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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 機能は沿岸に集まるゴミとか水母とかの撤去――その重要な機械を、僕達は壊してしまった。
 大量の海水と共にそれらを吸い込み、細かくも鋭い刃を備えた通路を通して、排水路へと吐き出す。シンプルな造りながら、効果はあった。漁港と、やや離れてはいるが水力発電所の取水口を守る為の、それは大事な砦でもあった。
 海水温の温暖化だとか、富栄養化だとか原因は色々言われているけれど、兎に角近年の水母の数には、皆、参っていた。
 網を仕掛ければ魚の何倍もの数の水母が掛かる。然もその毒で弱った魚は鮮度も悪く、売り物にはならない。重みで網も傷む――魚の重みで傷むのなら未だ嬉しいんだがと、伯父は悲しげな目で苦笑していた。
 取水口に奴等が取り付けば、充分な水が取り込めず、発電所がストップすると言われている。幸い、そこ迄酷くなる前に、職員や街の有志で撤去しているが、切りがない。
 そこで街は、件の機械を導入したのだった。
 細かく刻んでしまえば網にも掛からないし、詰まる前に排水路から流してしまえる。これで一安心と、皆は思った。
 その機械を、何故、僕達が壊してしまったのか?
 それは、水母ではないものに、頼まれてしまったから……。
 実は僕達は、子供の頃にも、それに会った事があった。
 その日、僕は友達と貝を採る競争をしていた。少しでも皆より多く、そして大きな貝を採ろう――そう思って向かった、僕だけが知る筈の穴場に、海から顔を出している見知らぬ女の子の姿があった。
 驚きと秘密の場所を荒らされた怒りで思わず怒鳴り声で誰何した僕に、彼女は怯えながらも懸命に、済まない、悪気はない、そんな意味に取れるジェスチャーを送っていた。
 口が利けないのか――その様子に冷静に立ち返った僕は、もういいよと、鷹揚に笑って見せた。
 すると彼女は安堵の表情を見せた。よく見れば髪の長い、可愛い女の子だった。
 海から上がっては来ない彼女に、それでも僕は色々と話し掛けた。今日は貝を採りに来た事。友達の事。駄々を捏ねて付いて来てしまった、友達の未だ小さい弟の事……。
 彼女は時折ジェスチャーを交えつつ相槌を打ちながら、笑顔で聞いてくれていた。
 と――。
 不意に甲高い声が、ぐるりと海岸線を回り込んだ別の岩場の方で響いた。一緒に来た友達の、弟の名が辛うじて聞き取れた。そして遽し水音――真逆……!
「海に落ちた!? 拙い、あの辺りは海藻が茂ってて、泳ぎが達者な奴でも危険なのに……!」
 どうしよう!? 一拍、思考が空回りして動けなくなった僕よりも、彼女の方が早かった。
 勢いをつけて海に潜り、素晴らしい速さで問題の岩場へと向かって行く。暫し見惚れてしまった僕も、慌てて陸路、岩場へと向かった。残念ながら、泳ぎは余り得意ではないのだ。
 そして、駆け付けた時にはもう、小さな子供は彼女の腕に抱き上げられ、友達の腕へと渡される所だった。
「有難う!」友達は泣き崩れていた。「誰だか知らないけど、本当に有難う!」
 初対面も何もない。彼女は友達の弟の――僕達の仲間の命の恩人なのだ。皆、丸で昔からの友達の様に、彼女に声を掛けた。
 だけど――誰が言ったのだったか。あるいは僕だったのかも知れない。
「いつ迄も海の中に居ないで、上がりなよ。身体が冷えちまうよ」
 そう言って差し伸べられた手に、彼女は身を翻した。陸地への怯えに表情を硬くし、その手を拒む。
 そして――行ってしまった。
 ばしゃん! と中空に迄跳ね上げた尾を海面に叩き付け、美しい鱗を煌めかせて。
「に……人魚……!?」
 繁茂した海藻や水面の反射で、それ迄僕達には彼女の全身は見えていなかったのだ。
 僕等は暫し茫然とその場に立ち尽くした後――そうと知っていれば陸に上がれなんて言わなかったのにと、少し悔やみながら、辺りに咲く花を皆で摘んだ。
 改めて御礼と、お詫びを伝えたくて。
 彼女は言葉が話せなかった。種族が違うのであれば、人間の言葉も、何処迄理解出来ているのかも解らない。それでもジェスチャーや表情で、コミュニケーションは成立していたと思う。
 だからきっと、伝わる――そう信じて、僕達はささやかな、本当にささやかな花束を、彼女の居る海へと投じた。海へ帰ってしまった彼女が気付いてくれるかどうかは、解らなかったけれど、きっと届くと信じて。

 それから十数年。
 僕達は彼女に再会した。
 そして彼女は僕達に頼んだのだ。件の機械を、一時的にでもいいから停めて欲しいと。例によってジェスチャーでの会話だったけれど。
 どうやらあの辺りの海底に彼女等の住処があり、遊泳力の弱い子供などは危険な目に遭っているらしい。新しい住処を探すには大人達を総動員せねばならないが、それでは守りの手薄になった子供達が心配で、なかなか捗らないのだと。
 仲間の命の恩人である彼女に頼まれてしまっては、嫌とは言えない。かと言って、あれに関わってはいても、僕達にあれを停める権限などない。
 だから僕達は、この綺麗な月夜の晩、それぞれの持ち場で僅かな瑕疵を積み重ね、問題の機械を壊したのだ。原因が追究されても、なかなか一つには断定出来ないだろう。そして原因が確定しなければ、点検に時間を取る事になる。
 いずれ機械は修理される。それでも、時間は稼げる。その間に、彼女達は新たな住処を探す心算だそうだ。

 そうそう、全てを見守っていた彼女は、十数年前別れた後の事も、ちゃんと見ていたのだろうか。
 あの花束――その意味する思いはちゃんと伝わっていてくれたのかも知れない。
 それで彼女は大きな花束を一つ抱えたみたいなジェスチャーを見せてから、見事な空中ターンを決め、海へと帰還したのかも知れない。
 有難う――と。

                      ―了―
 今回は変則的に序盤と終盤に夜霧(笑)

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こんにちは
すぐに人魚って分かったもんねぇ~。(^o^)v

それにしても長くなったね。(笑)
夜霧さん、手加減してくださいっす。(爆)
afool 2010/08/29(Sun)13:47:34 編集
Re:こんにちは
思いの他、長くなってしまいました(--;)
本当、夜霧には手加減して貰いたいです。
巽(たつみ)【2010/08/29 22:53】
お疲れ様ぁ!
訳わからん文章をここまで!
素晴らしいですにゃ〜=ↀωↀ=

夜霧君、ちょっと反省しなさい。(無理かww)
つきみぃ URL 2010/08/29(Sun)14:16:25 編集
Re:お疲れ様ぁ!
有難うございますm(_ _)m
苦労が報われますわ~♪

夜霧の辞書に「反省」という言葉は……あっても意味が載ってない(笑)
巽(たつみ)【2010/08/29 22:58】
無題
なんとも大掛かりな話になってしまいましたねえ。人魚の花束ひとつみたいなターンお見事、お疲れ様でした!

ここでまた夜霧の突っ込みコメ入るかな?
銀河径一郎 2010/08/29(Sun)18:43:28 編集
Re:無題
花束一つみたいなターン、何とか片付きました(^^;)
夜霧のツッコミ(((゜д゜;)))
巽(たつみ)【2010/08/29 22:59】
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