〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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かぁごめ、かごめ
かぁごのなぁかのとぉりぃは……
「いつもそれ歌ってるよね。あんた」棘を含んだ声が、ささやかな唄を遮った。
「高校生にもなって、ちょっと気味悪いんだけどー」あからさまな揶揄を込めた声。
「ちょっと、聞いてる? 歌鳴(かなり)」先の声が、相手の無反応に苛立たしげになる。
「大体、歌鳴なんて名前だからってねぇ」くすくすと、笑い声が続く。
やや髪を赤く染めて、薄いメイクを施した彼女等が囲んでいるのは教室の窓際の机。当然、彼女等も高校生だ。だが、学生の自覚も、女性の自覚も無い様なその表情と口調に、対する反応は非常に薄かった。
「好きな唄を唄って、何か悪かったかしら?」黒く長い髪と澄んだ黒い眼。日本人形の様な少女だった。些か表情に乏しく、物言いも淡白だ。
「その歌が好きだなんて、気味が悪いって言ってんだよ!」
「そうそう、大体暗いよね」二人は言い募る。
それに対しても、歌鳴は無表情に、窓の外を振り向いた。唇から微かな声が漏れる。
いついつ出やぁる……
翌日、歌鳴を囲んでいた二人の少女が姿を消した。
尤も、いつから姿が無かったのかははっきりとは解らないという事だった。家に帰る事もなく、家族からもいつもの夜遊びだと思われた為、朝になる迄届け出もされなかったらしい。
教室内での噂では、意見は二分されていた。
元々素行に問題のあった彼女等が遂に不安定な自由を求めて家出したと言う者。
そして前日歌鳴に絡んでいたのを見ていた者達は、それに意味を絡めようとした。
「元々あいつって口数少ないし、何考えてるか解んないじゃん」
「でも、その分大人しいじゃない。あの二人をどうこう出来ると思えないけど?」
「そうそう、逆なら解ったものじゃないけど」
「そうよ、歌鳴ちゃん只の歌好きな子だもん」
「あの二人の事だもん。自分でヤバイ所に踏み込んで帰るに帰れなくなっちゃったんじゃないのぉ? 自業自得だよ、きっと」
「でも、あいつは前からあの二人にからかわれてたしなぁ」
それらのざわめきを意に介した風もなく、歌鳴は今日も、窓の外を眺めては静かに唄っていた。その髪が一房、やや短くなっている事に気付いた者は居なかった。
* * *
昨日の放課後、学校近くの廃ビルに引っ張り込まれてからの記憶が彼女には無かった。覚えているのは、あの唄を口遊んでいた事だけだ。
うしろのしょうめん、だぁれ……?
その節が終わった時だった。二人に押さえ込まれ、あくまでも彼女達にとっては冗談半分で髪に鋏を当てられるが儘にされていた歌鳴が、がくりと項垂れ、その弾みで一房の黒髪が散ったのは。
そして再び顔を上げた時、彼女の表情は一変していた。冷たく、厳しく――。
思わぬ変化に気を取られた二人の手をさらりと抜け、彼女は言った。
「……我がついていながら歌鳴をこんな目に遭わせるとは……不甲斐ない」自分に向けての侮蔑の言葉だった。
「何……言ってんのよ? 歌鳴はあんたでしょ?」頭の横でくるくると指を回しながら、一人が眉を顰める。
「歌鳴は宿主。我は加護女(かごめ)と言う。ぬしらに名乗る必要も無いがな」侮蔑の籠もった目は、彼女等に移動した。「ここで永遠に『さらば』だからな」
数分後、その言葉は真実になっていた。
一人立つ廃ビルの中で、彼女は薄く、笑んだ。
「安心しろ、歌鳴。殺してなどいない。二人には『夜明けの晩』……在らざる狭間に引き取って貰った。出て来られぬ事に違いはないがな」
その言葉は実際には彼女の宿主には届いていなかったが、加護女は構わず――現場を後にした。
歌鳴が意識を取り戻した時、彼女はもう、いつとも知れぬ頃から続く彼女の一族の屋敷の前に立っていた。嘗ては呪われているとも噂を立てられ、忌み嫌われた事もある一族と、暗い屋敷。
