〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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開けられる事の無いドアに何の意味がある?――暗闇の中で、男は一人ごちた。
闇に閉ざされた、狭い部屋。窓の一つもありはしない。
あるのは開かれる事の無い、鉄の扉だけ。
その鍵を持つ少女を、彼は知っていた。だが、知人でも、況してや友人でもない。
知っているのは十歳ばかりの外見。ありすと呼ばれている事。そしてどの扉をも開けられる鍵を、持っているらしいという事だけだった。
それさえあれば、此処から抜け出せる――床を見据えて、男は唸った。此処の、ある意味安定した、しかし退屈な暮らしにも飽き飽きしていた。
彼はいつしか、件の鍵を少女から奪い取る方法を模索する様になっていた。
問題の鍵はいつも少女の首から下げたチェーンに繋がれていた。《Master Key》という小さなプレートと共に。
だが、それが解っていたとしても扉の向こうの彼女に全く手を出せない彼には仕方のない事だった。
と、ある日、普段は素通りして行く筈の、その少女その人が、彼の扉の前に立った。
カチリ、とドアノブの辺りで音がする。
真逆、と思いつつも彼は腰を浮かせた。
測らずして、ドアが錆び付いた音と匂いを立てて、開いた。
「どういう吹き回しなんだ?」揶揄する様に、男は言った。「俺はもう此処でお終いじゃなかったのかい?」
「それがね、最近何処も人手不足らしいのよ」少女は肩を竦めて言った。肩の上で茶色い長い髪が踊る。「だから……少しだけ社会復帰しない?」
そう言って悪戯っぽく笑った顔はとても十歳やそこらの子供のものには見えず、彼はその魅惑的な瞳の命ずる儘、頷いていた。
翌日の晩、男は疲れ切って、馴染んだ暗闇へと戻って来た。あちこちが痛い。真逆あんな物にあれ程の攻撃力があろうとは……。いや、今の身の上だからそう感じるのか?
「ご苦労様」その声と同時に、再び鍵が締められる。
もう少し開けといてくれよ――とは今の彼は思わなかった。寧ろ此処から、この安全な暗闇から出たくない。
此処なら彼に、炒った豆をぶつけて来る輩は居ないのだから。
「最近は鬼も少なくなっちゃって」少女の声は微苦笑を含んでいた。「然も信じる人間も少なくなった所為か、弱ってるわねぇ」
「煩せぇ」元気なく、彼はぼやく。「これでも昔はちっとは名の売れた……」
「それで暴れ過ぎて封印されちゃったのよね? その鍵は此処にあるけど……取り返さないの?」扉の上部、鉄格子の窓の向こうで、少女がちらちらと鍵――と言うよりお札に見える――を振る。
男はそれに対して煩そうに片手を振って、その場にごろりと横になった。
「お前みたいな小娘にいい様に扱われてる鬼なんざ、外に出す顔もねぇよ」
そう嘯きつつも、次の節分迄には此処を出てやる――昨年も思った事をまたも決意するのだった。
―了―
ねーむーいー。
鬼さえ使うありすって一体……?(^^;)
闇に閉ざされた、狭い部屋。窓の一つもありはしない。
あるのは開かれる事の無い、鉄の扉だけ。
その鍵を持つ少女を、彼は知っていた。だが、知人でも、況してや友人でもない。
知っているのは十歳ばかりの外見。ありすと呼ばれている事。そしてどの扉をも開けられる鍵を、持っているらしいという事だけだった。
それさえあれば、此処から抜け出せる――床を見据えて、男は唸った。此処の、ある意味安定した、しかし退屈な暮らしにも飽き飽きしていた。
彼はいつしか、件の鍵を少女から奪い取る方法を模索する様になっていた。
問題の鍵はいつも少女の首から下げたチェーンに繋がれていた。《Master Key》という小さなプレートと共に。
だが、それが解っていたとしても扉の向こうの彼女に全く手を出せない彼には仕方のない事だった。
と、ある日、普段は素通りして行く筈の、その少女その人が、彼の扉の前に立った。
カチリ、とドアノブの辺りで音がする。
真逆、と思いつつも彼は腰を浮かせた。
測らずして、ドアが錆び付いた音と匂いを立てて、開いた。
「どういう吹き回しなんだ?」揶揄する様に、男は言った。「俺はもう此処でお終いじゃなかったのかい?」
「それがね、最近何処も人手不足らしいのよ」少女は肩を竦めて言った。肩の上で茶色い長い髪が踊る。「だから……少しだけ社会復帰しない?」
そう言って悪戯っぽく笑った顔はとても十歳やそこらの子供のものには見えず、彼はその魅惑的な瞳の命ずる儘、頷いていた。
翌日の晩、男は疲れ切って、馴染んだ暗闇へと戻って来た。あちこちが痛い。真逆あんな物にあれ程の攻撃力があろうとは……。いや、今の身の上だからそう感じるのか?
