〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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これだから地方は嫌なのよ――目の前の様相を見て取って、琳璃は固く、拳を握り締めた。都の目が届かないからと、こんな邪法を扱っているなんて!
彼女が見下ろす地面には、痩せ衰えた、犬の首が生えていた。
それは弱々しく、しかし人間への恨みに満ちた目で彼女を見上げ、低く、唸った。
この分では地中に埋められた身体の方も、痩せ衰えている事だろう。掘り返してやって、果たして回復するかどうか――琳璃は迷った。
取り敢えず周囲にこれ見よがしに転がされた食料を犬の口の届く場所に置いてみるが……警戒の為なのか、もうその力も無いのか、犬はそれに口を付けなかった。
琳璃は頭を振って、せめて仇なりと打ってやろうと、いずれ来る大馬鹿者を待つ為、近くの潅木の陰に身を隠した。
犬を地面――特に道の辻――に首だけを出して埋め、身動きならない状態にしておいて、周囲の僅かに届かない所に餌をばら撒き、散々、その飢えを煽る。そして犬が気が狂いそうな程の飢えの中、痩せ衰えた末、力尽きる寸前にその首を、刈る。それが犬神の呪法の一種だった。
残酷で卑劣な、外法。
恐ろしいモノを自分の味方に付ける――それは観念的には昔から、行われてきた事だ。暴れ川を水神として奉り、ご機嫌を窺ったり、山にも、空にも、猛獣達でさえ神とされる事もあった。
だがそれらと、そのモノを恐ろしい方法で造ってしまうのとは、別の次元だ。
然も当然ながらそれをやるのは人間。その人間の方が余程恐ろしい。
でも、自分の力だけでは何も為し得ない大馬鹿者だわ――琳璃は犬の頭を見ないようにしながらも、監視を続けた。
と、そこへ現れたのは二十代程の男性。黒い髪、黒い着物、肩の黒猫が忙しく鳴き続けていた。
あいつ?――琳璃は一瞬脚に力が入ったが、飛び出すのを辛うじて止める。どこかで見た様な気が、した。だが、それはほんの雰囲気だけの様で、顔を見ても思い出せないのだった。
黒い青年は周囲の状況を見て眉を顰め、片手で猫を宥めながら犬の前にしゃがみ込んだ。
近くに転がっていた、先程琳璃が置いた食料を手に取ると、犬の目を見ながらそれを口元に優しく持って行ってやる。少なくとも件の大馬鹿者ではない、と琳璃は判断する。
でも無駄よ――もう食べる力も無い、と琳璃は頭を振った。後、そいつを待っているのは死だけよ。
だが、犬は辛うじて上顎を上げ、それを口に含んだ。少しずつ、少しずつ噛み切られた欠片が喉を通る。
えっ?――琳璃は目を疑う。あんな力、もう無かった筈なのに。
犬は食べ続ける。焦るなよ、そんな穏やかな声が微かに聞こえた。飢えて衰えた腹に無理に詰め込めば、却って身体に負担となる。それを慮っての言葉だろう。
自分は見切るのが早過ぎたのか――琳璃は肩を落としつつも、頭を振る。いや、確かにあの犬は人への恨み、執念だけで生きていた。ならば、あれはいったい……。
そんな途惑いを抱えながら見詰める彼女の視界の片隅を、何かが過ぎった。
途端、彼女は茂みから飛び出していた。
「何をしている!? 後少しなのに!」狂気をはらんだ裏返った声が怒鳴り、恐らくは犬にとどめを刺す為に持って来たのであろう鉈(なた)が、振り上げられていた。黒い背中を見せる青年に向かって。
黒猫が青年の肩に爪を立てるのと、彼が男を見上げるのと、そして男の鉈を持った手が琳璃に蹴り上げられるのがほぼ同時だった。鉈は弧を描き、近くの木にどかりと突き刺さる。
男がそれに気を取られる間も無く、その視界を――彼には何処から現れたものか判らなかったが――巨大な黒い獣が埋めた。金色に光る目と鋭い牙、そして爪が迫る。
それに情けない悲鳴を上げて腰を抜かした所を、琳璃の二撃目が襲い――顎を思い切り蹴り上げられた男は失神した。
「ねぇ、貴方……」今の男の悲鳴はやけに大袈裟だったんじゃないの、と思いながら琳璃が青年を振り返ると、そこには彼の姿も、黒猫の姿も無かった。彼女には、黒い獣など見えてはいない。黒猫が青年の肩で威嚇していただけだ。「……え?」
