、しないに拘らず」
老人の呼吸が浅くなる。火事で息子や娘を失くした彼には火事は過去の恐るべき亡霊にして仇。
「あの人に家督を譲る――この家の柱にするという事は、あの人に掛かるもの全てがこの家に掛かるも同じ。もう一度よくお考えになられた方が宜しいのではありませんか?」
その言葉を残して、私は隠居部屋を辞した。
「やぁ、占い師さん」屋敷の玄関を出ようとした私に声を掛けたのは、昭人その人だった。「お祖父さんの様子はどうでした?」
「いつもとお変わりありませんわ。只、家督に関しては些か悩んでおいでの様子でしたけれど」表情を表す事無く、私は言う。
「おかしいなぁ。僕に譲ると昨日言ってくれたんだけどなぁ」
知ってるわ――次男の孫である隆人に聞いたもの。彼は大事な情報源。祖父によく言って欲しいが為に私にこの家の内情を教えてくれる。ま、占い師にとって会話で相手の情報を引き出すのはお手の物なんだけど。
「占い師さん、誰かに言われて、変な入れ知恵とかしてないよね?」冗談めかして昭人は言う。
「真逆。私は私に見えた事を申し上げるだけ」
「……僕は占いなんて本当は信じてないんだけど、信じている人にとっては真実にも聞こえるんだろうねぇ?」
「そうですわね……」私は高い目線からの一瞥を、受け止めた。
そして、軽く頭を下げて踵を返した。
解っている。水晶での占いなんて感覚と会話術に頼った方法を使わなくとも。彼が家名を継げば矢崎の家は益々栄える事だろう。それだけの能力も、度胸も、彼は備えている。他の孫達とは比べ物にならない程。
だからこそ、彼が跡目を継ぐ事は赦せなかった。
私には――あの火事の日、隣家に迄燃え広がった火から逃れる為に、慌てふためいた子供が一人、噴水に飛び込み、溺死した事を、彼等が覚えてもいないと知った私には。
その子は私の弟だったのに……。外出していた私は彼を救う事が出来なかった。
だからこそ、この家を栄えさせる事なんてさせない。その為に占い師として矢崎老人に取り入ったのだから。尤も、彼には同情もしている――傍に居られず、助ける事も出来なかった者が居て……それは自己憐憫に近かったかも知れないけれど、親近感もあってか、少なくとも彼への助言は、今度の事を除き全て彼の為の言葉だった。
だからこそ、彼は私を信用している。昭人の言葉が脳裏に蘇った。
『信じている人にとっては真実に聞こえるんだろうねぇ』
そう、矢崎老人にとっては私の言葉は真実。
でも、だからこそ私は時に迷う。あの老人を謀(たばか)ってもいいのか? と。
それでも私には、あの子の声が聞こえる――水底から、奴等の破滅を求める弟の声が……。
それにもう種は撒いてしまった。言葉の種を。
だから私は――広大な屋敷を振り返って、再び決心を固める。この家を傾かせると。
私と共に、沈む迄……。
―了―
よーぎーりー!
でも、とかそれでが多過ぎ! なのでその辺ちょっと変えました。
占い信じるのも程々に~☆
PR
この記事にコメントする
こんばんは♪
これも違う意味で怖いねぇ!
占いって、そうなんだねぇ、あまり信じすぎるのも問題ありだね!
ところが、タイミングかも知れないけど、妙に拘ってしまう時があるんだよねぇ・・・・・
しかし、あの投稿から、これだけの物を作り上げてしまうなんて凄いなぁ!
尊敬ポチ♪
占いって、そうなんだねぇ、あまり信じすぎるのも問題ありだね!
ところが、タイミングかも知れないけど、妙に拘ってしまう時があるんだよねぇ・・・・・
しかし、あの投稿から、これだけの物を作り上げてしまうなんて凄いなぁ!
尊敬ポチ♪
Re:こんばんは♪
有難うございますm(_ _)m
流石にあの疑問形の嵐はどうしようかと思いました(^^;)
占いも参考にしたりする分にはいいかも知れないけど、余り信じ過ぎるのもね~★不思議と当たってる様に感じる時も確かにあるんだけど。
流石にあの疑問形の嵐はどうしようかと思いました(^^;)
占いも参考にしたりする分にはいいかも知れないけど、余り信じ過ぎるのもね~★不思議と当たってる様に感じる時も確かにあるんだけど。
無題
こんばんわ(^o^)丿
すごーい!!
なんかさらっと面白く読めちゃいました♪
かめちゃんは「家名」になったんですね☆
占い、信じないほうだけど、こう何回も(例外なく必ずなんですよ!)別々の人から「大病します」って言われると、そうなんだろうなぁと納得しちゃいます。でもって、「お金には困らない」らしい。お金に困らなかったとしても、大病だと、意味がないんですけど~!!!
すごーい!!
なんかさらっと面白く読めちゃいました♪
かめちゃんは「家名」になったんですね☆
占い、信じないほうだけど、こう何回も(例外なく必ずなんですよ!)別々の人から「大病します」って言われると、そうなんだろうなぁと納得しちゃいます。でもって、「お金には困らない」らしい。お金に困らなかったとしても、大病だと、意味がないんですけど~!!!
