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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「ここに隠れてる事、内緒にしてね」
 街外れの図書館、窓際に並んだ所見台の下からの視線に、ふっと下ろした眼が合ったその子供は、そう言って口の前に指を一本、立てた。小学校低学年位だろうか。大きな目の、ちょっと可愛い子供。
 席を探していた私は何と無く、その子の傍の椅子を引いた。何冊か選んできた本を台に広げ、それとない風を装って、声を掛ける。
「何してるの?」
「かくれんぼだよ」解らないの? そんな響きの籠った声。「だから鬼に言っちゃ駄目だよ?」
「ここは図書館よ?」
「だから静かに遊んでるよ? お姉さんが話し掛けなかったら、僕はじっとしてるし、声も立てないもん」
 ああ言えばこう言う――小生意気な子供に、私は「それは悪かったわね」と叩き付ける様に言うと、本に集中する事にした。
 急がなければもう夕方。閉館時間が迫っている。淡いベージュのカーテンを引かれた窓からの光はもう弱く、薄い影を長く引いている。
 元々個人所有だった図書館で、主の死に際して、町に寄付されたその当時の物がそっくり残っているそうだけれど、きっとその主は趣味のいい人だったのだろう。華美な装飾は無いものの、落ち着いた、年輪を感じさせる図書館は外との時間の流れが違う様に感じさせてくれる。

 それにしても……この子を捜している風な子供なんて、館内には居ないのだけど?
 唯一現実の時間を思い出させる閉館のアナウンスに追われて私が本を閉じる頃、いつしか彼の姿は消えていた。

 結局借り出して行った本の返却がてら、私はまた、あの図書館に行った。そしてまた本を選び――何とはなしに、またあの席に向かっていた。
 そして、再び、目が合った。
 彼はまた、唇の前に指を立てた。
「今日もかくれんぼ?」そっと席に腰を下ろしながら、私は囁いた。
 彼は頷く。
「鬼さんは余程遠くを探しているのかしら? 同じ場所に二度も居て、見付からないなんて……」
 彼の顔に、怪訝そうな表情が浮かんだ。
「同じ場所に二度も……?」何を言ってるんだ、という声音。
「君、この間もそこに居たじゃない。同じ所に隠れてばかりで、見付からない?」そもそも、この場所、そんなに見付かり難い訳じゃないと思うけど。
 すると彼は訳の解らない事を言う。
「二度も、じゃないよ。一度隠れたきりだもん」
「……」私は思わず彼を覗き込んだ。
「ちょっと、お姉さん、見付かっちゃうよ」抗議は無視。
「君、この間いつの間にか居なくなってたじゃない。閉館時間だから帰ったんでしょ? それからまたここに来たんだから……」
「帰るって……どこへ?」きょとんとして、彼は訊き返した。
「どこって……」私がきょとんとする番。「君のお家」
「ここがお家だもん」
「あのね……」
「住んでる所がお家でしょ? だからここが僕の家」きっぱりと、彼はそう言った。
 私は溜め息一つ。子供と理屈の取り合わせは苦手だ。子供には理屈なんて通じないか、逆に屁理屈でやり込められるか、いい思い出なんて無い。
 私は無視して、読書を続ける事にした。
 