遠ざかる気配など感じなかったのだが……と、ちょっと茫然とする。幾ら攻撃中と言えどそれ位把握している――寧ろ感覚が研ぎ澄まされている程なのだが。
「只者じゃないと思うんだけど……どんな顔だったっけ?」琳璃は、ちょっとだけ自分の記憶力に自信を失くした。この処、何度かこういう事がある様な気がする。大抵は黒い着物の青年で、黒い猫を連れていて――「同一人物に何度も会っていて、顔を覚えられないなんてどういう事よ!?」
ともあれ、彼女は男を捕縛し、近くの街の役人達に引き渡すと同時に人手も借りて、犬を掘り出した。
犬は暫くの間、人間を警戒する素振りを見せ、与えられた餌も少しずつしか摂らなかったが、それでも徐々に回復していった。
やはり見切りが早過ぎたのか――やっと頭を撫でさせてくれるようになった犬に餌を与えながら、琳璃は苦笑した。それとも……あの青年の所為だったのだろうか? 彼がこの犬に力を与えたのだろうか。未だ生きられる、という力を。生を諦めない力を。
犬神になり損ねた犬は、今日も元気に彼女の傍を走り回っている。
―了―
珍しく犬が出た。レギュラー化するかは謎。
と言うか……白陽と言い、豊果と言い、犬と言い、至遠と琳璃、色々拾いまくってるな(笑)
残酷で卑劣な、外法。
恐ろしいモノを自分の味方に付ける――それは観念的には昔から、行われてきた事だ。暴れ川を水神として奉り、ご機嫌を窺ったり、山にも、空にも、猛獣達でさえ神とされる事もあった。
だがそれらと、そのモノを恐ろしい方法で造ってしまうのとは、別の次元だ。
然も当然ながらそれをやるのは人間。その人間の方が余程恐ろしい。
でも、自分の力だけでは何も為し得ない大馬鹿者だわ――琳璃は犬の頭を見ないようにしながらも、監視を続けた。
と、そこへ現れたのは二十代程の男性。黒い髪、黒い着物、肩の黒猫が忙しく鳴き続けていた。
あいつ?――琳璃は一瞬脚に力が入ったが、飛び出すのを辛うじて止める。どこかで見た様な気が、した。だが、それはほんの雰囲気だけの様で、顔を見ても思い出せないのだった。
黒い青年は周囲の状況を見て眉を顰め、片手で猫を宥めながら犬の前にしゃがみ込んだ。
近くに転がっていた、先程琳璃が置いた食料を手に取ると、犬の目を見ながらそれを口元に優しく持って行ってやる。少なくとも件の大馬鹿者ではない、と琳璃は判断する。
でも無駄よ――もう食べる力も無い、と琳璃は頭を振った。後、そいつを待っているのは死だけよ。
だが、犬は辛うじて上顎を上げ、それを口に含んだ。少しずつ、少しずつ噛み切られた欠片が喉を通る。
えっ?――琳璃は目を疑う。あんな力、もう無かった筈なのに。
犬は食べ続ける。焦るなよ、そんな穏やかな声が微かに聞こえた。飢えて衰えた腹に無理に詰め込めば、却って身体に負担となる。それを慮っての言葉だろう。
自分は見切るのが早過ぎたのか――琳璃は肩を落としつつも、頭を振る。いや、確かにあの犬は人への恨み、執念だけで生きていた。ならば、あれはいったい……。
そんな途惑いを抱えながら見詰める彼女の視界の片隅を、何かが過ぎった。
途端、彼女は茂みから飛び出していた。
「何をしている!? 後少しなのに!」狂気をはらんだ裏返った声が怒鳴り、恐らくは犬にとどめを刺す為に持って来たのであろう鉈(なた)が、振り上げられていた。黒い背中を見せる青年に向かって。
黒猫が青年の肩に爪を立てるのと、彼が男を見上げるのと、そして男の鉈を持った手が琳璃に蹴り上げられるのがほぼ同時だった。鉈は弧を描き、近くの木にどかりと突き刺さる。
男がそれに気を取られる間も無く、その視界を――彼には何処から現れたものか判らなかったが――巨大な黒い獣が埋めた。金色に光る目と鋭い牙、そして爪が迫る。
それに情けない悲鳴を上げて腰を抜かした所を、琳璃の二撃目が襲い――顎を思い切り蹴り上げられた男は失神した。
「ねぇ、貴方……」今の男の悲鳴はやけに大袈裟だったんじゃないの、と思いながら琳璃が青年を振り返ると、そこには彼の姿も、黒猫の姿も無かった。彼女には、黒い獣など見えてはいない。黒猫が青年の肩で威嚇していただけだ。「……え?」
遠ざかる気配など感じなかったのだが……と、ちょっと茫然とする。幾ら攻撃中と言えどそれ位把握している――寧ろ感覚が研ぎ澄まされている程なのだが。
