〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
低い台の上に蝋燭の火が揺れていた。
暗闇の中にたった一つ。
その灯に誘われる様に、瑞穂は定かでない足下を摺り足で確かめながら進んで行った。靴の下にざりざりとした感触はあるが、特に障害物は無い様だった。
自分がどうしてこんな所に居るのか、瑞穂は訝しんでいた。車に乗って病院へと急いでいた筈なのに……。
どれ程闇をすかして見ても、その先には更に闇が広がるばかり。
兎に角あの蝋燭を手に入れなければ――瑞穂は用心しながらも足を早めた。
暗闇の中にたった一つ。
その灯に誘われる様に、瑞穂は定かでない足下を摺り足で確かめながら進んで行った。靴の下にざりざりとした感触はあるが、特に障害物は無い様だった。
自分がどうしてこんな所に居るのか、瑞穂は訝しんでいた。車に乗って病院へと急いでいた筈なのに……。
どれ程闇をすかして見ても、その先には更に闇が広がるばかり。
兎に角あの蝋燭を手に入れなければ――瑞穂は用心しながらも足を早めた。
高い台の上に蝋燭の火が揺れていた。
暗闇の中にたった一つ。
その灯だけを頼りに、和穂は道を這っていた。身体が自分のものでないかの様に重く、普通に立って歩く事さえ出来ない。手に触れる地面は砂浜の様だったが、波の音などは聞こえない。自分が這いずる音だけが、辺りを支配している様だった。
何故自分がこんな所に居て、何故こんなに身体が重く感じられるのか……和穂には解らなかった。家でいつも通りに家事をこなしていたら不意に苦しくなって……気付いたらこの状態だった。
自分はどうしてしまったのだろう?
兎に角、この不安な闇の中、せめてあの蝋燭を手に入れなければ――和穂は腕に、力を込めた。
やがて短くなった一本の蝋燭を挟んで、その灯を見上げる和穂と、見下ろす瑞穂の視線がぶつかり――そこで二人は理解した。此処が何処なのか。何故自分達が此処に居るのか。
「お母さん……。そうだわ、お母さんが家で倒れたって聞いて、私は慌てて車を飛ばしてた」瑞穂が言った。
「私は……そうだったのね。だからこんなに身体が思う様に動かないのね」と、和穂。「じゃあ、瑞穂。貴女はそれで事故を起こして……? そんな……」和穂は嘆きに顔を覆う。
「お母さん、此処は……やはり私達は死に掛けてるの? だからこんなに暗い所に居るの?」和穂の傍にしゃがみ込んで、瑞穂は慨嘆した。
暫し、二人の女は圧し掛かる暗闇に潰されそうになりながらも、手を取り合う。
それにしてもこの蝋燭は何なのだろう――瑞穂はふと、顔を上げた。私達をせめて此処で出会わせる為に灯っていたのだろうか。しかし、一体誰が?
死神だとしたら、それは情けなのかそれとも嘲りなのか。
天使だとしたらそれは救いなのかそれとも哀れみなのか。
そのどちらも、瑞穂は信じてはいなかったが。
蝋燭は二人のどちらの手にも届く所にあった。たった一つ。
これでどうにかなる様な闇ではないがと思いつつも、瑞穂は古風な蝋燭立てに立てられたそれを手に取った。
途端、スピードの出し過ぎでカーブを曲がれず中央分離帯に激突して車から投げ出された自分の姿が浮かんだ。額からは鮮血が流れ、意識は無いのかぐったりしている。やがて彼女は救急車で運ばれて行き……。
「何? これ!」彼女は思わず蝋燭を元の台に戻した。一刹那、広がった映像に引き摺られそうになった。
そして次に手に取った和穂の脳裏にも、自分が倒れ行く様、夫に発見されて救急車で運ばれる様が浮かんだのだった。彼女も、その映像に引かれそうになり、慌てて蝋燭を手放す。
「これ……もしかしたら、蝋燭を手にすれば身体に戻れるのかも……」ごくりと息を飲んで、瑞穂は言った。「もしかしたら……私達、未だ死んでなくて、生き返れるのかも……!」
「でも、もし戻れたとして、もう身体が死んでいたら?」不安げに和穂は言う。「それは確実に死ぬ事になるんじゃあ……」
「でも、此処でこうして闇の中に居ても、死んだも同然じゃない? ああ、せめて身体の状態が解ればいいのに」瑞穂は蝋燭を見遣る。先程見えたビジョン、あれが現実ならば、自分の状態も判るのではないか? もし、未だ助かるのなら……。だが、先程の様に引き摺られて、その先にあるのが死体であったなら、彼女の死は確定してしまうのではないか?