 帰り際、ふと見るとまた彼の姿は消えていた。私は首を捻りながらも、顔見知りになった司書さんにそれとなく訊いてみた。無論、彼とは内緒の約束だ。だからこう言う。
「ここに来る子供達っていい子が多いですよね。余所だとはしゃぎ回る子とか居て、落ち着けないんですけど……」そして愛想笑い。
「旦那様がいらっしゃった頃から、睨みが効いていましたからねぇ」名札に「山名」と刻まれた彼は苦笑した。そうだ、彼はここが個人所有だった頃から、勤めていたと聞いた事がある。五十前後だろうか。「ですから、遊ぶとしてもそぉっと、音を立てない様にしてるんです」
「……かくれんぼ、とか?」思わず口走った言葉に山名さんは不意に、複雑な表情をした。
「そう……そうですね」小刻みに、しかし深く頷く。「よくかくれんぼをしていました。坊ちゃんも」
「坊ちゃんって、ここの元の所有者だった、えーと……」
「鹿嶋(かしま)の旦那様の一人息子さんでした。良介さんとおっしゃって、ここにもよく来られてましたよ。お身体が弱かった所為もおありだったのでしょうが……。本に飽きるとよく、他に来ていた子供達とかくれんぼをしていました」
「……その子は、今は?」もう大人だろう。あの妙な子供と関係がある気がするのは只の気の所為だろう、そう思おうとしながら私は質した。
「残念ながら……小学校に上がったばかりの頃、ここで突然倒れてその儘……この世を去られました」
 旦那様の嘆き様は余りにも酷いものでした――そんな話は私の耳を素通りして行く。もしかしたら、いや、そんな事ある筈が……そんな思いの中で私の理性が揺れている。
 そして、約束には反するが私は山名さんにかくれんぼの子供の事を話した。彼なら閉館後の図書館の状況だって知っている筈。
 それを聞いて暫し考えた末、彼は明日、また来てくれと言った。

 翌日、あの席に行くと――書見台の下から冷たい視線を感じた。
 見ると、あの子がじっと、私の顔を凝視している。
「内緒にしてって言ったのに……」そんな言葉が吐き出された。
「ごめん……」私はその事に関しては素直に詫びた。「君……良介君? 鹿嶋さんの……」
「嘘つきとは口利かない」台の下に体育座りした儘、彼は向きを変えた。
 と、そこへ――四十代位だろうか、一人の女性を伴って、山名さんが現れた。
 山名さんは私の視線の先を指差し、彼女に囁いた。
 そして――。
「良介ちゃん、見ぃ付けた」どこか気恥ずかしそうに、どこか懐かしげに、彼女はそう宣言した。
 彼が倒れた時の、彼女が鬼だったのだ。
 鹿嶋良介君は、すっかり変わってしまった彼女の容貌に、それでも僅かに面影を見付けたか、照れた様な苦笑いを残して……消えた。

「良介君、遊んでる途中で倒れて、心だけ、残っちゃったんですかね?」
「そうかも知れませんねぇ」山名さんは頷いた。
「でも、どうして私にだけ、見えていたんでしょう? 霊感なんて無いですよ?」
 良助君の姿は、毎日ここに通う山名さんにも、あの女性にも、見えてはいなかったらしい。
「貴女と遊びたかったのかも知れませんねぇ」山名さんは冗談めかして言い、微笑んだ。

 しかし、冗談じゃない、と今では私は思っている――書架の間に居る時に「見ぃ付けた!」とどこからともなく聞こえてくる様になった今では。
 隠れてる訳じゃないってば!

                      ―了―

 何かほのぼのを目指し過ぎて……ラストお笑いになった!?

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なった(笑)
もう!!!(笑)
どーしても捻らないと気が済まないのかな?成仏したと思ったのにぃ…f^_^;
まぁいいけどさ。
でも、たまには、ほのぼのしたまま終わろうよ~~
冬猫 2007/12/03(Mon)22:59:20 編集
なりましたか(笑)
や、成仏しましたで終わると何か普通かな~と(笑)
やっぱり捻くれ者です(苦笑)
巽(たつみ)【2007/12/03 23:42】
わわわ
こんばんは。
実際にこんなことがあったら、ノイローゼになるかもねぇ~。
とりあえず、この図書館に行かなくなるかもwww。
afool 2007/12/03(Mon)23:12:31 編集
Re:わわわ
大丈夫。次、見付ける迄は向こうが隠れてるから(^^)
でもさり気なく見付かり易い所に居たりして(笑)
見ない振り~☆(゜_゜)))
巽(たつみ)【2007/12/03 23:47】
無題
面白かったです(^^)
怖いんだか笑えるんだか・・♪
かくれんぼ、見つけてもらえないと不安になるかも。
moon URL 2007/12/03(Mon)23:52:28 編集
Re:無題
いつも有難うございます(^^)
かくれんぼ、隠れてるんだけど、見付けられる瞬間を待ってるんですよね。
巽(たつみ)【2007/12/04 00:34】
無題
私はこの終わり方好きだなぁ~のほほん♪としてて(^^)

