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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 夜中に車を走らせるのは苦手だった。
 明る過ぎて眼を眩ませる街の彩りも、一本逸れただけでそれらが夢幻の様に遠ざかる暗い道も。
 そして何より、夜中に車を走らせる羽目になる時なんて、碌な事があった例(ためし)が無い。
 
〈さようなら〉

 そんな言葉だけを残して、電話は切れた。その一言だけ。それでも着信履歴から、それが亮子からの電話である事は判るし、何よりあの声だって――どれだけ沈んでいようとも――聞き間違えるもんか。
 それは只俺への別れの言葉と取るには余りに重々しい口振りだった。
 だから俺は慣れない夜の運転へと、車を駆り出したのだ。


 亮子のマンションへは車ならほんの二十分も掛からない。俺は大通りのイルミネーションと渋滞を避けて、裏道の一本へとハンドルを切った。
 途端、背後からの灯と遠くの街灯だけという暗さに、ライトをハイビームに切り替え――その明かりの中に蹲る姿を見付けて間一髪、ブレーキを踏み締めた。身体が前へつんのめる中、俺はそれが幼い少女だと視認していた。
 何でこんな時間に……そう訝る間ももどかしく、俺はクラクションを鳴らした。俺は急いでるんだ。
 だが、少女に動きは無い。
 どこか怪我でもしているのだろうか? 俺は心配になって車を降りた。俺の車に掠ったとは考えられないが、それ以前に怪我でもして動けないのかも……。
「おい、大丈夫か?」呼び掛ける声にも答えは無い。悪ふざけだろうか、ちらりとそんな考えも浮かぶ。しかし、彼女の体勢ではもし気付かれなければ車に撥ねられているのは確実。そんなおふざけはあるまい。
 俺はそっと顔を覗き込み、眉を顰めた。
 その顔は、これから俺が会いに行こうとしている相手、亮子に似た風貌を持っていた。

「悪いけど、怪我もしてないみたいだし、何を訊いても話してくれないし……あの近所を一軒一軒訊いてる暇も無いんだ。交番で降ろさせて貰うよ」物言わぬ少女を助手席に乗せ、俺は言った。あの付近はビル街。この時間では管理人が残っていればいい方だし、そんな所にこんな少女が関わりがあるとは思えない。マンションもあるのかも知れないが……俺には時間が無い。
 ナビを見る。一番近い交番は亮子のマンションとは少し、離れていた。しかしこの子を連れて行く訳にもいかず、俺は裏道を利用して交番への距離を稼ぐ。
 その間どれだけ話し掛けても、少女の口が開く事は無かった。

 交番に着くと少女を降ろし、只一人張り番をしていた巡査に手短に説明して、再び車へ。巡査がちょっと待ってくれ、とか言っている様だが、詳しい状況を語っている暇なんて無い。俺はスピード違反にならないぎりぎりの処で、車を飛ばした。

 単身者用のなかなか瀟洒なマンション。そこが亮子の住居だった。
 勝手知ったる何とやら。彼女の部屋がある三階迄非常階段を駆け上がり、息を切らせながらチャイムを鳴らす。続いてノック。
 反応が無い――その間がやけに長く感じられた後、チェーンの掛かった儘のドアが窺う様にそっと開けられた。
 そして俺の姿が目に入ったか、亮子はドアを大きく開け――ようとしてチェーンに阻まれ、もどかしげにそれを外す。
 その様子を見ていて、俺は何と無く拍子抜けしていた。いつもの亮子だ。ちょっと警戒心が強くて落ち込み易くて、でもどこかドジな、いつもの彼女だった。
 さっきの電話は何だったんだ?
 それを訊く前に、漸くドアを全開にした彼女が俺に飛び付いて来た。
「裕樹(ゆうき)! 無事だったのね!?」
 心から安堵した様な、子供の様な笑顔。目尻に涙さえ浮かんでいるのは見間違いか?
「どういう事なんだよ? 無事だったのか、は俺が訊きたい処なんだけど……」部屋に上がり込みながら俺は質した。「さっきの電話は何だったんだよ?」
「……ごめん。私……酷く落ち込んじゃって……何かだぁれも私の事なんてどうでもいいんじゃないかって気がして……裕樹の事、試しちゃった」小さくなって胸の前で手を組み、彼女は言った。「本当にごめん!」
 正直、呆れた。落ち込み易いのは知っていたし、そんな繊細さに惹かれてもいたんだが……それでも、俺を求めてくれていたんだと思うと、それ程腹も立たなかった。何より、あのこの世に対しての別離の言葉かに思えた響きが、彼女の声から消えている。それが嬉しかった。
「それで、無事だったのかって何だよ?」もう一つ気になる事を、俺は尋ねた。
 亮子はリビングの窓を指差した。
 どこら辺だろうか。然して遠くない所で、煙が上がっているのが、夜目に辛うじて見える。
「玉突き事故だって……裕樹がいつも家に来る時に使う裏道の辺り……だから、もし、来てくれていたら……あれに巻き込まれていやしないかって……」ぎゅっ、と俺の存在を確かめるかの様に俺の袖を掴む。
「あの道は確かに……」あの儘何も無ければ通っていた筈の道だ。もしかしたら、巻き込まれていたかも……そう思うとぞっとした。
 俺は亮子にあの道を通らなかった訳を話した。あの交番へ寄る為の針路変更、それが僥倖だったのだ、と。

