〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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青空を鯉幟が気持ち良さそうに泳いでいる。そうだ、今日は五月五日、こどもの日じゃないか。
大学生活を送る僕には縁遠い行事となってしまったけれど――未だに忘れられない、あの出来事に会ったのも、五月五日だった。
もう十年以上前の事になるけれど……。
当時住んでいたのは田舎町だった。
家の周りに見える物と言えば、田圃、遠くの山、集落を貫く川……。我ながら何て長閑な所で育ったんだろう。今となってはあの頃の僕が少し、羨ましい。
けれど、そんな所だったから、若い人は町を出て行き、その結果子供の数も少なかった。
だけど、四月半ばともなると、その子供の数には不釣合いな程の、立派な鯉幟が幾匹も幾匹もも、川の両岸に渡した綱に並んで泳ぐ様が見られ、僕達は毎年その数を数えては、あそこのがかっこいいとか、一丁前に論じていた。
思えばあれは町に残された老人達が、戻って来る孫達を待ち侘びて、そして村の数少ない子供達を思って、飾ってくれていたのだろう。
そしてあの年も、僕は川の上を泳ぐ鯉幟を見上げていた。
大学生活を送る僕には縁遠い行事となってしまったけれど――未だに忘れられない、あの出来事に会ったのも、五月五日だった。
もう十年以上前の事になるけれど……。
当時住んでいたのは田舎町だった。
家の周りに見える物と言えば、田圃、遠くの山、集落を貫く川……。我ながら何て長閑な所で育ったんだろう。今となってはあの頃の僕が少し、羨ましい。
けれど、そんな所だったから、若い人は町を出て行き、その結果子供の数も少なかった。
だけど、四月半ばともなると、その子供の数には不釣合いな程の、立派な鯉幟が幾匹も幾匹もも、川の両岸に渡した綱に並んで泳ぐ様が見られ、僕達は毎年その数を数えては、あそこのがかっこいいとか、一丁前に論じていた。
思えばあれは町に残された老人達が、戻って来る孫達を待ち侘びて、そして村の数少ない子供達を思って、飾ってくれていたのだろう。
そしてあの年も、僕は川の上を泳ぐ鯉幟を見上げていた。
「あれ?」その内、僕は去年数えたのと数が違う事に気付いた。一家分、少ない。「どこか出し忘れたのかな?」
あるいは町を出て行ったか、もしくは……?――それらの可能性を、子供心にも考えたくなかったのだろう。出し忘れという安易な答えを自分で出して、納得していた。
ところが翌日、数え間違えたのかも知れないなどと思ったのがいけなかった。
再度数えた時、その数は更に一家分、減っていた。
「おかしいなぁ」僕は首を傾げた。未だ五月にも入らない頃だった。仕舞うには早過ぎる。例え共同の鯉幟に参加を取り止めたとしても、一旦吊るした物を外すのは大変だろうし、そこ迄する理由も見当たらなかった。「でも、確かに昨日は……」
何度数えても、やはり減っていた。友達に尋ねても、頭を振るだけ――もうそんなのいちいち数えてないよ、と。
野良作業中の大人達に訊いても、やはり首を傾げるだけだった。
「ありゃあ? そう言われれば川の真ん中辺りが開いてる様だけんど……そんな所から取って行く奴も居ねぇだろ」麦藁帽子の下で小さな目をしばしばさせながら川を見渡して、おじさんが言う。「あの辺りにあったのは……斉藤ん家のだったかなぁ?」
僕は何と無く気になって、その斉藤さんの家に向かった。