そしてそれは和穂も同じ事なのではないか?
ぎりぎり迄――揺れる火を見据えて、瑞穂はそっと手を伸ばした。見るだけ。先ずは見るだけなんだから。
和穂の悲鳴の様な声の上がる中、蝋燭を手に取った彼女の脳裏には頭に包帯を巻き、酸素吸入器を付けられ、意識不明の儘ベッドに眠り続ける彼女の姿が映し出された。
引かれそうになるのを、そしてそれに身を任せそうになるのを振り切って、瑞穂は蝋燭を手放した。母にも、蝋燭を手に取ってみる様に言う。
「もしお母さんにも助かる可能性があるのなら……私だけ行けないもの」
和穂は頭を振ったが、娘の強い視線に渋々、蝋燭を手に取った。
そして――それを無理矢理に瑞穂に握らせた。
「お母さん!?」
「私は駄目だったわ」微苦笑を浮かべ、早口に彼女は告げた。「だから瑞穂、貴女はそれを持って早く行って頂戴。お父さんも心配してるから」
嘘だ、確かめる時間なんて無かった――そう反論する間も無く、蝋燭を持った儘の手を母に伸ばした瑞穂の意識は蝋燭の炎の中に溶けた。
病院で、あの暗闇の中で見た通りの姿で目を覚ました時、瑞穂は泣いていた。母は、もしかしたら助かったかも知れないのに。
だが彼女の生還を確かめた父は、嬉しそうに笑顔を見せた。
「瑞穂、母さんももう心配無いそうだぞ」
え?――瑞穂は信じられない思いでその報せを聞く。
「火がどうとか訳の解らない事を言ってたが……混乱してたんだろうな」
お互いに回復し、対面した瑞穂と和穂は、元の場所に戻るのに必要だったのは蝋燭その物ではなくその火だったのだと知った。瑞穂の手から伸ばされた蝋燭、その蝋燭の火が母の服に移り、あっと思った時にはもう、彼女は身体に戻っていたのだと言う。
「あれは……私達を試していたのかも知れないねぇ」しみじみと、母親は言った。「生き返れるのは一人と、もし奪い合いでもしていたらあの火は掻き消えて……」
それが見たくてお膳立てしたのになぁ――そんな、地の底から聞こえる様な声が二人の耳にだけ、届いた。
「…………」二人は黙って顔を見合わせた儘、震える手を握り合った。
―了―
テンプレートを変えてみた。ちょっと感じが違うかも知れないです。読み難かったら言って下さいませ。
暗闇の中にたった一つ。
その灯だけを頼りに、和穂は道を這っていた。身体が自分のものでないかの様に重く、普通に立って歩く事さえ出来ない。手に触れる地面は砂浜の様だったが、波の音などは聞こえない。自分が這いずる音だけが、辺りを支配している様だった。
何故自分がこんな所に居て、何故こんなに身体が重く感じられるのか……和穂には解らなかった。家でいつも通りに家事をこなしていたら不意に苦しくなって……気付いたらこの状態だった。
自分はどうしてしまったのだろう?
兎に角、この不安な闇の中、せめてあの蝋燭を手に入れなければ――和穂は腕に、力を込めた。
やがて短くなった一本の蝋燭を挟んで、その灯を見上げる和穂と、見下ろす瑞穂の視線がぶつかり――そこで二人は理解した。此処が何処なのか。何故自分達が此処に居るのか。
「お母さん……。そうだわ、お母さんが家で倒れたって聞いて、私は慌てて車を飛ばしてた」瑞穂が言った。
「私は……そうだったのね。だからこんなに身体が思う様に動かないのね」と、和穂。「じゃあ、瑞穂。貴女はそれで事故を起こして……? そんな……」和穂は嘆きに顔を覆う。
「お母さん、此処は……やはり私達は死に掛けてるの? だからこんなに暗い所に居るの?」和穂の傍にしゃがみ込んで、瑞穂は慨嘆した。
暫し、二人の女は圧し掛かる暗闇に潰されそうになりながらも、手を取り合う。
それにしてもこの蝋燭は何なのだろう――瑞穂はふと、顔を上げた。私達をせめて此処で出会わせる為に灯っていたのだろうか。しかし、一体誰が?
