〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
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この機能、都会(まち)の雑踏で試したかったのだが――携帯端末を弄びながら、男はゆっくりと川原に脚を運んだ。口角は攣り上がり、目には薄笑いが浮かんでいる。
流石に試験運用で騒ぎになっては困る。警戒され、本番で使えなくなっては態々試験をする価値も無い。
それにこの辺でも充分だろう、と彼は脚を止めた。
そして携帯端末を操作した。
感知されない程の空気の震え――音の一種がそこから流れ出した。音量は最大。
涼しい顔で佇む男の周囲の叢で、物陰で、何かがざわめき出した。
実験は大成功だった。
流石に試験運用で騒ぎになっては困る。警戒され、本番で使えなくなっては態々試験をする価値も無い。
それにこの辺でも充分だろう、と彼は脚を止めた。
そして携帯端末を操作した。
感知されない程の空気の震え――音の一種がそこから流れ出した。音量は最大。
涼しい顔で佇む男の周囲の叢で、物陰で、何かがざわめき出した。
実験は大成功だった。
数日後のオフィス街。晴れ渡った――それでいてどこか薄くガスの掛かった――空の下、行き交う人々は俄かに強くなった日差しを避ける様に、急ぎ足でビルとビルの間を移動していた。
信号待ちで手を翳し、車の流れを目で追う者。街路樹の陰に避難する者。完全に避けるべく手近な地下街への階段を下りる者。中には小さな公園の噴水に涼を求める者も居た。皆、様々で――いつもと同じ光景だった。
その中に、一人の男が現れた。例の、携帯端末を持った男だ。
そして、端末を操作した。
始めは、静かなざわめきだった。カサコソ、ザワザワ……。そんな気配が人々の足元から、あるいは頭上から、沸き起こり始める。
それは徐々に、しかし確かに音量を増し、また気配も数を増し続けていった。
何事かと脚を止めた地下食品売り場の客。
ふと通風孔を見上げたオフィスのサラリーマン。
最上階の眺めから視線を外し足元を見詰めた会社幹部。
彼等は一様に見る事となった。
ビルの通風孔を、パイプを、通路を濁流の様に駆け、流れ去る小動物の大群を。それらはビルから溢れる様に、あるいは例の音に導かれる様に街路に流れ出し、更なる混乱と悲鳴を引き起こした。
その正体に気付いた人々は悲鳴を上げ、逃げ惑う。留まろうとした男達も、その数に圧倒され、撤退を余儀なくされる。
黒茶色の流れに足が竦んだのは人々だけでなく、車迄もそれを轢く嫌な感触を味わった後に停止した。
道に溢れたそれらは慌てて閉められた店々のシャッターをも駆け上がり、雨樋を平然と登る。
その様を、音を流し続ける端末をラジコンのヘリに引っ掛けて空中に放置し、自らは噴水の彫像の上に登り、男は傍観していた。薄笑いを浮かべて。
「クマネズミ――体長約二十センチ。それと同等の尻尾を有する。主に人家の天井裏に生息していたが……今では都会のビル内に迄生息域を爆発的に広めている。ビル全体に及ぶ暖房や、ゴミとして出される食料、それらが奴等の繁殖には最適の環境を作り上げてしまった」水に囲まれた彫像の上で、男は呟く様に、誰に言うでもなく語る。周囲にも彼に倣って像に登ろうとする者は居るが、それは無駄な足掻きだった。「因みに泳ぐ事も可能。此処も安全ではないだろうな」彼は哂う。
実際、跳び付かれたネズミを払おうと噴水に飛び込んだ人々から、離れはしたもののそれらは泳いで岸に辿り着き、新たな獲物を狙っている。
「ネズミの可聴域は人間のそれと比べ物にならない。人間に聞こえない音でも、奴等には呼び出しの合図になり得る。この間川原でカヤネズミを呼び出した時以上の威力だな。ま、数が全然違うからな」
それにしても――と男は思った――よくもこれだけ繁殖し、そして隠れおおせていたものだ。人間達は清潔さを優先してきたと言うのに、これだけのネズミと同居している。滑稽な話だ。中には病原体を持った個体も居るかも知れないのに。
「見えなければ、無いと同じ――人間の悪い癖だ」
さて、そろそろ、と彼はラジコンをコントロールした。
例の音を出し続ける端末はラジコンヘリに吊られた儘、海の方向へと移動を始めた。
如何に泳げるクマネズミと言えど、油膜の浮いた海には太刀打ち出来なかった。
終日混乱した街を尻目に、男はいつしか立ち去っていた。誰にも知られる事なく、丸で自身も都会に隠れ住むネズミの様に。
―了―
「きのう、雑踏したかったの」と、あっちの兎が投稿してました(--;)
夜霧サンはサボりをまねっこした様です……★
実際都会のクマネズミは増えているという話。そして奴等の運動神経は恐るべしです!