「ご苦労様」その声と同時に、再び鍵が締められる。
もう少し開けといてくれよ――とは今の彼は思わなかった。寧ろ此処から、この安全な暗闇から出たくない。
此処なら彼に、炒った豆をぶつけて来る輩は居ないのだから。
「最近は鬼も少なくなっちゃって」少女の声は微苦笑を含んでいた。「然も信じる人間も少なくなった所為か、弱ってるわねぇ」
「煩せぇ」元気なく、彼はぼやく。「これでも昔はちっとは名の売れた……」
「それで暴れ過ぎて封印されちゃったのよね? その鍵は此処にあるけど……取り返さないの?」扉の上部、鉄格子の窓の向こうで、少女がちらちらと鍵――と言うよりお札に見える――を振る。
男はそれに対して煩そうに片手を振って、その場にごろりと横になった。
「お前みたいな小娘にいい様に扱われてる鬼なんざ、外に出す顔もねぇよ」
そう嘯きつつも、次の節分迄には此処を出てやる――昨年も思った事をまたも決意するのだった。
―了―
ねーむーいー。
鬼さえ使うありすって一体……?(^^;)
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Re:もう
鬼(不況)は~外! 福は~内!(^^;)
ここぞとばかりに豆をぶつけるもよし、大声を出すもよし(?)
鬼は大変そうだけどね(笑)
ここぞとばかりに豆をぶつけるもよし、大声を出すもよし(?)
鬼は大変そうだけどね(笑)
こんばんは
ありす、手広いですね。鬼まで扱うとはw
そうそう。聞いた話ですが何処かでは「鬼は内、福は外」と言うらしいですよ。
どうも人の心には鬼が元から巣食うとのことで、ならそれを内に仕舞って、福(としての自分?)を出そう、ということらしいですが……
そういう発想の変換って面白いな、と感服しておりました。。
あまり関係無かったですね、すみません^^;
そうそう。聞いた話ですが何処かでは「鬼は内、福は外」と言うらしいですよ。
どうも人の心には鬼が元から巣食うとのことで、ならそれを内に仕舞って、福(としての自分?)を出そう、ということらしいですが……
そういう発想の変換って面白いな、と感服しておりました。。
あまり関係無かったですね、すみません^^;
Re:こんばんは
ありす、どこ迄手を広げるんでしょう(笑)
ほほう、鬼を内に仕舞い込んで……ですか。それも面白いですね^^
ほほう、鬼を内に仕舞い込んで……ですか。それも面白いですね^^
Re:こんばんは
お豆と、柊と鰯と、恵方巻き~☆
今年はどっち向いて食べるんだっけ?
今年はどっち向いて食べるんだっけ?
おはよう!
さては、昨日のコメを逆手に取ったな。(笑)
冒頭で、囚人じゃないかなって思ったんだけど、あるいは魔物、鬼だったか。
1本取られた感じ~。(^_^;)
なるほど、もう時期節分だしね~。
うちは、もうとっくに昔に豆は買ったよ~。
冒頭で、囚人じゃないかなって思ったんだけど、あるいは魔物、鬼だったか。
1本取られた感じ~。(^_^;)
なるほど、もう時期節分だしね~。
うちは、もうとっくに昔に豆は買ったよ~。
Re:おはよう!
節分ですから(^^)
うちは早めに豆買っとくと、母が食べてしまいます(笑)
うちは早めに豆買っとくと、母が食べてしまいます(笑)
Re:こんにちは♪
本当、早いなぁ。もう二月。
ありす……何者やねん(笑)
ありす……何者やねん(笑)
Re:あらぁ~^^
見た目十歳位の女の子にいい様に使われてる鬼さんです(苦笑)
でも、鬼さんはやっぱり妖なので、ありすの正体とか何とな~く感じるんだろうなぁ。それで逆らえない(笑)
でも、鬼さんはやっぱり妖なので、ありすの正体とか何とな~く感じるんだろうなぁ。それで逆らえない(笑)
Re:無題
豆撒きだけに呼び出される鬼(笑)
また一年間ゆっくりお休みです☆
そして来年はまた、豆攻撃!?(^^;)
また一年間ゆっくりお休みです☆
そして来年はまた、豆攻撃!?(^^;)
Re:あらら
人間から動物から幽霊から鬼さん迄(笑)
どこ迄面倒見るんでしょうね(^^;)
どこ迄面倒見るんでしょうね(^^;)