「え? 鯉幟? 未だ仕舞ってやしないよ」小さな集落の事、辺りのお爺さんお婆さんはその殆どが顔見知りだ。斉藤のお婆さんもうちの祖母の友達で、僕も時々お菓子を貰ったりした事があった。
だから気安く、鯉幟の数が減っている事、そしておじさんの言う事にはそれが斉藤さんの家のものじゃないかという事、それらを掻い摘んで話して、尋ねる事も出来た。鯉幟はもう仕舞ったのかと。
そして斉藤のお婆さんは否定した。
「おかしいねぇ? 大体うちのは真ん中辺りに吊るして貰ったもんだから、私らだけじゃ降ろせないよ。仕舞う時も毎年、手伝って貰ってるんだから。あれは先先代からある大事なものだからねぇ。傷でも付けたら大事だよ」
「じゃあ、見間違いだったのかも知れないね」心配を掛けたくなくて、僕はそう言って頭を掻いた。
だけど、昨日の事もあって、念入りに数えたのだ。少なくとも数に関しては間違いなく減っていた。
未だ首を傾げている斉藤のお婆さんに手を振って、僕は更に自転車を走らせた。
上空を泳いでいる時にはそうも感じないけれど、鯉幟というのは結構大きい。ここらのは特に、今のマンション用なんかとは比べ物にならない位、大きくて立派だ。だから当然、吊るしたり外したりだって、容易には出来ない。吊るす日なんて、お祭り気分も相俟ってか、殆ど町の人総出だ。
それだけの物なんだから、誰かが外して持って行ったのだとすれば、隠し場所だって必要だろう――そう考えた僕は、人の居ない所を探して、町を走り抜けた。
しかし、人が少なくなったとは言っても、出て行ったのは殆どが若い人。家を持っている老人は新たな生活を嫌ったのか、残っている。だから空き家というのは意外と少なかったし、人の目も結構あった。
捜査の行き詰った僕は、神社の石段の下に自転車を止めると、その場に座り込み、頭上を仰いだ。
そして、あの光景に出会った。
鯉幟が泳いでいる。
それも、綱も何も無しに、風の中を自由自在に、気持ち良さそうに。
「!?」慌てて立ち上がった僕はその光景が神社の上空で展開されているのだと気付き、疲れた脚に鞭打って石段を駆け上がった。
息せき切って駆け付けた神社の境内には、泳ぐ鯉幟と――小さな、一人の子供。六、七歳といった所だったろうか。小さな顔に大きな目、おかっぱ頭で、一見男の子とも女の子とも、判別がつかなかった。いやに古臭い柄の着物を着て、慌てて駆け上がって来た僕を見てきょとんとしていた。
そして何より、見た事のない子だった。
前述の通り、この集落は小さい。僕だって下級生達の面倒を見たりもしていたから、どこの家にどんな子が居るか位は知っていた。
だけど、その子は全く、知らない顔だったのだ。
「君、誰?」
「……」僕の問いに子供は答えず、後ずさりした。僕、そんな怖い顔してるかい?
そして丸でその子を庇うかの様に、僕達の間に鯉幟が割って入る。真鯉が二匹に緋鯉が二匹、更に小さくて青い鯉が数匹――丁度減っていた二家族分だ。
「これ、君が……?」鯉幟を指差して、僕は尋ねた。「どうなってるの?」
「……」子供はやはり答えない。
そして鯉が僕の視界を遮った隙に、踵を返す気配!
「待って!」僕は慌てて声を掛けた。「答えたくないなら答えなくていいし、鯉幟で遊びたいならそれもいいけど……! この鯉幟を大事にしてる人も居るんだ。だから後でちゃんと返して置いてくれないか?」
遠ざかる足音が逡巡する気配。そして、風の音に紛れるかの様に微かに届いた、声。
「……うん」
それだけだった。その声と足音がどこへともなく遠退いた後、鯉幟達もそれを追う様に泳ぎ去って行った。
鯉幟を捕まえればよかったんじゃないかって?