 夜道に蹲っていた少女。物言わず、亮子に似た風貌の少女。
 思えば彼女が居たから事故が避けられたのだ。
 その話を聞くと、亮子は少女に会ってみたいと言い出した。俺としても、どうなったか気にはなる。交番に預けておけば問題は無いとは思うが、ちゃんと親元へ帰れただろうか。
 俺達は交番へと、車を走らせた。

「あ、先程の……」未だ同じ巡査が居て、俺の顔を見るなり言った。「何だったんだね? 子供が、子供がって、たった一人で騒いで行ってしまって……」
 俺は亮子と顔を見合わせた。
「だから、小さい女の子が夜道に蹲っていて、何処の子か判らないからお願いしますって……」俺は惚けた様な口調で先程の説明を繰り返す。
「だから、そんな女の子が何処に居たんだね? 君は幽霊か透明人間でも連れて来たのかい?」巡査の顔は至って真面目だった。「待てって言ってもさっさと行ってしまうし……薬などやっとらんだろうね?」
 俺は狐に摘まれた思いだった。慌てて薬容疑だけ否定して、寝惚けてました、と勢いよく頭を下げて交番を後にした。
「どうなってるんだよ……」頭を抱える俺に、亮子は僅かな笑みを返した。
「もしかしたら、助けてくれたのかもよ? その子」
「幽霊だか俺にしか見えない透明人間だかに助けられる覚えなんて無いけどな」
「さぁ?」亮子は首を傾げた。「その子、私に似ていたんでしょう? もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「いずれ会えるかもね」言って、彼女はそれ迄に見た事も無い、穏やかな笑顔を見せた。

                      ―了―

 車で夜道曲がってハイビームにしたら女の子が居た、の辺りは私が今朝方見た夢~(笑)
 

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無題
不思議な話ですね。
いずれ会える女の子は2人の子供!?

巽さんどんな夢をみたのかな!?
私はいまだにデグーが増える夢を見ます(笑)
ふわりぃ URL 2007/12/07(Fri)22:19:53 編集
Re:無題
>いずれ会える女の子は2人の子供!?

はい、そんな感じです(^^)
何か訳解らない夢でしたよ☆ま、夢ってそんなもんだけど。
デグーさん大増殖、いいですね。姫様達にお婿さんは取らないんですか?
巽(たつみ)【2007/12/07 23:43】
無題
夢がヒントでしたか^^
凄い発想力!
そんな霊的な事って、経験した事あるんですか??
ぴぴ 2007/12/07(Fri)22:56:44 編集
Re:無題
や、霊感(多分)無い所為か霊的な体験は無いんですよね。
金縛りは多分疲れてた所為でしょうし。直前に鈴の音がしたのも何かの聞き間違いだろうし、金縛り中地震が起きた気がしたのに無かったのも……きっと夢です(笑)
巽(たつみ)【2007/12/07 23:48】
良いねー
この話。
話の先が見えてる様に見えるかも知れないけど、なかなかこうは書けません。
しかも夢だけで…
巽さんなは才能が有るんだなって思う。

相変わらずのハイペース。こちらは毎日楽しいですが、くれぐれも身体は大事にね?これから先も読みたいからさ。
冬猫 2007/12/07(Fri)23:42:06 編集
Re:良いねー
有難うございます(^^)
才能はどうなのか解らないけど、思い付く限り書いてます(笑)
姐さんも風邪ひかないようにね☆