最近の親は、子供をほっぽらかしすぎな気がします。で、走ってたりしてこっちが注意すると、「ほら、怒られたでしょ」って…
児童室担当の日はいつも以上に疲れます(*μ_μ)
あすか 2007/12/04(Tue)01:28:09 編集
Re:無題
有難うございます(^^)

居ますよね~。自分が直接怒らない親御さん。
「お店の人に怒られるから静かにしなさい」とかね。先ず自分が躾けんかい! と思いますが。
子供って視界を遮る棚とかあると、途端に鬼ごっこ始めるのは何故でしょう?
巽(たつみ)【2007/12/04 01:36】
こんばんわ★
よかった。
最後はお笑いっていうか、救いがあって…
思わずニンマリしちゃいました。
こういうお化けなら、可愛いから大歓迎、かな?
モアイネコ 2007/12/04(Tue)02:11:10 編集
Re:こんばんわ★
そんな事言うと、探しに行っちゃいますよ~?(笑)
怖い話にしようかほのぼのにしようか考えつつ……お笑いに(^^;)
巽(たつみ)【2007/12/04 16:33】
んーでも
考えようによってはホラーですよね。この子の存在が分かる人が増えていくとしたら、鬼さんが転々と変わるわけで、エンドレスに…。
ところで、「良助」くん?「良介」くん?ささいなことですけど、気になっちゃった。ごめんなさい。
みけねこ 2007/12/04(Tue)16:44:40 編集
Re:んーでも
はわわ。「良介」君です。有難う、直しました~m(_ _)m
心霊スポットとして有名になったりして……。
その内七不思議とか出来るんだー(^^)
巽(たつみ)【2007/12/04 17:29】
図書館で
霊感を身につけた!?
図書館にあまりかよったことがないので、
少々コワイな><
鬼だった女性はずっと心に良介くんの
ことが気にかかってたんでしょうねぇ…。
ふわりぃ URL 2007/12/04(Tue)17:11:02 編集
Re:図書館で
もう少し早く見付けていたら助かっていたかも……とかね。それは気に掛かる……。
普通の図書館はあんな事は無い「筈」ですのでご安心を^^;
巽(たつみ)【2007/12/04 17:34】
おもしろいね
こんな感じの図書館って、日本にもあるのかな?
ふっと、依然観た映画を思い出した。
タイトル忘れたけど、犬を飼いたい女の子の話。
そこに出てくる図書館が、そんな感じ。

ラストお笑いなの? ホラーかと思った。
ぷん URL 2007/12/04(Tue)19:54:17 編集
Re:おもしろいね
お笑いっぽいのは「私」の所為かも知れませんね(^^;)
何か最近名前付けるのサボってる気が……(笑)
巽(たつみ)【2007/12/04 20:05】
無題
このタッチ、扱い方は面白いですね。
ずっと声がしたらうるさいでしょうが。
一度だけなら見てもいいかな。
銀河 系一朗 URL 2008/01/08(Tue)22:00:46 編集
Re:無題
一度だけなら……残念ながら、彼女、殆ど取り憑かれてます(笑)
でも馴染んでます。適応力高過ぎです。
巽(たつみ)【2008/01/08 23:26】
無題
あははは。
これ、読んでなかったけど
図書館シリーズの1話かなw

最後、面白かった(w
図書館ファブィ!
見習猫シンΨ URL 2008/08/16(Sat)16:32:37 編集
Re:無題
ファブイ有難う(^^)
図書館シリーズ1話と言うか、単発物の心算が最後捻った為にシリーズに(笑)
巽(たつみ)【2008/08/16 17:07】
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