〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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春の雷が天空を暴れ回った翌朝、青い空を映す水溜まりに浸かって、その人形は路上に転がっていたそうでございます。
いつから転がっていたものか、丁寧な造りにも拘らず、それは汚れ切って、チャームポイントであろう口元の黒子でさえ、只の汚れにしか見えない有り様だったとか。ひらひらとした今風の服もどろどろで。指先の爪型の刻みに僅かに残る赤い色は子供がマニキュア代わりにインクでも塗ったものだったのでしょうか?
打ち捨てられた人形は、無関心に通り過ぎる通行人の視界から、いつの間にか消えていたそうでございます。近所の住人が片付けたものか、清掃業者が引き取ったものか……。
私、カメリアと致しましては少々、心が痛みます。生き人形ですから。
そして、それと時を同じくして、問題児扱いされていた一人暮らしの少女が、この屋敷からも程近い――往路で半日は掛かりますが――街から消えたとか。
派手な服装をした、口元に黒子のある少女だったそうでございますよ。
「もう大丈夫だね、お前」黒猫の脚から包帯を外しながら、坊ちゃまは仰せになられました。雷の夜に酷い怪我をしていたのを拾って来られて、世話をなさっておられたのです。そうして笑われる坊ちゃまは、吸血鬼とは思えない程、慈愛に満ちておられますが……。何処でどうして拾ったのか、怪我はどうしたのかは、教えて下さいませんでした。余程気に入られたのか、私にも触らせない始末で。
坊ちゃまの衣服に付いていた血も、猫のものだろうと仰せでしたが……これでも人の血の匂い位は判りますとも。
私の脳裏には、雷雨の中、黒猫を連れた少女を殺め、傷を負わせながらも黒猫を奪い取る坊ちゃまのお姿が……。いえ、まぁ、坊ちゃまは元々吸血鬼。そんな事は今更構うものではないのですが。
それにしてもあの人形は一体……? 消えた少女と同じ特徴を備えた人形。けれども坊ちゃまには人を人形に変える様なお力は無かった筈――寧ろ、それが気に掛かっておりました。
やはり私の思い過ごしなのでしょうか?
「カメリア」ぼうっと廊下を歩いていると、お嬢様に呼び止められました。もう陽も沈み、あの夜の様な雷が、時折夜空を切り裂いております。「兄上の事なら放って置くがいい」
やれやれ、すっかり見透かされております。放って置けと言われたものの、見透かされ序でにお尋ね申し上げました。
「偶然……なのでございましょうか? あの人形と、よく似た特徴の失踪者……」
「だが、兄上には人形化の力など無いぞ?」お嬢様はお笑いになられました。
「はい……。それだけに気に掛かってしまって……。もし私共の知らないものがこの近辺に居て、旦那様にも何の挨拶も無いとすれば……」
旦那様はこの近辺の言わば顔役。お取次ぎをする関係上、私も殆どの方を存じております。特に妖の方々は。
「確かに問題だな。もぐりの、それも他者に危害を加えるものなど」
「そうでございましょう? あるいはそのものが少女を害した後、通り掛られた坊ちゃまが黒猫を拾って……」
「だとしたら兄上の目も節穴だな」
「ああっ、決してその様な心算では……!」私は慌ててフォローを考えますが、頭が空回るばかり。
「だとすれば……こうは考えられぬか?」お嬢様は私の慌て様がさも可笑しげでした。「もぐりの、他者に危害を加える妖はもう死んだ、と」
「え……? そ、それは坊ちゃまが片付けたという事でございましょうか?」
「恐らく」
だとしたら一体それはどの様な――そう問い掛けた時でございました。
「フラウ、その話は止さないか?」坊ちゃまのお声でした。
「私に聞かせたくないお話なのでございましょうか?」
肯定も否定もなさらずに、お二人は顔を見合わせました。
