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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 昨日の放課後、職員室に日誌を置きに行った時、夜霧――担任の夜原霧枝先生――が、偶にはいい店で食事したいなぁ、などと呟いているのが耳に入った。
 当然、大人なのだから自由に行けばいい、と僕達は聞き流した。勿論、いい店はそれなりに値も張るだろうし、格式みたいなものもあるかも知れない。けれど、それこそ高校生の僕達には口出しする類のものでもない。
 無論、夜霧だって僕達は勿論、周囲の誰に相談する心算もなく、只、願望が口をついて出ただけなのだろう。

「だから、それで夜霧先生が誰かに月夜のデートなんていう名目で、要領よくちょっと洒落たレストランか料亭への誘いを催促した、なんて錯覚しないですよ。普通」勇輝が呆れ顔で、夜霧のデスクの上に載っている小振りな花束と一通の封筒を見下ろした。
「況してや匿名で招待状なんて、出す筈もないです」と、京。
「そうよねぇ」言って、夜霧は首を捻った。
 今朝、登校し、ある意味夜霧の城と化している美術準備室に行ったら、ドアの前にこの花束と封筒があったのだと言うのだ。封筒にも中の便箋にも記名はなく、只簡潔な文章で、この辺りでは所謂「洒落た人気店」として認識されているレストランへの招待の旨が記されていた。然も肉筆ではなく印刷された文字なので、特徴のない事夥しい。
 ドアの前とは言え、校舎内。それで少なくとも学内の人間の仕業と踏んで、もしかしたら昨日の呟きを聞いての事ではないかと、先ず僕達を呼び出したと言うのだ。
 勿論、昨日職員室に立ち寄った一同、誰もそんな事はしていない。
「他に心当たりはないんですか?」僕は尋ねた。「職員室の先生方だって、そんな事はしないと思いますけど……」
「それは詰まり、私を食事に誘おうなんて酔狂者は居ないと言いたいのね? 真田弟」夜霧に睨まれた。
「違いますよ!」僕は慌てて頭を振った。ちらっと、そんな事を思わないではなかったけれど。「ほら、先生がそんな催促をする様な厚かましい女性だなんて、勘違いする人も誰も居ないし……っていう意味で……」
「……まあ、いいわ」夜霧の視線が逸れる。僕はほっと、息をついた。
「このレストランに電話して訊いてみるとかしたら、判りませんか?」栗栖が言った。「ほんまに予約が入ってるんかどうかだけでも……?」
「それならしてみたわよ。ところが意外と口が堅くてね。予約主の名前は明かせないの一点張りよ。プライバシーの保護を考えたら当然かも知れないけど」
「表沙汰に出来ない二人連れって可能性もあるからじゃあ?」勇輝が言った。
 密会、という二字が脳裏に浮かんだ。確かにそれじゃあ、下手に名前は出せない。訊かれて答えた相手が、どこからか情報を聞き付けた本来の奥方だったりした日には、下手をすれば修羅場の舞台にされてしまう。
「まぁ、答えられへん、言うのは取り敢えずその時間帯に二人連れの予約は入ってる訳やな。そんな予約はございません、言わん所を見ると」
「でも、流石に誰だか判らない招待なんて……」夜霧は流石に気味悪げに花束を見遣った。
「確かに……」京が眉間に皺を寄せて唸る。「そもそも、そんな招待を受けると思うのかな?」
「そりゃ、同僚とか誰か、はっきり判ってたら喜んで行くけど」
『……』夜霧の辞書に遠慮という言葉はきっと、ない。

