〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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今日夜霧は、気分で叱責する癖を直したかったのだろうか。
尤も、それは余り巧く行っていなかった様に、僕には思われたけれど。何せ、笑顔を作りながらも頬やこめかみがひくついていたから。口に出る迄後一歩、といった所だ。
夜霧――夜原霧枝(やはら・きりえ)という今年の担任女性教師を、いつしか僕達はそう呼ぶ様になっていた。年齢ははっきり言って定かでない。色白で、若くは見えるんだけど……結構長く此処に居るらしい。取り敢えず、正面切ってそれを尋ねる無謀な人間は居ない。
元々気分屋の彼女の機嫌を損ねれば、いつ迄でもねっとり纏わり付く夜霧の様な叱責を食らう事になる。それは生徒全員が知る所だった。
勿論、僕、真田祥も。
「あの先生にだけは冗談仕掛ける気にならない」とは、知多勇輝の弁。彼は口が立つから、理屈で先生を煙に巻いてしまう事もあるんだけど……夜霧に理屈は通用しない。それだけに苦手なんだろう。時折、聞いた事もない様な新語を偽造して生徒を呆れさせたりもしているし。「あれは感覚で生きてるんだ」と、勇輝は言い切った。
それにしても、そのマイペースな彼女が、どうして今日は……?
朝のホームルームでも、なかなか席に着かない生徒に、いつもなら怒声の一つも飛ぶ所だったが、引き攣り笑いの「座りなさい」の一言だけ。逆に生徒は薄気味悪がって言う通りにしてたけど。
担当の美術の時間も、いつものダメ出しは無く、美術室内は変な空気が漂っていた。
午後のホームルームでも、やはり引き攣ってはいたが笑みを浮かべ、僕のたどたどしい議事進行を見守っていた。但し、目は口程にものを言う――黒い目は苛立ちを露わにしていたけれど。
「どうしたんだと思う?」寮に戻り、同室の双子の兄、京に尋ねる。因みに今日、彼は風邪で具合が悪く、授業を休んでいた。だから僕が議事進行を代わっていたのだ。
鬼の霍乱――そんな言葉が僕の脳裏に浮かんだ。
と、それが見えたかの様に、京は床に伏せった儘、眉間に皺を寄せた。
「偶々そんな気分じゃなかったんだろう?」具合が悪いのに下らない事を訊くなと、突き放す様な言い種だ。
しまった。京も夜霧と大差ない。
しかし、あの表情からすれば、怒鳴り散らしたい気分だった事は想像に難くない。
なのに、何が彼女を自制させたのだろう?
「詰まらない事を考えている暇があったら宿題でもしてこい」と、京。してこい、という事は部屋から出て行けという事だ。僕の部屋でもあるのに……。
前言撤回。今日の夜霧の方が未だマシだった!
しかし実際具合も悪そうだったし、ゆっくり休ませても上げたかったので、僕は必要な物だけを抱えて、図書室へと撤退した。枕元に携帯を置いて、余りに具合が悪い様だったら連絡するように言って。勿論、僕もマナーモードにした携帯を忘れない。
春休み明けの図書室には、未だ人の姿は少なく――僕は間宮栗栖の姿を見付けた。
「お、祥、追い出されたんか?」関西訛りで、彼は笑った。
「まぁね」向かいに席を占めながら、僕は苦笑した。「具合が悪いもんだから、我が儘度も上がってるよ」
「昨日も酷いもんやったしなぁ」
「そうそう。頭が痛いのに騒ぐな! 問題を起こすな! 大声を出させるな! って……。そんなに大声出す程の事もなかったのに」僕は肩を竦めた。「あれじゃ、夜霧といい勝負……昨日今日に関しては夜霧より酷いよ」
「夜霧はその勝負、撤退する心算やったんちゃうか?」くすっ、と栗栖は笑った。
「え……? あ、今日の夜霧?」
もしかして、余りの京の態度に自らを省みたのだろうか。あるいはあの八つ当たり気味の様子に自らそのものを見たか。だとしたら……やっぱり――少なくとも具合悪い時の――京よりはマシかも。
僕は何と無く携帯を取り出して、京にメールを打った。
〈他山の石〉と、一言。
余所の山から出る詰まらない石でも、自らの持つ宝玉を磨く事は出来る。他者を見て自らを向上させる事も然り――そんな意味。
何にせよ京の態度一つでも、あの先生が態度を改めてくれる気になったのなら有難い。出来れば京の方も磨かれて欲しいけど……そんな事を思っていた時だった。
「こら! 図書室では携帯禁止!」夜霧の怒鳴り声が降って来た。
人間、一朝一夕では変わらない。苛々の降り積もっていたらしい彼女の叱責は、いつもよりちょっと、長かった。
そして部屋に戻った僕を待っていたのは、意味不明のメールを送るな! という京の投げた枕だった。
―了―
祥君……合掌(-人-)
夜霧、遂に出してしまいました(笑)
何か生徒にし難くて、一歩距離のある先生役。然も渾名だ(爆)
それにしても、そのマイペースな彼女が、どうして今日は……?
朝のホームルームでも、なかなか席に着かない生徒に、いつもなら怒声の一つも飛ぶ所だったが、引き攣り笑いの「座りなさい」の一言だけ。逆に生徒は薄気味悪がって言う通りにしてたけど。
担当の美術の時間も、いつものダメ出しは無く、美術室内は変な空気が漂っていた。
午後のホームルームでも、やはり引き攣ってはいたが笑みを浮かべ、僕のたどたどしい議事進行を見守っていた。但し、目は口程にものを言う――黒い目は苛立ちを露わにしていたけれど。
「どうしたんだと思う?」寮に戻り、同室の双子の兄、京に尋ねる。因みに今日、彼は風邪で具合が悪く、授業を休んでいた。だから僕が議事進行を代わっていたのだ。
鬼の霍乱――そんな言葉が僕の脳裏に浮かんだ。
と、それが見えたかの様に、京は床に伏せった儘、眉間に皺を寄せた。
「偶々そんな気分じゃなかったんだろう?」具合が悪いのに下らない事を訊くなと、突き放す様な言い種だ。
しまった。京も夜霧と大差ない。
しかし、あの表情からすれば、怒鳴り散らしたい気分だった事は想像に難くない。
なのに、何が彼女を自制させたのだろう?