と、いう事は――私はちょっと、肩を落としました。
「その、失踪者と同じ特徴を持った人形こそが、黒猫を傷付けた妖だったのですね? 恐らく私と同じ生き人形……」
お二人はまた顔を見合わせた後、仕方ないと言う様に頷かれました。
何を思って黒猫を害しようとしていたのか、人間でさえ理由も無く小動物を傷付けて楽しむ輩も居ると聞き及びますから、それと同じ事なのか解りません。ともあれ、普段は人間として暮らしていた生き人形を坊ちゃまが偶々見付け、始末した――そういう事だと、私は理解致しました。
そして、だからこそ、同じ生き人形の私には聞かせたくなかったのだと。そして自分を傷付けたものと同種の匂いに拒否反応を示さないよう、私には黒猫の世話をさせなかったのだと。
「大丈夫でございますよ。例え同種でも、色々なものが居る事は解っております。勿論、彼女のやった事は私には理解出来ませんが……」私は肩を竦めました。「人間の姿を象っているからでございましょうかね。時折、妙に人間染みたものが居るとか……。ご安心下さいませ。私には同種の仇などという気も無ければ、そのものへの憐憫もございません。カメリアはカメリアでございますから」
ならいい、とお二人は頷かれました。
自分が自分だと解っていれば、それでいい、と。
因みに件の黒猫は……使い魔にするのだと仰って、坊ちゃまが未だ面倒を見ておられます。
使い魔に育てる心算にしては、些か猫っ可愛がりなさっておられる様ですが。
―了―
別に黒猫量産計画は発動していません。多分。
坊ちゃまの衣服に付いていた血も、猫のものだろうと仰せでしたが……これでも人の血の匂い位は判りますとも。
私の脳裏には、雷雨の中、黒猫を連れた少女を殺め、傷を負わせながらも黒猫を奪い取る坊ちゃまのお姿が……。いえ、まぁ、坊ちゃまは元々吸血鬼。そんな事は今更構うものではないのですが。
それにしてもあの人形は一体……? 消えた少女と同じ特徴を備えた人形。けれども坊ちゃまには人を人形に変える様なお力は無かった筈――寧ろ、それが気に掛かっておりました。
やはり私の思い過ごしなのでしょうか?
「カメリア」ぼうっと廊下を歩いていると、お嬢様に呼び止められました。もう陽も沈み、あの夜の様な雷が、時折夜空を切り裂いております。「兄上の事なら放って置くがいい」
やれやれ、すっかり見透かされております。放って置けと言われたものの、見透かされ序でにお尋ね申し上げました。
「偶然……なのでございましょうか? あの人形と、よく似た特徴の失踪者……」
「だが、兄上には人形化の力など無いぞ?」お嬢様はお笑いになられました。
「はい……。それだけに気に掛かってしまって……。もし私共の知らないものがこの近辺に居て、旦那様にも何の挨拶も無いとすれば……」
旦那様はこの近辺の言わば顔役。お取次ぎをする関係上、私も殆どの方を存じております。特に妖の方々は。
「確かに問題だな。もぐりの、それも他者に危害を加えるものなど」
「そうでございましょう? あるいはそのものが少女を害した後、通り掛られた坊ちゃまが黒猫を拾って……」
「だとしたら兄上の目も節穴だな」
「ああっ、決してその様な心算では……!」私は慌ててフォローを考えますが、頭が空回るばかり。
「だとすれば……こうは考えられぬか?」お嬢様は私の慌て様がさも可笑しげでした。「もぐりの、他者に危害を加える妖はもう死んだ、と」
「え……? そ、それは坊ちゃまが片付けたという事でございましょうか?」
「恐らく」
だとしたら一体それはどの様な――そう問い掛けた時でございました。
「フラウ、その話は止さないか?」坊ちゃまのお声でした。
「私に聞かせたくないお話なのでございましょうか?」
肯定も否定もなさらずに、お二人は顔を見合わせました。
と、いう事は――私はちょっと、肩を落としました。