Re:無題
有難うございますm(_ _)m
響きの似てる言葉を探しまくる奴(笑)
「大病します」って占いも嫌ですね( ̄△ ̄;)
「お金に困らない」は羨ましいけど(^▽^)
病は気から、いい事だけ信じちゃえ~♪
響きの似てる言葉を探しまくる奴(笑)
「大病します」って占いも嫌ですね( ̄△ ̄;)
「お金に困らない」は羨ましいけど(^▽^)
病は気から、いい事だけ信じちゃえ~♪
お疲れ様ー
占い師が過去に捕われて、未来を変えたらいけませんよね。それにしても大変でしたねーゆっくり休んで下さいね♪
占い…男だったら良かったらしいっす。(←二回言われた)そんな事言われてもねぇ?
ーと、気にする時点で、私も占いに左右されてるのかもf^_^;
占い…男だったら良かったらしいっす。(←二回言われた)そんな事言われてもねぇ?
ーと、気にする時点で、私も占いに左右されてるのかもf^_^;
Re:お疲れ様ー
有難うございます~(^^)
男だったらって言われても……(^^;)
姐さん、オトコマエやから?(笑)
私はあんまり占って貰った事無いな~。あ。いっぺん四柱推命で「霊感が強い」って言われたけど……霊感0!(爆)
男だったらって言われても……(^^;)
姐さん、オトコマエやから?(笑)
私はあんまり占って貰った事無いな~。あ。いっぺん四柱推命で「霊感が強い」って言われたけど……霊感0!(爆)
こんにちは
冒頭部分無くても良いかもwww。
私怨を持ちこんでは行けませんな。
これはこれで怖い話だなぁ。
でも相続人を変えさせただけじゃ、傾かないかも。
そうなると二の矢、三の矢があるのかぁ?
お~、怖い怖い。(笑)
私怨を持ちこんでは行けませんな。
これはこれで怖い話だなぁ。
でも相続人を変えさせただけじゃ、傾かないかも。
そうなると二の矢、三の矢があるのかぁ?
お~、怖い怖い。(笑)
Re:こんにちは
>冒頭部分無くても良いかもwww。
うん、無くても成立する(笑)まぁ、独白部分という事で(^^;)
ふふふ、信じさせてしまえばこちらのもの(笑)
虚実織り交ぜて節目でいいアドバイスをしておけば、外れが多くても結構当たってる様な気分にさせられるものよ(怖)
うん、無くても成立する(笑)まぁ、独白部分という事で(^^;)
ふふふ、信じさせてしまえばこちらのもの(笑)
虚実織り交ぜて節目でいいアドバイスをしておけば、外れが多くても結構当たってる様な気分にさせられるものよ(怖)
Re:無題
カラス(笑)
ゴンベさんではありません!(?)
ま、信じるのも程々に、ですね~^^;
ゴンベさんではありません!(?)
ま、信じるのも程々に、ですね~^^;
Re:占いって・・・
占いもセラピーの側面も持ってますからねぇ。
「私」が使っていたのは実際には相手の服装や仕草から相手の心情や状況を読み取る「コールド・リーディング」を活用したものと思われます。これはセラピストさんも使われる事があるそうなので……もっといい使い方も出来るのにね! っていう技術(笑)
私自身はあんまり占い師に関わった事ないからな~(^^;)
先述の四柱推命の人位? 余り役に立たんかった(笑)
「私」が使っていたのは実際には相手の服装や仕草から相手の心情や状況を読み取る「コールド・リーディング」を活用したものと思われます。これはセラピストさんも使われる事があるそうなので……もっといい使い方も出来るのにね! っていう技術(笑)
私自身はあんまり占い師に関わった事ないからな~(^^;)
先述の四柱推命の人位? 余り役に立たんかった(笑)
無題
あ、占いはシン男だけど好きです(笑
神秘なので好きです。
言葉の魔術で騙す人もいるのもしってるけど
でも、やっぱどこかで占いは信じてるなぁ。
でも、この人は凄いな。
自分の人生をその弟の為に使うんだから。
そういうところは関心するなぁ。
全てを投げうるってなかなかできない。
あと、本当は前のコメントで書くつもりだったのに忘れてたんだけど
やっぱ巽さん凄いよ。
毎日更新すごすぎ!
アイデアもだけど持続力とか含めて尊敬します。
神秘なので好きです。
言葉の魔術で騙す人もいるのもしってるけど
でも、やっぱどこかで占いは信じてるなぁ。
でも、この人は凄いな。
自分の人生をその弟の為に使うんだから。
そういうところは関心するなぁ。
全てを投げうるってなかなかできない。
あと、本当は前のコメントで書くつもりだったのに忘れてたんだけど
やっぱ巽さん凄いよ。
毎日更新すごすぎ!
アイデアもだけど持続力とか含めて尊敬します。
Re:無題
「私」自身も呼ばれている――と感じている――のかも知れませんね。だからこそ出来る……のかも。
いえいえ、毎日更新、時々絵で誤魔化してますよ(^^;)
いえいえ、毎日更新、時々絵で誤魔化してますよ(^^;)