「まぁ、何にしても」仕切り直して、栗栖が言った。「予約がちゃんと入ってるんやったら、昨日の呟きとは関係ないやろうな。この辺では一番の人気店や。昨日の今日で予約が取れる筈もあらへんでしょう」
「それもそうか」所謂人気店の予約なんて、何箇月、ともすれば何年も前から埋まっている事だってある。運良くキャンセルでも出ない限り、突然滑り込むのは至難の業だ。
「じゃあ、あれとは関係なく、誰かが用意してたって事?」
「偶然だろうけど、時期的にもシーズンと言えばシーズンだしなぁ」勇輝が頷く。自分も彼女が近くに居て、お金があれば誘ったのに、とこっそり、呟いている。
「でも、誰が……? 然も廊下とは言え、美術準備室前に置くなんて……。関係者以外校内立ち入り禁止よ? 昨日は夕方遅く迄居たし、今朝置かれたとしか思えないし」夜霧は戸惑い顔だ。
「夜霧より早く登校していた人間……は、一杯居そうだしな」勇輝が唸る。「いつも俺等と変わらない位だもんなぁ」
「本人が関係者か、関係者に頼んだという可能性もあるんじゃないか?」と、京。「一見して危険物ではないし、準備室前に置く位なら、生徒でも出来る」
 あ、京、そんな事を言うと……。
「生徒? そうね……。じゃ、教職員には私が当たってみるから、あんた達は生徒に聞き込みして来て。誰か、頼まれなかったかって」
 僕が危惧した通りの事を、夜霧は宣ったのだった。
 生徒の数……教職員の何倍居ると思ってるんだ?

 結局、またもや新聞部副部長の情報収集力にの助けも借りて、僕達は花束を運んだ生徒を炙り出した。テニス部の朝練で早くに登校した生徒で、正門前に居た女性に、頼まれたのだと言う。
「女性?」僕達は目を丸くした。仮にも女性である夜霧に花束を贈るのだから、きっと男性だろうと、漠然と想像していたのだが……。
 夜霧も、複雑そうな表情をしている。
 そして更に人相風体を問い質すと、どうやらそれは夜霧の知っている女性の様で……。
 止めに夜霧が携帯に残っていたメールに添付された一枚の写真を見せると、その生徒は勢いよく頷いた。
「あの馬鹿姉!」夜霧は怒鳴った。「名前も書かないで紛らわし真似するんじゃないわよ!」
 夜霧が即、件の姉さんとやらに電話して怒鳴ったのは言う迄もない。その怒りは凄まじく、声は廊下迄漏れていたと言う。それでも、奢りだという招待はキャンセルする事なく、きっちり受けていた――寧ろ、コースに更に一品デザートを追加要求していたが。
 夜霧……もしかして、少しは期待していたのか?
 それにしても、人騒がせな姉妹だ。
 やれやれ、と顔を見合わせて、僕達は美術準備室を後にした。

                      ―了―


 ん~。纏まらん(--;)

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デジャブー?
こんにちはー^^

今日は日曜日だぁー^^/
ブログ巡回して、ブログ更新して、溜まったアニメ観て、テレビ見て、お肌の手入れして。。。。
あ!もうウダウダ寝てる暇がなくなっちゃう(・・;))((;・・)オロオロ
せっかくの日曜日やというのにー(T_T) ウルウルw

っということで^^;w

もしかして、レストランの大人の事情疑惑シリーズ?前も、「大人なんだから、こだわりレストラン行ったって、おかしくな^^w」とかいうような、フレーズ、あったようなぁーーーー^^;w
デェジャブーというやつかなぁー^^w

あ、ねーねー(≧∇≦)エヘヘヘヘヘノエヘw

ヤオイ物は?やおいモノwwww
台湾絵師さんの絵柄が「やおい」で、(≧∇≦)ヘヘヘヘヘノエヘってなってしまった^^;wwwwwwwww

やおい小説はぁー。。。大人なんだから、少しくらいはいいはず(≧∇≦)エヘヘヘノエヘ←イケナイ笑いwwwwwwwwwwwwwww
nukunuku URL 2010/11/28(Sun)11:23:36 編集
Re:デジャブー?
や、只でさえ恋愛もの駄目な人なんで……(^^;)
巽(たつみ)【2010/11/29 21:51】
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