「その、失踪者と同じ特徴を持った人形こそが、黒猫を傷付けた妖だったのですね? 恐らく私と同じ生き人形……」
お二人はまた顔を見合わせた後、仕方ないと言う様に頷かれました。
何を思って黒猫を害しようとしていたのか、人間でさえ理由も無く小動物を傷付けて楽しむ輩も居ると聞き及びますから、それと同じ事なのか解りません。ともあれ、普段は人間として暮らしていた生き人形を坊ちゃまが偶々見付け、始末した――そういう事だと、私は理解致しました。
そして、だからこそ、同じ生き人形の私には聞かせたくなかったのだと。そして自分を傷付けたものと同種の匂いに拒否反応を示さないよう、私には黒猫の世話をさせなかったのだと。
「大丈夫でございますよ。例え同種でも、色々なものが居る事は解っております。勿論、彼女のやった事は私には理解出来ませんが……」私は肩を竦めました。「人間の姿を象っているからでございましょうかね。時折、妙に人間染みたものが居るとか……。ご安心下さいませ。私には同種の仇などという気も無ければ、そのものへの憐憫もございません。カメリアはカメリアでございますから」
ならいい、とお二人は頷かれました。
自分が自分だと解っていれば、それでいい、と。
因みに件の黒猫は……使い魔にするのだと仰って、坊ちゃまが未だ面倒を見ておられます。
使い魔に育てる心算にしては、些か猫っ可愛がりなさっておられる様ですが。
―了―
別に黒猫量産計画は発動していません。多分。
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こんばんわー
おぉ、カメリアさんですね。
その人形は少女に一体何をしたんだろう・・・恐ろしい。
いいですねぇ、黒猫の使い魔って^^
・・・あ、魔女の宅急便を思い出した。
それと、細かいんですが一段落目。
消えていた『そう』では?
その人形は少女に一体何をしたんだろう・・・恐ろしい。
いいですねぇ、黒猫の使い魔って^^
・・・あ、魔女の宅急便を思い出した。
それと、細かいんですが一段落目。
消えていた『そう』では?
Re:こんばんわー
>消えていた『そう』では?
おおう、本当だ!(^^;)
有難うございます。直しときます。
人形は少女に……と言うより、その生き人形が少女の正体だった訳ですが。カメリアさんと違って、ちょっと歪んだ生き人形。
おおう、本当だ!(^^;)
有難うございます。直しときます。
人形は少女に……と言うより、その生き人形が少女の正体だった訳ですが。カメリアさんと違って、ちょっと歪んだ生き人形。
Re:こんばんは♪
色々居ますからねぇ。
因みに坊ちゃまからすれば『黒猫さん』>『歪んだ生き人形』だった様です。うちの連中は皆猫好きか? 作者が猫バカだから仕方ないよね(笑)
因みに坊ちゃまからすれば『黒猫さん』>『歪んだ生き人形』だった様です。うちの連中は皆猫好きか? 作者が猫バカだから仕方ないよね(笑)
もう一カ所~
~打ち捨てられた人形は……いつの間にか消えていたどうでございます。近所の~
んふ♪
カメリアさんは人になりきれないのに、黒子の人形は人を騙せる程の人間に化けてたんだね…。
カメリアー!頑張れ!
んふ♪
カメリアさんは人になりきれないのに、黒子の人形は人を騙せる程の人間に化けてたんだね…。
カメリアー!頑張れ!
Re:もう一カ所~
姐さん、それ、らすねるさんが指摘してくれたとこー☆
出遅れたね♪
カメリアさん、修行不足でございます(笑)
きっと向こうの方が年季が入ってたんだ。見掛けは兎も角。
出遅れたね♪
カメリアさん、修行不足でございます(笑)
きっと向こうの方が年季が入ってたんだ。見掛けは兎も角。
Re:無題
うちは何故かあやかし達の方が優しい気がする(^^;)
変な幽霊とかあやかしとか黒猫が増えてるなぁ(苦笑)
変な幽霊とかあやかしとか黒猫が増えてるなぁ(苦笑)
Re:こんにちは!
