『猫の言い分』

　ご無沙汰しております。Ｚ家の同居猫、フィドルです。にゃん。
　年末とやらはＺがどたばたと――今更しても大差無さそうな――大掃除とやらを始め、私は掃除機と戦う日々でした。いや、強敵でした。
　それが終わって妙にまったりした時間が到来したのですが……何処からともなく響く鐘の音、矢鱈派手な歌番組とやらを眺めるＺ。私も何度か経験した事がある、平和な年末という奴ですなぁ。
　ところが、今年は私には家族があります。
　ワイフのモールと娘のミトン。息子達はそれぞれの家庭で年越しを迎えているのでしょう。
　暖かい炬燵に毛布、実に平和です。
　ところが、翌日の事でした。
　Ｚの元にあの動物の絵が書かれた葉書とやらが大量に舞い込んだのは。

　子、鼠、ねずみ――字は読めない私達ですが、あの丸っこいフォルム、長い尻尾を見ればそれ位は判ります。玩具のねずみしか見た事の無いミトンでも、寧ろデフォルメされているが故にその絵は玩具っぽく、直ぐにそれと知れた様でした。
　そしてそれを見て小首を傾げたのは、勿論、そのミトンでした。
　ミトンが年賀状を見るのは初めてではありません。それと言うのも年末にＺが出す相手を確認する為でしょう。昨年届いた、猪の書かれたそれを大量にチェックしてましたから。
　それで訊くのです。何故今年はねずみなの？　と。
　私も人間と暮らして数年。それなりの事は知っています。干支というものがあるらしい事位は。
　子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥――それ位はねぇ。
　そしてそれを説明すると、ミトンが言い出すだろう事も、解っていました。
　何故、猫年が無いの？――と。
　その理由となった昔話も、私は知っていました。かつての競争の時、騙された話。そしてそれ以来、我々猫はねずみを狙う様になったという通説。
　実際はお手頃なだけですけどね。何としてかは言わぬが花でしょう。
　私は――またちょっと考えました。

　確かに猫年は無い。寅という大型の猫が入っているけれど、じゃあ小型の猫はどうなんだと言われてしまいます。
　此処は一つ、丸め込みましょう。
　ミトン――と私は言いました――十二支をよく見てご覧。辰という想像上の動物は入っているものの、他は人間に飼われているものばかりじゃないか。愛玩用として、もしくは食料として。辰にしても鹿の角だの蛇の胴だの、様々な動物を集めた姿と聞いている。
　ところが猫年は無い。
　これは――猫は飼われてなどいないからだ！　私達は使役などされないし、勿論食料など以ての外！　私達がこの家に居るのも、あくまで同居している迄の事。
　現に人間年というのも無いではないか。それは人間が決めたからだ。
　寧ろ猫年が無いのは、誇るべき事なのだよ――私はそう言い切りました。
　
　ミトンは大きな眼を丸くして、私の話に聞き入っています。
　あ、でもあくまで同居だから、Ｚと遊んで上げる位はいいんだよ？　ちょっとしたサービスで。
　ミトンは――何と素直な子なのでしょう――解ったー、と言って炬燵に入っているＺの膝に向かって行きました。甘えた声で遊びに誘います。テレビを見ていたＺですが、私は未だかつて、Ｚがあの声に抗し切れた姿を見た事がありません。
　ほら、今日も……。
　紐の先にねずみを模したふわふわの付いた玩具で遊ばされていますよ。
　悩みが無くていいですねぇ。人間は。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―了―

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　ねずみ年なので猫の話（笑）
　や、フィドルの方便なので、ねずみ好きの方、気にしないでやって下さい（汗）