信号待ちで手を翳し、車の流れを目で追う者。街路樹の陰に避難する者。完全に避けるべく手近な地下街への階段を下りる者。中には小さな公園の噴水に涼を求める者も居た。皆、様々で――いつもと同じ光景だった。
その中に、一人の男が現れた。例の、携帯端末を持った男だ。
そして、端末を操作した。
始めは、静かなざわめきだった。カサコソ、ザワザワ……。そんな気配が人々の足元から、あるいは頭上から、沸き起こり始める。
それは徐々に、しかし確かに音量を増し、また気配も数を増し続けていった。
何事かと脚を止めた地下食品売り場の客。
ふと通風孔を見上げたオフィスのサラリーマン。
最上階の眺めから視線を外し足元を見詰めた会社幹部。
彼等は一様に見る事となった。
ビルの通風孔を、パイプを、通路を濁流の様に駆け、流れ去る小動物の大群を。それらはビルから溢れる様に、あるいは例の音に導かれる様に街路に流れ出し、更なる混乱と悲鳴を引き起こした。
その正体に気付いた人々は悲鳴を上げ、逃げ惑う。留まろうとした男達も、その数に圧倒され、撤退を余儀なくされる。
黒茶色の流れに足が竦んだのは人々だけでなく、車迄もそれを轢く嫌な感触を味わった後に停止した。
道に溢れたそれらは慌てて閉められた店々のシャッターをも駆け上がり、雨樋を平然と登る。
その様を、音を流し続ける端末をラジコンのヘリに引っ掛けて空中に放置し、自らは噴水の彫像の上に登り、男は傍観していた。薄笑いを浮かべて。
「クマネズミ――体長約二十センチ。それと同等の尻尾を有する。主に人家の天井裏に生息していたが……今では都会のビル内に迄生息域を爆発的に広めている。ビル全体に及ぶ暖房や、ゴミとして出される食料、それらが奴等の繁殖には最適の環境を作り上げてしまった」水に囲まれた彫像の上で、男は呟く様に、誰に言うでもなく語る。周囲にも彼に倣って像に登ろうとする者は居るが、それは無駄な足掻きだった。「因みに泳ぐ事も可能。此処も安全ではないだろうな」彼は哂う。
実際、跳び付かれたネズミを払おうと噴水に飛び込んだ人々から、離れはしたもののそれらは泳いで岸に辿り着き、新たな獲物を狙っている。
「ネズミの可聴域は人間のそれと比べ物にならない。人間に聞こえない音でも、奴等には呼び出しの合図になり得る。この間川原でカヤネズミを呼び出した時以上の威力だな。ま、数が全然違うからな」
それにしても――と男は思った――よくもこれだけ繁殖し、そして隠れおおせていたものだ。人間達は清潔さを優先してきたと言うのに、これだけのネズミと同居している。滑稽な話だ。中には病原体を持った個体も居るかも知れないのに。
「見えなければ、無いと同じ――人間の悪い癖だ」
さて、そろそろ、と彼はラジコンをコントロールした。
例の音を出し続ける端末はラジコンヘリに吊られた儘、海の方向へと移動を始めた。
如何に泳げるクマネズミと言えど、油膜の浮いた海には太刀打ち出来なかった。
終日混乱した街を尻目に、男はいつしか立ち去っていた。誰にも知られる事なく、丸で自身も都会に隠れ住むネズミの様に。
―了―
「きのう、雑踏したかったの」と、あっちの兎が投稿してました(--;)
夜霧サンはサボりをまねっこした様です……★
実際都会のクマネズミは増えているという話。そして奴等の運動神経は恐るべしです!
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無題
こんばんは。
今回、すっと読み入ることができました。いつも、読み逃げでゴメンなさい(_ _;)
男の目的って、結局なんだったんですかね。
そのうち、人の聴力に訴える音波を…
(TдT))ガクガクブルブル
今回、すっと読み入ることができました。いつも、読み逃げでゴメンなさい(_ _;)
男の目的って、結局なんだったんですかね。
そのうち、人の聴力に訴える音波を…
(TдT))ガクガクブルブル
Re:無題
人の聴力……意識はされないけど聴こえてる音、とかね(^^;)
操られるのは嫌だな(--;)
操られるのは嫌だな(--;)
こんばんは♪
うぅ~~想像したらトリハダが!
都会のネズミって、物凄く大きいそうね!
なんか猫くらいのネズミがいたとか?ってテレビで観た様な・・・・
しかし、現代は携帯端末なんですな!
笛はもう昔の話かぁ・・・・・・
都会のネズミって、物凄く大きいそうね!
なんか猫くらいのネズミがいたとか?ってテレビで観た様な・・・・
しかし、現代は携帯端末なんですな!