カメリアさんって、判りましたか! ご明察です^^
何かあっちこっちに黒猫が……(笑)
何かあっちこっちに黒猫が……(笑)
黒猫
に神秘の力、があるかどうか知りませんが
にゃんこを助けたお兄様、いい人(じゃないな吸血鬼(笑)ですね〜♪
ウチの黒猫はうるさいので使えないだろうな^^
人間の方がよっぽど恐ろしいよね。自分の子ども殺しちゃうものね。作文上手な男の子。。。。不憫です。
にゃんこを助けたお兄様、いい人(じゃないな吸血鬼(笑)ですね〜♪
ウチの黒猫はうるさいので使えないだろうな^^
人間の方がよっぽど恐ろしいよね。自分の子ども殺しちゃうものね。作文上手な男の子。。。。不憫です。
Re:黒猫
咲ちゃんは使い魔には向きませんか^^;
でも可愛いから良し!
人間以外の動物が我が子を殺す原因は主に生存環境の悪化。一旦は子供を失ってでも、次に賭けて自らの遺伝子を遺そうという本能。
人間の場合は、何なんでしょうね。経済的にも健康的にも問題無くても、本能以外に理性があっても繰り返される事件……。
夜霧迄「事件って苦い」って言ってます(>_<)
でも可愛いから良し!
人間以外の動物が我が子を殺す原因は主に生存環境の悪化。一旦は子供を失ってでも、次に賭けて自らの遺伝子を遺そうという本能。
人間の場合は、何なんでしょうね。経済的にも健康的にも問題無くても、本能以外に理性があっても繰り返される事件……。
夜霧迄「事件って苦い」って言ってます(>_<)
Re:無題
カメリアさんにお見合いですか!^^;
カメリアさん、家事スキルは高いっすよ! ちょっとドジだけど(笑)
にゃんこの出て来ないシリーズの方が少なくなってきた(爆)
カメリアさん、家事スキルは高いっすよ! ちょっとドジだけど(笑)
にゃんこの出て来ないシリーズの方が少なくなってきた(爆)
こんにちは
前にこの話、お嬢様の言いつけで、カメリアさんは、人形を探しに、わざわざ日本まで出張に来たとかなんとかいう話がなかったっけ。
冒頭を読みながら、てっきり続きかと思った。
う~ん、私は逆に黒猫を使い魔にしないでって思った。
冒頭を読みながら、てっきり続きかと思った。
う~ん、私は逆に黒猫を使い魔にしないでって思った。
Re:こんにちは
あれは妖刀探しに来たんだよー♪
猫は使い魔になるかどうか……? 只のペットになってたりして(笑)
猫は使い魔になるかどうか……? 只のペットになってたりして(笑)
Re:ゴメン(汗)
確かに人形、多いな(^^;)
困った時のお人形!(笑)
困った時のお人形!(笑)
お久しぶりです(*^_^*)
いつも読み逃げですみません<(_ _)>
今日は、今、私の一番好きなシリーズにコメント入れさせていただきますね♪
ここのお屋敷の方々って、カメリアさんに優しいですよね(*^_^*)
なんか、ほのぼのしちゃいます。
坊ちゃまが黒猫さんの使い魔になっちゃったりして!?(^^)
今日は、今、私の一番好きなシリーズにコメント入れさせていただきますね♪
ここのお屋敷の方々って、カメリアさんに優しいですよね(*^_^*)
なんか、ほのぼのしちゃいます。
坊ちゃまが黒猫さんの使い魔になっちゃったりして!?(^^)
Re:お久しぶりです(*^_^*)
お久し振りです~(^^)
勉強捗ってますか?(え? 禁句?)
何故かほのぼの系化物屋敷(笑)
坊ちゃま、実は単なる猫好きだったりして……。猫の下僕と化す日も近い!?
勉強捗ってますか?(え? 禁句?)
何故かほのぼの系化物屋敷(笑)
坊ちゃま、実は単なる猫好きだったりして……。猫の下僕と化す日も近い!?