死神だとしたら、それは情けなのかそれとも嘲りなのか。
天使だとしたらそれは救いなのかそれとも哀れみなのか。
そのどちらも、瑞穂は信じてはいなかったが。
蝋燭は二人のどちらの手にも届く所にあった。たった一つ。
これでどうにかなる様な闇ではないがと思いつつも、瑞穂は古風な蝋燭立てに立てられたそれを手に取った。
途端、スピードの出し過ぎでカーブを曲がれず中央分離帯に激突して車から投げ出された自分の姿が浮かんだ。額からは鮮血が流れ、意識は無いのかぐったりしている。やがて彼女は救急車で運ばれて行き……。
「何? これ!」彼女は思わず蝋燭を元の台に戻した。一刹那、広がった映像に引き摺られそうになった。
そして次に手に取った和穂の脳裏にも、自分が倒れ行く様、夫に発見されて救急車で運ばれる様が浮かんだのだった。彼女も、その映像に引かれそうになり、慌てて蝋燭を手放す。
「これ……もしかしたら、蝋燭を手にすれば身体に戻れるのかも……」ごくりと息を飲んで、瑞穂は言った。「もしかしたら……私達、未だ死んでなくて、生き返れるのかも……!」
「でも、もし戻れたとして、もう身体が死んでいたら?」不安げに和穂は言う。「それは確実に死ぬ事になるんじゃあ……」
「でも、此処でこうして闇の中に居ても、死んだも同然じゃない? ああ、せめて身体の状態が解ればいいのに」瑞穂は蝋燭を見遣る。先程見えたビジョン、あれが現実ならば、自分の状態も判るのではないか? もし、未だ助かるのなら……。だが、先程の様に引き摺られて、その先にあるのが死体であったなら、彼女の死は確定してしまうのではないか?
そしてそれは和穂も同じ事なのではないか?
ぎりぎり迄――揺れる火を見据えて、瑞穂はそっと手を伸ばした。見るだけ。先ずは見るだけなんだから。
和穂の悲鳴の様な声の上がる中、蝋燭を手に取った彼女の脳裏には頭に包帯を巻き、酸素吸入器を付けられ、意識不明の儘ベッドに眠り続ける彼女の姿が映し出された。
引かれそうになるのを、そしてそれに身を任せそうになるのを振り切って、瑞穂は蝋燭を手放した。母にも、蝋燭を手に取ってみる様に言う。
「もしお母さんにも助かる可能性があるのなら……私だけ行けないもの」
和穂は頭を振ったが、娘の強い視線に渋々、蝋燭を手に取った。
そして――それを無理矢理に瑞穂に握らせた。
「お母さん!?」
「私は駄目だったわ」微苦笑を浮かべ、早口に彼女は告げた。「だから瑞穂、貴女はそれを持って早く行って頂戴。お父さんも心配してるから」
嘘だ、確かめる時間なんて無かった――そう反論する間も無く、蝋燭を持った儘の手を母に伸ばした瑞穂の意識は蝋燭の炎の中に溶けた。
病院で、あの暗闇の中で見た通りの姿で目を覚ました時、瑞穂は泣いていた。母は、もしかしたら助かったかも知れないのに。
だが彼女の生還を確かめた父は、嬉しそうに笑顔を見せた。
「瑞穂、母さんももう心配無いそうだぞ」
え?――瑞穂は信じられない思いでその報せを聞く。
「火がどうとか訳の解らない事を言ってたが……混乱してたんだろうな」
お互いに回復し、対面した瑞穂と和穂は、元の場所に戻るのに必要だったのは蝋燭その物ではなくその火だったのだと知った。瑞穂の手から伸ばされた蝋燭、その蝋燭の火が母の服に移り、あっと思った時にはもう、彼女は身体に戻っていたのだと言う。
「あれは……私達を試していたのかも知れないねぇ」しみじみと、母親は言った。「生き返れるのは一人と、もし奪い合いでもしていたらあの火は掻き消えて……」
それが見たくてお膳立てしたのになぁ――そんな、地の底から聞こえる様な声が二人の耳にだけ、届いた。
「…………」二人は黙って顔を見合わせた儘、震える手を握り合った。
―了―
テンプレートを変えてみた。ちょっと感じが違うかも知れないです。読み難かったら言って下さいませ。
PR
この記事にコメントする
Re:無題
有難うございます(^^)
忍のカスタマイズBBSやら参考にしまくりながら、何とか出来ました♪
最後のあれはやっぱり死神か悪魔か……。
奪い合っちゃうんですか? 相手が猫だったらどうだっ!?(笑)
忍のカスタマイズBBSやら参考にしまくりながら、何とか出来ました♪
最後のあれはやっぱり死神か悪魔か……。
奪い合っちゃうんですか? 相手が猫だったらどうだっ!?(笑)
無題
こんばんわ(^o^)丿
一瞬、どこに飛ばされたのかと、
あせりました(^^)
ん~、字体がちょっとみずらいです。。。
でも、私だけかも。
それが見たくてお膳立てって、
死神さんお暇なのかしら?