あの時そんな事をしなくたって、あの子はちゃんと戻してくれる――そう思ったんだ。
そして翌朝、学校の通学途中に数えた鯉幟は、やはり去年と同じだけ、泳いでいた。
結局町であの子を見る事は二度と無かったし、誰に訊いても知らないと言われた。
神社に縁のある存在だったのかどうかも解らない。
けど、あの子もきっとあの当時の僕達と同じ様に、鯉幟が泳ぐ光景に胸を躍らせていたんだろう。
もしかしたら、今もずっと――。
―了―
遅くなった~。
もう『こどもの日』終わるがな(^^;)
あるいは町を出て行ったか、もしくは……?――それらの可能性を、子供心にも考えたくなかったのだろう。出し忘れという安易な答えを自分で出して、納得していた。
ところが翌日、数え間違えたのかも知れないなどと思ったのがいけなかった。
再度数えた時、その数は更に一家分、減っていた。
「おかしいなぁ」僕は首を傾げた。未だ五月にも入らない頃だった。仕舞うには早過ぎる。例え共同の鯉幟に参加を取り止めたとしても、一旦吊るした物を外すのは大変だろうし、そこ迄する理由も見当たらなかった。「でも、確かに昨日は……」
何度数えても、やはり減っていた。友達に尋ねても、頭を振るだけ――もうそんなのいちいち数えてないよ、と。
野良作業中の大人達に訊いても、やはり首を傾げるだけだった。
「ありゃあ? そう言われれば川の真ん中辺りが開いてる様だけんど……そんな所から取って行く奴も居ねぇだろ」麦藁帽子の下で小さな目をしばしばさせながら川を見渡して、おじさんが言う。「あの辺りにあったのは……斉藤ん家のだったかなぁ?」
僕は何と無く気になって、その斉藤さんの家に向かった。
「え? 鯉幟? 未だ仕舞ってやしないよ」小さな集落の事、辺りのお爺さんお婆さんはその殆どが顔見知りだ。斉藤のお婆さんもうちの祖母の友達で、僕も時々お菓子を貰ったりした事があった。
だから気安く、鯉幟の数が減っている事、そしておじさんの言う事にはそれが斉藤さんの家のものじゃないかという事、それらを掻い摘んで話して、尋ねる事も出来た。鯉幟はもう仕舞ったのかと。
そして斉藤のお婆さんは否定した。
「おかしいねぇ? 大体うちのは真ん中辺りに吊るして貰ったもんだから、私らだけじゃ降ろせないよ。仕舞う時も毎年、手伝って貰ってるんだから。あれは先先代からある大事なものだからねぇ。傷でも付けたら大事だよ」
「じゃあ、見間違いだったのかも知れないね」心配を掛けたくなくて、僕はそう言って頭を掻いた。
だけど、昨日の事もあって、念入りに数えたのだ。少なくとも数に関しては間違いなく減っていた。
未だ首を傾げている斉藤のお婆さんに手を振って、僕は更に自転車を走らせた。
上空を泳いでいる時にはそうも感じないけれど、鯉幟というのは結構大きい。ここらのは特に、今のマンション用なんかとは比べ物にならない位、大きくて立派だ。だから当然、吊るしたり外したりだって、容易には出来ない。吊るす日なんて、お祭り気分も相俟ってか、殆ど町の人総出だ。
それだけの物なんだから、誰かが外して持って行ったのだとすれば、隠し場所だって必要だろう――そう考えた僕は、人の居ない所を探して、町を走り抜けた。
しかし、人が少なくなったとは言っても、出て行ったのは殆どが若い人。家を持っている老人は新たな生活を嫌ったのか、残っている。だから空き家というのは意外と少なかったし、人の目も結構あった。
捜査の行き詰った僕は、神社の石段の下に自転車を止めると、その場に座り込み、頭上を仰いだ。
そして、あの光景に出会った。
鯉幟が泳いでいる。
それも、綱も何も無しに、風の中を自由自在に、気持ち良さそうに。
「!?」慌てて立ち上がった僕はその光景が神社の上空で展開されているのだと気付き、疲れた脚に鞭打って石段を駆け上がった。
息せき切って駆け付けた神社の境内には、泳ぐ鯉幟と――小さな、一人の子供。六、七歳といった所だったろうか。小さな顔に大きな目、おかっぱ頭で、一見男の子とも女の子とも、判別がつかなかった。いやに古臭い柄の着物を着て、慌てて駆け上がって来た僕を見てきょとんとしていた。
そして何より、見た事のない子だった。
前述の通り、この集落は小さい。僕だって下級生達の面倒を見たりもしていたから、どこの家にどんな子が居るか位は知っていた。
だけど、その子は全く、知らない顔だったのだ。
「君、誰?」
「……」僕の問いに子供は答えず、後ずさりした。僕、そんな怖い顔してるかい?