そして、呪いは彼女の中に今でも生きていた。
彼女を守る加護女は、同時に彼女を人から遠ざけ、この家に閉じ込める、籠でもあった。
―了―
呪いの中には一見その宿主に益がある様で、実は多大な犠牲を強いるものがあったり、しますねぇ。
尤も、いつから姿が無かったのかははっきりとは解らないという事だった。家に帰る事もなく、家族からもいつもの夜遊びだと思われた為、朝になる迄届け出もされなかったらしい。
教室内での噂では、意見は二分されていた。
元々素行に問題のあった彼女等が遂に不安定な自由を求めて家出したと言う者。
そして前日歌鳴に絡んでいたのを見ていた者達は、それに意味を絡めようとした。
「元々あいつって口数少ないし、何考えてるか解んないじゃん」
「でも、その分大人しいじゃない。あの二人をどうこう出来ると思えないけど?」
「そうそう、逆なら解ったものじゃないけど」
「そうよ、歌鳴ちゃん只の歌好きな子だもん」
「あの二人の事だもん。自分でヤバイ所に踏み込んで帰るに帰れなくなっちゃったんじゃないのぉ? 自業自得だよ、きっと」
「でも、あいつは前からあの二人にからかわれてたしなぁ」
それらのざわめきを意に介した風もなく、歌鳴は今日も、窓の外を眺めては静かに唄っていた。その髪が一房、やや短くなっている事に気付いた者は居なかった。
* * *
昨日の放課後、学校近くの廃ビルに引っ張り込まれてからの記憶が彼女には無かった。覚えているのは、あの唄を口遊んでいた事だけだ。
うしろのしょうめん、だぁれ……?
その節が終わった時だった。二人に押さえ込まれ、あくまでも彼女達にとっては冗談半分で髪に鋏を当てられるが儘にされていた歌鳴が、がくりと項垂れ、その弾みで一房の黒髪が散ったのは。
そして再び顔を上げた時、彼女の表情は一変していた。冷たく、厳しく――。
思わぬ変化に気を取られた二人の手をさらりと抜け、彼女は言った。
「……我がついていながら歌鳴をこんな目に遭わせるとは……不甲斐ない」自分に向けての侮蔑の言葉だった。
「何……言ってんのよ? 歌鳴はあんたでしょ?」頭の横でくるくると指を回しながら、一人が眉を顰める。
「歌鳴は宿主。我は加護女(かごめ)と言う。ぬしらに名乗る必要も無いがな」侮蔑の籠もった目は、彼女等に移動した。「ここで永遠に『さらば』だからな」
数分後、その言葉は真実になっていた。
一人立つ廃ビルの中で、彼女は薄く、笑んだ。
「安心しろ、歌鳴。殺してなどいない。二人には『夜明けの晩』……在らざる狭間に引き取って貰った。出て来られぬ事に違いはないがな」
その言葉は実際には彼女の宿主には届いていなかったが、加護女は構わず――現場を後にした。
歌鳴が意識を取り戻した時、彼女はもう、いつとも知れぬ頃から続く彼女の一族の屋敷の前に立っていた。嘗ては呪われているとも噂を立てられ、忌み嫌われた事もある一族と、暗い屋敷。
そして、呪いは彼女の中に今でも生きていた。
彼女を守る加護女は、同時に彼女を人から遠ざけ、この家に閉じ込める、籠でもあった。
―了―
呪いの中には一見その宿主に益がある様で、実は多大な犠牲を強いるものがあったり、しますねぇ。
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こんばんは。
うん?デジャいヴ?
前に巽さんので読んだ事が…
あ。でも結末が違うかな?あれあれ?私の記憶違いかな?
…巽さんには作家の宿主がついているでしょ?ネタを巽さんに送ってるとみた(笑)
毎日毎日書けるなんて、すごいね。感心します~
前に巽さんので読んだ事が…
あ。でも結末が違うかな?あれあれ?私の記憶違いかな?
…巽さんには作家の宿主がついているでしょ?ネタを巽さんに送ってるとみた(笑)
毎日毎日書けるなんて、すごいね。感心します~
Re:こんばんは。
>うん?デジャいヴ?
