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天井から滴る水を襟元に受け、僕は反射的に飛び上がった。尤もそれが水滴と気付いたのは、後ろを歩く田中の忍び笑いに、はっと我に返ってからだったけれど。
慌てて、平静を取り繕う、僕。
怖くなんかないぞ――本当は怖いけど。
「結構長いんだな、このトンネル」田中の声が前を歩く渡辺に掛けられた。「未だ、出口が見えないなんて」
「まあな」振り向きもせず、渡辺が答えた。「距離もあるし、途中からは少し傾斜もあるからな。その所為もあるかも知れない」
僕等三人が歩いているのは、今は閉鎖されたトンネルだった。名前が刻まれた入り口は苔生し、辛うじて「隧道」の文字が認められるのみ。閉鎖中として置かれたバリケードを最小限取り除き、入り込んだ僕等を待っていたのは、じっとりとした空気。元は石造りらしき壁も、日光が届く限りの場所は苔に覆われ、湿っぽい。そしてそれが途切れる辺りからは、濃密な闇が蟠っていた。
挙句に歩いているとぽたりぽたりと水滴の奇襲を受け、反響する声はどこか……全く知らない他人の声の様で、僕は幾度も、懐中電灯で連れの二人を照らしては怒られていた。
そんな思いをして、何故僕等が此処に居るかと言えば、このトンネルの先に小さな集落を見たという渡辺の記憶を、確かめに行く為――あるいはそれを否定して笑う為だった。
五、六歳の頃と言うからもう十年以上前の事だ。渡辺がこのトンネルに迷い込み、出口を抜けて小さな集落に行き着き、全くの見知らぬ土地と人々に驚き、号泣している内に泣き疲れ……気が付けば家の前に居たと言う。
寝惚けていたんだろう、というのが僕と田中の一致した意見だった。あるいは小さい頃の記憶で、混乱しているか。
何しろ、地図を見る限りではこのトンネルの向こうに、人の住む集落は無い。いや、トンネルが作られている位だから、かつてはあったのだ。だが、余りの不便さ故か、一軒、また一軒と減っていき、今では誰も居ない。トンネルが老朽化するに任され、閉鎖されたのもその所為だ。通る者のないトンネルに、存在理由はない。
それらの話を老齢の先生から聞いても、渡辺は尚言い張った。自分はトンネルの先の集落に行ったのだ、と。
なら案内してみろよ――ああ、付いて来いよ――行ってやるよ。
そんな売り言葉に買い言葉。その結果がこの、暗いトンネルの中を身を竦めて歩いている現状なのだった。我ながら馬鹿な事をしたもんだ。
「なぁ、知ってるか?」田中の声が壁に反響する。「橋とか辻とか、トンネルっていうのは境を意味したんだってな。元々は単に村や町の境だったんだろうけど、それが転じて……この世と、あの世の……」
「気味の悪い事言うなって!」堪らず、僕は声を上げた。その声も幾度か反響し、やがて何処へともなく解け去って行く。
田中は笑っている。僕が怖がりだと思っているのだろう。生憎と否定は出来兼ねるが。
そんな馬鹿な事をして気を紛らわせつつ進むと、下り傾斜の向こうに出口の明かりが見えてきた。その明かりに、ほっとするどころか僕達は眉を顰めた。
トンネルに入ったのは正午過ぎ。なのに向こうに見える陽は茜を帯びて、丸で夕方のそれの様だ。携帯を取り出して見れば、未だ午後十二時四十五分。
あり得ない――僕達はそれ以上進むのを止めた。
渡辺は証拠を見せたがったし、田中も好奇心を抑えるのに苦労している風だったが――かつての渡辺の様に、帰れるという保証はあるのか?
僕は渡辺に、幼い頃の体験を信じると言い切り、二人を連れて元来た道を戻った。
あのトンネルの向こうとこちらでは、時間の流れが違うのかも知れない。
だとすれば、幼い渡辺はきっと、かつてあそこにあった集落に辿り着いたのだろう。
あの儘トンネルを抜けていたら、僕等はどんな時間に行き着いたのだろう?
数日後に姿を消した田中の事を思い出す度、僕はあの茜色のを空を思い出すのだった。
―了―
立ち入り禁止には訳がある?
花束♪(⌒ー⌒)o∠★:゜*ハッピーバースデー♪
良い1年となりますように!
トンネルって本当にこの世とあの世の境界みたいな感じがしますよねぇ~!
立ち入り禁止の場所には近寄っちゃいかんネ!
田中君は一人で行ってしまったの?
しかし・・・ちょっと見てみたいかなぁ・・・
そのトンネルの向こうの集落を!
いい年になるよう、頑張りたいっす♪
トンネルの向こうの集落、気になりますか?
……行っちゃ駄目ですよぉ?( ̄ー ̄)
トンネルは境目だったねえ
田中君は向こう側に行ってしまったのね…
お誕生日なのね!
おめでとうございます☆☆
(^-^)ノ∠※PON!。.:*:・'°☆。.:*:・'°★°'・:*
そう言えばあれもトンネルを抜けると……。
やはり何か、別の世界に通じていそうな感じがしますよね~、トンネル。
トンネル、特に長いトンネルって、幻惑効果があると思いません? 定められた車道を走っているのに、壁が迫って来る様な不安に襲われる……私だけ?(^^;)