「只者じゃないと思うんだけど……どんな顔だったっけ?」琳璃は、ちょっとだけ自分の記憶力に自信を失くした。この処、何度かこういう事がある様な気がする。大抵は黒い着物の青年で、黒い猫を連れていて――「同一人物に何度も会っていて、顔を覚えられないなんてどういう事よ!?」
ともあれ、彼女は男を捕縛し、近くの街の役人達に引き渡すと同時に人手も借りて、犬を掘り出した。
犬は暫くの間、人間を警戒する素振りを見せ、与えられた餌も少しずつしか摂らなかったが、それでも徐々に回復していった。
やはり見切りが早過ぎたのか――やっと頭を撫でさせてくれるようになった犬に餌を与えながら、琳璃は苦笑した。それとも……あの青年の所為だったのだろうか? 彼がこの犬に力を与えたのだろうか。未だ生きられる、という力を。生を諦めない力を。
犬神になり損ねた犬は、今日も元気に彼女の傍を走り回っている。
―了―
珍しく犬が出た。レギュラー化するかは謎。
と言うか……白陽と言い、豊果と言い、犬と言い、至遠と琳璃、色々拾いまくってるな(笑)
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無題
どもども!
お話だと分かってるからいいけど、この間ブログで見た話題と被ってて怖かったっす。。
巽さんのところでは犬神にする為って事だけど、実際の世界ではね~。
犬が餓死する様を展示して、芸術だと言い張ってるヤツがいるんだから腹が立ちますよ
お話だと分かってるからいいけど、この間ブログで見た話題と被ってて怖かったっす。。
巽さんのところでは犬神にする為って事だけど、実際の世界ではね~。
犬が餓死する様を展示して、芸術だと言い張ってるヤツがいるんだから腹が立ちますよ
Re:無題
ありましたね、そんな事件(--;)
私はあの記事見て犬神の作り方、思い出しましたよ。
中南米の国だったかと記憶しておりますが、仮にも芸術を理解する豊かな精神性があると言うなら、何故生命を尊重する事が出来ないのか、何故それを芸術と思えるのか、理解に苦しむのであります。
私はあの記事見て犬神の作り方、思い出しましたよ。
中南米の国だったかと記憶しておりますが、仮にも芸術を理解する豊かな精神性があると言うなら、何故生命を尊重する事が出来ないのか、何故それを芸術と思えるのか、理解に苦しむのであります。
Re:怨念
段々お供が増えていく(笑)
黍団子も持ってないのに(^^;)
黍団子も持ってないのに(^^;)
こんばんは♪
この間、犬神云々のコメントがあったの、この事だったのねぇ!これは確かに残酷だよねぇ!
確かアテルイさんも、蝦夷と言うことで、こんな方法で処刑されたんだよねぇ!
ホンマ!人間って残酷で怖ろしいなぁ・・・・
あっ!そういう人ばかりではないけれども!
犬が助かって本当に良かった!
私、犬も好きなんです!
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ
安堵のポチするネ♪
確かアテルイさんも、蝦夷と言うことで、こんな方法で処刑されたんだよねぇ!
ホンマ!人間って残酷で怖ろしいなぁ・・・・
あっ!そういう人ばかりではないけれども!
犬が助かって本当に良かった!
私、犬も好きなんです!
ヾ(´▽`;)ゝ ウヘヘ
安堵のポチするネ♪
Re:こんばんは♪
うん、犬神作り、正直書くかどうか迷いつつ、大分残酷描写は省いて書いてます(--;)
実際にこんな呪法、オカルト系の本にも載ってるもんなぁ。恐ろしい。
犬……あれを最後の晩餐にするかどうか、結構迷ったんですが、結局あの大馬鹿者への怒りより、一安心の方が読後感も私の後味も良かろうと(笑)助けました。こういう二者択一は難しいですね。
実際にこんな呪法、オカルト系の本にも載ってるもんなぁ。恐ろしい。
犬……あれを最後の晩餐にするかどうか、結構迷ったんですが、結局あの大馬鹿者への怒りより、一安心の方が読後感も私の後味も良かろうと(笑)助けました。こういう二者択一は難しいですね。
こんばんは
二つ程♪
植えて衰えた腹に~は、[飢えて]かな?
彼やには何処から現れた~の[や]は要らないんじゃない?
二人とも神出鬼没だね!!大活躍じゃん。
犬とか物言わぬ物に何かするなんて酷い奴め。私が埋めて飢えさせてやるぅ~。やられなきゃ解んないのね馬鹿な奴!