「詰まらない事を考えている暇があったら宿題でもしてこい」と、京。してこい、という事は部屋から出て行けという事だ。僕の部屋でもあるのに……。
前言撤回。今日の夜霧の方が未だマシだった!
しかし実際具合も悪そうだったし、ゆっくり休ませても上げたかったので、僕は必要な物だけを抱えて、図書室へと撤退した。枕元に携帯を置いて、余りに具合が悪い様だったら連絡するように言って。勿論、僕もマナーモードにした携帯を忘れない。
春休み明けの図書室には、未だ人の姿は少なく――僕は間宮栗栖の姿を見付けた。
「お、祥、追い出されたんか?」関西訛りで、彼は笑った。
「まぁね」向かいに席を占めながら、僕は苦笑した。「具合が悪いもんだから、我が儘度も上がってるよ」
「昨日も酷いもんやったしなぁ」
「そうそう。頭が痛いのに騒ぐな! 問題を起こすな! 大声を出させるな! って……。そんなに大声出す程の事もなかったのに」僕は肩を竦めた。「あれじゃ、夜霧といい勝負……昨日今日に関しては夜霧より酷いよ」
「夜霧はその勝負、撤退する心算やったんちゃうか?」くすっ、と栗栖は笑った。
「え……? あ、今日の夜霧?」
もしかして、余りの京の態度に自らを省みたのだろうか。あるいはあの八つ当たり気味の様子に自らそのものを見たか。だとしたら……やっぱり――少なくとも具合悪い時の――京よりはマシかも。
僕は何と無く携帯を取り出して、京にメールを打った。
〈他山の石〉と、一言。
余所の山から出る詰まらない石でも、自らの持つ宝玉を磨く事は出来る。他者を見て自らを向上させる事も然り――そんな意味。
何にせよ京の態度一つでも、あの先生が態度を改めてくれる気になったのなら有難い。出来れば京の方も磨かれて欲しいけど……そんな事を思っていた時だった。
「こら! 図書室では携帯禁止!」夜霧の怒鳴り声が降って来た。
人間、一朝一夕では変わらない。苛々の降り積もっていたらしい彼女の叱責は、いつもよりちょっと、長かった。
そして部屋に戻った僕を待っていたのは、意味不明のメールを送るな! という京の投げた枕だった。
―了―
祥君……合掌(-人-)
夜霧、遂に出してしまいました(笑)
何か生徒にし難くて、一歩距離のある先生役。然も渾名だ(爆)
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Re:こんばんは♪
叱り方にも人柄が出るよね!(゜゜)(。。)(゜゜)(。。)ウンウン
夜霧先生……果たしてどんな先生になって行くのやら……不安だ(笑)
夜霧先生……果たしてどんな先生になって行くのやら……不安だ(笑)
Re:先生~
一応元から女の子の心算ではあったの。
月夜も女の子の心算。
しかし、どうしたものかねぇ?(^^;)
何か組織作ろうと企ててるし(笑)
月夜も女の子の心算。
しかし、どうしたものかねぇ?(^^;)
何か組織作ろうと企ててるし(笑)
Re:担任するの?
うん、宜しくー♪(どんな学校だ!?)
無題
↑夜霧を先生になんかするもんだから、「担任するの?」って聞いてるよ。(爆)
感情的に怒るのだけは、よそうって思うんだけど、中々難しいんだよね。
ところでこの部分↓
「僕は携帯を何と無く携帯を取り出して、京にメールを打った。」
日本語がおかしくない?
感情的に怒るのだけは、よそうって思うんだけど、中々難しいんだよね。
ところでこの部分↓
「僕は携帯を何と無く携帯を取り出して、京にメールを打った。」
日本語がおかしくない?
Re:無題
おおう、消した心算が消えてない(--;)
有難う☆
夜霧……侮れんなぁ(爆)
叱責する時は気分がカーッとなってますからねぇ。そうすると叱られる方もムッとする→余計にカッとなるの悪循環になり易いですよね。
有難う☆
夜霧……侮れんなぁ(爆)
叱責する時は気分がカーッとなってますからねぇ。そうすると叱られる方もムッとする→余計にカッとなるの悪循環になり易いですよね。
Re:こんばんは
遂に出してしまいました、夜霧(笑)
夜霧に恋っすか!(^^;)
池の鯉の方が興味ありそうっすけど(笑)
夜霧に恋っすか!(^^;)
池の鯉の方が興味ありそうっすけど(笑)
Re:無題
おちゃちゃん、席を立って遊びに行ったんでしょうか(笑)
先生も人間だしー、とは思うけど、やっぱり気分任せの八つ当たり的叱責じゃあ、生徒の心には届かないと思うわ。
夜霧、「担任ー♪」って、やる気満々だよ(笑)
先生も人間だしー、とは思うけど、やっぱり気分任せの八つ当たり的叱責じゃあ、生徒の心には届かないと思うわ。
夜霧、「担任ー♪」って、やる気満々だよ(笑)
Re:同業
果たして気紛れ夜霧に先生が務まるのか、甚だ疑問ですが!(笑)
取り敢えず気分任せはダメですよね(--;)
取り敢えず気分任せはダメですよね(--;)