・・・いや、神様のいたずらもありですね。
一瞬、どこに飛ばされたのかと、
あせりました(^^)
ん~、字体がちょっとみずらいです。。。
でも、私だけかも。
それが見たくてお膳立てって、
死神さんお暇なのかしら?
・・・いや、神様のいたずらもありですね。
Re:無題
あはは、安心して下さい。ちゃんと『夜光猫の尾』ですから(笑)
字体が見辛いですか? またちょっと変えてみますね。
二人が蝋燭の所迄辿り着くのに結構間が掛かってそうなので……やっぱり暇だったんですね、きっと(笑)
字体が見辛いですか? またちょっと変えてみますね。
二人が蝋燭の所迄辿り着くのに結構間が掛かってそうなので……やっぱり暇だったんですね、きっと(笑)
人間を……
試すなよ~~~!!
地底からの声の野郎め。またやったら、さば折りにしちゃうからねっっ!!
落語を思いだしたよ。題名は忘れちゃったけどね。
人間は互いに思いやる心が大事だよね♪
たま~に、忘れるけどさ(笑)
地底からの声の野郎め。またやったら、さば折りにしちゃうからねっっ!!
落語を思いだしたよ。題名は忘れちゃったけどね。
人間は互いに思いやる心が大事だよね♪
たま~に、忘れるけどさ(笑)
Re:人間を……
さば折り……(^^;)
まぁ、この親子は仲良しさんで良かったねという話(苦笑)
まぁ、この親子は仲良しさんで良かったねという話(苦笑)
Re:おはよう(ρ_-)ノ
うん、名前は似せて付けた。お母さんから一文字貰ったんだね^^
これが自分の事しか考えない人達だと修羅場になりそう(汗)
これが自分の事しか考えない人達だと修羅場になりそう(汗)
Re:おはようございます
確かにちょっと硬い感じかも。桜テンプレとか使う所が増えてきた時期に季節感無視(笑)
行間もちょっと広げてみました(^^)ノ
その場になってみないと……そうですねぇ、外では仲良さげなのにいざとなったら……なんて事も?(--∥)
行間もちょっと広げてみました(^^)ノ
その場になってみないと……そうですねぇ、外では仲良さげなのにいざとなったら……なんて事も?(--∥)
ふ~む・・・・・・
暗闇に一人で取り残されるのは怖くて嫌だけどねぇ~・・・・・でも事故なんぞで体がボロボロになっていたら生き返るのも嫌かなぁ・・・・・
奪い合いはしないと思うけど・・・・その場になってみないと分からないかもねぇ・・・・
奪い合いはしないと思うけど・・・・その場になってみないと分からないかもねぇ・・・・
Re:ふ~む・・・・・・
そうですねぇ。人間の心も一定ではないから……。
暗闇は嫌だね~。
にゃんたちゃんの目が一段と光りそう(笑)
暗闇は嫌だね~。
にゃんたちゃんの目が一段と光りそう(笑)
Re:うーん
はわ!?(笑)
もう少し春らしいものが作れないかと思案中だったりもします(^^;)
でもピンクはあんまり使いたくない……やっぱり好みが男っぽい……★
もう少し春らしいものが作れないかと思案中だったりもします(^^;)
でもピンクはあんまり使いたくない……やっぱり好みが男っぽい……★
Re:無題
そそ、思う壺(^^;)
でもそんな死神を喜ばせてやる必要は無い☆
でもそんな死神を喜ばせてやる必要は無い☆
Re:ほほー
そうですねぇ、死神は……お迎えに来る奴? まぁ、作品世界では色々居るみたいだけど。
悪魔も凶悪なのからどこか愛嬌のあるの迄、色々居ますねぇ^^;
悪魔も凶悪なのからどこか愛嬌のあるの迄、色々居ますねぇ^^;
ご無沙汰でm(__)m
一週間分まとめて読ませていただいちゃいました。PCも開かずに…(Macは使ってたけどあちらではブログと仕事はしない…)
テンプレ変わっててびっくりしたら昨日からなのね(^^ゞ
親子だから母だから良い感じで終われたのかな?他人だとか兄弟だとか。。。考えるとコワいよ~な(__;)
テンプレ変わっててびっくりしたら昨日からなのね(^^ゞ
親子だから母だから良い感じで終われたのかな?他人だとか兄弟だとか。。。考えるとコワいよ~な(__;)
Re:ご無沙汰でm(__)m
お疲れ様です! 色々お忙しかったのでは? 無理なさらないで下さいね^^
そうですねぇ、他人だとまた展開が違うかも……(怖っ)
そうですねぇ、他人だとまた展開が違うかも……(怖っ)