姐さん、それは『とおりゃんせ』の分では? 『かごめ かごめ』は使うの初の筈(多分)
そそ、電波が……お~い!(笑)
姐さん、それは『とおりゃんせ』の分では? 『かごめ かごめ』は使うの初の筈(多分)
そそ、電波が……お~い!(笑)
Re:無題
かごめかごめ、何か怖いですよね^^;
意味が微妙だったり、旋律もやや暗めで。
で、かごめに字を当てちゃいました。
意味が微妙だったり、旋律もやや暗めで。
で、かごめに字を当てちゃいました。
Re:無題
有難うございます(^^)
やっぱりどこか暗い雰囲気ですよね。かごめ……。
やっぱりどこか暗い雰囲気ですよね。かごめ……。
こんばんは♪
おぉ!いいネェ♪
かごめの唄って、あれ確か不気味な意味があるんだよねぇ?なんかユダヤとの関連がどうとか?こうとか?って何かに書いてあったような気がするけど・・・・忘れちゃった!
だから出だしの「かぁごめ、かごめ」で思わず、
ゾクゾク♪面白かったです!
かごめの唄って、あれ確か不気味な意味があるんだよねぇ?なんかユダヤとの関連がどうとか?こうとか?って何かに書いてあったような気がするけど・・・・忘れちゃった!
だから出だしの「かぁごめ、かごめ」で思わず、
ゾクゾク♪面白かったです!
Re:こんばんは♪
有難うございます(^^)
かごめの由来も諸説ある様で……やはりどこか不気味な感じ。
かごめの文様(六芒星)がユダヤの紋にそっくりだったり、子守の時小さい子供を入れて伏せて置く籠の目に似ていたり、色々と。
なので只、護ってくれる存在と言うより呪いの一種としての加護女となりました。
因みに今回のテンプレにも籠目がありますなぁ。
かごめの由来も諸説ある様で……やはりどこか不気味な感じ。
かごめの文様(六芒星)がユダヤの紋にそっくりだったり、子守の時小さい子供を入れて伏せて置く籠の目に似ていたり、色々と。
なので只、護ってくれる存在と言うより呪いの一種としての加護女となりました。
因みに今回のテンプレにも籠目がありますなぁ。
無題
こんばんわ(^o^)丿
確かに、この歌、なんか怖い由来とかあるらしいですよね。童謡って大抵そうらしいけど。
歌と合ってて怖かったですー!!
呪って呪い返しされるのはしょうがないけど、
彼女の場合は望んでないからかわいそうですね。
そういえば、私はなぜだかドナドナの歌が良く脳裏をよぎります。ドナドナののろいってどんなかなぁ?(笑)
確かに、この歌、なんか怖い由来とかあるらしいですよね。童謡って大抵そうらしいけど。
歌と合ってて怖かったですー!!
呪って呪い返しされるのはしょうがないけど、
彼女の場合は望んでないからかわいそうですね。
そういえば、私はなぜだかドナドナの歌が良く脳裏をよぎります。ドナドナののろいってどんなかなぁ?(笑)
Re:無題
♪ドナドナドーナードーナ~
あれも物悲しいですよね^^;
仔牛が売られて行く歌でしたっけ?
彼女の場合、所謂憑き物筋みたいな感じ。本人はそういう家系なのは知ってるけど、意識して加護女を呼び出してはいないのです。
あれも物悲しいですよね^^;
仔牛が売られて行く歌でしたっけ?
彼女の場合、所謂憑き物筋みたいな感じ。本人はそういう家系なのは知ってるけど、意識して加護女を呼び出してはいないのです。
Re:こんばんは
カテゴリー分けても探すのが大変になってきた(^^;)
わらべ歌はじんわり怖い話に向いてますね。
わらべ歌はじんわり怖い話に向いてますね。
Re:不思議な歌やよね。
色々謎が多い歌ですよね~。
後ろの正面とか、夜明けの晩とか……。
それだけに面白いんだけど^^
後ろの正面とか、夜明けの晩とか……。
それだけに面白いんだけど^^
わらべうた…
こんにちは~。
<かごめ かごめ>といえば、高田先生の『Q.E.D』…。百人一首でしたっけ、六歌仙でしたっけ…?あれは息苦しかったけど…。
この話は、ホラー系っていうよりヨコミゾ系?(笑)に思えてしまいました私。たは。
ところで、『アルファベット~』読了しはりました?是非巽さんや冬猫さんとミステリ談義をしたいです♪
<かごめ かごめ>といえば、高田先生の『Q.E.D』…。百人一首でしたっけ、六歌仙でしたっけ…?あれは息苦しかったけど…。
この話は、ホラー系っていうよりヨコミゾ系?(笑)に思えてしまいました私。たは。
ところで、『アルファベット~』読了しはりました?是非巽さんや冬猫さんとミステリ談義をしたいです♪
Re:わらべうた…
ヨコミゾ系っすか(笑)
確かに呪われた一族だなぁ。
『アルファベット~』もうちょい待っておくれやす。
推理しながら読むので暇掛かる奴(^^;)
確かに呪われた一族だなぁ。
『アルファベット~』もうちょい待っておくれやす。
推理しながら読むので暇掛かる奴(^^;)
ひえ~
あの~、巽さん怖いんですけど。。。
殺してなくても殺したと同じでしょ、それ。
宿主も歌鳴ちゃんが友達と仲良くできるように
してくれたらいいのに。
ますます寄り付かなくなっちゃうよ。
はっ!もしやそれが狙いか???
