〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「何度来ても無駄よ。君の鍵は持ってないもの」腰のベルトに下げた鍵束を一瞥もしない儘のその返答に、少年は自分より一つ、二つ年上と見える少女に食って掛かった。
「だって、ありすだろ!? 鍵の事なら……ありすが持ってなくて誰が持ってるって言うんだよ!」
茶色い髪によく似合う青いリボン、そして青い服の十歳ばかりと見える少女は肩を竦めた。
「何度も言うけれどね、私が持つのは主に、使われなくなった鍵、使う者の居なくなった鍵、今は必要でない鍵……。必要とする人が居る鍵はその者の手に――それが基本よ」
「じゃあ、どうして僕の手に無いの? 僕はあの鍵が要るのに!」
少年は家の鍵を失くした。両親は共働きで、少年は所謂鍵っ子だった。
ところが学校の帰り道、友達とふざけ合っている内に首に下げていた紐が切れ、鍵は道路へと飛んで……。
それ以来、彼は家に入れずにいるのだと訴えた。
「こう、青い紐が結わえてあって――あ、紐は外れちゃったかも知れないんだけど――兎に角、もう一度確かめてみてよ!」少年は未だ言い募る。
それに対して少女はくるりと身を翻した。確認などする必要もない、とばかりに。
「あの鍵は、今それを必要としている人の手にあるわ。だから、君には渡せないの」
「だ、誰だよ!? それ!」少年は喚く。
その甲高い声に煩そうに耳を押さえながら、少女は告げた――家に帰ってみれば解る、と。
「だって、ありすだろ!? 鍵の事なら……ありすが持ってなくて誰が持ってるって言うんだよ!」
茶色い髪によく似合う青いリボン、そして青い服の十歳ばかりと見える少女は肩を竦めた。
「何度も言うけれどね、私が持つのは主に、使われなくなった鍵、使う者の居なくなった鍵、今は必要でない鍵……。必要とする人が居る鍵はその者の手に――それが基本よ」
「じゃあ、どうして僕の手に無いの? 僕はあの鍵が要るのに!」
少年は家の鍵を失くした。両親は共働きで、少年は所謂鍵っ子だった。
ところが学校の帰り道、友達とふざけ合っている内に首に下げていた紐が切れ、鍵は道路へと飛んで……。
それ以来、彼は家に入れずにいるのだと訴えた。
「こう、青い紐が結わえてあって――あ、紐は外れちゃったかも知れないんだけど――兎に角、もう一度確かめてみてよ!」少年は未だ言い募る。
それに対して少女はくるりと身を翻した。確認などする必要もない、とばかりに。
「あの鍵は、今それを必要としている人の手にあるわ。だから、君には渡せないの」
「だ、誰だよ!? それ!」少年は喚く。
その甲高い声に煩そうに耳を押さえながら、少女は告げた――家に帰ってみれば解る、と。
家に帰ったって入れないのに――不満げに呟きながらも、少年は懐かしい道を辿った。
住宅街の一角。よく似た造りの家が並ぶ。しかし間違う事無く、少年は我が家の前に立った。
しかし今その懐に鍵は無い。冷たいドアノブは回る事無く、ドアによって彼と家の中を隔てている。
だが、家の中に人の気配がある事に、彼は気付いた。辺りは未だ夕方。両親が帰って来る時間ではない筈だが。
彼はごくりと息を呑むと、庭を回り込んでリビングの窓を目指した。カーテンが開いていればそこから中が伺えるかも知れない、と。
思惑通り、カーテンには僅かな隙間。室内は明かりが灯されておらず暗かったが、差し込む夕陽が、僅かに朱く、中を照らしてくれていた。
「!」少年は目を瞠った。
この時間ならば仕事に出ている筈の母がぽつりと、ソファに身を沈め、両手に顔を埋めていたのだ。
「母……さん」呟きが漏れた。
と、硝子一枚隔てて、その声が聞こえた訳ではあるまいに、ふと、母が顔を上げた。その顔は化粧気もなく、涙に濡れ、薄闇の中で尚、蒼褪めていた。
そして、それに連れて膝へと下りた掌の中には――途中で切れた青い紐が結わえ付けられた、一本の鍵。
目が、合った様な気がした。
だが、それは幻影で、母は再び手に顔を伏せ、肩を震わせ始めた。
そして彼は悟った――いや、思い出したのだった。
あの時失くしたのは、鍵を拾おうと車道に飛び出した自分の方だった事を。
やがて夕闇に閉ざされた部屋を後に、少年はとぼとぼと家から遠ざかる道を歩いていた。
もう帰れないのだ。少なくとも実体としては。
実体が無ければ鍵なんて必要ない――ありすが自分にくれない訳だと、涙でくしゃくしゃになった顔で苦笑する。
と、そこに掛けられた声に、彼は慌てて顔を拭った。
「誰が必要としているか、解った?」青い少女だった。
こくり、と無言で頷く。口を開くのも億劫だった。
よく解った。もう自分には鍵なんて必要じゃない事が。もうあの家にも帰れない事が。
口に出さない迄もそんな思いはお見通しとばかりに、少女は肩を竦めて微かに苦笑した。
「あのね、君のお母さんが必要としているのは……本当はあの鍵じゃないのよ?」
え?――と顔を上げる少年に、彼女は続けた。
「あの鍵は只の代わり――君のね。彼女が本当に戻って来て欲しいと思っているのは、君。本当に手に抱き締めたいのも、君」
「でも……僕はもう……」
「困ったものね。ここ迄記憶が飛んでるなんて」少女はまた、肩を竦めた。「いいからさっさと……病院へ戻りなさい!」