笛はもう昔の話かぁ・・・・・・
Re:こんばんは♪
何と無く携帯端末(笑)
本当は人間の可聴域を中心に作られている筈なので、かなり改造しているのでしょう。
猫位のネズミ……カピバラならぬぼーっとして可愛いんだけど☆
本当は人間の可聴域を中心に作られている筈なので、かなり改造しているのでしょう。
猫位のネズミ……カピバラならぬぼーっとして可愛いんだけど☆
Re:こんばんわー
そう言えばブログペット、ねずみのハッちゃんでしたっけ^^
うん、普通に見れば可愛い顔してるし、意外と頭もいいし、私もハムスターなんかは好きなんだけど……流石に大群は嫌★
前にテレビでオーストラリアだったかな、増え過ぎたネズミがそれこそ川の様に移動してるの見て、流石に引いた。
うん、普通に見れば可愛い顔してるし、意外と頭もいいし、私もハムスターなんかは好きなんだけど……流石に大群は嫌★
前にテレビでオーストラリアだったかな、増え過ぎたネズミがそれこそ川の様に移動してるの見て、流石に引いた。
Re:無題
流石に多過ぎると思います(^^;)
「滅びの笛」? どんな漫画ですか?
「滅びの笛」? どんな漫画ですか?
童話
『ハーメルンの笛吹き男』現代版ですね!子供がいなくなりはしないけども。
現実の事件を基に書かれたそうですからね。怖い~(ノ_・,)や、これは気持ち悪い!です(苦笑)
映画『魔法にかけられて』もちょっと思い出しました。
現実の事件を基に書かれたそうですからね。怖い~(ノ_・,)や、これは気持ち悪い!です(苦笑)
映画『魔法にかけられて』もちょっと思い出しました。
Re:童話
ちょっと気持ち悪さを心掛けてみました(笑)
や、ねずみさん、個体を見れば可愛いんですけど、うじゃうじゃ居ると流石に……(--;)
実際ああいったビルでは暖房も整い、餌場も近く、良い環境になってしまっているそうです。ひー(×_×;)
や、ねずみさん、個体を見れば可愛いんですけど、うじゃうじゃ居ると流石に……(--;)
実際ああいったビルでは暖房も整い、餌場も近く、良い環境になってしまっているそうです。ひー(×_×;)
Re:ちゅう♪
地下鉄にも居ますか~(>_<)
夜霧でも流石にあれだけ居たら逃げるかも^^;
夜霧でも流石にあれだけ居たら逃げるかも^^;
こんばんはです
確かに、デカイねずみの大群も気色悪いけど、これ、ニンゲンに置き換えてみたら…?終末思想ではないですが、ねずみだろうと蠅だろうとニンゲンと同じに思えてきます。
そういや、ありえないくらいのねずみの大群に、にゃんこがビビッてる映像がありましたね…。
そういや、ありえないくらいのねずみの大群に、にゃんこがビビッてる映像がありましたね…。
Re:こんばんはです
にゃんこもビビると思うわ(^^;)
クマネズミ君、シャッターでも殆ど足掛かりの無い壁でもスルスル登るし、天井の出っ張りにさえ取り付いて移動するのを以前テレビで見ました★
何だあの生物は★
クマネズミ君、シャッターでも殆ど足掛かりの無い壁でもスルスル登るし、天井の出っ張りにさえ取り付いて移動するのを以前テレビで見ました★
何だあの生物は★
Re:無題
ゴキは……ゴキがあれだけ居たら……(・・∥)サーッ
ねずみさんは個体で見れば可愛いんだけどね♪ お目目クリクリで。
増え過ぎると、病気の媒介者という側面も持つので、怖いです。
ねずみさんは個体で見れば可愛いんだけどね♪ お目目クリクリで。
増え過ぎると、病気の媒介者という側面も持つので、怖いです。
想像できる(>_<)
あんな小さな生き物なのに、私もネズミ大嫌いで・・・
想像してるだけで恐ろしいですが(>_<)
でも、とても今の環境問題を無視しながら、潔癖になりつつある
社会を表してますね。
実際増えている様で、そんな日も近い将来あるかもね^^;
きっと、つけがまわって来ます。
クマ、猿、鹿等が人家に現れるのも・・・
人間のエゴですよね。
想像してるだけで恐ろしいですが(>_<)
でも、とても今の環境問題を無視しながら、潔癖になりつつある
社会を表してますね。
実際増えている様で、そんな日も近い将来あるかもね^^;
きっと、つけがまわって来ます。
クマ、猿、鹿等が人家に現れるのも・・・
人間のエゴですよね。
Re:想像できる(>_<)
クマ、猿、鹿に関しては人間側が彼等のテリトリーに入ったが故の問題でもありますからねぇ。環境の悪化で森が痩せれば、当然彼等の食物も減少するし……。
そしてネズミ君は逞しいらしい……(--;)
そしてネズミ君は逞しいらしい……(--;)
Re:こんにちは
ネズミ退治兼……「現実見ろよ」かな?
実際、人間は自分の目に映らなかったら、無いものと言うか全く意識しないですからねぇ。
実際、人間は自分の目に映らなかったら、無いものと言うか全く意識しないですからねぇ。
Re:うっ(涙
ネズミ嫌いと言うか、一匹一匹を見れば愛嬌があるのが解ると思うんですけど、大群となると……(^^;)
デグーさんなら少し位うじゃっと居ても大丈夫♪
デグーさんなら少し位うじゃっと居ても大丈夫♪