そして丸でその子を庇うかの様に、僕達の間に鯉幟が割って入る。真鯉が二匹に緋鯉が二匹、更に小さくて青い鯉が数匹――丁度減っていた二家族分だ。
「これ、君が……?」鯉幟を指差して、僕は尋ねた。「どうなってるの?」
「……」子供はやはり答えない。
そして鯉が僕の視界を遮った隙に、踵を返す気配!
「待って!」僕は慌てて声を掛けた。「答えたくないなら答えなくていいし、鯉幟で遊びたいならそれもいいけど……! この鯉幟を大事にしてる人も居るんだ。だから後でちゃんと返して置いてくれないか?」
遠ざかる足音が逡巡する気配。そして、風の音に紛れるかの様に微かに届いた、声。
「……うん」
それだけだった。その声と足音がどこへともなく遠退いた後、鯉幟達もそれを追う様に泳ぎ去って行った。
鯉幟を捕まえればよかったんじゃないかって?
あの時そんな事をしなくたって、あの子はちゃんと戻してくれる――そう思ったんだ。
そして翌朝、学校の通学途中に数えた鯉幟は、やはり去年と同じだけ、泳いでいた。
結局町であの子を見る事は二度と無かったし、誰に訊いても知らないと言われた。
神社に縁のある存在だったのかどうかも解らない。
けど、あの子もきっとあの当時の僕達と同じ様に、鯉幟が泳ぐ光景に胸を躍らせていたんだろう。
もしかしたら、今もずっと――。
―了―
遅くなった~。
もう『こどもの日』終わるがな(^^;)
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Re:こんにちは
座敷じゃなくて神社の境内だけど(笑)
やっぱりそれ系かも?
やっぱりそれ系かも?
Re:こんにちは
神社でも座敷童子なのかな?(^^;)
こんにちは♪
鯉幟かぁ~そう言えば最近、こちらマンション
ばかりのせいか、昔のように鯉幟が空を泳ぐ姿
って見かけませんねぇ・・・・
その子は付喪神だったのかな?
蔵だか納戸にしまいこまれていた鯉幟を
出した時に一緒に出てきたのかなぁ?
ばかりのせいか、昔のように鯉幟が空を泳ぐ姿
って見かけませんねぇ・・・・
その子は付喪神だったのかな?
蔵だか納戸にしまいこまれていた鯉幟を
出した時に一緒に出てきたのかなぁ?
Re:こんにちは♪
付喪神説も出ましたか☆
何だったんでしょうね?(←おい)
鯉幟、大阪では殆ど見掛けなかったなぁ。マンションサイズだったからかしら。
何だったんでしょうね?(←おい)
鯉幟、大阪では殆ど見掛けなかったなぁ。マンションサイズだったからかしら。
Re:鯉のぼり
幼くして亡くなった昔の子供……かも☆
鯉幟、近所の家が毎年立ててたんですが、最近見ないかも……。
子供が何歳位迄、立てるものなんでしょうね?
鯉幟、近所の家が毎年立ててたんですが、最近見ないかも……。
子供が何歳位迄、立てるものなんでしょうね?
Re:無題
(笑)
でも、手口の詳細が証明出来ず、起訴猶予かも(^^;)
でも、手口の詳細が証明出来ず、起訴猶予かも(^^;)