植えて衰えた腹に~は、[飢えて]かな?
彼やには何処から現れた~の[や]は要らないんじゃない?
二人とも神出鬼没だね!!大活躍じゃん。
犬とか物言わぬ物に何かするなんて酷い奴め。私が埋めて飢えさせてやるぅ~。やられなきゃ解んないのね馬鹿な奴!
Re:こんばんは
はわわ。今のエディター、結構字が小さくて(>_<)
まぁ、変えられるんだけどね。
直しときます。有難う♪
まぁ、時代的にも余り動物愛護とか今程じゃないでしょうからね。首刎ねだけは勘弁してやって★
まぁ、変えられるんだけどね。
直しときます。有難う♪
まぁ、時代的にも余り動物愛護とか今程じゃないでしょうからね。首刎ねだけは勘弁してやって★
こんばんは…
今日はコメントさせていただこうと決めてお邪魔したら……
未だテンションが低いときに、キツイお話に当たってしもた…(苦笑)
想像力があるからこそ人間たりえると思うのですが、想像が逞しすぎると傍迷惑やし少し欠如してるだけでも社会のバランスが悪くなる…。
ワンコは、人間と共に生きてこそのワンコです。間違っても恨みを背負った邪神じゃないよね。
至遠様はそのうち、ムツゴロウさん化するような気が…(笑)
未だテンションが低いときに、キツイお話に当たってしもた…(苦笑)
想像力があるからこそ人間たりえると思うのですが、想像が逞しすぎると傍迷惑やし少し欠如してるだけでも社会のバランスが悪くなる…。
ワンコは、人間と共に生きてこそのワンコです。間違っても恨みを背負った邪神じゃないよね。
至遠様はそのうち、ムツゴロウさん化するような気が…(笑)
Re:こんばんは…
あああ、ごめん、間が悪かった?(--;)
思い付いたのから書いてるので、間が計れないのです(汗)
何か段々、長編の予定にない登場人物(動物)が増えてます(笑)
自分の首絞めてる気がしないでもない今日この頃(爆)
思い付いたのから書いてるので、間が計れないのです(汗)
何か段々、長編の予定にない登場人物(動物)が増えてます(笑)
自分の首絞めてる気がしないでもない今日この頃(爆)
Re:無題
褒めても何も出ませんよ?(^^)
推定afoolさん。
こういった呪法は当然禁術だし、それなりの犠牲は強いられるでしょうね。人を呪わば穴二つ、と言いますし。
推定afoolさん。
こういった呪法は当然禁術だし、それなりの犠牲は強いられるでしょうね。人を呪わば穴二つ、と言いますし。
無題
こんにちわ(^o^)丿
犬神って、こんな方法でつくるんですか\(◎o◎)/!
私はてっきり、大切に大切に、あがめて奉って・・っていうものなのかと思ってました。
ん~、辛い話ですね(>_<)
ワンコの次は何だろう?(*^_^*)
犬神って、こんな方法でつくるんですか\(◎o◎)/!
私はてっきり、大切に大切に、あがめて奉って・・っていうものなのかと思ってました。
ん~、辛い話ですね(>_<)
ワンコの次は何だろう?(*^_^*)
Re:無題
犬“神”とは言っても扱い的には憑き物なのでね~。非業の死を遂げたものの霊を利用する、外法ですわ。
ワンコの次……(^^;)
このシリーズって一体(笑)
ワンコの次……(^^;)
このシリーズって一体(笑)
無題
前にありましたね。犬を餓死させて
芸術っていってる人。
なんでそんな事ができるのか…許せないですね。
拾うものには福がある!?
動物が増えるのはうれしいですね~
名前は何になるのかな!?(●ゝ艸・)
芸術っていってる人。
なんでそんな事ができるのか…許せないですね。
拾うものには福がある!?
動物が増えるのはうれしいですね~
名前は何になるのかな!?(●ゝ艸・)
Re:無題
動物シリーズになってる!?(笑)
ワンコの名前……多分、付けるの琳璃だろうからなぁ。琳璃のネーミングセンスや如何に?(^^;)
あの「芸術」は理解出来ないし、したくもありませんねぇ。
ワンコの名前……多分、付けるの琳璃だろうからなぁ。琳璃のネーミングセンスや如何に?(^^;)
あの「芸術」は理解出来ないし、したくもありませんねぇ。
Re:ふふっ
時々ありますね~^^
NONAME表示……私も何か工夫しようかな?(笑)
NONAME表示……私も何か工夫しようかな?(笑)