殺してなくても殺したと同じでしょ、それ。
宿主も歌鳴ちゃんが友達と仲良くできるように
してくれたらいいのに。
ますます寄り付かなくなっちゃうよ。
はっ!もしやそれが狙いか???
Re:ひえ~
呪いですからねぇ……くっくっく(←誰)
呪いにも色々ありまして、中には一見呪われた者に益を齎している様に見えるものもあります。が! その分代償を必要としたり、別の所で不利益や犠牲が出るのです。
直接的に病気になるとか怪我をする、よりもある意味強力だったりもします。怖っ!
呪いにも色々ありまして、中には一見呪われた者に益を齎している様に見えるものもあります。が! その分代償を必要としたり、別の所で不利益や犠牲が出るのです。
直接的に病気になるとか怪我をする、よりもある意味強力だったりもします。怖っ!
Re:こんにちは
まぁ、日頃から色々あったんでしょう(^^;)
と言うか、女の子を廃ビルに連れ込んで、髪の毛切るなんて犯罪ですよ!?
加護女……只護るだけの存在でないのがミソ。
と言うか、女の子を廃ビルに連れ込んで、髪の毛切るなんて犯罪ですよ!?
加護女……只護るだけの存在でないのがミソ。
無題
どもども!
いわゆる2重人格とも違うんですよね?
宿主って事は、歌鳴ちゃんは加護女さんに憑依されてるって事だよね??
かごめの唄って聞くと、ジョイポリス(だったかな?)のアトラクションを思い出しちゃいます
いわゆる2重人格とも違うんですよね?
宿主って事は、歌鳴ちゃんは加護女さんに憑依されてるって事だよね??
かごめの唄って聞くと、ジョイポリス(だったかな?)のアトラクションを思い出しちゃいます
Re:無題
二重人格と言うより、やはり憑き物ですね。加護女。
然も年期が入ってそうです。
ジョイポリス(?)はよく知らないけど、やっぱり不気味ですよね。この唄。
然も年期が入ってそうです。
ジョイポリス(?)はよく知らないけど、やっぱり不気味ですよね。この唄。
Re:無題
有難うございます(^^)
童歌はあの雰囲気がね、そそりますね(何を)
歌鳴ちゃん、物理的には護って貰えるけど、周りとの距離は決して埋まらなさそう。
童歌はあの雰囲気がね、そそりますね(何を)
歌鳴ちゃん、物理的には護って貰えるけど、周りとの距離は決して埋まらなさそう。
こんばんわぁ
呪いってあるんでしょうかね?
多大な犠牲を払っても、呪いをかける人がいるのでしょうね…
そういえば、数年前に、平日のお昼前に本屋に行ったら、学校のはずの男子学生が呪術の本を買ってた…誰かを呪ったのかな…!?(汗
多大な犠牲を払っても、呪いをかける人がいるのでしょうね…
そういえば、数年前に、平日のお昼前に本屋に行ったら、学校のはずの男子学生が呪術の本を買ってた…誰かを呪ったのかな…!?(汗
Re:こんばんわぁ
平日の昼間に……危ない奴かも(--;)
でも呪術は歴史とも全く無縁ではないので、裏歴史の勉強かも?(充分ヤバイか;;)
でも呪術は歴史とも全く無縁ではないので、裏歴史の勉強かも?(充分ヤバイか;;)