怒鳴られた途端、彼の意識は凄まじい勢いで飛ばされる様に薄れ――再びはっきりした時、彼は酸素マスクやビニール製のフードに覆われながら、白い天井を見上げていた。
傍らに居た白衣の看護師が慌てて彼の意識レベルを確認した後、インターフォンのボタンを押した。
「先生! 患者さんの意識が戻りました! 直ぐにいらして下さい!」そして弾んだ声でこう付け加えた。「ご家族の方へも連絡を……!」
「全く……。死んでもいない癖に浮遊霊みたいにふらふらしてるんじゃないわよ」白い建物を見上げながら、少女は呆れ顔で肩を竦めた。「誰も死んだなんて言ってないじゃない」
そしてくるり、と踵を返す。
「あの鍵は未だ未だ彼自身に必要だし。未だ当分、私の元には来ないわね」
管轄外じゃないの、などと呟きながらも、その口元には微かに笑みが浮かんでいた。
―了―
役目を終えてないので回収はなしだよ~☆
住宅街の一角。よく似た造りの家が並ぶ。しかし間違う事無く、少年は我が家の前に立った。
しかし今その懐に鍵は無い。冷たいドアノブは回る事無く、ドアによって彼と家の中を隔てている。
だが、家の中に人の気配がある事に、彼は気付いた。辺りは未だ夕方。両親が帰って来る時間ではない筈だが。
彼はごくりと息を呑むと、庭を回り込んでリビングの窓を目指した。カーテンが開いていればそこから中が伺えるかも知れない、と。
思惑通り、カーテンには僅かな隙間。室内は明かりが灯されておらず暗かったが、差し込む夕陽が、僅かに朱く、中を照らしてくれていた。
「!」少年は目を瞠った。
この時間ならば仕事に出ている筈の母がぽつりと、ソファに身を沈め、両手に顔を埋めていたのだ。
「母……さん」呟きが漏れた。
と、硝子一枚隔てて、その声が聞こえた訳ではあるまいに、ふと、母が顔を上げた。その顔は化粧気もなく、涙に濡れ、薄闇の中で尚、蒼褪めていた。
そして、それに連れて膝へと下りた掌の中には――途中で切れた青い紐が結わえ付けられた、一本の鍵。
目が、合った様な気がした。
だが、それは幻影で、母は再び手に顔を伏せ、肩を震わせ始めた。
そして彼は悟った――いや、思い出したのだった。
あの時失くしたのは、鍵を拾おうと車道に飛び出した自分の方だった事を。
やがて夕闇に閉ざされた部屋を後に、少年はとぼとぼと家から遠ざかる道を歩いていた。
もう帰れないのだ。少なくとも実体としては。
実体が無ければ鍵なんて必要ない――ありすが自分にくれない訳だと、涙でくしゃくしゃになった顔で苦笑する。
と、そこに掛けられた声に、彼は慌てて顔を拭った。
「誰が必要としているか、解った?」青い少女だった。
こくり、と無言で頷く。口を開くのも億劫だった。
よく解った。もう自分には鍵なんて必要じゃない事が。もうあの家にも帰れない事が。
口に出さない迄もそんな思いはお見通しとばかりに、少女は肩を竦めて微かに苦笑した。
「あのね、君のお母さんが必要としているのは……本当はあの鍵じゃないのよ?」
え?――と顔を上げる少年に、彼女は続けた。
「あの鍵は只の代わり――君のね。彼女が本当に戻って来て欲しいと思っているのは、君。本当に手に抱き締めたいのも、君」
「でも……僕はもう……」
「困ったものね。ここ迄記憶が飛んでるなんて」少女はまた、肩を竦めた。「いいからさっさと……病院へ戻りなさい!」
怒鳴られた途端、彼の意識は凄まじい勢いで飛ばされる様に薄れ――再びはっきりした時、彼は酸素マスクやビニール製のフードに覆われながら、白い天井を見上げていた。
傍らに居た白衣の看護師が慌てて彼の意識レベルを確認した後、インターフォンのボタンを押した。
「先生! 患者さんの意識が戻りました! 直ぐにいらして下さい!」そして弾んだ声でこう付け加えた。「ご家族の方へも連絡を……!」
「全く……。死んでもいない癖に浮遊霊みたいにふらふらしてるんじゃないわよ」白い建物を見上げながら、少女は呆れ顔で肩を竦めた。「誰も死んだなんて言ってないじゃない」
そしてくるり、と踵を返す。
「あの鍵は未だ未だ彼自身に必要だし。未だ当分、私の元には来ないわね」
管轄外じゃないの、などと呟きながらも、その口元には微かに笑みが浮かんでいた。
―了―
役目を終えてないので回収はなしだよ~☆
PR
この記事にコメントする
Re:こんばんは
ありすに勤務時間があるのかどうか……(^^;)
ある意味年中無休? 労働基準法違反だにゃ☆
ある意味年中無休? 労働基準法違反だにゃ☆
Re:無題
お疲れ様でした!
ん~、死神の彼女に任せると……他の誰かの寿命が縮みますよ?(笑)
ん~、死神の彼女に任せると……他の誰かの寿命が縮みますよ?(笑)
Re:こんにちは
死に掛け――幽体離脱状態だと、何故かありすに会える……らしい(←おい)
そう言えばこれ迄も生霊さん出て来たけど……何処で知ったんだ?(^^;)
そう言えばこれ迄も生霊さん出て来たけど……何処で知ったんだ?(^^;)
Re:こんにちは♪
ありすの業務内容はどこからどこ迄なのやら(^^;)
取り敢えず鍵が関われば?
取り敢えず鍵が関われば?
Re:こんばんは♪
ありす、多忙です(笑)
管轄外なのに~(笑)
管轄外なのに~(笑)