追記:今夜霧、「夜中に車を食べながら」って言った(爆笑)
巽(たつみ)【2007/12/07 23:52】
無題
(。・・。)(。. .。)ウン♪
可愛いお話です。

夜中に子供を助けるなんて、
誘拐犯にされそうで、どきどきです☆
拾ったお財布届けるのでさえ、泥棒扱いされそうで不安(小心者^^;)
moon URL 2007/12/08(Sat)00:02:11 編集
Re:無題
子供に声掛けるだけでも緊張しますよね。ヤな世の中になったもんです。
でも多分彼女は彼以外の誰にも見えてないから大丈夫!
……誰も居ないのに助手席に乗せる振りしたり、変な人には見えるかもね( ̄▽ ̄;)
巽(たつみ)【2007/12/08 00:19】
なるほどね
こんばんは。
人騒がせな女の子だなぁ。
こんなのしょっちゅうだったら迷惑かもwww。
女の子はやっぱり将来の二人の子?
この後、涼子は、妊娠していると告げると、勝手に深読みしちゃった。

afool 2007/12/08(Sat)00:34:37 編集
Re:なるほどね
亮子さん、何があったんでしょうねぇ?
時々試したくなるのが女心……らしい。私にはかなり足りないものですが!(笑)
最後のはねー、私も悩んだんですが亮子ちゃん警戒心強いので、恐らく無いだろう、と。彼が来てくれた事でこの先……きっと女の子に会えるでしょう。
巽(たつみ)【2007/12/08 01:00】
無題
おはようございます。
不思議体験ですね。夢って、小説でイジしだすと止まらないですよね。笑

あと相互リンクの件、遅ればせながらありがとうございます。
たろすけ(すけピン) URL 2007/12/08(Sat)08:41:48 編集
Re:無題
こんにちは♪
私、滅多に夢見ない(覚えてない?)んですけどね、珍しく覚えてたもので早速使っちゃいました(笑)

>あと相互リンクの件、遅ればせながらありがとうございます。

こちらこそ。これからも宜しくお願いします(^^)
巽(たつみ)【2007/12/08 16:13】
け・
結婚の催促か?
なかなか、やりますね。

またムーストーンの生霊かと思ってしまいました。面白い。
ただね、その繊細さに惹かれたって、後々苦労の種になりそうな気がするんだけど。
老婆心ながら・・・
ぷん URL 2007/12/08(Sat)11:23:53 編集
Re:け・
かもね(笑)
記念日とか忘れたら大変なタイプかも。
仕事中にこれやられたら、尚大変(苦笑)
巽(たつみ)【2007/12/08 16:15】
こんばんわ★
昨夜、読み逃げしちゃったので、今更のコメントです~(^^)
この女の子は、皆さんコメントしてるように、2人の子供?
って思いました。
夢が元ネタですか。
モアイネコは最近、夢見てないかな~?
モアイネコ URL 2007/12/08(Sat)21:39:27 編集
Re:こんばんわ★
読み逃げもお気になさらず~(^^)
女の子……うん、多分近い将来(笑)
私も夢は滅多に見ないです。熟睡!?
巽(たつみ)【2007/12/08 22:59】
無題
良かったです。
巽さん、お話書くのうまいですね。

ところで、暴露話です。
シンは、初め巽さんの小説は読むのに勇気がいりました。今でも若干そうなんですけど。
何故かって、漢字が多いからなのです(笑)
(文字の書体も関係してるのかなぁ)
とりあえず子供の頃勉強してないせいで……
読めない漢字も(笑)
ごめんなさい。こんな理由で敬遠しちゃってて。
お許しください。
でも、読み始めるとスラスラ読めるから、文章はうまいなぁと思います。
そして、更新の頻度もすごいですね。
巽さんの小説は読みがいがあるので
また、ゆっくり全部読んでみようと思います。
ではでは。
見習猫シンΨ URL 2007/12/08(Sat)23:14:44 編集
Re:無題
有難うございます(^^)
漢字、多過ぎましたか!∑( ̄□ ̄;)
元々が漢字を覚えるには書くのが一番! でも只漢字練習帳に書いても詰まらんから話を書こう! で始めた面もあるので、ついつい……(^^;)
然も、当時参考にした辞書がどうも古かった様な……?(二日酔いが宿酔いって載ってる位。広辞苑でも【やどよい】二日酔いの読み違い程度にしか載ってないのに)
読みにくかったら遠慮せずどんどん突っ込んでやって下さいね!
巽(たつみ)【2007/12/09 00:11】
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