『酔い覚まし』

　肝試しなんて止めよう――そう提案したのは、僕だけでした。他の四人は酒の勢いもあってか、妙に気が大きくなっていて……。結局、押し切られる形で、僕達は一台の車に乗って、その廃病院へと向かいました。はい、僕の車で――僕が一番酔いが浅かったとは言え面目ない。

　医療ミスで人が死んで、その現実的、霊的影響で潰れたとか、色々噂されている、三階建ての元病院でした。こんな所ではさぞ通院患者は不便だったろうにという街の外れにありましたね。尤も、その当時は路線バスも通っていたのかも知れないけれど。どちらにしてもそれはもう三十年以上前の話でしょうね。
　夜の闇に灰色に浮かび上がった鉄筋コンクリート製の廃病院はやっぱり不気味で……でも、やっぱり我々の様な不埒者が居るのでしょうね、その壁は落書きで汚され、窓も所々、破れていましたよ。
　そこに負けじと自分の名を刻む者、何かかつての営業時の物が無いか物色する者――酔っているとは言え、四人の振る舞いは大胆で、僕は幾度も肝を冷やしました。幽霊なんてものは信じちゃいませんでしたが、これ、立派な建造物不法侵入ですからね。誰かが奇声を発する度に、聞き付けた誰かに通報されやしないかとヒヤヒヤしてました。

　そして結果的にはこうやって交番で事情聴取を受けている訳ですし……。やっぱり止めておけばよかった。
　ところで、他の四人はどうしてます？　いや、街の酒場でちょっと意気投合して飲んでいただけだったので名前もうろ覚えなんですが……。
　え？　僕の他に人なんか居なかった？　そんなご冗談を。奇声を上げていたのも僕独りで、落書きも古いものばかりだった？　そんな馬鹿な……。あの四人が居なかったって言うんですか？
　真逆。飲んでた店や、僕の車を調べてみて下さいよ。きっと目撃者や痕跡が……。
　え？　店では僕が一人で随分、飲んでいたし、廃病院近くに停めた車にも、僕以外の人間の痕跡は無かったですって？　只――何ですか？　言い難そうに――只、ブレーキオイルが漏れていた？　あの儘あの車で帰っていたら、事故を起こしていたかも知れない……。あの近辺ではこれ迄にも、そんな不審な事故が四件程、起こっていた……ですって？　皆飲酒の痕跡があり、あの廃病院からの帰りだったと思われるって……そんな……。じゃあ、僕もこうして捕まる事なく、帰っていたら危なかった？
　
　結局、建造物不法侵入に飲酒運転という罪も加わり、僕は罪の償いをする破目になったけれど、それは自業自得。今は何よりも、あの時捕まえてくれた警官に感謝している。
　それにしても、あの四人は仲間を増やそうと、僕に声を掛けたのだろうか。あの街外れの酒場で。
　そして彼等や僕の車のブレーキオイルを細工したのは一体……？　警官の話では車の下に潜りでもしなければ付けられない傷だったそうだけれど、ジャッキも無いあの場で誰が、どうやって？
　それとも……？　僕は廃病院の暗い姿を思い出し、身を震わせた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　はーい、飲酒運転は止めましょうねー（＾＾）ノ
　幽霊にも怒られる！？